2007年11月22日(木)
つめこみ


 紫君、お誕生日おめでとう。
 というわけでロングコントー(ショートじゃないのか)


[おおまみらんくんとあやかゆかりくんシリーズ](いつから?)


 十一月二十二日。今日は僕の誕生日。


 朝一番で僕のところにやってきた大真がこう言った。
「ゆかり!誕生日おめでとう!ところで今日は『いいふうふの日』だ!だから今日一日僕がゆかりの奥さんになってやるからな!」
 ……は?
「とゆうわけでー、今日いちにち僕とゆかりは夫婦なんでぇー、皆よろしくー」
 僕がツッコむ間もなく、大真は高らかにクラスの皆に宣言していた。そして記者会見まではじまった。
「で、二人のなれそめは?」
「えっとお、一年生の時に同じクラスでー」
「プロポーズの言葉はー?」
「意外にゆかりって、硬派でしょ?だから『黙って俺についてこい』ってー」
「婚約指輪は?」
「お小遣い3ヶ月分のジュエルリングでぇす!」
「お子さん何人?」
「えー、それはゆかり次第って言うか、もーやだはずかしー、つうかどんだけー!」
 すっかりカマ口調がハマった大真に皆が爆笑……ちょっと待て!どうして誰も大真を止めない?つうか悪ノリしすぎじゃないか?皆も口から聞く「おめでとう」、でもそれって僕の誕生日にじゃなくて、大真と僕の結婚……うわわわわわ考えるだけでもトリハダもんだ。とはいえ結局大真はクラスきってのお調子者。それに皆も慣れている、そしてこれはもう少し大人になってから気付くことなんだけれど、皆「自分のことじゃないから無責任に面白がっている」んだ……なんてトモダチがいのないクラスなんだ、今年のクラス目標は「みんななかよく」だったじゃないか……っ!でも僕以外は「みんななかよく」盛り上がっている……僕をネタにして。
「おい、大真」
 クラス中の祝福を受けて、更に調子に乗って机の上にまで乗っている大真を引きずり降ろそうとしたとき、チャイムが鳴ってしまった。そして大真は当然のように僕の隣のコと席を変わってもらって
「夫婦たるもの、やめるときもすこやかなるときも授業中も一緒っていうもんね」
 言わない!しかし大真は僕の反応を全く気にも留めずに、くねっとしなをつくってウィンクばちこんしてきた。うわわわわ気持ち悪い!机ごと廊下に引きずりだしてやりたかったけれど、そこで先生が来てしまった。
「きりーつ、れい、着席ー」
 ……まあ授業が始まればこんな悪ノリはしなくなるだろう、今日一日と言っても大真のネタがそんなに持つわけがないしきっとすぐに飽きる。
 と思った僕は甘かった。
 先生が出席を取っている。
「…、大真ー……大真?って大真そこにいるじゃないか?返事は?なんだ勝手に席替えか?」
「先生。僕、きょう一日ゆかりの奥さんなんで、"あやかみらん"じゃないと返事しません!」
 ……先生!ここに馬鹿がいます!
「そうか、でもな、大真。今は夫婦別姓っていうのもあるんだぞ?」
「ふーふべっせい?」
「今は女のひとも社会で働くからね、だから結婚して苗字が変わると色々不都合があるし」
「えー、でもなんかつまんないです。だって『俺の苗字になってくれ』ってプロポーズするのってカッコいいし」
「大真は古風だなぁ。でも先生は夫婦別姓もカッコいいと思うぞ?苗字が一緒、っていう形がなくても繋がることができる夫婦の絆は更に強い、ってね」
「……ふーふべっせい……カッコいいかも!」
「ちなみに先生の奥さんも、よそ学校の先生やっているけれど、夫婦別姓だ」
「あ、先生それノロケですかー?よし、じゃあウチも夫婦別姓で、より強い夫婦のきずなをつくりましょうね、アナタ」
「はいそれじゃ改めて出席なー、大真ー」
「はい!今日も元気です!」
 先生!話題がずれています!つうか先生?それはそれで素晴らしい話なんですが、どーして大真を止めてくれないんですか?叱ってくれないんですか?そしてクラスの誰もがどーしてツッコみを入れてくれないんだ!
 毒されている、みんな大真に毒されている、丸め込まれている。そして僕がおもいっきり面白がられている。
 僕は大きくため息をついた。ひどい誕生日になりそうだ。


 それでも授業はいつも通り進んで。でも隣の大真がいやにいちゃいちゃ僕に触ってくる。いやだ、よるな、あっちいけ、と小声で言うと「んもうアナタったら照れ屋さん(はあと)」……神様、僕何かしたんでしょうか?げっそりしながら午前中の授業が終了。そして給食の時間。そのまま大真とは向かい合わせで班を作る。給食が配られて「いただきます」。目の前の大真はいそいそと「僕の」トレイに手をのばして、シチューをすくって
「はい、アナタ、あーん」
 やっぱりそうきたか。
「ひゅーひゅー、アツいねお二人さんー」
「やだもうホントの事いわないでよ、いかほどー!」
 いいから、もうそのモノマネはいいから。しかも微妙に似ていて結構笑えるのも腹が立つ。僕が意地でも食うもんかと口をつぐんでいたら、
「もうアナタったら、好き嫌いなんてコドモみたいー。じゃあ、アタシが代わりに食べてあげるね」
 言うが早いか、大真は僕のプリンをとって高速で食べた。しかも一口で!待て、なんでそこに行く!と言おうと口をあけたら、シチューのスプーンを押し込まれた。
「どう?美味しい?」
 なんなんだ、これは。
 もしかして新手のイジメなのか!しかし黙ってイジメられる僕じゃない。こうなったら大真のプリンを食べ返してやれ!と思ったけれど、そのプリンはもう無かった。お前いつの間に喰ったんだ!
 大真はそのままそのスプーンで、自分の分のシチューを食べ始めた。僕が唖然と見つめていると
「やだ、今更か間接キスで照れないでよ。キスなんてしょっちゅうしてるじゃなーい」
 してないしてないしてない!……ちゃぶ台返しをしたい衝動にかられた。しかしこれは給食のおばさんが心を込めて作ってくれたもの……大真、今に見てろ?この仕返しは必ずしてやるからな!


 という僕の念を大真が察したのか。
 放課後、大真はさっさと先に帰ってしまっていた。今日は大真の塾のない日で、そんな日は必ず僕と一緒に帰るのだけれど、それで帰りもこの調子で「いいふうふ」をやられるのかと思うとげんなりしていたのだけれど、大真はあっという間にいなくなった。……これでもうこの悪ノリは終わりって事だよな。やれやれ、今日は特につかれてしまった、と帰ろうとしたら、クラスの女子につかまった。
「ちょっと、ゆかり君掃除当番!」
「え?だって今週僕じゃないよ?」
「大真が『代わりに夫がやるから』って言ってったのよ」
 ……まだ遊びは終わってなかった。いやもう遊びじゃなくて、すっかりクラスの皆にも浸透しているってどういうこと?
「こういうの妻の家事放棄って言うんだよね」
 同情のまなざしで、ホウキを渡された。これが本当の家事ホウキ……大真ならきっとそう言うだろう。
 そして僕はひどくむしゃくしゃしながら、家路についた。今夜は僕の誕生日だから、お母さんがケーキと僕の好物を作ってくれるはず、そしてお父さんはプレゼントをくれるはず。もう今度こそあの悪ノリは終わったのだ。あとは楽しいことを考えよう。
 しかし家の前に立ってから、一瞬、嫌な予感がした。……こういう時の予感はたいてい当たるんだけれど、今日ばかりは当たらないでいて欲しいけれど。
 その時ドアが開いた。
「アナター!!おかえりなさーい!」
 これが目的で先に帰ったのか!しかも丁寧にエプロンまでして!後ろでお母さんが笑っている。……ああもうお母さんまで懐柔済みか!
 もうその場で布団しいて寝たい気分になってきた。反論する気もおこらない。
「アナタ、先にごはんにするそれともオフロ?」
 大真はこれがやりたくてしかたがなかった、っていう顔している。うきうきしている。なんで僕の誕生日になのに、大真が一番楽しそうなんだ。
「それとも……」
 それともなんだ!なんでそこでシナを作るんだ!思わせぶりに区切るんだ!でも「それとも」の先は自分でもよくわからない。けれどもそれは聞いてはいけないもののような気がしていた。
 大真は続けた。
「先にごはんにするそれともオフロ?それとも……げ、え、む?」
「は?」
「やっぱりゲームだよなー!ゆかり!DS対戦しようぜー!」
 ……そ、そうか、ゲームか。
 と言うわけで、そこからはいつも通りの遊びとなった。二人でDSで対戦しているうちに、なんだかどうでもよくなってきた。目の前の大真はいつもの大真だし。と思いきや
「大真くん?そろそろお家にお電話しておいてね、今日ごはん食べていくでしょ?」
 夕方になってお母さんが言った。何言ってるんだ?お前帰れよという前に、大真のカマでツマなスイッチが入った。
「やだ、おかあさま申し訳ありません。もう本当に至らない嫁で……」
「いいのよー、二人で仲良くしてくれれば」
「もうそれはご心配なく、おはようからおやすみまで仲良しでっす!ねー、アナター」
 抱きつくな!そんな僕らをお母さんはにこにこと見つめている。いいのお母さん?息子の嫁がこんなんで!しかし、その顔には「おもしろくてしょうがないわこの子」と書いてあった。……知っている、うちのお母さんは大真を気に入っているんだ。
 そうこうしているうちに夕飯時になって、お父さんも帰ってくる。この状況をどう説明しようかと考えていた。いや、大真がうちでごはんを食べて行くことなんてしょっちゅうなんだけれど(大真のうちはお父さんもお母さんも働いているから、お母さんが頻繁に大真をごはんに誘っている)、このカマキャラ大真をどう説明すれば……説明するんじゃなくて、もう逃げ出したくなってきた。
 しかし大真はそんな僕の苦悩なんかそっちのけで、カマでツマを演じている。
「あ、お父様がかえっていらしたわ、おとうさまおかえりなさいませー!」
 玄関で三つ指ついた大真。僕が追いかけていって慌てて説明しようとすると
「いやあ、ゆかりはいい奥さんをもらって幸せだな!」
「やだー、もー、どんだけー」
 ……お父さんまで悪ノリだ。うん知っている、お父さんも大真の事を気に入っているんだ。



 かくして、お父さんとお母さんと僕、そして大真の四人で僕の誕生パーティとなった。みんな僕の好きなものばかり、ケーキとプレゼントのある誕生日。去年と同じ誕生日、になるはずだったのに
「それてゆかりってばね」
 大真がひっきりなしに話をして場を盛り上げている。これもいつもと同じ大真がごはんを食べていくときの光景だ。
 去年と違うようで、でもいつもと同じようで。
 ケーキのろうそくを吹き消すと、大真はパチパチパチと拍手をした。去年と違う誕生日、けれどもいつもと同じに大真がそこにいる。でもこの大真はいつもと違う。なんか変な感じ。
 夕食後、お母さんが柿を剥いてくれた。僕はさっそくお父さんからプレゼントでもらったスニーカーに紐を通していたら、大真が隣でそれを僕に食べさせてくれた。昼にもあったな、この光景。
「はい、アナタ、あーん」
「あーん」
 つられてしまった。
「おいしい?」
「………………うん」
 単に、反論するのはつかれてしまうから。けれどもそこに大真がいることに何の違和感もなくて、去年とちがう誕生日なのに、ずっとそこにいたような気がして。
 大真はいつものタレ目でにこにこしているし。
「じゃ、アタシにも、あーん」
 最後の一個を僕に持たせて、自分は馬鹿みたいに大きな口を開けた。なんだか、もうおかしくてしょうがなくなってきた。けれども僕はその恨みはわすれていないから
 大真の口元に柿をもっていって、直前で自分の口に放り込んだ。大真の歯がガチンと音を立てた。
 とりあえずようやく仕返できて気が済んだ。僕はそんな大真に笑ってやったら、大真も笑った。


 お母さんに言われて、帰る大真を大通りまで見送る。つい先日木枯らし一号が吹いて、もうすっかり冬だった。そしてようやく営業終了と言って元に戻った大真が聞いてきた。
「ねえ、楽しかった?」
「全然」
「えー、ゆかりの誕生日プレゼント代わりだったのにー、一生懸命いいふうふを演じたのにー」
 でも僕は知っている、大真はこの間マックのハッピーセットのポケモン全部揃えるんで、今月のお小遣いを使っちゃたんだ。だからこれがプレゼントだと言い張る。
「でもさ、ゆかり」
「なんだよ」
「お前はいいふうふの日に生まれたんだよな」
「もうそれはいいよ」
「うん、だからさ。ゆかりは絶対にいい奥さんもらって、絶対にしあわせになると思うんだ」
「……絶対?」
「うん、いいふうふの日に生まれたんだもの。きっといつかいいふうふになれるかわいい奥さんをもらえるんだよ」
 何だその妙な自信は。
 でもそう言われると、そんな気もしてきた、いやそうでもないかもしれない。
 だってそれは僕らにとってまだまだ先の未来の話。
「あ、でももしも、ゆかりがどうしてもいいふうふになれそうなコを見つけられなかったら、その時は僕に相談してよね。その時はまた僕が「奥さん」になってあげるから」
 ……は?
「あ、でも手術代は半分出してね?なんかとうなんあじあに行くと、男が女になれるんだってー」
 なんだその具体的なプランは!僕は速攻答えた。
「いやだ」
「えー?結構かわいくなる自信あるんだけどなー」
「絶対にやだ」
「それに年上の女房は金の草鞋をはいてでも探せって、言うじゃん?一応、僕一ヶ月だけ「おねえさん」だし!」
「死んでもやだ」
「いい奥さんになると思うんだ、あ、でもやっぱり僕は夫婦は同じ苗字がいいな。でもうちはひとりっこだから、うちに養子に入ってね」
「だからやだやだやだやだ絶対やだかんな!」
「もうっ、アナタったら照れちゃって」
 カマでツマモード再び。今度こそ大真をひっぱたこうと思ったら、
「……」
 寒さに凍えた僕のほっぺたに何かやわらかいあったかいものが触れた。え?と思う間もなく大真は駆け出して、青が点灯していた横断歩道を渡りきった。僕が追いかけようとすると、信号は赤になってしまって、それで大真は道路の向こうから
「ゆかりー、もう一度。お誕生日おめでとー!」
 そして
「それから、愛してるわー!おやすみぃー!」
 信号が赤で僕が追いかけられないのを知っていてそう言い放つ。そして笑いながら走って家にむかっていった。
 僕は自分のほっぺたに触った……思わず、言った。
「ど、どんだけぇー!」
 けれども不思議とどこか暖かかった。この道の向こうには暗闇があるけれど、そこに大真が言う「いいふうふ」な未来があるのかもしれない。そんな先の事なんて考えたことも無いけれど、「絶対にしあわせになると思うんだ」あんなに大真が力強く断言するから、そんな明るい未来があるのかもしれない。
 けれども僕たちはまだまだ子供で、その未来の入り口にすら立っていない。
 僕たちが大人になった時、僕と大真はどうなっているんだろう。まだ一緒にいるんだろうか、遠くに離れてしまっているんだろうか、もちろん「いいふうふ」では絶対にありえないけれど、きっと僕も大真もそれぞれに「いいふうふ」になっているのかもしれない、いないかもしれない。いつもと違う誕生日、でもいつもと同じ誕生日。そしていつかの誕生日は今と違うかもしれない、同じかもしれない。それにわくわくするのは、おかしいだろうか?
 なんとなく弾む気持ちになって、吐く息が白い中、僕は家までの道を走って帰っていった。




++++++++++
 ええっと、実際には小学五年生ぐらい?(じぶんでもよく)。特に漢字表記をひらがなにしていないのは、私がめんどくさかったからです……つうかむっさん!大真くん書きたかっただけだろー!(うんまあそうとも言う)
 ちなみにゆかり君には年の離れたお姉さんがいて、今大学生で一人ぐらしをしている、っていう設定です(本文中に書け)。あと番外編として、そんな「いいふうふのひ」を目の当たりにした小学四年生と三年生と二年生が「自分の将来の夫がホモでも許せるか、いやむしろ萌えととらえるべきか」会議を非常階段の裏でおこなっています(笑)。
 ちなみに先生はしぃちゃんです。昼休みも一緒になって遊んでくれる先生です。







 で(ここから小声で)、この間の大真くんの誕生日、みらゆか班ゆかり担の皆さんがこぞって大真くんの誕生日をお祝いしてくれたのが、もんのすごく嬉しかったんですよね。イジってくれたのが嬉しかったんですよね。だから私も何かしたくて、っていう気持ちがありました。謹んで華琳さんとか七草さんとか某星座の人(笑)とかに捧げ……げ、げ?(……捧げるほどのものじゃないと気づく)……撤収!撤収!(逃げた!)(笑)
 ほんと僭越(苦笑)。


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