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2004年06月29日(火)  後楽園デート
後楽園の前を通りかかり、センターレスの観覧車を見上げているとある日のデートをふと思い出した。

私は、その頃まだ大学生で、学校とバイトのある生活を送り、恋人ともケンカをしたりうまく通じあわなかったりしながらも、それなりに楽しく過ごしていた。その日はバイトの日ではなかったけれど、自分の勤務シフトを見にバイト先の控え室にいたのだと思う。その頃のバイトはレストランでウェイトレスをしていた。その店はチェーン店の中でも都内で随一の客数を誇る店で、学生ばかりのアルバイターを中心にしながらよく店を回していたものだ。女の子はフロントでウェイトレス。男の子はクックで調理。バイト先でもたくさん友だちが出来た。
シフト表を見ながら、今週のスケジュールを手帳に書いていると、クックで働く男の子が仕事からあがって控え室に帰ってきた。彼は、いつも無口で滅多に笑顔を見せることがない。冷静沈着だけれど、いつも厳しい口調で仕事を後輩のバイトの男の子に教えているので、周りからは怖がられていたタイプだったと思う。私も、彼とシフトが重なるときは、ヘマをして怒られないよう慎重になったりしたものだ。彼はたぶん私より2つか3つ年上のフリーターだったと思う。
お疲れさま、と声をかけると、うんと頷いて更衣室に入る彼。愛想もなくて本当に喋らない人だけれど、誰もそれを気にしなかった。だって、もうその人はそういう人なんだと周りには受け入れられていて、違和感もなくそれが自然体の彼なんだとみんなが疑わなかったから。
自分の手帳にシフトを書き込んだ私は、そろそろ家に帰ろうとしていた。
たぶん、その日は暑い夏だったと思う。
更衣室から出てきた彼が、珍しく「今日はバイトじゃないの?」と声をかけてきたので、シフトの確認をしに来ただけだと答えると、「時間あったら飯でも行かない?」と言うので私は驚いて、え? と何度か聞きなおしたと思う。

車に乗って白山通りを神保町の水道橋の方向に向って走る。
バイトの友だちは本当に仲が良くて、毎週土曜日の夜は仕事が上がったものから近くの居酒屋に集合しては飲んでいることが多かった。5時上がりの人間がまず席を陣取り、そのあとは6時、7時、とだんだん人数が増えていき、最後の12時上がりの人間が来たらだいたい20人くらいは集まっていたと思う。その中に彼もいて、私もいた。バイトの仲間のひとりだけれど、二人だけで出かけるとか、食事に行くとか、そんなこと一度だってしたことがなかったし、あの無愛想でクールな彼が、女の子を誘ってご飯に連れて行ってくれるなんて、私は想像も出来なかったし、もちろん他のみんなだって誰も今日の出来事を信じてはくれないだろう。
だからこそ、私は彼に何を話していいのかもわからず、かといって彼から話しかけてくれることもそれほどなく、私は一生懸命車の中で会話を探していたように覚えている。そのうち、どうして私を誘ったのだろうかと思いもした。

車は東京ドームの前に止まり、駐車場に車をいれてくるので私は正面入り口のところで降り彼が戻ってくるのをずっと待っていた。ずっと待ってはいたものの、なかなか彼が戻ってこないので私は一度ドームの中を見てみたいと思っていたのもあってドームの入り口を目指して階段をあがってみることにした。今日は試合があるのかあまりにも凄い人の数なので私は人ごみをくぐりつつ、諦めて彼との待ち合わせの場所に戻ろうとしかけた時、うろうろと歩く彼の姿を階段の下で見つけた。

噴水の周りにはカップルがたくさん座っていて、ドームに向う人は子供連れが多くて、その中にぽつりと一生懸命誰かを探す彼を見つけた。そんな彼を上から見ていると、私は急に今まで思ってきた彼とは違う彼を見た気がして、胸がぎゅっと痛くなった。あれほど慌てた姿をみたことはなく、あれほど一生懸命な姿を見たことはなく、彼はいつも冷静で誰にも厳しくて、無愛想なはずだったのに、本当の彼は、実はとても一生懸命で優しい人なのではないかと思った。
私たちは彼を見誤っていたのかもしれない。

私たちはそのあと、ベースボールカフェに入って、たいして美味しくもないパスタを食べハンバーガーにかぶりつきシーザーサラダを食べた。大きなガラスの向こうに見える外の風景は、もうすでに野球の試合が始まったのか人影がまばらで少し閑散として見えた。

私はときどき思う。
人は、もしかしたら外側に見せているものと内側に持っているものは、すべて真逆なのかもしれないと。極端に真逆になっている人間もいるのかもしれないと思えることがある。強い人ほど淋しがり屋で自分が傷つくのを恐れているように、クールな人ほど本当は心配性だったり優しすぎたりするのかもしれないと思う。優しすぎるのも一生懸命になるのもぜんぜん可笑しいことではないのに、本人はひどく格好悪いことだと思ったり欠点だと思いこんで、内面とは裏腹な態度で振舞っているのかもしれない。
私は、彼が懸命になったり焦ったり慌てたりする姿を見て、ちょっと安心したりもした。なぜだかわからないけど。そして、彼が自分が欠点だと思い込んでいる部分を一生懸命隠そうとしているその姿を、愛らしい美点だと思えたし、第一印象はあてにならないし、外面だけの付き合いもつまらないものだと思った。


とても楽しいデートをした。
あの頃はまだ、センターレスの観覧車も狭いところを縦横無尽に走るあのジェットコースターもなかったけれど、あのとき一生懸命私を探す彼の姿は今でも私の記憶に鮮明に残っている。
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