小説・物書きさんの作品v


あなたにあえないことがこんなにも

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2003年11月27日(木) 『コイシイヒト。』 1/藤萌 和里



     同じ空を見ていたい。
     そう、思うのは間違い?

     同じ時を、同じ場所で過ごしたい。
     そう、思うのはただの我儘でしか無い?

 ……少し位、我儘になって丁度いい位だと思うけど?
 欲、は必要だよ。僕等が生きていく為にはね。


夏の陽射しは日に日に眩しさを増していて。空はひたすら紺碧。
目を閉じていても判る木漏れ陽。そよそよと流れる涼風。
…それなのに僕の気持ちは鬱陶しい位、滅入っていて。
理由、なんて判ってる。しばらくフリックに会っていないからだ。
前に会ったのは半月も前。
その時にしばらくトキヤ達と遠征に行く事になった…と、聞かされた。
遠征からはもう帰って来ている筈だから…恐らくは遠征後の報告とか会議やらに追われているのだろう。
生きてはいる筈だから…その点だけは、心配していないのだけれど。
だって自分の右手は、何の変化も示していない。
彼の身に、命に、異変があったとしたら間違いなく、この紋章はそれを伝えてくる筈。
熱くて、痛くて重い感覚、はまだ訪れていないから。
『会いたい』とは思う。それこそ、心の底から。
それでも、自分からあの城を訪れる訳にはいかなくて。
元・解放軍のリーダー、という肩書は自分が思っていた以上に、重くて大きくて。
前の戦いから三年経った今でも、その肩書は消えていなかったから。
そんな自分の立場、とか、同盟軍に与える影響を考えると自ら単独であの城に行く事は出来ない。
だから、トキヤが迎えに来てくれないと僕は足を踏み入れられなくて。
………会いたい時に会えない、というのは案外辛いものだと思い知らされる。
三年前は、生死さえも確認出来なかった。

それを思えば今のこの状況は随分と贅沢な辛さ、だとは思うけれど。


 「……そんな思い詰めた表情、してるんだったらとっとと来た方が
  建設的だと思うんだけど?」


いきなり降って沸いた声に驚いて、声がした方向…窓辺に目を向けると、そこには爽やかな風を纏った風使いの少年が。
窓枠に腰掛けて足組みをして、腕を組んで相変わらずの不機嫌そうに見える表情で佇んでいた。
 「…ルック?どうしたの?一人で、ここに?」
 とん。
軽やかな音を立てて、ルックは窓枠から床に飛び降りて。
 「……どの問いから答えたらいい訳?」
柳眉を顰めながら、ぴんっ、と額を指で弾かれる。
僕に対していつもよくするルックの仕草。こっそり周りを目で探ってみても他には誰もいなくて。
彼が単独でここに来たのだと知る。
いつも通りの態度、だから緊急事態ではないとは思うけれど…でも、どうしてルックがいきなりここに来たのかは判らなくて。

 「…何か、あったの?」

 「……何かないと僕は君の所に来てはいけない訳?
  随分な言い草だね」
 
「そうじゃなくてっ!……そうじゃ、なくて。
  来てくれたのは嬉しいけど……ルックは理由無しでは瞬間移動
  しないでしょう?
  だから…どうしてかな、って……」

語尾が濁ってしまう。それはもうどうしようもない事で。
思わず俯いてしまうのもどうしようもない。
そんな僕を見て、ルックは軽い溜息ひとつ、ついて。
 
 「…どうして、って聞かれるとは思ってたけどね。
  理由、は届け物のついで。
  面倒なら一つでも二つでも大差ないから。
  ほら、行くよ?ティアラ」

名前を呼ばれて、顔を上げると目の前のルックは苦虫を噛み潰したみたいな表情で、僕に左手を差し出していて。

 「……行くよ、じゃ駄目な訳?
  だったら言葉、変えればいい?………おいで?」
判る人にだけ、判る、表情とは裏腹な優しさを含ませた声。
久し振りに聞いたそれ、に思わず戸惑いながらも差し出してくれた左手に自分の左手を重ねる。
ささやかな気配り、さえも嬉しく思えてしまうのだから、もう仕方が無い。

2003年12月07日(日) 『コイシイヒト。』 2/藤萌 和里



瞬間移動した先はウィル城の貴賓室。
僕が来た時にいつもあてがわれている部屋。同じ調度品、同じ匂い。
それでも着いた途端に気付く違和感。
窓を閉めていても聞こえて来る外にいる人達の声があまりに少なくて。
耳に馴染む喧騒があまりに少なくて。

 「…確認しておきたいんだけど…ティアラ、君、ウェスト熱はもう
  罹ってた?」

静寂を不思議に思っていると、不意にそう尋ねられる。
 「ウェスト熱、って…あの西の地の風土病?
  僕は免疫ついてるけど……まさか?」
 「…そう。その、まさか。
  ハイランドのどこぞの馬鹿が、無理を承知でいきなり第三市場
  まで入っちゃって、そこで見事に感染しちゃったんだよね」

……それは、無理を通り越して無謀だ。
あそこの市場に行く人は第一市場に行って、免疫をつけてから第二・第三と進まなければ感染してしまうのに。

ウェスト熱、というのは西の地の風土病。
致死率は低いけれど、感染力が強くてしかも高熱が一週間近く続いてしまう。
いくらあの市場に稀少品が数多く揃っているにしても、いきなり第三市場に行くというのは…余りに無謀すぎる。

 「……でも、行ったのはハイランドの人、なんでしょ?
  どうして同盟軍にまで被害が?」

頭に浮かんだ問いを素直に口にすると、ルックは心底嫌そうに眉を顰めて、それ以上に嫌そうな声で答を返す。

 「……行ったのは、ハイランドの赤いヤツなんだよね。
  ったく、こっちの迷惑、ってモン少しは考えて欲しいんだけど」
……という事は。

 「………トキヤ、この間、誕生日だったもんね……」

招待状は届いていたけれど、生憎その日はどうしても抜けられない
用事があったから、出席する事は出来なかったのだけれど。
ルックの言葉を察するに、愛しい恋人の誕生日の為に、第三市場でしか取り扱っていない物をプレゼントに購入した彼、が夜にでもこの城を訪れて…キス、と一緒に熱病も感染って。
そして、トキヤから城に住む人達に感染した、というのが大筋なのだろう。
…何も熱いキスと一緒に、熱病までもらわなくてもいいのに。
ほんの少しだけ呆れる…というか何というか。

 「…まぁ、そんな訳で。この城にいる連中の殆どはもれなく感染
  しちゃってるんだよね。ハイランドも同じ状況だから停戦合意中。
  君が免疫ついてる、って聞いて安心したけど。
  ……青いの、見事に発熱してるよ」
 「フリックがっ!?」
 「……三日前に発病してね、酷い熱だってのに這ってでも行きそう
  な勢いだったから」

…だから、睡眠薬か眠りの風を使ったかしたのだろう。

 「…フリックはどこの部屋にいるの?」

少なからず、声が苛立ってしまう覚えはある。

だって。
無理矢理、強制的な眠りを強いられているのは恐らくは僕の所為でもあるのだと思うから。
ルックは嫌そうな表情のまま、それでも少しだけ笑いを含んだ声で。

 「……自分の部屋で寝ていると思うけど?」

笑われたのがちょっとだけ気に入らなくて、平静を装って。

 「…そういえば届け物、って何だったの?」

そんな僕の見栄さえも一笑の対象でしかないらしく。肩を竦めて笑いを含ませた声で返ってくる答。

 「…リュウカン師を送り届けにグレッグミンスターまで行ってたんだけど?
  言っただろ?『届け物のついで』だって。
  
  ……会いに行ってやらなくていいの?」

ホウアン先生だけでは手が足りない程だった、という事なのだろう。
見栄を張れたのは、そこまで。

 「…迎えに来てくれて、ありがと!」

そう言い残して、駆けて行くのが精一杯。
後ろから優しい一筋の風と一緒に届く、声。


 「……ティアラの願いが、青いのの願いが叶う様に…ね」


その言葉の意味は、その時の僕には判らなかったのだけれど。



フリックの部屋に入ると、ホウアン先生が付き添っていて。軽くお辞儀をしてベッドに近付く。

 「…容態は、どうなんですか?」
小声で尋ねると、ホウアン先生は困った表情で。

 「ティアラ様……先程、リュウカン師にも見て頂いたのですが…
  フリックさんは熱、が体の中に篭りやすい体質らしく丸薬を飲ん 
  で、外から物理的に冷やしても中々熱が下がらないのです。
  命に別状はないと思うのですが……」

ウェスト熱は確かに致死率は低いけど…でも、皆無な訳ではなく。
ましてや、フリックの運の無さは天下一品だから。
恐る恐るベットで寝ているフリックの顔を覗き込むと、端正な顔は色を無くしていて。
指を伸ばして、そっと唇に触れると乾いている感触と、熱い感覚が伝わってきて急に不安になってしまう。

 「……フリック?」

枕元でそっと呼び掛けてみても、その瞳は開かなくて、声も返って来なくて。

 「…ティアラ様、大丈夫ですよ。
  あなた様の付添がフリックさんには何よりの特効薬でしょうから。
  体に篭っている熱さえ、外に出れば後は快方に向かうとリュウカン師も仰っていましたし」

僕の肩に手を置いて、優しい声でそう言ってくれたけれど。
泣きそうになってしまうのを堪えるだけで精一杯。

 「もしよろしければ、フリックさんが起きたら丸薬を飲む様
  お伝えして頂いてもよろしかったでしょうか?
  目を醒ますのは、まだしばらくかかると思いますので」

ベッドの横にある備え付けの棚には、丸薬の入っている陶器と水差しとコップ。
それを確認して、こくん。と頷く。
ホウアン先生は、優しい笑みを浮かべて僕の頭を撫ぜて。

 「容態に変化がありましたら、呼びに来て下さい。
  何もない様でしたら翌朝、診に来ますので」

そう言って、そっと扉を閉めて部屋を後にする。
窓の外は黄昏色で、もうすぐ夜の帳が下りてくるのだと思った。


……ちゃんと、瞳、開いてくれるよ、ね?


2003年12月08日(月) 『コイシイヒト。』 3/藤萌 和里



夜になって、見舞いに来たビクトールは心配そげな僕に、にやにやと笑いながら『あるコト』を耳打ちした。
あまりの事に、顔が赤くなってしまうのを止められなくて。
からかわれてるのだとしても、それでフリックの熱が下がるのなら…とも思った。
見舞いに、とビクトールが持ってきた果実酒を景気付けに…と勧められて、一緒に一杯だけ飲んで。

 『…じゃあ、後は頼んだぜ?』

背を向けながら、手をひらひらさせてビクトールは出て行って。
ほんの少しだけ、酔いが回ってしまった体でフリックの顔を覗き込む。
瞳を閉じていても尚、端正な顔。
フリックの瞳がとても好きな分、見る事が叶わないのが辛くて。
普段なら照れくさくて、恥ずかしくて真正面から見据えるの少ないのに…ね。

 「……フリック」

この部屋に入ってから、何度口にしたか判らない名前。
その度に返って来ない声に泣きそうになってた。
瞳も声も、フリックを彩る総てを愛しているのだと改めて認識してしまっていたから。

 『後に残される奴の気持ち、俺は知ってるから。
  …だから、俺はお前を残しては逝かないよ』

この城で再会して暫くした後で言ってくれた言葉、は約束、だったんでしょう?
約束は守られる為に、守る為にあるの、忘れていないよね?



 「……ティア?」


不意に名を呼ばれて、慌てて声がした方を向くと…大好きな菫青色の瞳。


 「………フリック?」



涙が、零れ落ちてしまう。声を聞いただけで、瞳を見ただけで。
ゆっくりと差し伸べられる手。涙を拭ってくれる指。

 「ごめん。心配、かけちまって。
  本当は遠征から戻ったらすぐに迎えに行くつもりだった」

上体を起こして、そう言って優しく抱きしめてくれたから、僕もフリックの背中に手を回して、ぎゅっ。と抱きついて。

 「…訳、は聞いたから…体、苦しくない?」
言葉がいつもより途切れ途切れになってしまうのは仕方が無い。
フリックは僕の背中をぽんぽん。と叩いて。

 「……熱より何より、お前に会えないのが辛かった。
  目が醒めた時に、ティアがいたから…夢かと思ったよ」

 「莫迦…夢、なんかじゃ、ないよ?」

そっと背を伸ばして、触れるだけのキスをして微笑んでみせる。
触れた先の唇はまだ熱を持っていたから、心配だけど。

 「…確かに。夢だとしたらかなりの大盤振舞だ」

くすっ。と苦笑いを浮かべながらそう言うフリックの頬を軽く抓ってから、棚に置いてあった丸薬を口に含んで、水差しを取って。

 「………大盤振舞の、ついで」


生温くなってしまっている水を含んで、薬を口移しで飲ませて。
まだ微かに残っている酔いに任せて、そっと耳元で囁く。

 「………体に熱が篭ってるの、外に出したら治るんだって」

誘ってるみたいで恥ずかしくて、どうしても瞳を見ては言えなかったけれど…いくらフリックが鈍くても、意味…判ってくれるよね?
僕の背中に回されていたフリックの腕が止まって、僕はゆっくりと息を吐いて。


フリックが深呼吸を二回程するのが聞こえて。


 「……ティア?それって………」

途中で言い澱んでしまう事さえも、如何にもフリックらしくって。
大丈夫。と心の中で唱えて、僕も深呼吸して体を預けながら答える。

 「お互い、こういう事でもないといつまで経っても出来ないだろ?
  ってビクトールにも言われたしね。
  …それともフリックは、こんな形では…嫌?」

ビクトールに言われた言葉で、ルックが口にした言葉が結びついて。

確かにこういう切欠でもないと、僕等はまだしばらく事が進まないだろうし…と思ったのは事実。
でも、何よりもそれでフリックの熱が下がるのなら、と思ったから。
ビクトールは笑いながら『一石二鳥だと思うぜ?』とか言ってたけど。

そっと抱き締め直されて、深呼吸してる音が静かに聞こえて。
息を詰めて、フリックの返事を待っていると、優しく頬に触れてくる手。
微かに触れる吐息。

 「……ごめんな。
  もっとちゃんとお膳立て、してやりたかったんだけど」

心底、申し訳無さそうな声だったから、思わずくすくす笑ってしまう。

 「………莫迦。フリックにそんな段取り、期待してなかったよ」

見上げて逢った瞳は、優しかったから…だから、大丈夫。
ゆっくりと瞳を閉じて、愛しい恋人からのキスを待つ。
深呼吸、三つしてる間に降りて来るよね?



 「…愛してる、ティア」




……ほら、ね?





優しくて熱い夜が過ぎて。当たり前の様に朝は来て。
そっと瞳を開くと、何よりも愛しい人の優しい笑顔に逢って。
熱が下がった体にそうっと抱き締められて、ふんわりとくれるキス。

 「……おはよう。ティア」

欲しかったのは、こんな朝。
          欲しかったのは、こんなキス。

幸せすぎて、くすぐったい気持ちで微笑ってキスを返して。

 「おはよう。フリック……愛してる」




同じ空を見ていたい。
          同じ時を、同じ場所で過ごしたい。

…それは我儘ではない、と教えてくれたから。
 他の誰でもない、恋しい、あなたが。







…という訳で、実はこの話がうちのフリ坊のお初話だったりします……最中シーンは相変わらず書かないでいる辺り、うちの兄さんと同じ位、情けないですが(苦笑)

この話は川原様がご企画・発行されていた『フリ坊小説アンソロジー企画本(Kiss in the sky)』に書かせて頂いた話です。
その後、ご了承を得て私のサークルで発行した『恋桜』にも転載しました。
本当はこの話はWebにはアップしないつもりでいたのですが『フリ坊同盟』に新しく設置した『小説・物書きさんの作品』のテストでアップしました。

他の皆様の作品、楽しみにお待ち致しておりますv

 追記・うちのフリ坊話を初めて読んで下さった方へ>>

 ……す、すみません。うちのフリ坊話ではもれなくルックが出てきています。
 下手をすると兄さんの出番より多い位、出番が多いんです(大汗)

2004年02月14日(土) 嫉妬も出来ない僕ですが。/水月冬華

嫉妬も出来ない僕ですが。



「フリックは甘い物苦手らしいし、いらないでしょ?」


真っ青な顔で制止しようとしたフリックの目の前で苦笑い気味に微笑んで、僕はカリリと茶色の固まりを噛み砕く。
馬鹿だよね、苦手なの知らないでこんなの用意して。
自分の愚かさに溜息が出そうなのは意地で抑えこんで、ついさっき噛み砕いた物と一緒に飲み込んだ。

2人で食べるつもりで作った箱の中身の量を思うと少し気が重い。

(僕も甘い物ってそう好きでもないんだけど。)


幾ら自分の作った物と言っても、捨ててしまうのは悲しい。
だからと言って、彼の為に用意した物を

他の誰かにあげるのは嫌だから。



(気付かなかった僕も僕だけどさ…)

3年前はそんな事に気付ける程余裕がなかったのだから仕方ない。
そう思うのは言い訳かな。
『恋人』になって初めての春、その恋人の好みを他者から知ったのは余りにも痛い。

言われてみれば珈琲を飲む時に砂糖を入れてなかったような気もする。


ぼんやりそんな事を考えながら唯機械的に箱の中身を口に放り込み、噛み砕き、飲み下す。
半ば自棄になっていて味も何もあったものじゃないけど、自分の失敗は自分で始末つけないとね。
最後の一つを取った手を掴まれてフリックがまだそこにいた事を思い出した。
見上げたフリックの顔は思いの外険しかった。
けれど解放軍のリーダーをやっていた頃の名残なのか、僕は自然と作り笑いを浮かべていた。

「どうしたの?」
「『どうした』じゃない。…誰が何時、いらないって言ったんだ。」

『でも『苦手』なのは事実でしょう?』
何が可笑しいんだろう。本当は悲しいのに、僕はずっと微笑んでいた。
僕の顔を見ていたフリックが低い声で唸る。
何か言いたいみたいなんだけど、どうも言葉が上手く出てこないみたい。
そうして僕の手首を掴んだ手と反対の手でガリガリと頭を掻いて、ぽつりと呟いた。

「確かに苦手だけどな?……………セイが、好きなヤツが『俺の為に』作ってくれたのは食いたいんだよ。」

その言葉を反芻して、僕は手に持っている物を見つめる。
最後の一つになってしまったチョコレートと、フリックの顔を見比べる。
流石に自分の言った台詞が恥ずかしかったのか、憮然とした表情を浮かべているフリックの顔はほんの少し赤かった。

(『好きなヤツが…』…かぁ…)

もっと早く聞けば良かった。
そうしたら要らない意地張ったりしなくて済んだのに。
そう思ったら不意にこの感情の正体に気が付いた。
あぁ、相変わらず僕は自分自身の感情に鈍いらしい。
幾らこの状況に到った責任の一端がフリックにあるとしても、ちょっと可哀想な事をしてしまったかもしれないなぁ…と思う。

色々考えた末に、ある事が思いついた。
実行に移した時のフリックを想像してクスッと小さく笑って僕は『手、痛いから離してくれる?』と首を傾げてみた。
慌ててフリックが掴んだ手を離すとすぐ、僕は最後の一つを口に放り込んだ。
そうして、驚いて目を大きく開いたフリックが叫びかけたのを遮って、首に腕を廻してキスをした。

開いていた唇から口移しでチョコレートを贈る。
恥ずかしいけど、ほんの少しだけお詫びも込めて。

僕の意図に気付いたのか、いつの間にか後頭部を押さえられて舌を絡め取られる。
絡んだ舌の上で最後のチョコは甘く溶けて…


「Happy Valentine…」


吐息混じりの言葉は届いたかな。
もう一度降りてくる口付けの合間に、僕はフッとそう思った。



上手に嫉妬も出来ない僕ですが。

― 貴方を好きでも…良いですか? ―




コメント>>

1ヶ月(+α)遅れですが、バレンタイン話です。
しかもこっそり参加な辺りが実に私らしい(苦笑)

1日で『思い立ったが仏滅!(…)』な勢い書いたので短い上にタイトルで苦しみました。
自棄起こして『イトシイベイベー』とか付けちゃろうかと思ったのは秘密の方向で。

久々に書いたにしては甘くなりました。………なってますよね?(滝汗)

こうやって書いてみると…やっぱり幻水への愛が冷めてる訳ではないようで。
………冷めてる訳じゃないのは自覚があるんだ、
唯、某ジャンルへの愛がそれを上回ってるだけなんだ…うん(遠)


2004/03/某日 水月 冬華

2006年05月17日(水) そして・・・光の指し示す場所へ・・・1/月代 リン

        序
太陽暦457年、赤月帝国を打ち破り230年に渡った赤月帝国の支配に終止符が打たれた。
初期解放軍のリーダーであったオデッサ・シルバーバーグの死によって一度は消滅しかけた解放軍だったが、オデッサの意志を継いだマクドール家嫡男、ティル・マクドールの活躍と、解放軍に参加したマッシュ・シルバーバーグの采配によって解放軍は力を取り戻し『第二期解放軍』として赤月帝国に立ち向かい勝利を治め、赤月帝国は滅亡した。
その後、トラン共和国を設立して初代大統領にレパントが就任し、新しい希望の満ち溢れる時代の幕開けとなり、その後、この戦いを『門の紋章戦争』と名づけ、3年経った今なおも語り継がれている。
【・・・その姿は私達の希望だった・・・】
解放軍を知る者達が口を揃えて今も尚、その名をひと時も忘れた事などはない・・・その姿は光輝き人々を彼の地へと導いたその名を
【・・・ティル様・・・】
漆黒の髪を靡かせ、一点の曇りも無い漆黒の瞳を持ち、生まれながらに持つ輝きは多くの人々を引き付け続ける・・・・・・そして、その右手に宿る真の紋章『ソウルイーター』は死と生を司り、宿主の回りに在る魂を食らい続ける呪いの紋章でティル自身も多くの大切な者達を失って何度も何度も傷つき苦しんだ。
それでもティルは戦う事を止めなかった、それはオデッサから託された希望でもあり自分を信じて戦ってくれる多くの仲間達の希望でもあったから。
解放軍の勝利後、祝いの席から突然姿を従者グレミオと共に消したティル・・・今はどこの空の下に居るのだろうか・・・
その想いは、解放軍に関わった者達の共通の想いである。
【・・・ティル・・・】
それは、フリックにとっても同じ想いだった。
トラン共和国の北方の地『ジョウストン都市同盟とハイランド王国でデュナン統一戦争が勃発していて、フリックは再び戦いにその身を投じていた。
ノースウインドウの城を手に入れてこれまで以上の人々が城に集まって来る様になると、多くの仲間達の中には昔馴染みの者達が大勢いて、3年ぶりの感動の再会を果たした。
そして、その祝いとして皆で酒を酌み交わす事になったのだ・・・3年ぶりの再会は多くを語らせ、その歌と踊と人々の笑い声の響く盛り上がりは夜明けまで続いた。
「・・・そうか・・・」
シーナの隣でフリックが呟く。
「・・・ティルは・・・行ってしまったのか・・・」
手に持つビールのジョッキの中の薄茶色に輝くビールの波紋を見つめながらフリックは苦微笑した。
「・・・それが祝いの席から突然だったからな、あの後、おやじが探したけど・・・」
「・・・・・・・」
フリックの中に走るのは最後に見たティルの姿・・・炎の中で見た
自分を心配しているティルの姿・・・今も脳裏に焼きつくティルの姿・・・穢れの無い漆黒の瞳が印象的なティルが・・・
【フリックを置いては行けない!!】
そして、二人はそのまま別れた・・・あの時は死んでもいいとさえ思っていた・・・最後に・・・ティルを守れた事がただ嬉しかっただが、自分はビクトールと共にこうして此処に居て・・・又戦いに身を投じている・・・・・・・
「でも、何も突然行かなくてもいいんじゃないのか〜」
「・・・・・・・・」
シーナはジョッキのビールを一気に飲み干した。
「・・・でもまぁ・・・アイツは・・・アイツなりに・・・いろいろ・・・あるけどな・・・」
「・・・・・・・・・・」
フリックはただ黙ってシーナの話に耳を傾けている。
「・・・確かに・・・赤月帝国は滅亡した・・・でも・・・アイツは多くの者を失った・・・真の紋章を宿す素質があって、人を導くカリスマがあって・・・グレミオの事は本当にアイツにとっては唯一の救いだったろうが・・・アイツは永遠に自分の時を失った・・
たぶん・・・俺達に迷惑掛けると思って黙って行ったんだろうけど
何か時々思うんだよな・・・平和を俺達が得た代償をアイツに背負
わせてないかってさ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
シーナは再びジョッキのビールを飲み干すと席を立つ。
「まぁ・・・今となっては・・・俺達に何が出来たのか・・・何をしてやれるのか・・・ただ一つだけ言えるのはアイツの苦労を無にしない事くらいでしょ」
と告げたシーナはそのままカウンターへ向かう。
だが途中で足を止めると何を思ったのか振り返ってフリックを見つめた。
「そういえば、アイツ・・・フリックの事あの後ずっと心配してたぞ・・・自分を庇ってって・・・それは今にも号泣しそうに・・・生きてて欲しいって・・・」
フリックはその言葉に微笑む。
「・・・じゃあ今度会えたら、きっと怒るだろうな」
「しかし、3年間も心配させるか普通、アイツじゃなくたって起こるって・・・心配してたのはみんな同じだ」
「・・・すまない・・・」
「・・・生きててくれて・・・ありがとう・・・・」
シーナは言った事が恥ずかしかったのだろうか?フリックが声を掛ける前に慌ててカウンターの踊りの輪の中へ行ってしまった。
フリックはそんなシーナの姿に声を殺して笑った。
「何だ、いやに上機嫌じゃないかフリック」
「ビクトール」
声を殺して笑うフリックの隣の席に腰を下ろすのはビクトールだ。
その手にはカナカンのワインを一本持っている。
「どうだ、バレリアからの差し入れだ」
「いいね・・・・・」
コップにカナカンのワインを注ぐと芳醇な香りがした。
「・・・なぁ・・・ビクトール」
「あぁ?」
フリックはカウンターで仲間達が笑い、踊る姿を見つめた。
「一人じゃないって・・・いいものだな」
フリックの言葉にビクトールは何時もの様には笑わなかった。
何か思うところがあるのだろうか?カナカンを飲み干し再びコップに注ぎ込んでカウンターを見つめる。
「ティルは一人じゃない」
「!!!!!!!!!」
フリックの心の中を読み取るような言葉にフリックは激しく動揺する。だがそんなフリックなどお構いなしにビクトールは話を続ける。
「ティルは希望だった・・・みんなあの時、ティルがいれば何だってやれる気がした・・・あの輝きに皆が希望を見出した、そして今もそれは変わる事は無く続いている。」
「・・・・・・・・・・・」
ビクトールが、俯いたフリックの顔を悪戯っぽく覗き込む。
「だから、この戦争にも関わったんじゃないのか?リオウにティルの様な希望を見たからじゃないのか?」
「・・・・・・・・・」
フリックの脳裏に浮かぶのはティルのその右手に宿る紋章、そしてそれは苦しみの紋章でティルは何時だって紋章を押さえるのに必死だった。
みんなの前では平気そうにしていたがフリックは知っている。ティルは一人になると酷く怯えていた事を・・・・・・・・
でも、結局自分は何もしてやれずに今日まで来てしまった。
大きな運命の流れの中へ流されて行こうとしているティルに対し、何も出来ない自分の無力さをただこうして持て余す。
「・・・フリックお前、ティルの事最初は認めてなかったのにな〜」
ビクトールの言葉にフリックは昔の幼かった自分の姿を思い出してしまい顔を赤く染めると、ビクトールを睨みつけた。
「うっうるさい!!昔の話をもちだすな!!!」
「へい、へい」
「・・・3年は俺にとって、悪い意味でも、いい意味でも、ある意味で良かったと思う・・・」
「・・・へぇ・・・お前も修羅場潜って大人になったってか?」
「・・・・・・・・・」
フリックはコップのワインを一気に飲み干した。
「・・・今度会えたら・・・何時か・・・会える時が来たら・・・俺は・・・ティルの事をもっと解ってやれるだろうか・・・」
「・・・・・・・・・」
何処か遠い想いに心を馳せて嬉しそうなフリックをビクトールは
見つめて眉を潜める。
《・・・こいつは・・・きっと気付いちゃいないだろが・・・》
でもそれは癪なので知らない振りをしておく。
《・・・まぁ・・・それも・・・運命って奴か・・・》
それはそれで見ている自分としては面白くていいかもしれないと、ビクトールは秘かに思う。
「あ〜こんな所に!!」
その時、フリックの姿を見つけてニナが黄色い声を上げた。
「・・・げっ・・・ニッ・・・ニナ・・・」
フリックは慌てて立ち上がると隣で笑うビクトールを激しく睨みつけた。それでもビクトールは笑って楽しそうだ。
「わっ・・・笑い事か」
「まぁ・・・ニナちゃん可愛いし、観念しろや」
「〜人事だと思って〜」
フリックはニナから逃げる様に、酒場を後にしていった。ニナもそんなフリックの後を追っていった。
「フリックさ〜ん」
フリックは酒場を出て追いかけて来るニナを巻く為に、池近くの木の陰に隠れて息を殺す。
「フリックさ〜ん、逃がさないから!」
ニナがキョロキョロと辺りを見回し、いない事を確認して城の中へ消えるとフリックはホッとため息をついた。
「・・・全く・・・ニナにも・・・困ったものだ」
何気なく空を見上げると何時しか夜が明けようとしていた。
フリックは城の外壁の展望台へ向かうと少し小高い場所から昇る太陽をだだ見つめていた。
「・・・・・・・・・」
暖かく包む太陽の光は一瞬で人の気持ちを優しくしてくれ、それはフリックにティルの事を思い出させた。
《・・・ティル・・・》
彼は太陽の様に、多くの人間の心を優しくさせる、不思議な存在。
「・・・又・・・会いたい・・・」
会いたい・・・もし・・・運命と言う物があるのならば・・・そして・・・もし・・・自分とティルに運命があるのならば・・・
「・・・ティル・・・会いたい・・・お前に・・・」
3年間・・・一度だって忘れた事はない、いや、日に日にこの想いが募っていく・・・このティルを考える時の胸の痛みの理由が知りたい・・・きっと・・・会えれば解る・・・答えが出る・・・全身に太陽の光を浴びながら、フリックは目を閉じてティルへの強い想いに身を馳せる。
「・・・・・・・・・」
フリックの姿を見つけて後を付けて来たニナはただ黙ってフリックの姿を見守り続けるが、その心は激しい動揺だ。
誰かを想っていてそれは、自分の知っているオデッサさんでは無い事はフリックのあの表情をみれば嫌と言うほどに解る。現在進行形の想う人がいる。
《フリックさん・・・》


2006年05月18日(木) そして・・・光の指し示す場所へ・・・2/月代 リン

「坊ちゃん!!」
宿屋からグレミオが何か包みを持って直ぐ近くに在る。釣堀に遣って来ると、釣り糸を垂らしたティルの姿があった。
「坊ちゃん!」
グレミオがティルの名を呼ぶが心ここにあらず・・・何かを考え込んでいる瞳・・・とても・・・悲しそうな・・・
「・・・・・坊ちゃん・・・・・・」
グレミオは知っている。赤月帝国を解放後二人はそっと姿を消した。
それはティルの配慮でもあった・・・ティルの右手に宿るのは魂を食らう紋章『ソウルイーター』それが又、誰かの命を食らってしまうのを酷く怯えていたから・・・
「・・あっ・・・グレミオ・・・」
ティルはグレミオに気付き、取り繕うと笑顔を見せた、グレミオはそれを十分知りつつも何も言わずに微笑。
「・・・お腹すきませんか?お弁当たべましょうか。宿屋のエリちゃんのお手製ですよ!!」
グレミオの優しさにティルは嬉しくなる・・・何も聞かずにただ傍にいてくれるグレミオ・・・失わずに済んだ命・・・
ふっと、脳裏を過ぎるのはあの時、矢を受けて炎の中に消えていったフリックの事・・・
《・・・早く行け!!!》
そう告げて消えて行ったフリック・・・最後に見たのは笑顔に溢れたフリックの笑顔だった。
《・・・生きていて・・・》
あの日から3年の月日が流れて、旅を続けて来たティル達、それでもフリック達の話は聞く事も無く・・・生きているのか、それともあのまま・・・
「!!!!!!!!!!!!!!」
ティルは自分の中の不安を消し去る様に大きく首を振った。
そして、笑顔でグレミオを見つめた。
「僕もお腹が空いてた所だったんだ。エリの料理は美味しいから」
グレミオにはティルの全てが見えている・・・ティルが幼かった日々からずっとティルを見ているのだ・・・ティルの心の中の不安さえも簡単に気付いてしまう。
《・・・坊ちゃん、貴方が此処に滞在して既に、一ヶ月・・・・・・私は知っていますよ・・・今、ハイランドと都市同盟が戦争をしていますから・・・少しでも彼の情報を求めてるのではありませんか?・・・もしかしたら其処にいるかもしれないと・・・》
「では、頂きましょうか・・・」
グレミオは包みを広げて釣堀で二人で、とめどない話をして楽しく食事をした。
「じゃあ、かたずけてきますね」
食事を終えたグレミオとティル。グレミオが釣堀を離れて行く姿を見送りながらティルは苦微笑した。
《・・・グレミオには隠し事は出来ないね・・・》
グレミオは自分の考えている事を解っていて、それでもただ黙って傍に居てくれる。
《・・・・・・・・・・・》
あの日、あの炎の中で消えたフリックの顔が今も脳裏から離れる事はない・・・凛とし・・・その青い強い瞳が美しくて・・・ティルは痛む胸を押さえた。
フリックの、あの真っ直ぐで、前だけを見て進む姿がティルには何時しか・・・眩しかった存在・・・皆が自分をリーダーとして扱い、何処か遠ざけている中で唯一、自分を十五歳で扱ってくれた。
何の迷いも無く何の邪念も無く・・・自分を包んでくれる暖かな存在
まるで全てを包む太陽の様な暖かさ・・・
何時からだったろう・・・こんな気持ちに成る様になったのは・・・
ティルは苦微笑する、きっとビクトールと共に今も何処かで当てのない気ままな旅をしているだろう・・・
《・・・あの戦いはもう過去の話になっているかもしれない・・・》
フリックにとって、あの戦いは過去で、自分の事だってそれほど大した事じゃないかもしれない・・・そうだったとしても・・・
多くの大切な人達を失ったあの時も・・・彼は・・・強く自分の中の大きな支えになっていたのは真実・・・
《・・・・・・・・》
ティルは自分の中で溢れてくる邪念を必死で押さえつけると再び釣堀で釣り糸を垂らすと、バナーの村の宿屋の方が騒がしくなった。
「・・・何か・・・あったのかな・・・」
 その時、ティルの元へ歩み寄る足音。ティルがその存在に気付いて視線を向けると、まだ十代と思われる黒髪の少年が立ち尽くしていた。その少年はティルを見つめて頬を紅潮させ、その無垢な瞳は輝き、全身で憧れをティルに向けている。
「・・・・・・・・・・」
ティルは、目を細める。ティルには直ぐに解ってしまう・・・少年は紋章を持っている事を・・・そして全てを理解する。
《・・・彼が・・・》
ハイランドと、都市同盟の戦いは此処に居ても耳には入ってくるし、その中心に立つのが『リオウ』と呼ばれる少年だと言う事も。
《・・・同じ・・・道を歩む者・・・》
彼はきっと全ての人々の希望なのだろう・・・そして彼も又、正しいと信じて疑わない道を歩いているのだ。
「・・・あっ・・・あの・・・」
リオウは、言葉に詰まりながらティルに声を掛けようとするが旨く行かない・・・緊張していている自分がいる。
《・・・あの『英雄』のティルさんだ・・・》
キャロの街でも、『門の紋章戦争』は話題だった、勿論、リオウも
そのリーダーだったティルに憧れていた。ビクトールや、フリックはそのティルと共に戦っていたのでいろんな話をしてくれてますますリオウの中でティルは神格化されていったのだ。そのティルが今自分の目の前に居る・・・漆黒の髪が風に靡き、その漆黒の瞳は全てを見通すかの様な・・・リオウの思い描いていたティルがいた。
《・・・やっぱり・・・凄い人だな・・・》
その存在感、そのカリスマ性、其処にいるだけで神々しくて足が
震えて動かない。
「おいっ!!リオウ」
突然、村で姿を消したリオウを探して、リオウに付いて来ていたフリックは他の仲間達と別れてリオウを探していた。
「・・・突然姿消しやがって、心配するだろうが・・・」
フリックが、リオウに告げて安心したのか大きくため息を吐く。
「・・・ルカブライトが倒れたっても、まだまだ安心出来ないんだぞ・・・何時、残党にお前が襲われるか解らないんだから・・・」
「・・・でも・・・」
「・・・でもじゃないぞ!!お前に何かあったらシュウに怒られるだけじゃすまないんだぞ!!!」
「・・・でも・・・」
「・・・でもでもって・・・お前はリーダーと言う資格を・・・」
「・・・フリック・・・」
「!!!!!!!!!!!」
その言葉に、フリックは自分の耳を疑う、ありえない幻聴までも聞こえる様になってしまった。
《俺もそろそろ重症だな・・・アイツの声が聞こえるなんて・・・》
「・・・フリック・・・」
「!!!!!!!!!!!」
再び聞こえて来る声にフリックは視線を移して目を見開いた。
《・・・まさか・・・》
その人が居る・・・釣堀で釣りをしている・・・あれ程・・・会いたかった・・・あの頃のままで・・・その人は自分を見ていた。
「・・・ティル・・・」
会えたら何から話せばいいかとか、ビクトールと渡った砂漠は大変だった時の愚痴でも聞いてもらうかとか、きっと怒っているだろうかとか、今は都市同盟軍で戦っている話とかしたい・・・そんな事は、いざとなると何も出てきはしない。
「・・・・・・・・・・」
それは、ティルとて同じで、会えたらまず一発殴らなきゃ済まないとか、旅の話とか、フリックは何をして生きてきたのかとか・・・
沢山あったはすだったけれど・・・何も言葉にならないでいる。
その上、3年の月日の過ぎたフリックはあの頃よりも逞しく、凛としていてティルの胸が自然に高鳴った。
「あっ!!!いたいた!!!フリックさん!!!」
ナナミを筆頭に、カスミ、マイクロトフが釣堀に遣って来た。
「心配したんだよ!!リオウは・・・」
「・・・ごめん・・・でも・・・」
リオウが視線を釣堀に戻すと少年が立ち尽くす。カスミはその姿に頬を赤く染めた。
「・・・ティル様!!」
「えっ・・・ティルって・・・カスミさんそれってあの英雄の・・」
ナナミは目を見開く。
「・・・えっ・・・えええ!!!」
ナナミはあの英雄の登場に胸をときめかせると再びティルを見つめるが視線が別を見ている。ナナミが視線を追うとそれはフリックを見ていた。もちろんフリックもティルを見つめている。

ふたりは、少しの間ただ見つめ合うだけだった・・・それは3年の月日を埋めているようでもあったが・・・
「・・・・・・・・・・・」
フリックは自然に体が動いていた。その青いマントを翻して足早に釣堀で立ち尽くしているティルの元へ向かった。
《・・・会いたかった・・・》
ティルの直ぐ目の前まで歩いてくるとティルはその漆黒の瞳でフリックを見上げている。フリックの中に溢れる想い、フリックはそっとティルを優しくその腕に包み込んだ。

                                  <続く>


2006年07月06日(木) そして・・・光の指し示す場所へ・・・3/月代 リン

・・・あの頃、俺はまだ青くて、何かしなくては、と、ただ焦っていた。
でも、焦れば、焦るほど、俺のする事は全て空回りして・・・それが俺を更に焦らせて
それを、どこかでティルにぶつけていた時期があった。
それでも、ティルは俺を待っていてくれたんだ・・・俺がオデッサの事で苦しんでいた事を誰よりも知っていたから・・・いや・・・そうじゃない・・・一番苦しかったのは・・・ティル。
何時からだったろう・・・そんなティルを護りたいと思う様になったのは・・・オデッサが託したからじゃなく・・・純粋な気持ちで、ティルと言う少年を護りたいと思ったのは
・・何も出来ないかもしれない・・・俺にはそんな力・・・ないかもしれない・・・
それでも・・・ティルの心が、少しでも、休める場所に・・・なりたい・・・
俺にとって、この3年は俺自身の心の成長に、必要だった時間・・・逢えないと言うのは
不安も起きるが、又、冷静な心で自分の本当の心を暴き出す。
そして、知ったんだ・・・今度逢うときは・・・お前をこの腕に抱きたいと・・・


『 そして光が指し示す場所へ 』



フリックの腕の中に在るのは、紛れも無くこの腕で抱きしめたいと願っていたティル。
「・・・逢いたかった・・・」
想いが溢れ過ぎて、言いたかった事など、一つも言えずにいる自分に何て様だとフリック
は心で何度も何度も自分自身に叱責する。
きつく抱いたら、ティルが壊れてしまいそうな気がして、フリックはふわりと包み込み
優しくそっと抱きしめる。太陽の匂いがする・・・フリックはその漆黒に輝く黒髪から
漂う太陽の様な匂いに思わずティルの肩の上に顔を乗せた。
「・・・フリック・・・」
今まで、ただ黙っていたティルがフリックの耳元で優しく呟く。フリックはその声さえも
懐かしくて、これが幻ではないのだと確信する。
《・・・このまま、消えてしまうかと思った・・・》
こみあげる涙を堪えているフリックの姿は嫌でもティルには解ってしまう。ティルは抱きしめられる、その広い腕の中でボンヤリと立ち尽くしている。
「・・・・・・・・・・・・」
その、想いはティルには凄く、本当に凄く嬉しい・・・嬉しくて泣いてしまいたいほどに
嬉しい事なのに、でも・・・それはティルには出来ない。ティルはフリックの背中に自分の腕を回しかけて手を止め、目を見開く。
《・・・ソウルイーター・・・》
右手の手袋の下が、一瞬少しだけ光ったのをティルは見逃さなかった。
《・・・ありがとうフリック・・・君は本当に・・・優しいんだね・・・》
自分の心をティルは押し殺す。それに慣れてしまった自分に苦微笑しながらティルは
そっとフリックの背中に回しかけた両手を戻した。
《・・・ごめん・・・》
心の中でフリックに誤る何度も。
《・・・もう、誰も失いたく・・・ないんだ・・・》
あの時、身を裂かれる想い・・・失う痛み・・・恐怖・・・
《・・・その気持ちだけで・・・僕は・・・凄く・・・本当に・・・凄く・・・嬉しいから・・・僕の事を・・・忘れないでいてくれて・・・ありがとう・・・》
それでいいと心に決めて、ティルは自分を抱きしめているフリックの両耳を左右に思いっきり引っ張ってみた。
「!!!いってー!!!」
痛みに慌て身を起こし、耳を押さえ、その瞳には薄っすらと涙を浮かべているフリックの
今度は両頬を引張ってみた。
「なひをする・・・・・」
ティルはにっこりと微笑み、フリックに告げる。
「・・・3年前のお・れ・い」
「ほれい?」
「そっ、3年前に助けてくれただろ?」
摘んでいた頬の手を離すとフリックは痛そうに頬を撫でる、たしかに赤くなっていて、ちょっとやりすぎたかな?とティルは思ったが面白かったから良しとした。
ニコニコと楽しそうに微笑んでいるティルを恨めしそうに見つめてフリックは心で呟く。
《・・・感動の再会・・・なのに・・・あいからわずか・・・》
フリックの前に立つティルの傍には、何時しかリオウ達が集まり楽しそうに話している。
優しい微笑みでリオウ達と会話を交わすティルの姿にフリックは自然に笑みが漏れた。
《・・・3年たってもティルはティルだな・・・俺の知っているティルだ》
「坊ちゃん!!!」
その時、コウの叫びを聞いて、飛び出していったグレミオが大きく肩で息をして慌てて戻って来たが、何時しかのお客様の集団に目を点にして足を止めた。
「あっ・・・あれ?」
こちらの事情が掴めないのだから仕方ないが。
「・・・何時の間に・・・こんなに大勢の・・・坊ちゃんも人望がおありで・・・」
そんな、グレミオの直ぐ隣で立つフリックは、思わず噴出す。すると、やっとグレミオは隣にフリックがいた事に気付いて目を丸ませた。
「フッフリック!!!」

「よぉ、あいからわずだなグレミオ」
グレミオはフリックをまじまじと見つめて観察。だがフリックとしては全身くまなく
観察されて気分はまるで、実験の蛙の様な気分で居た堪れない。
「おいおい・・・グレミオ・・・」
「・・・足はあるようですね?」
「・・・はぁ?足?」
「・・・生きてる?」
「・・・生きてなきゃ・・・此処にいるか」
「・・・いゃ・・貴方の事です、化けてでもでできそうな感じですよね・・・」
「!!!」
これ以上ないと言うくらいの満面の笑みをうかべてグレミオが告げた。
半ば、そんなグレミオの裏、表のない笑顔に対し、フリックのほうがやや呆れながらも懐かしいグレミオの笑顔にどこかホットする。
《・・・それが・・・ティルを救ってるんだろうな・・・》
ずっとティルがティルであり続けられる理由。
《・・・お前が・・・うらやましいよ・・・》
だぶん自分には出来ないだろう・・・そんなに器用なら・・・きっとこんな生き方はしていないだろう・・・と何時でも思って苦悩する事の繰り返し・・・
《・・・俺は何も出来ないでいるだけだ・・・》
してやりたいのに、何をすればいいのか解らない。グレミオの様な抱擁力があればきっと
もっと何かが出来るのかもしれないけれど・・・それに自分が程遠い事は誰よりも一番
自分が解っているから歯がゆい。
「・・・貴方は、そのままでいてくれないと・・・・・変わらないで下さいね・・・」
「・・・はっ?」
突然、黙っていたグレミオが低く押し殺した小声で告げたが、フリックには届いてはいないようだ。だが、それでもいい様な微笑みをグレミオは浮かべてフリックに告げる。
「・・・でも良かったですよ本当に、皆、心配してましたから・・・」
「・・・それは誤るよ、でも俺はてっきりビクトールが連絡してると思ってたから・・・
アイツのおかげで大変だったよ・・・散々だったし・・・」
フリックが嫌な思い出を思い出して大きくため息を吐くと、まるでその時の情景がフリックの顔から伝わってくるかのようで、そんなあいからわずなフリックの素直さに、ついついグレミオは声を殺して笑ってまった。
「・・・でしようね、ああゆう人ですから。いい方なんですけど・・・」
「・・・アイツのあの豪快な性格はどうなんだ、つき合わされる身にもなってほしいよ」
「・・・でもちゃんとお付き合いしてるじゃないですか・・・フリックはあいからわず
不器用ですね〜」
「・・・・・・・・」
グレミオの言葉に反論出来ず、両腕を組み黙り込むがフリックの耳は赤く染まっている。「・・・ところで、慌ててたようだが?」
「あーーーーーーーーーーーーっ!!!」
突然、グレミオが大きな声をあげると一斉に視線がグレミオに集まる。
「たっ大変なんですっっ!!!」
グレミオは顔を青ざめさせてティルに駆け寄った。そのグレミオの姿にティルは目を細める。何かが起きたのだ。
「・・・何かあったんだ・・・」
ティルの低く押し殺した声は、三年前を思い出させるとフリックは思った。自分達を導いてくれたあの時のティルもそうだった。
「じつは・・・コウ君が大変なんですっっ!!!」
グレミオをティルから引き離す為に、コウはワザと森の中に入っていってしまった・・・しかし・・・グレミオが助けにいった時にはコウの姿はどこにもなく・・・
「宿のエリさんの所に、こんな手紙が届いて・・・」
宿屋に戻った一行は、エリに送られた手紙を開いていた。
(子供の命が惜しければ、金を用意しろ)
「今、こら辺を荒らしまわっている山賊達がいると聞く」
バナーの村人達が宿屋に集まり沈痛なおももちで告げる。
「コウはどうなるんだい・・・」
「助けに行きましょう!!!僕達がいきます!!!
その一言を告げたのはリオウであった。強い瞳が輝きそれは今人々を纏め、導く光だと
ティルは思う・・・今はそれでいいと思う・・・今はそれは必要だから・・・
「・・・・・・・・」
ティルはそっと右手に触れ、今は、何も反応してこない事にほっと胸を撫で下ろす・・・
「・・・あの・・・ティルさん・・・」
突然、リオウに話かけられたティルは激しく動揺したがどうやらリオウはそんなティルに
気付いてはいない様子でニコニコと無邪気に微笑んでティルを見つめていた。
「・・・なんだい?」
自分も微笑むとリオウの瞳が輝く。
「あっあの・・・コウ君を助けるのを手伝って頂けたらなーって」
「えっ・・・・・」
ティルの瞳が見開いた。
《・・・たた・・・かう?・・・》
その時、ティルの右手のソウルイーターの歓喜の声が聞こえた気がした。

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