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2015年10月13日(火)
沖縄県知事が米軍基地の辺野古移設に関して移設承認の取り消しを表明した。 まぁ、これを決めたのは国なので沖縄県に白紙に戻す権利はないのだが、 今後、法廷の場でさらに揉めそうなのは確かだな。 それにしても「米軍基地がなくなれば沖縄は豊かになる」と 大ウソを言っている連中がいるのには呆れてしまう。 特に普天間基地の辺野古移設に強硬に反対している連中の主張だ。 その根拠の一つとなっているのが、沖縄県議会事務局による 「全基地返還がもたらす経済効果」の試算だ。 2010年9月に公表されたこの試算によると、基地全面返還後の経済波及効果を 生産誘発額で年9155億円としている。 細かい計算は省くが、県内総生産に換算すると5154億円の経済効果があるという。 この数字を試算時の県内総生産に対比すると、期待できる成長率は年率14%! これはピーク時の中国バブルを上回る成長率だというのだ。
しかし、この計算は明らかにおかしい。 そもそもこの「経済効果」の試算にはウソがある。 よく見てみると、一連の試算には重要な計算過程が抜け落ちているのだ。 返還後の経済効果から基地の現状を前提とした経済効果を差し引かなければ 実質的な効果は出てこない。 ところが、その計算が試算には存在しないのだ。 基地がなくなることが前提だから今、現在基地からもたらされている 経済効果が消滅するわけで、その部分を差し引かなければ意味がないのだ。 要するにこの試算は 「県内総生産(現状の基地ありを前提)」−「全基地固定のままの経済効果」+ 「全基地返還で生ずる経済効果」でなければならないものが、 「県内総生産(現状の基地ありを前提、「全基地固定のままの経済効果」を含む)」 +「全基地返還で生ずる経済効果」と、単純に足したものになっている。
そして専門家が独自に計算し直した結果では、全基地返還の場合、 経済効果は生産誘発額ベースで4950億円ほど、 県内総生産ベースでは1900億円ほどにとどまるという。 よって、試算のような経済効果はきわめて怪しいもの、信頼に足らないものと 結論づけざるを得ない。このような怪しげな数字が一人歩きすることは 沖縄の先行きにとって何の得ももたらさない。 だが、関係者もメディアも、こうした怪しげな数字の一人歩きを放置している。 それどころか、9155億円が現実に生まれるかのように話すこともしばしばだ。 まったく、お伽噺だけが語られ、真実が追求されていないのだ。
まぁ、9155億円はオーバーにしても、結局プラスになるのならばいいではないか…。 そうした意見があるのも確かだが、 百歩譲ってこれが実現可能な経済効果だとしても、なお大きな問題が残される。 試算の内容に沿った開発が進められれば、沖縄中の基地の跡地に 巨大なテーマパーク、ショッピングモール、リゾートホテル、マンション群が 立ち並ぶことになるが、そうした施設をいったい誰が利用し、 誰が購入するのだろうか? 明らかに供給過剰だろう。 県外企業や県外在住者が、こぞって沖縄に押しかけてきてお金を使わない限り、 これらの需要は満たされないだろう。 おまけに基地跡地を軒並み開発したら、深刻な環境破壊も発生するはずだ。 常識で考えれば、そんなことは誰にでも分かること。 このような机上の計算が一人歩きする事態はとても危険だ。
まぁ、あれだけ広大な土地面積だから、確かにいろんなことが考えられるよね。 でも、それほど大きな島じゃないんだから、そうぽんぽんショッピングモールや ホテルを作っても、顧客の数は一定だから、結局は客の取り合い、 そして共倒れになることも予想できる。 ホテルと言っても、そもそも航空料金込みの旅行代金も高いのに、 そこまでどんどんホテルを建設して稼働率が確保できるのか? 宿泊費を下げれば多少は稼働率が確保できるかもしれないが、 それは収支に直結するしなぁ。 テーマパークって言っても、数十年前に本州で連発されたテーマパークのうち、 現在も稼働している場所って、どれくらいあったっけ? そもそも、基地の敷地を一社が保有しているという分かり易い権利構造ではなく、 一坪地主という専門用語さえ存在するような複雑な権利関係で、 さて、土地取引の契約が解決されるのかは非常に見通しが悪いと感じてしまうよ。 もし、そういうことが全面的に問題なく解決できたとしても、 結局は仏作って魂入らずという状況になると思うけどね。 魂入らず=投資回収計画の頓挫。 要は赤字続きで回収できずに事業失敗。 勝手な妄想だけど、けっこう現実的じゃないかな。
さらに、すでに返還が決まっている南部五基地の面積だけで 沖縄県全体の宅地は確実に供給過剰になると予測され、 これが全基地返還となったら地価の暴落は避けられないだろう。 これらの様々な条件を冷静に見ると「基地さえなくなれば経済成長できる」 という主張にはかなりの無理があることが容易に判断できる。
2009年の1人当たり市町村民所得ランキング(沖縄本島26市町村)の 上位を占めるのは、すべて基地のある市町村なのだ。 トップは米軍基地(米軍施設)面積が町の面積の82・5%を占める嘉手納町。 2位も基地面積が53%近い北谷町なのだ。 さらに1996年から2009年までの市町村所得(沖縄本島26市町村)の 伸び率を見ると、トップは基地面積が41%を超える東村。 2位は所得額でトップの嘉手納町だった。 つまり「基地さえなくなれば経済成長できる」という話は、 これらの数値を見るだけで眉唾だということが分かる。 基地がなくなったら所得を生み出しにくくなる可能性はあっても、 基地がなくなったからといって、新たな所得が生まれるとは言えないのだ。
基地がある市町村の方が経済状況が良いという結果は ある意味で、水戸黄門の印籠のようなものじゃないのかな? 基地がなくなれば当然、補助予算もなくなるしね。 語弊を怖れずに言えば、温泉が多数出る地域は、その温泉資源で 街の収入を立てるように、地政学上重要な地域は 基地などで街の収入を立てるということは、ある意味で自然なことではないかと思う。 確かに、その土地に住んでいる人にとっては、日々負担が大きいが、 そこは予算を付けてなんとか改善していくしかないと思う。 そして米軍基地を減らしていく方向に進めるためには、まずは沖縄経済が 基地依存、補助金依存になっているという事実を認めたうえで、 その先の議論をすべきだろうね。
ちなみに自分は…米軍基地に関しては、戦後70年も経ち、 もう今さら移設や返還は厳しい状況だと思うので 現状維持しか無理なんじゃないかと思っているが、 日米地位協定に関しては大きく改善しなければならないと思っている。
地位協定に関しては以前に書いた通り変わってないよ。 http://webmaster07.txt-nifty.com/web_master/2008/03/post_9ba9.html http://webmaster07.txt-nifty.com/web_master/2008/04/post_d871.html http://webmaster07.txt-nifty.com/web_master/2010/04/post-2466.html 民主党政権がグチャグチャにしてしまった時に書いた記事なので かなり昔だけど、考え方は変わっていない。
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