days
2006年03月15日(水)  ある日
今日という一日。

二度寝をした後、起き上がりぼんやりとしながら顔を洗って、素早く支度をして家を出る。それほど混んでもいない電車の中で大沢在昌を読む。

午前中はふたつのミーティングに出る。
お通夜のようなミーティングがひとつ。議論のたえないミーティングがひとつ。
昼前、フロアに顔を出した部長と話をする。ゆっくり話がしたかったけれどお互いあまり時間がなく、「まあ、ゆっくり飲みにでも行こう」と行って別れた。

後輩の男の子が、「飯、行きますか」と言うので駅ビルの中のパスタ屋へ。3軒並んだパスタ屋の真ん中の店。仕事の話をしながら、私はボンゴレビアンコ。彼は明太子スパ。改札をくぐった後、彼と別れて電車に乗る。
JRに乗り地下鉄に乗り、派遣スタッフとスタバの前で待ち合わせをして職場見学へ。1時間、たっぷりと話を聞く。和やかな空気の中にもぴりりとした緊張感。派遣スタッフを駅まで見送って、お礼をして別れる。

そこから歩いて5分程度のあるビルへ。最近、仕事の悩みがあるという別の派遣スタッフと面談。「今は、気になることや不安ばかりだとおもうけど、もっと違う視点で考えたら何てことないことかもしれないですよ。自分が何もしなくても円満な職場はないのだから、少し工夫しないと、ですよね」と話した。『円満な職場なんてない』と言った自分の言葉が、やけに白々しいなと思った。メモ帳に“円満”と書いて黒く塗りつぶした。その後、談笑をして「前向きにならないとダメですよね」と、彼女が笑った。
そこから更にまた歩いて、あるビルへ。5人のスタッフを廊下に呼び出して、契約の話をする。
○○○×○。
23歳の男性の派遣スタッフが、ピアスをしていた。以前会ったときには、確かしてなかった。「穴、開けたんですか?」と自分の耳たぶを触りながら聞くと、「ピアスしないと塞がっちゃうんで」と答えた。

職場の人になにか言われなかった? ピアスのこと。
―――いや、別に。禁止でしたっけ?
あまり良くはないんですけどね。
―――そうっすか…。
でも、どうしてですかね。女性のピアスはお洒落として受け入れられるのに、男性のピアスは年配の人たちにとっては受け入れがたいもの、みたいな雰囲気ありますよね。
―――まあ、いい顔はされないですね。
職種によっては、ピアスが禁止という場合もありますし、企業の社風によっては好ましくない場合もありますから。今一度派遣先に確認してみましょうか。

企業側にそれとなく、ピアスのことを聞いてみた。
担当者は、「○○君のこと? いいんじゃない、別に。 成果さえ残してくれればどんな格好でもさ」と言って笑っていた。早速、派遣スタッフの彼にメールをして、「結果を残してくれれば服装なんて気にしないそうですよ。頑張らなきゃいけないですね」と送った。
“結果さえ残せば”という厳しさ。派遣契約には結果が求められることが多い。結果のみが求められる、と言ってもいいのかもしれない。ピアスがOKだったことに諸手をあげて喜ばず、自由があるからこそ厳しいのだということ、彼に少しでも伝わってくれればと思う。

夕焼けがあのビルに反射してキラキラ輝いている。残り1件の企業をまわって会社に戻る。半分くらいの営業が会社に戻ってきており、アシスタントはぱたぱたと走り回っている。自分のマネージャーと簡単なミーティングをして、今日は大事な商談があると言っていた後輩の話を聞いて、メールをさばいて、書類を作って、派遣スタッフたちにいくつか電話をかけて、21時半に退社。
池袋の駅に着いたとき、別の事業部にいる同僚から電話がかかってくる。マンションの前にたどり着くまで話をして、今月中に一度食事にでも、と行って電話を切った。

シャワーを浴びているとき、「あっ」と思い出す。
あとひとり、あの派遣スタッフに電話をかけ忘れた。でも、時計はすでに0時をまわっている。しまったと思う。パスタオルで髪の毛を拭きながら手帳に赤ボールペンで「○○tel」と書き込む。

ふと、淋しいと思った。誰かに私の話しを聞いて欲しいと思った。ふいに思った。
今度飲みながら、今度ご飯でも、そんな約束はやがて忙しさの彼方へ飛んで行く。
私に結果だけを求めず、私に正しい答えを求めず、ビルに反射した夕陽じゃなくて、淋しいと思わない一日があればいい。
恋人に会いたいと思うときに会いに行き、食べたいものを時間を気にせずゆっくり食べて、ゆっくりタバコを吸いたい。


誰かの話を聞くよりも、本当は私自身が話したい。
私の話しを誰かに聞いて欲しい。そう思った。上手く話せないかもしれないけど、途中で白けてしまうかもしれないけど、それでも誰かに何かを話したい。
だけど、私は明日も明後日も、誰かの話しを聞きに行き、誰かの悩みを聞きに行き、ミーティングをして打ち合わせをして商談をして。そんな毎日。そのうちの一日が今日という日。
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