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2006年05月27日(土)  揺れる波
ちゃぷんと波が立って、風呂桶のへりに頭をもたせかけて空を見上げると、朱色に染まった空が見える。しっとりとおでこに汗をかく恋人が居て、私はあまりにも温かく気持ちのよいお湯に、このまま眠ってしまいたくなる。

ずっと前、誰かが「失えない」と言った。私の耳元で声がする。「僕はあなたを失えない」と聞こえる。だけどどちらにせよ、私はその時を失っているし、その人は結局、私を失って、そして今がある。
失えないという言葉は、とてつもなく切ない。失っては生きていけないという意味の言葉は、とてつもなく切ないものだ。胸がずきずきする。

上せ気味になって、布団の上に寝転がると、心臓が耳の側にあるように自分の鼓動がどくどくと近くに聞こえる。心臓の音を聞きながら、そよそよと吹く夜の風を感じていると、気持ち良くてこのまま眠ってしまいたくなる。汗がひいていって、どこかで虫の鳴き声が聞こえる。いつの間にか心臓の音は遠ざかっていた。

恋人の鼻歌が向こうの部屋で聞こえてきて、私たちはビールを飲んだ。
周りがじんわりと暗くなるのを見つめながら冷えすぎたビールを飲んだ。

私たちはこれから一体どうなってしまうんだろうと、ふと思う。
どうして、未来のことを不安に思って嘆く必要があるのだろう。
どうして、憂いながら未来のことを思うんだろう。
私は一体どうしたら、安心して今を過ごし、未来を待つことが出来ないのだろう。
私たちはこれから一体どうなってしまうんだろう。

糊の利いたシーツに潜り込むと、どこに恋人が横たわっているのか遠近感が掴めなくなって、真っ暗なシーツの中を手をもがいて私は泳ぐ。彼の体を捕まえて、必死に掴む。どこにも流されないようにひしと掴む。
「失えないんだよ」と彼の耳元で囁いてみる。
彼は眠りの波に押されたり戻されたりしながら、声にならない言葉で頷いたように思えた。
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