小説・物書きさんの作品v


あなたにあえないことがこんなにも

カット


2006年07月07日(金) そして・・・光の指し示す場所へ・・・4/月代 リン

《・・・何の為に?・・・》
「リオウお前、何を言って!!!」
リオウの言葉に慌ててフリックが2人の間に割って入る。
「だって、ティルさんがいれば心強いし・・・ご協力して頂けたらなーって・・・」
しかし、フリックはリオウを見下ろして強く言い放つ。
「・・・もうティルには関係のない話だ・・・」
すると、ナナミがリオウの後ろから顔をだした。
「えーっ」
「えーじゃない・・・戦いは遊びじゃないだろ・・・誰かを傷つけるし・・・何かを
失うかもしれない・・・」
「でも・・・リオウの言う通りティルさんのお力を貸して頂けたら・・・」
「・・・・・・・・・」
 その時、黙っていたティルが呟いた。でもそれは誰の耳にも聞こえない小さな声だった。
「・・・ティル?」
振り返ったフリックの後ろでティルはただボンヤリと立ち尽くしている。
《・・・何の為に・・・戦うんだ・・・》
「ティルさん?」
リオウ達もただ目を丸くしてティルを見つめていた。
(・・・戦え・・・戦え・・・我に命を与えよ・・・)
《・・・いやだ・・・》
(我に・・・オオクの叫びと・・・オオクの・・・魂を・・・)
《・・・もうお前の好きにはさせない・・・》
(・・・愚かしい・・・まだ解らぬのか・・・お主など、ただの我の器にすぎぬのに)
《・・・ちがう・・・》
(何が違う?お主ごときに支配される私ではないわ!!!)
「!!!!!」
突然、ティルの右手に宿るソウルイーターが激しい光を放ち始めた。
「やっやめろっ!!!」
激しい光は宿屋の中を包み込み、それはバナーの村全体を覆う激しいほどの光。
「やめろー!!!」
ティルの叫びがバナーの村じゅうに響きわたっていった。
【・・・ティル・・・】
その時だった、ティルの耳に響くのはフリックの声。
【・・・ティル・・・】
優しい声だった。自分を包みこむ穏やかで優しい声にティルの胸が熱くなる。


「・・・ティル・・・」
はっきりと今度はフリックの声が聞こえて来るとティルは我に返る。
「・・・あっ・・・」
そこは、宿屋の中で誰一人としてソウルイーターに魂を吸い取られた者はいなかった。
その事に安堵し、ティルはホッと胸を撫で下ろして、右手を見ると右手の甲は血で汚れていた。
「!!!!!!」
昔、一度だけ同じ事をした事を思い出した・・・あの時もソウルイーターの暴走を止める
為に、剣で右手を貫いた事があった。
《・・・又・・やってしまったわけか・・・》
でも、誰も失わないならそれでいいんだとティルは右手の血を拭おうとしたが、自分に痛みはなかった・・・いやこの血は自分の血では・・・・
「!!!!!!!」
その血は右手に落ち、その血に満足でもしたのだろうか?ソウルイーターはすっかり大人しくなっていた。ティルは見上げた先にあった顔をただ凝視するしかなかった。
「・・・フリック・・・」
フリックは自分の剣を自分の手の甲から刺し、その血をソウルイーターに与えたのだ。
「くっ・・・」
剣は深く手の甲に突き刺っていてフリックは苦痛に歪めた顔で剣を引き貫くと、そのまま
リオウ達には見えないように自分の背を向け、そのマントでティルを隠した。
「何があったんですか?」
「・・・気にするな・・・それよりも早く助けに行くんだろう・・・リオウ・・・」
「あっ・・・はい・・・」
リオウがチラリとフリックの先にいるティルを見つめると、ティルはリオウに優しく微笑みかけた。
「・・・僕も後からいくから」
「あっ・・はいっ!!!」
リオウは素直に嬉しさを全身で現すとそのまま宿屋をあとにし、人々が宿屋からいなくなると、フリックは大きくため息を吐いた。
「フリック!!!まったくあなたって方は・・・さぁ手を出して下さい」
残ったグレミオはあわててフリックの手の怪我の手当てを始めた。
「・・・でもこれしか方法が思いつかなかった・・・」
「・・・・・・・」
宿屋の木製のイスに腰を下ろしてフリックは呟いた。
「・・・でも、おさまって良かった・・・」
「・・・どうして・・・」
立ち尽くして、ただ黙っていたティルが突然呟いた。
しかし、フリックはさも、それが当たり前の様な顔をし、ティルを見つめた。それが
ティルの心をよりいっそう激しく揺さぶっていた。
「・・・どうして・・・こんな事・・・」
震える声にフリックは気付いていないようだ。
「だって以前、お前も同じ様にして止めた事があった・・・だから・・・」
「だったら!!!又僕がそうすればいい事なだけだろ!!!」
激しい動揺に、流石のフリックも目を見開いた。
「・・・ティル・・・」
「・・・フリックが・・・傷つく必要はないじゃないか・・・僕の宿した紋章だ・・・
僕に責任があるんだ・・・だから・・・」
今にも泣きそうな自分をティルは奮い立たせていた。でもそれをフリックは解っていた。
「・・・だから・・・やった・・・」
低く、押し殺す声・・・フリックのめったに聞く事の無い、低く透き通った声と、揺るがないと言わんばかりの双蒼の瞳。
「・・・お前が・・・これ以上傷つく必要は無い・・・」
フリックの言葉に、ティルはフリックに背を向けた。涙が溢れて零れてしまいそうだった。
必死で、何か言おうと努力してみるが・・・何も言葉が出てこない・・・
《・・・馬鹿だよ・・・》
傷つく?これ以上何に傷つくの?何度も何度も心の中でフリックに問いかける。
傷ついてなんていないのに・・・そう・・・傷ついてなんかいない・・・・
《・・・会いたかったのに・・・》
会いたかったのに、あれほど会いたかったのに・・・会えたのに・・・どうして
こんなに・・・苦しいんだろう・・・
《・・・フリック・・・》
耐え切れずに、涙が一粒零れ堕ちていった。

2006年07月06日(木) そして・・・光の指し示す場所へ・・・3/月代 リン

・・・あの頃、俺はまだ青くて、何かしなくては、と、ただ焦っていた。
でも、焦れば、焦るほど、俺のする事は全て空回りして・・・それが俺を更に焦らせて
それを、どこかでティルにぶつけていた時期があった。
それでも、ティルは俺を待っていてくれたんだ・・・俺がオデッサの事で苦しんでいた事を誰よりも知っていたから・・・いや・・・そうじゃない・・・一番苦しかったのは・・・ティル。
何時からだったろう・・・そんなティルを護りたいと思う様になったのは・・・オデッサが託したからじゃなく・・・純粋な気持ちで、ティルと言う少年を護りたいと思ったのは
・・何も出来ないかもしれない・・・俺にはそんな力・・・ないかもしれない・・・
それでも・・・ティルの心が、少しでも、休める場所に・・・なりたい・・・
俺にとって、この3年は俺自身の心の成長に、必要だった時間・・・逢えないと言うのは
不安も起きるが、又、冷静な心で自分の本当の心を暴き出す。
そして、知ったんだ・・・今度逢うときは・・・お前をこの腕に抱きたいと・・・


『 そして光が指し示す場所へ 』



フリックの腕の中に在るのは、紛れも無くこの腕で抱きしめたいと願っていたティル。
「・・・逢いたかった・・・」
想いが溢れ過ぎて、言いたかった事など、一つも言えずにいる自分に何て様だとフリック
は心で何度も何度も自分自身に叱責する。
きつく抱いたら、ティルが壊れてしまいそうな気がして、フリックはふわりと包み込み
優しくそっと抱きしめる。太陽の匂いがする・・・フリックはその漆黒に輝く黒髪から
漂う太陽の様な匂いに思わずティルの肩の上に顔を乗せた。
「・・・フリック・・・」
今まで、ただ黙っていたティルがフリックの耳元で優しく呟く。フリックはその声さえも
懐かしくて、これが幻ではないのだと確信する。
《・・・このまま、消えてしまうかと思った・・・》
こみあげる涙を堪えているフリックの姿は嫌でもティルには解ってしまう。ティルは抱きしめられる、その広い腕の中でボンヤリと立ち尽くしている。
「・・・・・・・・・・・・」
その、想いはティルには凄く、本当に凄く嬉しい・・・嬉しくて泣いてしまいたいほどに
嬉しい事なのに、でも・・・それはティルには出来ない。ティルはフリックの背中に自分の腕を回しかけて手を止め、目を見開く。
《・・・ソウルイーター・・・》
右手の手袋の下が、一瞬少しだけ光ったのをティルは見逃さなかった。
《・・・ありがとうフリック・・・君は本当に・・・優しいんだね・・・》
自分の心をティルは押し殺す。それに慣れてしまった自分に苦微笑しながらティルは
そっとフリックの背中に回しかけた両手を戻した。
《・・・ごめん・・・》
心の中でフリックに誤る何度も。
《・・・もう、誰も失いたく・・・ないんだ・・・》
あの時、身を裂かれる想い・・・失う痛み・・・恐怖・・・
《・・・その気持ちだけで・・・僕は・・・凄く・・・本当に・・・凄く・・・嬉しいから・・・僕の事を・・・忘れないでいてくれて・・・ありがとう・・・》
それでいいと心に決めて、ティルは自分を抱きしめているフリックの両耳を左右に思いっきり引っ張ってみた。
「!!!いってー!!!」
痛みに慌て身を起こし、耳を押さえ、その瞳には薄っすらと涙を浮かべているフリックの
今度は両頬を引張ってみた。
「なひをする・・・・・」
ティルはにっこりと微笑み、フリックに告げる。
「・・・3年前のお・れ・い」
「ほれい?」
「そっ、3年前に助けてくれただろ?」
摘んでいた頬の手を離すとフリックは痛そうに頬を撫でる、たしかに赤くなっていて、ちょっとやりすぎたかな?とティルは思ったが面白かったから良しとした。
ニコニコと楽しそうに微笑んでいるティルを恨めしそうに見つめてフリックは心で呟く。
《・・・感動の再会・・・なのに・・・あいからわずか・・・》
フリックの前に立つティルの傍には、何時しかリオウ達が集まり楽しそうに話している。
優しい微笑みでリオウ達と会話を交わすティルの姿にフリックは自然に笑みが漏れた。
《・・・3年たってもティルはティルだな・・・俺の知っているティルだ》
「坊ちゃん!!!」
その時、コウの叫びを聞いて、飛び出していったグレミオが大きく肩で息をして慌てて戻って来たが、何時しかのお客様の集団に目を点にして足を止めた。
「あっ・・・あれ?」
こちらの事情が掴めないのだから仕方ないが。
「・・・何時の間に・・・こんなに大勢の・・・坊ちゃんも人望がおありで・・・」
そんな、グレミオの直ぐ隣で立つフリックは、思わず噴出す。すると、やっとグレミオは隣にフリックがいた事に気付いて目を丸ませた。
「フッフリック!!!」

「よぉ、あいからわずだなグレミオ」
グレミオはフリックをまじまじと見つめて観察。だがフリックとしては全身くまなく
観察されて気分はまるで、実験の蛙の様な気分で居た堪れない。
「おいおい・・・グレミオ・・・」
「・・・足はあるようですね?」
「・・・はぁ?足?」
「・・・生きてる?」
「・・・生きてなきゃ・・・此処にいるか」
「・・・いゃ・・貴方の事です、化けてでもでできそうな感じですよね・・・」
「!!!」
これ以上ないと言うくらいの満面の笑みをうかべてグレミオが告げた。
半ば、そんなグレミオの裏、表のない笑顔に対し、フリックのほうがやや呆れながらも懐かしいグレミオの笑顔にどこかホットする。
《・・・それが・・・ティルを救ってるんだろうな・・・》
ずっとティルがティルであり続けられる理由。
《・・・お前が・・・うらやましいよ・・・》
だぶん自分には出来ないだろう・・・そんなに器用なら・・・きっとこんな生き方はしていないだろう・・・と何時でも思って苦悩する事の繰り返し・・・
《・・・俺は何も出来ないでいるだけだ・・・》
してやりたいのに、何をすればいいのか解らない。グレミオの様な抱擁力があればきっと
もっと何かが出来るのかもしれないけれど・・・それに自分が程遠い事は誰よりも一番
自分が解っているから歯がゆい。
「・・・貴方は、そのままでいてくれないと・・・・・変わらないで下さいね・・・」
「・・・はっ?」
突然、黙っていたグレミオが低く押し殺した小声で告げたが、フリックには届いてはいないようだ。だが、それでもいい様な微笑みをグレミオは浮かべてフリックに告げる。
「・・・でも良かったですよ本当に、皆、心配してましたから・・・」
「・・・それは誤るよ、でも俺はてっきりビクトールが連絡してると思ってたから・・・
アイツのおかげで大変だったよ・・・散々だったし・・・」
フリックが嫌な思い出を思い出して大きくため息を吐くと、まるでその時の情景がフリックの顔から伝わってくるかのようで、そんなあいからわずなフリックの素直さに、ついついグレミオは声を殺して笑ってまった。
「・・・でしようね、ああゆう人ですから。いい方なんですけど・・・」
「・・・アイツのあの豪快な性格はどうなんだ、つき合わされる身にもなってほしいよ」
「・・・でもちゃんとお付き合いしてるじゃないですか・・・フリックはあいからわず
不器用ですね〜」
「・・・・・・・・」
グレミオの言葉に反論出来ず、両腕を組み黙り込むがフリックの耳は赤く染まっている。「・・・ところで、慌ててたようだが?」
「あーーーーーーーーーーーーっ!!!」
突然、グレミオが大きな声をあげると一斉に視線がグレミオに集まる。
「たっ大変なんですっっ!!!」
グレミオは顔を青ざめさせてティルに駆け寄った。そのグレミオの姿にティルは目を細める。何かが起きたのだ。
「・・・何かあったんだ・・・」
ティルの低く押し殺した声は、三年前を思い出させるとフリックは思った。自分達を導いてくれたあの時のティルもそうだった。
「じつは・・・コウ君が大変なんですっっ!!!」
グレミオをティルから引き離す為に、コウはワザと森の中に入っていってしまった・・・しかし・・・グレミオが助けにいった時にはコウの姿はどこにもなく・・・
「宿のエリさんの所に、こんな手紙が届いて・・・」
宿屋に戻った一行は、エリに送られた手紙を開いていた。
(子供の命が惜しければ、金を用意しろ)
「今、こら辺を荒らしまわっている山賊達がいると聞く」
バナーの村人達が宿屋に集まり沈痛なおももちで告げる。
「コウはどうなるんだい・・・」
「助けに行きましょう!!!僕達がいきます!!!
その一言を告げたのはリオウであった。強い瞳が輝きそれは今人々を纏め、導く光だと
ティルは思う・・・今はそれでいいと思う・・・今はそれは必要だから・・・
「・・・・・・・・」
ティルはそっと右手に触れ、今は、何も反応してこない事にほっと胸を撫で下ろす・・・
「・・・あの・・・ティルさん・・・」
突然、リオウに話かけられたティルは激しく動揺したがどうやらリオウはそんなティルに
気付いてはいない様子でニコニコと無邪気に微笑んでティルを見つめていた。
「・・・なんだい?」
自分も微笑むとリオウの瞳が輝く。
「あっあの・・・コウ君を助けるのを手伝って頂けたらなーって」
「えっ・・・・・」
ティルの瞳が見開いた。
《・・・たた・・・かう?・・・》
その時、ティルの右手のソウルイーターの歓喜の声が聞こえた気がした。

 前。  目次  


藤萌 和里 [MAIL] [HOME]