| 2002年01月06日(日) |
高野和明「13階段」(講談社2001.8.6)を読了。向井敏さんが亡くなったとラジオで聞いた。 |
高野和明「13階段」(講談社2001.8.6)を読了。人間の暗部を鋭くえぐったミステリー仕立ての人間ドラマという風で死刑を目前にして恐怖におののく人間の姿だけでなく処刑する側の人間の恐怖心までも見事に描き尽くしている。最近はサイコ・サスペンスといった作品が多く「殺人」や「殺意」あるいは「死」などに対しての反応が鈍くなってきている風潮があるが、その現代的風潮に真っ正面から立ち向かったような堂々たる推理サスペンスである。 もちろん、緻密に計算され尽くした本格ミステリー小説としても立派に成立している。探偵役たちが請け負った課題の大きさと意外性。さらに、ここには読み手に謎や真相を推理させる楽しみ(題材からみると不謹慎だが)や喜びが用意されている。 題材の重さは重さとして存在するが、それにつぶされずに謎の部分が隅々まで考え尽くされ、読み手は探偵役とともに謎解きをしながら意表をつく結末まで一瞬のうちに進んでしまうのだ。 長さもちょうどよく、途中で読むのをやめられる人は余程忙しい人だけである。 江戸川乱歩賞にふさわしい作品。 向井敏さんが亡くなったとラジオで聞いた。確かな書評家であった。冥福を祈る。 明日から野暮用が暫く続くのでこの日記もあまり書けなくなるかもしれないが、一行でも可としたい。
| 2002年01月05日(土) |
ネルソン・デミル「王者のゲーム」(講談社文庫)を数ページ読んだだけ。 |
ネルソン・デミル「王者のゲーム」(講談社文庫)を数ページ読んだだけ。「ホンモノの文章力」もちょっと。 「王者のゲーム」は主人公のくだけた調子の饒舌な語りで始まる。エディ・マフィーかブルース・ウィリスかというところ。ディック・フランシスの語り口とは相当異なる。事件らしきことはまだ起きていないのでこの伝法なしゃべりがどんな効果をあげていくのかは分からない。 俳優の児玉清さんが解説を書いていて随分ほめている。
| 2002年01月04日(金) |
樋口裕一「ホンモノの文章力」(集英社新書)を92ページまで。「おすすめ文庫王国」(「本の雑誌・増刊」)が出回っていない。 |
樋口裕一「ホンモノの文章力(自分を売り込む技術)」(集英社新書)を92ページまで読む。これは題名の通り文章を書く力をつける本である。受験生の小論文指導に長く携わって実績もある著者だけに、具体的な実践力の養成を意図しているようだ。 目次を見ると、意見文の書き方、自己推薦書・志望理由書の書き方、エッセイの書き方、手紙・eメールの書き方とあり、その中でエッセイの書き方まであるのはここまで読ん出理解した著者の立場からすると疑問を感じるが(文学的な文章は視野に入っていないようなので)、普段の生活の中で書くことがありそうな文章を扱っていることがわかる。 練習問題が挿入されてこちらにも受動的に読むだけでなく、能動的に考えたり書いたりすることも求められるという実際的な参考書である。 本の雑誌社から出ているはずの「おすすめ文庫王国」(「本の雑誌・増刊」)が近辺の本屋さんに全く出回っていない。「本の雑誌」を置いているところにもない。「このミステリーがすごい!」は結構出回っているのに、ない。売れ行きがよくて品切れになっているだけか。文庫本主流のこの時代だから、この本を文庫本の棚の近くに置くだけで売れ行き倍増間違いなしなのに。もったいないことをする。
| 2002年01月03日(木) |
佐野眞一「渋沢家三代」(文春新書1998.11.20)をやっと読み終わる。福永武彦「告別」(講談社文芸文庫1990.6.10) |
佐野眞一「渋沢家三代」(文春新書1998.11.20)をやっと読み終わる。長い間隔を置きながら読んできたので今頃になってしまった。日本の歴史のいわば王道を歩んできた渋沢家が今では忘れられた存在に近い。裏面史という趣である。 渋沢栄一の話よりも終りの方の渋沢敬三の部分が面白かったのは興味の持てるエピソードが多かったためだろうか。 全体としては期待した面白さは得られなかった。もう一度読めば印象が変わるのかもしれないが、今のところ「駆け足」で渋沢家の歴史をなぞった感が強い。 新書という枠では280ページを費やしても無理な素材だった。 福永武彦「告別」(講談社文芸文庫1990.6.10)を読んでみた。この作者から私が受けた感動は内容の面よりも語りもしくは構成の独創性である。一時期狂喜したようにその長編を読みふけったのはもっぱらその構成の見事さによる。 その構成と語りは中編の「告別」にも健在だった。「告別」という言葉に二重性を持たせてさっと終わるところに感動がある。 もう一つの作品「形見分け」も同様である。こちらはミステリーといってもいい。記憶喪失の男とその男を介護している女が主要人物の「告別」よりもさらに短い作品。構成に対する強い意識はここでも見事に発揮されていて、最後の一文でぴたっと着地が決まる。 内容はどうでもよくなってくる。文章のうまさと構成への興味で安定して読めるのである。主題や内容はもう一度読む時に深めようと思う。(実際にはそうはいかないだろうが)ビデオで映画を観た。怪獣映画。 「ゴジラ対メガギラス(ゴジラ消滅作戦)」主演の田中美里さんと今までのゴジラものよりもSF的になっている点が好感度高し。今映画館で上映中のゴジラものの最新作に続くと思われる。怪獣映画を今になっても観ているというのは気恥ずかしいが、ゴジラ映画も少しずつ進歩しているようだ。
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