つれづれ日記。
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2012年04月19日(木) 白花(シラハナ)への手紙(仮)・70

「二人?」
 何かあった際に紹介状が渡されるのはめずらしくない。だけど二人からというのは先生も意外だったらしい。おずおずと手渡すと、先生は便せんに目をとおしはじめた。
 一人は実家のお母さんから。これはそもそもおばさん夫婦にあてたものだけど、ティル・ナ・ノーグについたときにはひっこしていたから不要になってしまった。見せるつもりはなかったけど、せっかくだから目を通してもらってもいいんじゃない? と言われた。
 もう一つは前者を言ったユータスのお母さんから。せっかくだからこれも先生に渡してと頼まれてしまった。左から右へと先生の視線が便せんの上をせわしなく動いている。なんと書かれているか聞きたいところだったけど、初対面の人に聞くのも失礼だから表情だけで察することにした。
 便せんを丁寧にたたみなおしてわたしの方を向いて。
「君は今、アルテニカ家にお世話になっているのかい?」
「なりゆきで」
 アルテニカ家の長男をすったもんだの末、お星様にしてしまったからだとは口が裂けても言えない。当たり障りのない返答をすると、便せんを見てなるほどねとうなずかれた。
「君は、ここで医術を学びたいのかい?」
「医術は学びたいみたいだけど、今回は様子見ってところなんじゃ――」
「ここで学びたいです」
 リオさんとわたしの声が重なった。
「はじめは色々な施療院をみてまわるつもりでした。だけど、ここへ来て院長先生に教わりたいと思ったんです」
 ティル・ナ・ノーグで一、二を誇る名医だということはもちろんだけど、会う人会う人みんなが先生の名前を口にしていた。こうして初めて会って、驚きもしたけどやっぱり目の前の女の方に教えを請いたいを思った。
 だけど、初対面で医学を教えてください! なんて押しかけも同然。相手にも都合があるし大丈夫なんだろうか。
「君はお父さんのことが好きなんだね」
 そんなことを考えていると、ふいに考えてもみなかったことを口にされた。嫌いではないけれど、好きかと聞かれればなんと答えていいのか。なりふりかまわず言えば暑苦しいような。






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