| 2002年02月15日(金) |
テッド・チャン「七十二文字」(SFマガジン2002年3月号)を読む。 |
テッド・チャン「七十二文字」(SFマガジン2002年3月号)を読む。 粘土の人形が名辞を使うことで動き出す。七十二文字のヘブル文字を書いた紙を人形に差し込むだけでその人形が動く。その七十二文字のヘブル文字を名辞といい、文字の組み合わせ方や使い方によっては驚くべき力を秘めている言葉の配列を言うらしい。 そういう、いわば魔法の言葉の存在が当たり前の世界の物語である。 人間自身も小さなホムンクルスとして既に誕生していて、卵子と出会って大きくなるのを待っているという世界である。人類がすべて実験室のビーカから生まれてくような印象を受けた。そうであれば、人間はネズミように増える一方ようだが、実際には五世代経る中で不妊症の卵子ばかりが生まれ、人類全滅まであと五世代ということが判明しているのだ。 主人公は自動人形の手先を器用に動かす名辞を獲得している気鋭の命名学者。さまざまな事件を経て彼は人類を絶滅から救う方法のヒントを得る。 日本で言うと今流行の陰陽師が科学者や研究者と同様の存在として認知されているのと似ている。 物語の展開そのものに独創性はない。設定と表現・描写に新しいものがある。結末を楽しみにするのと同じように描写と表現をじっくり味わうのがよい中編小説である。 「あなたの人生の物語」に続いてこれも現代人にふさわしい慈雨のごとき作品。 翻訳者は、嶋田洋一。
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