東行庵の軒下で

2002年07月14日(日)

灼熱の空気をはらんだ車が、ゆっくりとスタートする。
「クーラー、死んでたの?今も暑いけど」
「何で?」
「さっき車に乗り込んだとき、ストーンズが爆音状態だったじゃない」
「あ・・あれね。」
「窓あけて走ってたでしょ?クーラー壊れてたんでしょ」
「残念でした。壊れてたんじゃなくて、ガスを入れてないの」
「?!」
熱風が吹き出す。
「暑い〜〜〜!!」窓をあけようと、ノブに手をかけると、これがまた熱い。
「一気にまわして!」
右手にもちかえて、ノブを回す。
窓からムワッと外気が入ってきた。

髪が顔にかかったり、頬を叩いたりして、最悪な車内。
「修理しなさいよ」
「壊れてるわけじゃないんだったら」
信号が赤になった。

車が並んでとまった。前も後ろも。
「風が止まった〜暑い〜排気ガスが臭い〜〜」
「でも、まぁ」
風のせいでなかなか火が灯らなかったタバコを、ふーっとふかして言った。
「雨降りじゃなくて良かったろ?」

「窓あけて走ってる車とか、他にいる??」
「いないよ」
「お前、こんなので恥ずかしくない?」
「別に。・・・ただ、ただ、暑いだけ」
「ふ〜ん」
彼の履いているブラックジーンズに日が当たっている。
「ジリジリ焦げちゃってんじゃない?足」
「おお。めちゃくちゃ暑いぜ」
「夏なのにさ、なんで黒いのしか着ないの?」
「俺、普段着ってあんまり持ってないんだよ。ステージ衣装か、喪服」
「へ〜。だから、着ていくドレスがありません、って言って打ち上げ断るの」
「わっ、ほら」
言葉をさえぎるように彼は指差した。
「事故??起こしたてだね・・ヒトリ相撲でケガ人は無し」彼女は興味深そうにその場面を推理していた。
フェンダーミラーにちらりと目をやった彼は
「危なかった〜〜」
といって二本目のタバコに火をつけた。
「もうすこし遅れていたら、大渋滞につかまるところだった」
「そっか・・警察とかくるよね〜〜・・渋滞で止まったら、灼熱地獄」
彼はゆっくりと煙をふかしながら
「事故処理って、いろいろ来るからね〜JAFとかJALとか、JASとか」
と言った。
「来るかンなもん」彼女は笑いながら額から流れる汗を拭いた。


21年目の青い鳥は、ストーンズ並のたくましさと熱風を抱えて、今も走っている。




(この物語はフィクションです)





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