ぶらい回顧録

2012年05月27日(日) Coyote(拙訳)

仕事を始めた1988年。その年の12月24日、確か金曜日、特に何もすることはないので、仕事後、情報誌で見つけたオールナイトの映画を見に一人で電車に乗り京都まで足を伸ばす。

3本立て。たぶん夜11時上映開始。場末の、すえた匂いのするやさぐれた映画館。缶ビールを手に席に深く沈み込む。場内は京都の、東京とはまるで違う雰囲気の大学生で満席。解放区。タバコの煙が漂ってくる。タバコ以外の香りも。

1本目は「チャック・ベリー ヘイル!ヘイル!ロックンロール」。キースとチャックの掛け合い漫才の連続に皆爆笑。

2本目、当時まったく予備知識なしの「ザ・バンド ラストワルツ」。スコセッシの見事な色彩でザ・バンドの連中とゲスト陣がアップで映し出される、ステージ上の目配せ、演奏のあや、仕草。大きな衝撃を受ける。なんてかっこいいんだ。たぶん夜中2時頃、京都の映画館で初めて観た、ジョニミッチェル。なんて美しいんだ。なんて色っぽいんだ。


And the next thing I know
That Coyote's at my door
He pins me in a corner and he won't take "No!"
He drags me out on the dance floor
And we're dancing close and slow
Now he's got a woman at home
He's got another woman down the hall
He seems to want me anyway
Why'd you have to get so drunk
And lead me on that way
You just picked up a hitcher
A prisoner of the white lines of the freeway

そこにコヨーテが現れる
入口からそのまま私のところに来て
角に追いつめた私に「いや」とは言わせなかった
ダンスフロアに私を引きずり出し
体をいやらしく押しつけスローなダンスを踊る
彼は家に女が待っていて
このバーの女ともできているくせに
どうしたって私を欲しがっているみたいだった
そんなに酔っぱらって
そんなに強引で
仕方のないこと
私は厄介なヒッチハイカーを拾ってしまっただけ
フリーウェイの白いラインに囚われてしまった人を


たぶん夜中の2時半頃、初めて観る、動くマディ・ウォーターズ。場内の大学生、なのかどうかよく分からなくなるなんだろうこいつら、彼らから口笛と歓声が盛大に飛び交う、ええぞマディ、もっとやれ!

たぶん朝の4時頃。3本目、「ウッドストック」。眠い。フィルムはブツ切りだ、どこから持って来たんだこんなの。曲もインタビューもぶちぶち切れる。ぶちぶちぶちぶち。客席で暴動が起きるんじゃないだろか、心配。騒ぎが起きたら逃げよう。びくびくしながら69年のピースフルな画面を見つめ続ける。騒ぎは起きずにあちこちからイビキが聴こえる。隣席の2人組は"Going up the country"のあたりから不埒な行為に及んでいる。

後から何度もビデオで見直した、Canned Heat、"Going up the country"、ピースサインをする尼さん、Nun Peace。ピース。鳥肌が立つ。本当に素敵だ。

映画の最後にジミ登場、待ちわびた場内から歓声、"Purple Haze"のイントロで何人かが立ち上がるが、かわいそうに、映像、音声、ぶちぶち、ぶち、ぶち、あっという間に曲終了、上映終了、そのまま場内が明るくなる。なんというアンチクライマックス。

騒ぎは起きない。そのまま寝続けるひと、のそのそと起き上がるひと。たぶん朝6時ぐらい、出口から灰色の街に出る、寒い、缶コーヒーを買う。

思い出した、そのまま電車で大阪に戻って仕事したんだった。あれ、金曜日じゃなかったのかな。忘れたな。


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