+--- Cinema Memo ---+


■ ジェヴォーダンの獣 2003年06月20日(金)
1764年。国王ルイ15世は、ジェヴォーダン地方で殺戮を繰り返す野獣の正体を突き止めるため、若く知性溢れる自然科学者グレゴワール・デ・フロンサックを調査に派遣した。フロンサックは、兄弟の誓いを立てたアメリカ先住民モホーク族、マニを連れてジェヴォーダンへと赴く。彼らを待っていたのは啓蒙家の貴族の若者マルキや、令嬢マリアンヌとその兄ジャン=フランソワ・ド・モランジアスたち。さらに事件は進む中、マリアンヌと恋に落ちたフロンサックは謎の美女、シルヴィアと出会う…。現在も未解決の実在事件を題材にした作品。

監督-----クリストフ・ガンズ 出演----・サミュエル・ル・ビアン ヴァンサン・カッセル モニカ・ベルッチ

音楽☆☆☆ ストーリー☆☆☆ 映像・演出☆☆☆.5 俳優☆☆☆.5 総合評 ☆☆☆

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なんかすごい映画です(笑)監督が侍と西部劇が好きらしいんだけど、もうこれは支離滅裂と行ってもいいくらいにトーンが分断されている。本筋と関係なくマーシャル・アーツアクションがガンガン入っちゃうんだもん(笑)中盤はもやは別物だ。でもなぜか、観終わった後はそれなりに面白かったんだけど(^^;

お金もすごくかけている感じだし、キャストもセットも衣装も特撮も屋外撮影もすべてが高レベル。だから余計に台本のお約束度や「このへんでお色気を、アクションを」といったハリウッド的予定調和が鼻につきもする。物語の流れも唐突なところと余計なところのバランスが悪くて、たぶん本当は四時間くらいの量をなんとか2時間ちょっとに押し込んだのではと想像する(言いたい放題ですね。我が身をふり返ると耳が痛い)。

ネイティブアメリカンの信仰や精神世界は思いっきり浮きまくっているけれど、それでもマニは文句なく素敵で格好よく(目がいいのよ、目が)、彼が主役と化す中盤は引き込まれる(なぜかその後、自分もハイパーモードになるフロンサックには笑)。
謎の美女のモニカ・ベルッチは「マトリックス・リローデット」よりずっとイケてるし、ヴァンサン・カッセルはドラキュラ伯爵のようにダークで妖しい雰囲気を纏っていて素敵だ(またしてもこのふたり、夫婦共演)。

獣の正体については、ある意味真実をついているのでは、という感じもする。ありえないことではないというか……しかし、しかし(以下ネタばれ)黒幕が秘密結社→その一部の病んだ人が犯人、というオチは流行ってるのですかね? なんか昔のマンガみたい。

でも……も、もしかして実はこういうツッコミどころ満載映画が好きな私!?


■ 金色の嘘 2003年06月19日(木)
かつて愛し合いながらも、貧しさを理由にイタリア貴族アメリーゴと別れなければならなかった美貌のアメリカ人女性、シャーロット。アメリーゴの婚約者は彼女の友人マギーだった。シャーロットはアメリーゴに未練を残すあまり、マギーの父でアメリカの大富豪ヴァーヴァーに嫁ぐのだが――ヘンリー・ジェイムズ原作の小説「金色の盃」をジェイムズ・アイヴォリー監督が映画化した文芸ドラマ。

監督-----ジェイムズ・アイヴォリー 出演----ウマ・サーマン ケイト・ベッキンセイル

音楽☆☆☆ ストーリー☆☆☆ 映像・演出☆☆☆☆ 俳優☆☆☆.5 総合評 ☆☆☆.5

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映像美ばっちりのアイヴォリー作品。私はウマ・サーマンが大好きのなので、いささかシャーロットをひいき目に観てしまいました(超個人的に、彼女の美貌は厩戸様と重なるのである)。
観てるうち、なんかこの物語は〜と思ったら「エイジ・オブ・イノセンス」の男女逆転版のようなところがあったような。ただシャーロットはもっと一途で大胆なんですが。上流階級特有の欺瞞、腹の探り合いと人間関係はアンモラルでスリリングで、そして最後は哀しい。
原題にもある金色の盃というのが途中で出て来るのですが、見かけはとても美しいのに、実は見えないヒビが入っている…そんな象徴として最後に砕け散ってしまいます。

けっこうドロドロした関係ではあるのですが、登場人物の矜持、美しい映像、あらわれる芸術品の数々がそれを俗っぽさから救い上げている。
なかなか味わいのある良い作品だと思います。原作はもっといろいろあるみたいなので、そちらも読んでみようかと。



■ フロム・ヘル 2003年06月18日(水)
1888年のロンドン。犯罪の巣窟になっているスラム街ホワイトチャペルでは、次々と娼婦が惨殺される事件が連発。阿片窟で殺害の幻を視た警部アバーラインは捜査に乗り出し、魅力的な娼婦のひとり、メアリーと出会う。しかし犠牲者は増え、ふたりにも危険が迫る…1999年に発表されたグラフィック・ノベル『フロム・ヘル』をベースにしながら、伝説的な物語に緊張感溢れる心理的なひねりを加えたネオ・ダーク・スリラー。

監督-----アレン&アルバート・ヒューズ 出演----ジョニー・デップ ヘザー・グレアム

音楽☆☆☆ ストーリー☆☆☆ 映像・演出☆☆☆.5 俳優☆☆☆ 総合評 ☆☆☆

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スキンヘッド双子監督の映像はなかなかダークで楽しめる作品。途中まではすごく面白く、政治的陰謀や謎解きの楽しみもあってワクワクなんですが…でも…でも…真犯人がわかってくるにつれ、ちょっと興ざめ…その理由は(以下ネタバレ)お約束の秘密結社かよ!

アバーラインの幻視能力もかなり唐突だし、彼の抱えた傷とか最後の結末とか、全てが中途半端に終わってしまいやや消化不良気味…?。例えば「スリーピー・ホロウ」のイカボットなんかは、そのあたりのバランスが事件を邪魔せず上手く絡んでいて非常に上手かったと思うんですが(しかしジョニー・デップはこういう映画に本当によく似合う)。

でもヘザーは美しいし、娼婦達が惨殺されるシーンや幻視のシーンの映像も美しくスタイリッシュでよいです。前頭葉は大事にしましょう…。


■ めぐりあう時間たち 2003年06月17日(火)
1923年ロンドン郊外、「ダロウェイ夫人」執筆中の作家ヴァージニア・ウルフ。1951年ロサンジェルス、「ダロウェイ夫人」を読む妊娠した主婦ローラ。そして現代、2001年ニューヨーク、「ダロウェイ夫人」と同じ名前を持つ編集者クラリッサは、エイズで死に行く友人の作家を祝福するために受賞パーティの企画に智恵をしぼる。それぞれの時間に生きる三人の女は、やがて「ダロウェイ夫人」に誘われひとつの物語へと紡がれていく……。
ピュリッツァー賞とペン/フォークナー賞W受賞に輝くマイケル・カニンガムのベストセラー『めぐりあう時間たち』を、『リトル・ダンサー』のスティーヴン・ダルドリー監督が完全映画化。

監督-----スティーブン・ダルトリー 出演----ニコール・キッドマン ジュリアン・ムーア メリル・ストリープ

音楽☆☆ ストーリー☆☆☆☆ 映像・演出☆☆☆ 俳優☆☆☆☆ 総合評 ☆☆☆.5

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これ、感想を言葉にするのがけっこう難しい作品なんですが、物語としては直接的にしろ間接的にしろ精神的に追いつめられ、あるいは病を得てひたすら「死」に向かって自発的に加速して行く人たちの、ある一日を描いた作品でもあると思います。
それは、愛する家族や友人ですら止めることができない恐ろしく強力な磁力となって彼らを引き込んでいく。本人にもどうすることもできないほど自然な流れのように見える。

また、気づくか気づかれないか、という程度の通奏低音として同性への愛情がひっそりと影を落としている(ヴァージニア・ウルフは娘や青年として転生を繰り返すファンタジー「オルランドゥ」を同性の恋人に向けて書いたのらしい)。原作もいつか読んでみようと思います。

後半、ふたりの女性にはある意外な現実的接点が浮かび上がってくるのですが、その接点となるキイパーソンの人生にもかなり深いものがあって、ラストへの感動を強めていっているように思います。
はっきりとしたカタルシスの代わりに、リアルな現実感やささやかな家族や友人との愛情、絶望、人間の持つ強さなどが細やかに描かれている。

彼らが最終的に下した決断は、ここでは伏せます。
ただ唯一、音楽だけがやけにメロウで気になっちゃって。もう少し控えても良かったのではと思ったのですが。


■ クイルズ 2003年06月15日(日)
シャラントンの精神病院。刑務所行きを逃れてこの施設に収容されたサドは、人道主義者のド・クルミエ神父の庇護のもと安楽な暮しを送っていた。が、病院内で執筆した原稿の流出が発覚。シャラントンには、サドを「矯正する」目的で、荒治療で名高いコラール博士が送り込まれる。コラールの体現する偽善的な道徳に、嘲りの態度で歯向かうサド。そのことから執筆の自由を奪われた彼は、文字通り身を削ってインクとペンを作り出し、体制に挑発的な闘いを挑んでいく。

監督-----フィリップ・カウフマン 出演----ジェフリー・ラッシュ ケイト・ウィンスレット ホアキン・フェニックス

音楽☆☆☆ ストーリー☆☆☆☆ 映像・演出☆☆☆☆ 俳優☆☆☆☆ 総合評 ☆☆☆☆

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長さを感じさせず面白かった。美徳と悪徳、エロティックな醜悪、グロテスクな美しさが目まぐるしく入れ替わり、身分や職業、性別関わりなく誰の心にも潜んでいるのだと思わせる。サドは表現することに、コラール博士は権威や支配を死守することに恐ろしいほどの執念を抱き、そのふたつが激しくぶつかりあう。結果、悲劇は周囲の人間にも及んでしまうのだけれど……。
猥褻な言葉はある時はそのままの意味で、またある時は強烈な風刺や毒を孕んで、読聞するものの心になにかを吹き込んでいく。
コラールの娶った修道院上がりの若妻(むちゃくちゃ可愛い)が、あっけらかんと若い建築家とデキてしまうのが可笑しい。けして陰惨なシーンだけの連続ではなくて、ユーモアを上手く取り入れているのが上手い。その後の破綻がより引き立ってしまうんだけど。

わりと若い頃、ジュリエットとかジュスティ―ヌとか読んだのですけど、やっぱり楽しむと言うよりは怯えてしまったんですよね。ストッパーを外すと肉体的にも精神的にもどこまで行ってしまうかわからない怖さがSM的なものにはあるので。過激な表面にとどまらない人間の深淵にまで及ぶテーマではあると思います。

私見では、美爺ふたりに翻弄されるvv神父を演じるホアキンのパラノイアっぷりは、グラディエーターの皇帝に通じるところもあり、よかったですねぇ〜。
個人的にマイケル・ケインが好きなので、彼の演じるコラール博士もむふふでしたわ。ケイト・ウィンスレットも逞しい娘さんを好演。




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Written by S.A. 
映画好きへの100の質問



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