2004年09月03日(金)  旅の仲間

酷い雨だった。

目深に被った頭巾はとうの昔にその役割を放棄していて、布に含みきれなかった水分が額を伝って絶え間なく目に入ってくる。アラゴルンは、ともすればぼやける視界に、幾度となく顔を拭った。人間という種族にしては考えられないほどの長い年月を野におく身でも、日中歩き通した後の大降りは堪える。まして、列の最後尾に位置するアラゴルンからは見えないものの、深く項垂れて歩を進める仲間たちは、相当疲弊した表情をしているに違いない。
「・・・・・・」
顔を上げると、途端、激しい雨水が顔を打ち付けた。
・・・これは、夜半まで止まない。
そう判断して、アラゴルンは歩調を緩めた。この豪雨の中では聴覚や視覚に頼ることはできない。神経を研ぎ澄ませて辺りの様子を探る。
殺気や不穏な気配は特に感じられないとわかると、アルゴルンは軽く安堵の息を吐いた。エルフの青年がいるから大丈夫だとは思うのだが、自分自身で安全を確かめるのが、野伏として過ごした日々の中で身体に染み込んだ習慣のようなものだった。

前を歩くボロミアの背中を目で追う。日頃なら肩に担がれている筈の大きな円形状の盾は、雨避けの目的で持ち主の頭上に乗せられている。だが、本人の濡れ様からすると、アラゴルンたちの頭巾と大して差はないのだろう。それでもしっかりと盾を掴んでいる様が、アラゴルンの口許を僅かに緩ませた。
「ボロミア、此処らで休もうと思うのだが」
アラゴルンはとりあえず、自分の前を行くボロミアに声をかけてみた。その呼びかけに振り返ろうとしたボロミアは、しかし自分の前でぴたりと歩みを止めたホビットに危うく全体重で衝突しかける羽目になり、メリー、と非難めいた声を出した。けれど、メリーの吹いた甲高い口笛はそれを掻き消した。大小様々の頭が次々と振り返る。
「おい皆!アラゴルンが休むってさ!」
メリーが声を張り上げると、ホビットたちは皆同様に安堵の色を浮かべた。ピピンやサムは言わずもがな、裂け谷を出発してから言葉少なだったフロドの顔にも明らかに休みたいという思いが見え隠れしている。ただ、ギムリだけは鼻を鳴らして「俺はまだまだ行けるぜ」と言ったので、メリーとピピンはぎょっとしてドワーフを見たのだが。
列の先頭を歩いていたガンダルフは、振り向きざまとんがり帽子のつばを杖の柄で軽く持ち上げ、アラゴルンを見やった。「提案」したつもりだったアラゴンは、偉大なる賢者に苦笑いを返した。
「もうクタクタだよ!大体食事を取ったのだって昼過ぎに1回だぜ?」
「そんなに腹を膨らませたいなら、上を向いて口を開けてろよ、ピピン」
「フロド様、早く雨宿りできるところを探しましょう。このままじゃあなた、風邪をひいちまいますよ!」
「大丈夫だよ、サム。でも確かにずぶ塗れで気持ちが悪いな」
雨音に掻き消されまいと大声で言葉を交わすホビットたちは、すでに幾分か体力を回復しているようにさえ見える。
「・・・さすがはホビットじゃの」
つばの下から覗いたガンダルフの表情は感心半分、呆れ半分といった感じだ。ガンダルフの隣にいたレゴラスも、口許を軽く上げ同意する。
「でも、アラゴルンの判断は正しい。雨は当分止みません」
「まったく、俺の意見も聞いて欲しいもんだ!」
ドワーフに睨みつけられ、エルフの青年はごく僅かに眉根を寄せた。しかし彼が口を開く前に、ガンダルフが決を下した。
「今日はここまでにしよう。これ以上歩きつづけても大して距離は稼げぬじゃろうて」
ギムリは不満そうに唸ったが、それ以上異議を唱えはしなかった。ピピンとメリーはやれ幸いとばかりにさっさと岩場に腰を下ろしている。
「アラゴルン、私は雨露を凌げる場所を探してくる」
まるで疲れを感じさせない声で(実際疲れは少ないのかもしれないが)、レゴラスはアラゴルンに呼びかけた。
「ああ。頼んだぞ、レゴラス」
エルフの青年は小さく頷くと、濡れてなお輝きを増した黄金の髪を翻し、雨の中に溶けていった。


「サム、その中に何か食い物入ってるんだろ?よこせよ」
「待って下さいって!木が時化って上手く火が起こせねえんですよ!」
「今度からフードの代わりにそのフライパンを頭に被るってのはどうだ?格好の傘じゃないか」
「馬鹿言わないで下さい!」
「ははっ。いいかもしれないね、メリー」
「フロド様まで!」

「・・・さっきまでの疲れ様は何処に行ったんだ」
ホビットはよく喋った。
呆れ気味に呟いたボロミアに、ギムリが可笑しそうに言葉をかける。
「奴らはこんなもんじゃないぞ。どんな時でも1日6食は食わんと気が済まん種族だ」
「それはまた、随分燃費の悪い身体だな・・・」
その時、2人の側にいたアラゴルンが静かに口を開いた。
「けど彼らには潜在的な強さがある。それはきっと人間の比ではない、ボロミア」
自分の発言に大して意味を含ませたつもりのなかったボロミアは、正面切ったアラゴルンの答えに驚いたように眉を上げた。だがすぐに、嘲笑うよう言葉が続けられる。

「ほう、人間よりも、か。・・・さて野伏はどうなんだ?」





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終わり。(は!?)
ずっと前に書いたものを…。
更新もレスもないので…。
ああ、会社に遅刻する(アホだ)


   ×  


cerri ■