読書日記

2001年12月30日(日) 芦辺拓「時の誘拐」(立風書房1996.9)を読んだ。谷沢永一「紙つぶて(完全版)」(

芦辺拓「時の誘拐」(立風書房1996.9)を読んだ。トリック重視の普通の本格ミステリーなのだろうと読み進むうちにそれが速断または偏見だったことに気がついた。トリック重視だけではない大きな特色に気がつかざるを得なくなった。作者は大きな冒険を二つしている。一つは、謎の部分の工夫である。それこそトリックに関わっている。現代的な道具、地理的なもの、時間的な結びつき、人間関係、人間の生き方などをモザイクのように配置している。二つ目は、作者の哲学に関わる部分である。部分といってはまずいかもしれない。作者の哲学なり考え方が語りや登場人物に託された形で物語世界を特徴あるものにしている。小説だからそれはあくまでも物語の語り手や森江春策の思想にすぎないという考え方も正論だとは思うが、これだけ色濃く現れていると作者になぞらえてしまうのだ。
そういう意味で骨太且つ重厚な本格ミステリー小説として重要な作品である。
おまけ。犬が登場する小説としても買いである。(ただし出番は少ないのが惜しい)
吉田健一の名前からの連想で、谷沢永一「紙つぶて(完全版)」(PHP文庫1999.3)を久しぶりに手にとった。1970年代から1980年代中盤ころまで本や読書についての本や文章が特によく好まれ読まれていたような気がする。個人的には丸谷才一の「梨のつぶて」(晶文社)が始まりで、終わりは篠田一士の死去である。吉田健一は英国文学の名翻訳者としてだけでなく個性的な名文家、読み巧者、さらに奇妙な幽霊話作家としても注目を浴びていた。(ような記憶がある。だいぶ忘れてきているのであしからず。朝日新聞の文芸時評もしたかもしれない。集英社文庫にもあったし、その集英社から「吉田健一著作集」も出した。)谷沢永一の「紙つぶて」も吉田健一の書評もそういう時期に集中的に読んだものだ。今出回っているもので面白いなと思うのは「ミステリマガジン」の都築道夫さんの文章くらいか。継続的量的には「本の雑誌」の北上次郎さんの文章を一番読んでいることになる。かつて「小説推理」を定期講読していたことがあるのも北上次郎の連載があったからである。(今は買っていない。)
書評の文章に熱気がありそれがなんともいえず面白かった時があったのだ。



 < 過去  INDEX  未来 >


イセ [MAIL]

My追加