灼熱の空気をはらんだ車が、ゆっくりとスタートする。 「クーラー、死んでたの?今も暑いけど」 「何で?」 「さっき車に乗り込んだとき、ストーンズが爆音状態だったじゃない」 「あ・・あれね。」 「窓あけて走ってたでしょ?クーラー壊れてたんでしょ」 「残念でした。壊れてたんじゃなくて、ガスを入れてないの」 「?!」 熱風が吹き出す。 「暑い〜〜〜!!」窓をあけようと、ノブに手をかけると、これがまた熱い。 「一気にまわして!」 右手にもちかえて、ノブを回す。 窓からムワッと外気が入ってきた。
髪が顔にかかったり、頬を叩いたりして、最悪な車内。 「修理しなさいよ」 「壊れてるわけじゃないんだったら」 信号が赤になった。
車が並んでとまった。前も後ろも。 「風が止まった〜暑い〜排気ガスが臭い〜〜」 「でも、まぁ」 風のせいでなかなか火が灯らなかったタバコを、ふーっとふかして言った。 「雨降りじゃなくて良かったろ?」
「窓あけて走ってる車とか、他にいる??」 「いないよ」 「お前、こんなので恥ずかしくない?」 「別に。・・・ただ、ただ、暑いだけ」 「ふ〜ん」 彼の履いているブラックジーンズに日が当たっている。 「ジリジリ焦げちゃってんじゃない?足」 「おお。めちゃくちゃ暑いぜ」 「夏なのにさ、なんで黒いのしか着ないの?」 「俺、普段着ってあんまり持ってないんだよ。ステージ衣装か、喪服」 「へ〜。だから、着ていくドレスがありません、って言って打ち上げ断るの」 「わっ、ほら」 言葉をさえぎるように彼は指差した。 「事故??起こしたてだね・・ヒトリ相撲でケガ人は無し」彼女は興味深そうにその場面を推理していた。 フェンダーミラーにちらりと目をやった彼は 「危なかった〜〜」 といって二本目のタバコに火をつけた。 「もうすこし遅れていたら、大渋滞につかまるところだった」 「そっか・・警察とかくるよね〜〜・・渋滞で止まったら、灼熱地獄」 彼はゆっくりと煙をふかしながら 「事故処理って、いろいろ来るからね〜JAFとかJALとか、JASとか」 と言った。 「来るかンなもん」彼女は笑いながら額から流れる汗を拭いた。
21年目の青い鳥は、ストーンズ並のたくましさと熱風を抱えて、今も走っている。
(この物語はフィクションです)
|