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2014年01月12日(日)
この世には2種類の人間がいる。 親知らずを抜く人間と、抜かない人間だ。
考えてみたが、なんかおかしいんじゃないか? 抜く人間だけが親知らずでツライ思いをするなんて。 世の中には親知らずなんて意識せずに老後まで生きる人もいるだろう。 まさに「親知らず知らず」ってわけだ。 なんか不公平だ。許せない。 へその緒はみんなが切るのに、親知らずは選ばれた人だけなんて。 こうなったら親知らずを抜かずに平和に生きている人にまで この恐怖を伝えてやりたい。 自分の持ちうる限りの文章表現で「親知らず知らず」な人たちにもね。 読んだ人が今後、親知らずを抜くハメになったら、2度ツライ思いをするとしてもだ。 この恐怖、増幅して世界中へ発信だ。 もはやこれは文章テロである。
というわけで、人生初抜歯日記の第2章開始。
「後藤さ〜ん、どうぞぉ」 「あ゛ぁ、ハ、ハイ」
武井咲のようなアニメ声の女医さんから直接お声がかかった。 待合室から真ん中の部屋のチェアーへ。 次に待合室に戻ってくる時には、親知らずが3本しかない男になっているはずだ。 無事に生還できるのか不安だが、日本男児、大和魂の特攻精神でイスに座った。
昨日も書いたけど実は、ここは行きつけの歯医者ではない。 親知らずを抜くと決心した5年前に通っていた歯医者は、 そこで親知らずを抜くという面倒な作業をしていなかったために 大学病院への紹介状を書いてくれた。 しかし偶然か故意かは神のみぞ知るが、紹介状を紛失したために あの日、抜くと決心してから5年の月日が流れてしまった。 5年もの間で左下の親知らずは勢力を拡大させ、隣の健康な歯に突撃開始中。 それでも痛みや違和感は無かったために歯医者自体、行くことはなかった。 ところが親知らずとは全く無関係の以前、治療した右下の奥歯に痛みが出たため 5年前とは違う歯医者の扉を開いた。 もしかしたら、この時すでに5年前と同じく親知らずを抜くという 一大決心をして臨んだのかもしれない。 なぜなら、この歯医者は大学病院へ紹介などせず、 ここで抜くことができる歯医者だったのを知っていたから…。
昨年11月、この歯医者に初めて来たのだが、まずは痛みのある歯の治療。 それは思ったより早い12月中旬には終わった。 そしてラスボス親知らず…。 だが抜歯のタイミングがなかなか見つからなかった。 抜歯後は顔が腫れる場合があると聞いていた。 年末年始休み前という選択肢もあったが、腫れた顔で年末年始は過ごしたくない。 年越し蕎麦だって、お節料理だって、お雑煮だって普通に食べたい。 そんなことを考慮していたら、治療終了から1ヶ月近くも経ってしまった。 大丈夫、3連休なんだから土曜日に抜いて残り2日間安静にしていれば。 そう考えて2014年1月11日の11時、奇しくも1が5つも並ぶ日時に抜くことに決めた。
「では、今から左下の親知らず抜きますので」 「あ、ハイ…」
やっぱりウソじゃなかった、現実なんだ。 この小柄でアニメ声の女医さんが抜くんだ。 やっぱ女医さんに縁があるな。 東京女子医大病院での執刀医も女医さんだったっけ。 でも今回はマジで本当なのか?ウソじゃないのか? この世はマトリックスなのか? 今なら、ためらわず赤い薬を飲むぞ。
そんな気持ちなんて関係なく事務的に作業が進む。 「じゃあ、麻酔をしますね」 そうだ、麻酔だ。 痛くないようにするための麻酔なのに、それ自体が痛いという 矛盾をかかえた歯医者の麻酔だ。 針がものすごく奥深くまで入っている感触がするやつだ。 怖くなんてない。 なぜなら自分は眼瞼下垂の手術の時に瞼や瞼の裏側にまで 麻酔を打たれた経験のある勇者なのだ。 その時に経験値はかなり上がっているはずだ。 よし、どんと来い!
あれ?刺してるの?全然痛くないぞ。 そういえば最近の歯科は痛みが少ないように努力していると何かで見たことあるぞ。 だけど、こんなに痛くないものなのか?本当に麻酔してるのか? 「麻酔している気」にさせてるだけじゃないのか? いわゆる催眠療法か?
あ、でも効いてきた。 なんか喉の横の方が痺れてきたぞ。 奥歯の麻酔だけに変なところが痺れる感じだ。 そして苦い。うがいしても苦い。 痺れのせいで、うまくうがいができない。じじいかよ!
「ほっぺの方にも麻酔しますね」 えっ!もう1本打つの? それも歯茎ではなく頬の裏。 あっ…今度は刺した間隔がある。 そしてズンと少し重痛い感じがする。
麻酔が効くまでしばらく待たされるが、これが結構長く感じた。 こんなに放っておかれたら麻酔が切れちゃうんじゃないのか? 麻酔打たれ損になってしまうのでは?と思っていた矢先に再び先生が戻ってくる。 「痛かったら左手上げてくださいね」
そう言って台の上の器具をつかむ。 怖いので目を閉じることにした。 目の上にタオルをかけられているので目を開けていても見ることはできないが。 それでも自然と目を閉じてしまった。 なので、ここからは感触による想像だけ。
むむ? 電気ドリルのような物で歯を削っている感じがする。 それもかなりの勢いで。 明らかに何かが超高速で回転している音がする。 そして何度か繰り返すたびに先生がアニメ声で確認してくる。 「お痛みありませんか?」 麻酔が効いていなかったら、ただの拷問のような行為なんだろう。 そして先生、電気ドリルを置いたのか? その後、ラジオペンチのようなもので奥歯を挟んだ気がする。 挟んだものが親知らずなのか?
ぎゅいむ! おぉ!いきなり抜くつもりだな。 なんか引っこ抜く感じで力が入ってるぞ。
ぎゅぎゅぅぅ。 うお!痛みは全然ないけど、めちゃめちゃ力が入ってるのが分かるぞ。 でも、歯って女性の力で抜けるのか? こんな150センチそこそこの小柄で華奢な女性に抜けるのか? もし抜けなかったら痛み損じゃないのか?
ぎゅーーぎゅぅ。 変な擬音と思われるかもしれないが、極めて正確に表現しているのだ。 痛みが全然ない\(^o^)/素晴らしいぞ武井咲声の先生! 痛みはなくても感覚はあるので、歯をつかんで引っ張る感触だけが 伝わってくる不思議な感じ。 でもさ…さっきからちっともペンチが進んでないような気がする。 全く状況は見えないし、そもそも口の中なので、 どうなっているのか本人には全く分からない。 今、何%ぐらい抜けたんだ?進行状況を教えてほしいよぉ。
「ちょっと口を閉じ気味にしてください」 治療がしやすいように口を大きく開ければいいような気がするが、 実は奥歯を触る場合、口を大きく開けすぎると、 口の脇の皮膚が張って手が入りにくいのだ。 やや閉じ気味で口をゆるめた方がいいらしい。 鏡で奥歯を見てみると分かるが、親知らずというのは 信じられないぐらい奥にあるわけで、口から手を入れて奥歯を抜くなんて、 めちゃくちゃ作業がしづらいのだろう。
閉じ気味にして緩んだ口を横に引っ張られて作業が進む。 抜く作業に力がいるのか、口を引っ張っている指にもめちゃくちゃ力が入っている。 今「学級文庫」って言わされたら、 「がっきゅううんこ」になってしまうのは間違いない。 それぐらい引っ張られているのだ。
おっ?先生が右に回りこむ。作業の姿勢を変えたな。
ミキミキッ。 おおぅ!今、なんか鳴ったよ。何の音? ものすごく力が入っているのが分かるぞ。歯がピキピキ鳴ってるぞ。 もしかして砕いているのか? 確か聞いたことがある。親知らずを抜く時に、そのままでは抜かず、 一旦砕いてから、いくつかのパーツに分けて抜歯する方法があるそうだと。 ノミとハンマーみたいなもので叩いて砕くような話だったが、 もしかして、この先生はペンチで歯を挟み砕こうとしているのか? そうこう考えているうちにどんどん力が強まる。
ミキャ、ピキピキッ! ギャア!なんか今、ちょっと痛かったかも。 左手上げる?いやまだ大丈夫だ。
ピキビキビキッ! ううぁ、間違いなく自分の体が鳴っている。むしろ骨が…。 外から聞こえてくるんじゃなくて体の中から音が伝わってくる。 耳とか関係ない。直接脳に振動が伝わってくる。 これが骨伝導システムか。雑音もなくてクリアだ。ダイレクトだ。
アイタタタタタタ! 先生、その角度痛いよ。 アイテテテ!そっちも痛いです。 先生、ぐりぐりしてますね。 抜けないから横に振って緩めてるんですね。 でも、それってめちゃ痛いです。 あぁ…そっちには曲がらないです。可動範囲超えてます。イテテテテ! そういえば壁の画鋲が抜けない時に、ぐりぐりして抜いたことあるっけ。 ごめん、画鋲痛かったんだね。これからはまっすぐ抜くようにするよ。
イデデデデデデ! 痛いです。 今、何割ぐらい抜けた?現状を報告してください、お願いです先生! 寝てるだけなので、自分的には全く抜けていない気すらしてきますよ。 先生が横に揺らすたびにピキピキと音がします。 先生!その歯は脳につながってるのかもしれません。 抜くと何か出てきちゃうかもしれませんよ。
アイデデデデデデデ! わかった!しゃべるよ!全部オレがやったよ!自白するよぉーーーーー。
だけど痛みに対して我慢強いせいか、まだ左手を上げなかったら女医さん、 例のアニメ声で優しく言ってくれた。 「ちょっと痛い?」 「あ…ハ…ハイ」 ちょっとじゃないけど痛いです。 気が付いたら左目から一筋だけ涙が流れてきました。
そして麻酔が追加されました。
長くなったので再び明日につづく
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