Mother (介護日記)
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2003年05月18日(日) 法名 (戒名) の授受

一般的には 「戒名」 と呼ばれるが、宗派によっては 「法名」 とも呼ばれる。
このたびのご住職が「法名」 とおっしゃっているので、
ここでは 「法名」 と書くことにする。



人が亡くなるとお寺さんに法名をつけていただく慣わしであるが、
かと言って、必ずつけなくてはいけないというものでもなく、
ましてやそれが数十万円ともなれば、躊躇してしまうのは仕方がない。

葬儀は俗名で済ませたが、
父に法名が付いていることもあり、母にもつけてあげたいとは思っていた。

これまでの収支を計算して、どうにか資金が捻出できそうなので、
葬儀屋さんを通してお寺さんに連絡し、戒名を付けていただくことになった。

法名をつけるにあたり、先日、ご住職と母の人柄について電話で話しをしてあった。

そして今日、レフティーの休みを利用して、それをいただきに行って来た。


ホールでの葬儀であったため、お世話になったご住職のお寺に赴いたのは初めてだった。

ご住職の奥様は、私たちを迎えるため、既に玄関で待っていらっしゃった様子だった。
案内されて、本堂の脇の和室でご住職を待っていると、お茶がすぐに運ばれて来た。
床の間の置物や窓越しの庭を眺めながら“おもてなし”というものを感じた気がした。


やがてご住職がお見えになった。

いただいた法名をひと目見て驚いた。
「院」の文字が入っていたからだ。
「院」は、生前に社会で相応の貢献をした人がいただけるものであり、
そういう場合のお布施は、これまた桁外れであると聞いていたので焦った。
しかし、お布施については事前にお伺いした通りのままで良いとのこと。

「聲」と言う文字も使われた。 聲・・・声に殳(るまた)、その下に耳。
これは、母が歌が大好きであったことから、音楽を意味するこの文字を入れてくださったのだ。

ご住職は、法名の一文字一文字について、その意味と解説を便箋に書いてくださった。
絹江が生まれる前に、私が辞書を片手に一生懸命名前を考えていたが、
住職のお気持ちもきっとそれに似ているのだろう。


お経をあげていただくために本堂に移動した。

金色の装飾が豪華だった。
おごそかな気持ちになった。
焼香をした。
数珠を持って来るべきだった・・・

その後、回転黒板を使って仏教や宗派について教わった。
「13宗56派(増えているらしいが)があるとのことだった。
 夫婦や親子で宗派が違っていても、元々はひとつの仏教なのである」 と。

すべてのものが縁で結ばれているのだ、と。
この座卓も、切り出した人がいて、運ぶ人がいて、加工する人がいて、売る人がいて、
それを買う人がいて、そこに集まる人がいて、お茶を運ぶ人がいて・・・

ご住職との出会いについても、
葬儀屋さんとのつながり(紹介)があってのことで、しかしそれ以前に母がいてこそのもので・・・

ご住職から
「お母さんはとても幸せな方だったのでしょう。
 生きている時にお母さんにお会いしたかったものです」 と言ってもらえてうれしかった。

母も生前にたびたび「縁」と言う言葉を口にしていた。

四十九日を以って霊から仏になる。
(そのため一般的には香典は「御霊前」と「御仏前」を使い分けるわけだが)
俗に言う“成仏”であるが、
こうしてこちらの世界に未練を残すことなくあの世へと旅立つことができるように母を導き、
母はもう別世界の人になったのだと、こちらも気持ちに整理をつけるという意味があるようだ。


気持ちの整理、か・・・

まだ病院に行けば母がいるような気がする。
昨日、絹江のガングリオンで病院に行った時は手荷物が少ないことに違和感があったし、
受付を終えたところでつい振り返って母の姿を探したり、
車椅子を押さずに歩いていると、何か忘れ物をしたような気がしてしまう。

美容室に行こうと思えば、
ついカレンダーを見てレフティーの休みや絹江のいる土日を考えていて、
“そうか・・・もう、いつどこに出掛けても良いんだ”と気付く。

母が亡くなってから、いつだったかレフティーが、
「落ち着いたら旅行にでも行こう」 と言ってくれたのだが、
それは、この2年間に家族の行動にいくつもの制限があったことの再確認となって、
家族に申し訳ないやら、その制限の中で努力してきたことへの感謝やら、
これからはもう何も気にしなくて良いのに、それがまた母がいないことの寂しさでもあって、
二人がどこへ行こうかと楽しそうに話しているのを見て、私は非常に複雑な心境だった。



母が亡くなって私たちには「限定解除」が与えられた。

レフティーや絹江にバトンタッチすることなく、
私はもう、いつでもどこにでも出かけられるのだ。
酸素ボンベはいらない。
おむつもいらない。
着替えもいらない。
持ち物が少なくて身軽になった。
車椅子もいらない。
スロープもいらない。
当然、段差も階段も怖くない。
専用トイレを探して走りまわる必要もないのだ・・・


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