シオの日記

2006年08月28日(月) マスクの高い壁:遠いぬくもり

私が働いている場所はどうしても高齢者が多い。
高齢者が多いと、当然、耳が遠い。目がよく見えない。
歯がない、又は、少ない。
といった、仕方ないと片付けてしまう障害がある。

病気ではないのだ。

老化現象、というのが一番ふさわしいか。

『君に読む物語』という映画に出てきた台詞で、
自分自身の心臓疾患を「老化現象っていうほうがしっくりくるね」と
言うじいさまがいたが、若干、うなづけてしまうところがある。

まあ、そんな感じで、耳は聞こえない、
目は見えない、ご飯は食べれない、という
なんとも切ない世界で生きている方もいらっしゃる。

とある女性の患者様で、やはり、心臓が悪くて入院となった。
元々、施設にいて、耳が遠い以外は認知症もなく、
一人でご飯も食べれるし、着替えもできるし、トイレもいける。
そんな素敵なおばあちゃま。

ほんっっっっとに耳が遠くて、
補聴器がないとほとんど聞こえてなさそう。
しかし、聞こえてなくても適当にうなづいてしまうのだ。
若干、たちが悪い。
なぜって、
私「おはよう、調子ええ?」
患者様(以下:患)「(うなづいている)」
私「どこも痛いとこない?」
患「(うなづいている)」
私「ご飯おいしく食べれた?」
患「(うなづいている)」
私「今日は調子どうかね」
患「(うなづいている)」
私「・・・」
患「点滴まだやらなきゃいけないの?」
私「(聞こえてたのか??)
そうだねぇ、もうちょっと心臓がよくなるまではね」
患「どこも悪いとこないのに。歩かんで、動くと足が痛くなる」
私「(聞こえてないよっ・・・!!)心臓がねぇ、悪いんだわ。
だから、もうちょっと入院しとらないかんのよ。
足のどの辺りがイタイの?」
患「世話かけるねぇ(寝てしまおうとする)」


と、まあ。これだけ話せる人っては逆に珍しいくらい
頭はしっかりしているが、ちっともコミュニケーション取れないくらい
耳が遠すぎて話にならない・・・。

しかも、施設の人がほかの患者さんのことで話を聞きにきて、
ついでに顔を見にきてくれたとき、
その患者さんが、施設の人に
患「ここの人はニコリともしないで、
自分でやれるようにだと思うけど、何にも手伝ってくれない。
お布団も、バッとかけるだけ」
と、こぼしていた。


正直、ショックでした。
何はともあれ、例え聞こえなかろうが、見えなかろうが、
笑顔で接していたつもりだった。
顔半分はマスクに隠れているし、
最近は眼鏡(感染予防用)を手放せないことが多いが、
まさか、ニコリともしない。なんて評価を受けていたとは。。。

確かに、ほとんど身の回りのことは自分でできる患者さんで、
同室の人が全くの寝たきりで、
しかもすごく手のかかる人なのでその人の前を通り過ぎることは
多かったが、そんなに厳しい顔をしていただろうか。
そんなにツンケンした態度をしていただろうか。
トイレに行くときは必ず(転んでしまうといけないので)
声をかけてもらうようにしていたし、
ズボンの上げ下げも手伝っていた。
食事の時は必ず食べやすいように配置してから食べてもらっていた。
食べれることを確認してから食べてもらっていた。

それでも、前の施設に比べたら、
確かにレクリエーションは少ないし、
きっと関わりも少なかったに違いない。

「早く帰りたい」
その人の口癖。

早く返してあげたい。

でも、病状はそれを許さず。

自覚症状がないだけに、なおさら本人には苦痛だと思う。

じゃあ、せめて、怖い思いをしないように、
嫌な思いをしないように、
まずは、丁重に謝罪した。

そんなつもりはなかったんだ、と。
ごめんね、と。

それから、その人と関わるときは、
許される限りマスクをはずすことにした。
感染予防の意味では不合格だが、
その人の疾患事態は、飛まつ感染するようなものではないし、
何よりも、自分が悲しくて、名誉挽回したくて。

それからまだ4日ほどしか経っていないが、
懸命なコミュニケーションを図ろうとする努力は認められたらしい。
相手も一生懸命聞いてくれようとしている。
相変わらず補聴器はしてくれないが。。。
マスクをはずしてから、少しは笑顔が多くなった気がする。

顔半分を隠すマスクには
心と心の間を阻む、高い壁になりうるのだ、というのを
実感した気がする。

しかし、今の医療現場ではそうも言ってられない。
例えば、自分が肺炎がうつったとしても、
労災はおりない。
なぜなら、「自分が感染予防を怠ったから」という理由。


最悪だ。


疾患が後からわかる場合だってある。
すべての人が、感染者だと思って対応しろ。
それが、現在の医療現場だ。
確かに、それが一番安全だ。
しかし、人のぬくもりはどうなるんだ?
その患者さんみたいに、耳が聞こえず、目もあまり見えず。
笑ってるのか、怒ってるのかすらわからず、
手足や体の一部に触れる手が、すべてゴム手袋の感触。


当たり前のことなのだが、悲しくなる。
かわいいおじいちゃんはほお擦りしたくなるほどかわいい。
でも、もしかしたら皮膚病があるかもしれない。
時々咳をしていたおばあちゃんは、結核かもしれない。
インフルエンザかもしれない。

自分の身は自分で守れ。

それが今の医療現場だ。

アットホームな雰囲気が好きな今の病棟。
それでも、マスクや手袋は手放せない。
挙句の果てに、冷たいだの、ニコリともしないだの、
見に覚えのない不満を持たれるなんて。

たった一枚の布といえど、それが思わぬ高い壁となっている。
じゃあ、いかにしてその壁を乗り越えるか。
一枚の布をどかすだけ、というほど簡単ではない。
まだしばらくは、自分の課題となりそうだ。


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