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気まぐれ日記 DiaryINDEX|past|will
なんでだか、疲れてます。 「今日はどこ行くの?」 兄の買い物に付き合わされてブロードは尋ねた。この兄は別に一人で買い物ができないわけでなく、引きこもりがちな弟を町へ連れて行こうとしているだけだった。買い物はあくまでついでだった。 「ああ、今日はちょっと......。ハングリルの特売日なんだよ」 ハングリルとは『世界一のケーキ職人』を名乗るほら吹き親父が経営する有名菓子店の一つだった。ちなみに『元祖世界一の菓子職人』とか『真・世界一のパチシエ』などと銘打っている店もあるが、どれも皆似たり寄ったりで『それなりに美味しい』という評判である。 更に言えば、男は自分好みのケーキが作れる女性を嫁にすると言われるほど甘味は身近なもので、よく食べられている。 「兄ちゃんも好きだね」 「まあね」 特売日は本当についでだった。母親に頼めばいつでも作ってくれる。菓子屋はいろんなものを少しずつ楽しめる店なのだが、兄はそれに固執していない。ただ、弟を連れて行くのが目的だった。 ハングリルの店の前にたどり着く。ハングリルの店は繁盛していた。とても小さな二人では入れそうにない。兄は本当にハングリルの店などどうでもよかったので、そこを離れようとした。 「ブロード、駄菓子屋に行こうか」 ブロードの手を引こうとした。しかしブロードは動かない。 「兄ちゃん、あれ」 ブロードが指差した。そこには半透明の人型がウィンドウのケーキをむさぼっていた。 「妖精だ!」 妖精は兄の声に驚いて飛び回る。意地汚くケーキを放さなかったのでケーキは宙を飛んでるように見えた。 妖精は子供に見える時がある。ウィンドウの内側で飛び回る妖精を兄弟は目で追った。混雑した店は混乱し、飛び回るケーキに驚き、騒ぎ立てた。 ややして、妖精は逃げて消えめちゃくちゃになった店がしーんとなった。ハングリルの店長が店から出てくる。 「やれやれ、なんて日だ」 兄弟を見つけて店長は尋ねた。 「おい、坊主ども」 「何?」 兄が答えた。 「もしかして、お前たち何か見なかったか?」 「妖精」 ブロードが小さく言った。 「ほう、妖精か。なるほど。坊主、ちょっと待ってろよ」 店長は一旦店に戻るとややして紙袋を二つ持って来た。 「妖精が出ると上手いケーキが焼けるっていうからな。こいつは祝いだ、持っていけ」 二人に渡すと店長は「後片付けだ」と言って店に戻っていった。 紙袋には、クッキーとキャンディ、チョコレートなどの小さな菓子がたくさん入っていた。兄弟の母親はそれを没収、おやつの時間に少しずつ出して与えた。 ハングリルの店の看板には『世界一のケーキ職人』と書かれた隣りに『妖精も食べる絶品ケーキ』と書かれた。
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