月は水銀

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 2026年03月11日(水)   ものかきさんに100のお題。 001.はじまり 

「はじめまして。」
 彼はそう云って長身を深々と折った。
 つぎのせりふ。
「お嬢ちゃん。」
 それが出逢い。
 慇懃無礼なひと。
 これがわたしの彼への第一印象だった。
 そのことはしばらくどころか、ずうっと変わることはなかったのだけれど、最近思う。
 よくみると優しい眸を、している。
 ほんとうのこと、だけれど。
 でもその優しささえエスコートの一部なのでしょ?
 だって、どの女性にもおなじ視線を向けるもの。
 どうせね、なんてかわいくないわたし。
 いま彼は、そんなわたしの話し相手を、からかったり、ふざけたり、その平等な優しい眸でしてる。
 わたしも、ふくれたり、怒ったり、おんなじ平等な気持ちで相手する。
 負けたくないから。
 あれ? でもどうしたのだろう。話しながら、彼の眸がわたしの肩ごしに吸いつけられる。
 あ、と云う間もないくらいに、一瞬だけよぎったその表情。
 胸がぎゅっと云った。
 どうしてそんな顔、するの?
 なにをみてそんな貌をしたの……?

 うしろを振り向くことはできなかった。

 それが、わたしにとっての「彼」へのほんとうの、はじまり。


お題提供:[ものかきさんに100のお題。](in A BLANK SPACE


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