新世紀余話
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2000年09月27日(水) 日本俳優の国際的商品性3

 自国映画に他国のスターを出演させ、国外市場へ出すための突破口とする。
 ヨーロッパでは、ごく当たり前におこなわれていることで、そうした作品は枚挙にいとまがない。

 「道」、「山猫」、「荒野の用心棒」、「ロシュフォールの恋人たち」、「ネレトバの戦い」、「哀しみのトリスターナ」、「1900年」、「薔薇の名前」、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」……。

 海外から日本の人気俳優に出演依頼が来るときも、その国際的商品性を見こまれたのではなく、日本市場での収益を確保したいという下心からの場合が多いのだ。

 「グランプリ」、「素晴らしきヒコーキ野郎」、「五匹の軍隊」、「レッド・サン」や「ミッドウェイ」、「マルコ・ポーロ」、「ブラック・レイン」、キアヌ・リーブスが主演したSF系の一本、さらに「アイアン・イーグル」や「メジャーリーグ」の続編……そして、「ハルマゲドン」(笑)。
 また、西城秀樹や真田広之、金城武らが香港映画の主役に相次いでオファーされた事実からも、中華映画人の日本市場をターゲットとする、もろ出しの商魂が見て取れる( 中国人は、映画をつくらせても、やはり商売は日本人より上手だ )。

 そうした状況を日本のマスコミが、「世界の○○○、ついにハリウッド進出! あの大スターと共演!」と騒ぎたてるのはいつものことだが、現地へ行ってみれば歴然。
 一部のマニアを別として、普通の観客からは、「見たことある顔」くらいにしか意識されはしない(まあ、当然か)。
 この場合の「世界に認められた」とは、「日本に売り込む切り口としての商用性」を評価されたにすぎず、必ずしも、「世界での汎用性」を買われているのと違うのだから。

 自家輸入にとどまる興行力か、本当に世界で通用する看板なのか。
 日本の観衆には、オリンピック的な熱狂に染まらず、もっとクールな眼で日本人俳優の海外活動を捉えてもらえればと思う。


2000年09月23日(土) 日本俳優の国際的商品性2

 歴代もっとも売れた日本人役者といえば早川雪舟だが、彼はハリウッドのスターとして大成したわけだから、産業貿易に貢献したとは言えない。
 ずっと格付けは落ちるが、ケイン・コスギも上山草人と同様、日本にいては陽の目を見なかったハリウッド巻き返し組だ。
 では、三船敏郎は?
 ふたたびドイツ俳優と対照させることになるが、最盛期でさえ、あのクルト・ユルゲンスほどに国際性を認知されていたのだろうか?
 ハリウッド・スターが居並ぶ「ミッドウェイ」では、唯一の日本人スターとして迎えられた三船だが、実のところ一般のアメリカ人にとって、部下の山口少将を演じた禿げ頭の日系人男優のほうが、テレビで人気を得ていた分、ずっと顔馴染みだったに違いない。
 「世界のミフネ」は、マクシミリアン・シェルかハーディ・クリューガーあたりと同格にランクするのが妥当と思われる。
 怪優クラウス・キンスキーとみごとに張り合うのが、仲代達矢。
 美貌のヘルムート・ベルガーに対するは坂本龍一。もっとも、出演作はベルガーのほうがずっと多い。ただし、ベルガーにオスカー級の楽才はない。

 女優篇。
 マレーネ・ディートリッヒは別格として、マリア・シェル、ロミー・シュナイダー、マイ・ブリット、センタ・バーガー、リリー・パルマー、クリスチーネ・カウフマン、ハンナ・シグラ……。
 これらドイツ系女優に匹敵する和製の映画女優は?

 これが、いない!
 「将軍」での島田陽子の人気ぶりは、「ルーツ」の黒人少年レビー・バートンと同じことで、一時的なものにすぎなかった感がある。
 島田陽子とならび栗原小巻も国際女優と称されはしたが、結局、あのB級女優、谷洋子( 知ってるかな? )ほど広範な活躍ぶりを示すことはなく、したがって、残された知名度も谷洋子におよばずだ。
 日本にかぎらず、東洋人の女優が欧米でスター性を発揮するには、むろん個の強さは不可欠だが、なまじ我の強さを出すと、東洋的な奥ゆかしさがないと疎まれてしまうから、エキゾチックなセクシー女優として売る以外ではむずかしい状況なのだ。 

 以上。
 日本人スターの国際的な位置付けは、そう考えれば、ほぼ間違いないだろう。
 ドイツだけでなく、イタリアやフランス、ロシアなど、だれがだれとタイ・マッチなのか比較推測するのも、一興かもしれない。
 ただし、くれぐれも日本の世界的スターが、ハリウッドのマルチ・ミリオン・フィギュアたちと対等の商業価値を北米市場で発揮できるとは思わぬように。


2000年09月21日(木) 日本俳優の国際的商品性1

 スター・システムが映画商売に不可欠だとしたら、世界に邦画を売りこむ場合も、世界で通用する売れっ子を起用しなければならぬ道理となる。
 だが、道理を通そうものなら、一本の外国向け映画もつくれなくなるのが日本の映画人である。 
 日本映画界には、一枚看板で通用する国際的大物が現にいないし、過去にもいなかったという絶望的な事実を思い知らされるからだ。

 などと言ったら、たちまち多くの人から反発をこうむることだろう。
「そんなはずはない。世界で通用する大スターなら日本にだって、昔も今も、大勢いるじゃないか。三船敏郎、仲代達矢、丹波哲郎、石原裕次郎、高倉健、千葉真一、坂本龍一、役所広司、金城武……」

 ここで、呪文を。
「ウォルフガング・プライス、アントン・ディフリング、ギュンター・マイスナー、ルネ・コルデホフ、ヘルムート・グリーム、ペーター・ファン・アイク、ハンス・クリスチャン・ブレッヒ、カール・ミカエル・フォーグラー、ジークフリート・ラウヒ……」

 なんだって? いや。
 いま口にしたのは、すべてドイツ語圏の男優で、ハリウッド映画にも脇役でたまに登場する人たちの名前。
 何人か、わかったという人はそれなりのドイツ映画通といえよう。
 この呪文、語句を入れ替えれば、外国人の日本俳優への博識ぶりを測るのに応用できる。

「ヒロシ・ヤクショ、ユキ・クドー、テツロ・タンバ、ユージロー・イシハラ、ケン・タカクラ、ヒロユキ・サナダ、ソニー……あ。ソニー・チバなら、テレビで見たことある!」
 平均的反応は、そんなものだ。
 世界市場での日本人スターの格は、間違ってもハリウッドのA級スターと張り合わせてはならず、ローカルなドイツ映画人と同等程度に位置付けするのが妥当だろう。
 すなわち、概して歓迎されないが、認められる者もいなくはないといった状況。

 ドイツ映画界は過去、ドイツの国際スターを起用して、いかなる世界的ヒットを生み出したか?
 日本映画を世界に売ろうとするとき、この近似的経営状況でのやり方を参考とすることは重要だ。
 これから世界市場をめざす邦画が日本人スターの知名度に頼るのは無意味である、という教訓がつかみ取れるはず。


2000年09月16日(土) 日本映画特集

 いつまでかわからないけど、とにかく、意見してくれる人がいるかぎり、続けます。
 それにしても、こんなに書き込みが集まるとは思わなかった!
 始めた頃は、親切な人による投稿が日に一つのペースでしたから。
 常連化したTanu2さんが云われるとおり、ほとんどは当サイト管理人による営業活動の成果ですが、これが「日本映画を世界に売る!」でなく、「大福餅を売る!」とか「べったら漬けを売る!」だったら、あれだけ掲示板が賑わってくれたか疑わしいでしょう。
 やはりテーマの根源に、大勢の関心を惹きつけるものがあったゆえだと思います。

 数百の映画関連サイトでお誘いした結果、寄せられた書き込みは二百におよびました。
 それに対し、苦情に類するメールが、約一通。逆でなくて、本当によかった。
 みなさんからのご意見は、みなさんの名前と共に一覧にしておきましたので、いまも増え続ける過去ログにお目通しする際のよすがとしてご利用ください。

 さて。
 邦画特集がネタ切れになったら、何をやるか?
 大丈夫。次の手は打ってあるので。
 今度は、新世紀の開幕にふさわしく、未来特集やるつもりです。
 やっとSFサイトらしくなってくる?


2000年09月09日(土) やりたくてたまらない

 小津安二郎の名は、大クロサワ以上に、日本映画のシンボルとして知れ渡ってますよね。
 あの人の映画って、いかにも、白井佳男が大絶賛、それからタモリが酷評しそうな雰囲気でしょう?
 そこで、思うんですが。
 「十三日の金曜日」みたいに超スプラッタなのを、小津映画のスタイルで演出したらどんなものかと。
 殺しの場面でも、カメラはじっと据えたまま、被害者と加害者との対面的な切り返しを多用して描く。人物の会話も、あの原節子や笠智衆の語り口そのもの。

「お父様、お隣りで殺しが」
「そんな金属棒、振り回すんじゃない。危ない、危ないよう」

 みたいな感じでね(笑)。
 笑える仕上がりになるだろうな。
 世界に通用するパロディの傑作にできるかもしれません。
 ぼくはそういうの、やりたくてたまらない。
 コケるだろうけど。


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