マニキュアとヘミングウェイ - 2004年08月13日(金) 「もういい加減したら?」 はじまった。 「私はあんたのために言ってるの。 幸せになってほしいのよ。 まさか、本気で愛されてるなんて、 思ってるんじゃないでよね? 子ども? じゃあ、 あんたに子どもができたらどうすんのよ? 自分だけは違うってみんなそう言うわよ。 ねぇ、聞いてる? まったく。」 まったく。 暗い部屋に帰ってくると着替えもしないで ソファにどかっと寝転んだ。 化粧を落とさないで寝ると肌が荒れるな、 と思ったが起き上がるのが面倒だった。 アルコールの匂いが、蒸し暑い部屋に充満する。 手を伸ばして窓をやっとの思いで窓を開けた。 伸ばした手のマニキュアが剥がれていた。 ふと、さっきの彼女の手を思い出す 爪が短く切り揃えられ、関節が目立つ、 家事でボロボロになった手。 とっさに起き上がりバスルームに向う。 2時間かけて体中をピカピカに磨きあげた。 マニキュアが乾く間「海流の中の島々」を読む。 汗がひいて体が軽くなっていく。 氷を入れたグラスにジンとソーダ水を注ぎレモンを絞る。 一口飲むと、舌にピリッと痺れた。 椰子汁とライムの香りはしなかったけれど満足だった。 さぁ、ベッドルームにアロマを焚いたら、 朝までぐっすり眠ろう。 ... 川 - 2004年08月10日(火) 「彼女結婚したみたいよ」 そう 「もういい年だもんね」 そうだな 「相手は公務員だって」 ふうん 「イメージできないわ」 そう? 「なんとなくね。何か言うことないの?」 何かって? 「感想とか」 うん 「私が言ったのよ」 何を? 「あなたが夢中なのは」 うん 「8つも年下の男だって」 そうか 「うん」 そうだったのか 「そうよ。怒った?」 いや 「そう」 それ以上行っちゃだめだよ 急に深くなるぞ 「はい」 下の流れは強くて速いからな 「わかった」 8つも年上の彼は私だけにやさしい ... 流灯 - 2004年08月09日(月) 河岸を全速力で走った 橋から橋まで2分かかった さっき流れていった灯篭が ゆっくりとこちらに向っている いくつもいくつも足元を通りすぎた 両岸の道路に屋台が並ぶ 遠くに姉さんが笑っているのが見えた 昨晩母に出してもらった浴衣を着ている 隣には爪楊枝を咥えた男 次の橋はとなり町だ チビがかき氷を落として泣き出すのを 合図に走り出す 橋も足元も暗くて見えない 何か固いものにつまづいて 転びそうになったが走り続けた 灯篭はとっくに追い越した 道しるべはない ...
|
|