世を忍ぶ仮の日記
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たまには贅沢の一つもしたいと、昼のランチに何を食べようかと散策して店に入る。 一人でぼんやりしていると隣の会話が耳に入ってしようがない。 両隣可笑しな会話を繰り広げていたのだが、片方が引っかかって仕方なかったので右耳を活発に稼働させる。 カチンと来たのは「ただ数を読む人っていうのはさあ、内容覚えて無くって同じ本間違えて買っちゃったりするらしいじゃん」という言葉だ。違う。あるのは分かっているし内容は覚えていても今すぐ読みたいけど何処に行ったか分からないんだ悪いか悪いな悪かったな! 「私の中で現代文ってね、昭和30年くらいまでを言うの〜。最近のって、文学的じゃないっていうか言葉が美しくないっていうかぁ。全然読めないっていうか興味持てなくってさあ」 ことある事に何故か「あたし文学部だから」という彼女。聞き手の女の子は「へえ」とか「ふうん」という相づちに徹するようになっていく(最初は「え? あたしは」と主張しかけていたのだが直ぐに断絶させられるのでしゃべるのを諦めたらしい)。へえお薦めの文学ってなんですかって鴎外より漱石なんだ……鴎外より漱石。読みやすさで取ってないか? 文学部ーとか言う割に普通だな……。 「けっこう漱石も読みにくくって4、5回読まないと理解出来ないんだよ」 ああそうだよね行間読み込むには何十回読んでも飽きたら…ってそれは私か。 「恋愛小説っていうか、恋愛をお互いに語り合う時に本を使ったりしない?」 聞き手のお姉さんは「え? どんな本使うの?」てききました。うーん。私も同じ質問をしたい。あなたのいう現代文だったらやっぱ金色夜叉とかくるのかなとか思いましたら。 「例えばこないだ相手(多分彼氏さん)とやったんだけどぉ、三島由紀夫の潮騒について語り合ったりぃ」 えええ? そこで三島とくるか。 オモロイな、この姉ちゃん。 「あとさ、高校一年生になったら必ずツルゲーネフの『初恋』を読むって決まりがあるじゃん」 「え? 知らない」 聞き手のお姉さんと同調。 「あの頃ピンとこなかったんだけど、今になってあああ、分かる分かるって思う小説とかってあるんだよ。こないだ読んだの」 「へえ。どんな話?」 もっそ聞き手のお姉さんいい話の導き方してくれる。 「なんか主人公の回想ではじまって、少年時代の初恋についての話なんだけどね、その少年が恋に落ちた相手っていうのがちょっと年上のお姉さんで、没落貴族ーみたいな」 ぼぼぼ没落貴族って言葉を真っ昼間にふわりと食事にのせて。 「で、夜な夜な男を取ったり夜会開いたりしてるようなお姉さんなんだけど、コケティッシュっていうか」 コケティッシュ……。多分ちょっと表現違うんだろうな……(想像)。←読んだこと無い。 「それでも、夜会とか、お姉さんにどんどん惹かれていくんだけど、最終的にお姉さんが本当に好きな相手はそのお姉さんの父親なのね。気付いたのが、お姉さんとお父さんが寝室に一緒にいて、お姉さんをお父さんがぶってるんだけど、お姉さんはぶたれてもお父さんのこと愛してて、主人公は「これが愛なのか!」て悟って帰っていくっていう話なの」 文学って面白いな! で、この人何文学専攻なんだ? おおお今すぐ席を立ってツルゲーネフを買いに行きたい(でも読む本溜まってる)。 聞き手側は腑に落ちないらしく 「それで愛を悟るの?」 と問う。いい聞き手さんだなあ。 「こう、好きじゃないならぶたれたら嫌いになるけど、ぶたれても怒ったりしないのが本当の愛なんだっていうのが、あああ(理解の嘆息)って」 おねえさーん。そこ納得してて大丈夫かー? 彼氏とうまく行ってるかー?
あらためて本って面白いなって思わされましたが。 このお姉さんはあくまでも30年代以降の本を読まないおつもりならば、お薦めの本はマニアックに言って欲しかった(そんな隣の人間の戯言)。
聞かれても恥ずかしくない話って無いもんだ。
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