| 2006年07月12日(水) | ||
| にゃーとリアルに鳴いている | ||
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ココ行きたい。あとココを読むのに夢中になっています。 隙があったので萌えておきます。 [フェットアンペリアルSSそのよん](ええ?) 「男の子は、父親の背中を見て育つというけれど、お前はウィリアムの背中を見て育ってしまったんだなぁ」 最後に父はそう言って、僕が陸軍に入るのをしぶしぶ許可してくれた。父は僕を自分と同じ外交官にしたかったようだけれど、幼い頃からあこがれていたウィリアムおじさんと同じ仕事をする男になる、は僕の幼い頃からの夢だった。子供が夢をかなえたのだから、ちょっとは喜んでくれてもいいんじゃないかと僕はすこしむっとした。むっとした僕に父は、更に大きなため息をついて、部屋から出ていった。 「あれでも、心配しているのよ」 隣で何も言わずに聞いていた母がそう言った。しかしうちの父は相変わらず子供みたいな人だ。そんなあからさまに拗ねなくたって、って子供に言われてどうするんだ。僕は、心底、父の背中を見て育たなくてよかったと思った。 「もう、ウィリアムおじさんと呼ばないようにね、それから……うん、そうね、なんでもないわ」 何かを言い淀んだ母に、僕はそんなことわかっているよとやはりすこしむっとしてかえそうとした。しかし母は、何故かひどく寂しげな、いや悲しげな顔をして僕を見たから 「シンシア!僕のステッキどこ!」 階下から父の声がした。明らかに機嫌の悪い声。そうやって母を困らせる父はやはり子供だと思った。母は僕に軽くキスをすると、そのまま父の元へと降りていった。 かくして僕はウィリアムおじさん、いやワルシンガム閣下付きの士官となった。ウィリアムおじさんことワルシンガム閣下は僕の父の古い友人で、僕の家とは家族ぐるみのつきあいで。もっともワルシンガム閣下は独り身で、それもあって閣下は僕の事を実の息子のようにかわいがってくれた。そう、だから僕が軍人になったのも至極当然のこと。 仕事はつらい事も多かったけれど、楽しかった。閣下はとても厳しかったけれど、僕の知らないところで僕をフォローしてくれていた。やっと軍人稼業が板についた頃、僕はひとつの決断を迫られた。 「エージェント?」 僕はその時初めて閣下の本当の仕事をしった。そして父の仕事の影にそれがあることをしった。僕は迷わずそれに従った。 最初の任務を終えたときに、僕は初めてどうして父があんなにまで反対をしたかをしった。そしてどうして母があんな顔をしたのかをしった。 仕事から任務へ、それはとても厳しいものだったけれど、閣下に従いたいと思う気持ちが強く、またやりがいもあるものだった。何より「エージェント」という立場からしった「ニール・ハマンド」という人が僕の父であることが、何よりも誇らしかったのだ。無論、これは父には言わないでおく。 「エージェント」になって、任務について、僕は初めて父を尊敬したのだ。 ただ僕にはひとつだけ、その父についてどうしても気になることがある。 父は、口癖のように閣下に言っていた。「そろそろ結婚したらどうだ」と。けれども僕は幼い頃から、いや幼い僕ですら、閣下には「忘れられない人」がいるのだと知っていた。その人の名は「エンマ・クラッチ」。どういう人かはよく知らない。ただ閣下がおそらくは一生独身を通そうと決意したほどの、ひと。そんなことは子供の僕ですら大人の会話の端々から察しているのに、父はことあるごとに「結婚はいいぞ、君もどうだ」と。失礼というより、余りにもデリカシーがないように思えた。閣下はいつもそれを笑って聞き流していたけれど、僕はそれを聞き流せなかった。長じるにつれてそんな父に違和感を、いっそ嫌悪感すら覚えていた。父が口を酸っぱくして言う、英国紳士の名にふさわしくないではないか、と。 一度、僕はそれを母に聞いたことがある。わざと父がいる前で、ねえ母さん、父さんのあれはとても失礼なんじゃないかと。母は少し間を置いて、少し考えてから、短く言った。「そうね」と。僕が尚も食い下がろうとすると、母は少しだけ笑ってから 「そうね、でもおとうさまは昔から嫌なやつだったから」 「え?何?僕、そんなにやなやつだった?」 「さあ、どうかしら?」 「ねえ、シンシア?どういういみ?それ、本心?ねえってば」 母はそのまま台所に戻っていき、父はそれに子供のように何?何?と聞きながらやはりその場を去っていってしまった。まったくもって、やはり僕の父は子供ようなひとで、と今思い出しても呆れてしまう。 父も母も答えを出さないなら、僕は閣下に直接聞きたかった。そしてできるなら僕が父の代わりに詫びようとも思っていた。けれどもそれは僕の父の恥を晒すような気がして、なかなか聞けなかった。そしてあの時少し間を置いた母と、そして後になって気付いたあの時何も反論も弁解もしなかった父がどこかひっかかって、僕には何も言えなかった。 閣下付きになってからずっと、閣下の午後の散歩の共をするのは僕だった。パリの街角をまさに「散歩」と言うにふさわしい風情で歩いていく。けれども僕は「エージェント」になってから、それが「調査」であり「視察」であることをしった。午後の陽だまりを愉しんでいる風情の閣下が、その目の奥でどれだけの情報を仕入れ、判断しているのかをしったのは、それが僕にとって「訓練」であることに気付いてからだ。 『散歩』のルートは決まっていない。閣下は歩きながら、僕に聞く。「何か変わったことはないかね?」と。僕は最初はそれを僕自身の話、あるいは僕の両親の話かと思っていた。「変わりありません、父も母も元気です」。今思い返すと顔から火が出るほど恥ずかしい。閣下はもう一度今来た道を戻ると、僕に「変わったこと」を全て諭していった。 『角にあるカフェが工事中だ。労働者は皆外国人だ、ロシアなまりの言葉だね』 『あのベンチにいつもいる猫がいないのは、餌をやる向かいのアパートの老婦人がなくなったからだ』 『浮浪児が増えているね』 『八百屋の林檎の値段が去年の倍になっている。海路で事故があったからだ』 僕はただ目を丸くするだけだった。そして僕はそれから『散歩』の度に試される。だから血眼になって僕がその『散歩』に従うと、閣下はそれを窘めた。見るのではない、感じるのだよ、悟るのだよ、と。 『散歩』のルートは決まっていないけれど、『散歩』のポイントは変わらなかった。ブールヴァール、カフェ・アングレ、駐仏英国大使館の庭園……閣下は同じ場所でも毎日違うだろうと僕に問いかけ、僕はその毎日違うものを必死に感じようと、悟ろうとしていた。 ただひとつ、同じ場所で同じことがあった。それは閣下だった。上手く言えないけれど、その場所で閣下はいつも同じだった。変わらずに、何故かいつもすうっと目を細める。違うものを探していたからこそ気付いた、毎日変わらない閣下、毎日同じ閣下の日課。 午後の陽だまりの中で佇む閣下に、僕はいつも一瞬だけ、毎日変わらない瞬間を感じていた。その瞬間に僕は入り込めないと…… 「閣下、」 その瞬間、閣下に何か黒い影が掠めた。僕は他国のエージェントかと思いとっさに閣下をかばったが、すぐにそれが太陽を掠めて飛ぶ鳥の影だと気付いた。 とたんに僕は口走った。 「閣下、僕の父は余りにも失礼じゃないんでしょうか?」 例の話だ。その話を口にしたのは、自分の勘違いが恥ずかしかったことと、何より閣下のその誰にも入り込めない、瞬間と空間を侵してしまったことから生まれる気まずい沈黙をさけたいから。 何よりも、僕が閣下の瞬間と空間に足を踏み入れたとき、いやまさかそんなはずはないけれど、閣下が泣いているような気がしたのだ。 何かしゃべらなくては、ととっさにでたのがその話題だった。閣下はすぐにいつもの閣下に戻って「何が?」と僕は優しく問いかけた。 仕方なく、僕は長年の疑問と父の恥を晒した。閣下、うちの父はあまりにも失礼です、閣下にその……そんな閣下に結婚しろだの、子供はいいぞだの、家庭が一番だだの、閣下、父の非礼は僕が詫びます。 閣下は一瞬きょとんとしていた。そして大きな口をあけて笑い出した。 「閣下、」 「いや、なに。君がそんな事を気にしているとは思いも寄らなかったのでね」 こらえきれないとばかりに閣下は笑う。こんな風に笑う閣下は初めてみた。 「いや、失礼……君の気持ちはありがたくいただくけれど、それはまったくもって杞憂だよ」 「でも」 「少なくとも私は気にしていないよ。それにね、私はニールが、君の父上がそう問いかけてくれることに感謝をしているんだ」 「感謝」 「……ニールはね、そう言って私に投げかけてくれているのだよ。『それでいいのか』『それでいいんだな』」 「……」 「『それで、いいな』」 閣下はまた目を細めた。何かを思い出したようだった。そして 「今夜、空いているかね?」 話の続きはその時に、と閣下は言った。君に話しておこう、このままニールが「英国紳士の風上にもおけない」と君に言われるようではかわいそうだ、と。 僕が訳のわからない顔をしていると、閣下は笑った。 「なに、年寄りの思い出話につきあってもらうだけさ」 その日、母は朝早くから出かけていった。朝露に濡れて戻ってきた母の手には、通りの花屋で買ってきたアマリリスの花束があった。すぐに持ち出せるように、と玄関の脇の花瓶に包み紙のままさしこまれた。 父が夕べ僕に言った。明日は『ウィリアムおじさん』を我が家の食事に招待するから、と。 その日はとても晴れた気持ちのよい日だった。閣下のお供をしていつもと同じ『散歩』をする。いつもと同じ場所を通って、そして最後にちいさな広場につく。 「……」 遠くにあると思った劇場が意外に近いのか、何か音楽が聞こえてきていた。午後の陽だまりのなか、閣下はいつもの空間と瞬間に身をひたす。その日、僕はいつにもましてそんな閣下に近づけなかった。 コーラ・パール、そしてエンマ・クラッチ。 この場所が、いや全ての場所が閣下にとっては、かの人が在ったところであり、今もまた在るところなのだと、それを僕はもうしっていたから。 ―ニールがあの時『それでいいな』と言ってくれなければ、私はあの時あの場所から動けなかったのだよ。そして今も『それでいいな』と言ってくれるから、私は…… ここにいるのだと、ずっとずっとここにいるのだと。 午後の陽だまりのなか、僕は何故か涙が溢れてきた。 ふと、隣を誰かが通り過ぎた。父だった。 父は閣下に近づき、けれども近づきすぎずに、じっと閣下を見守っていた。閣下がそれに気付くと、父は一歩足を進めた。閣下が笑うと、父も笑い、閣下の肩を抱いた。二人がどんな言葉を交わしたかは、僕には聞こえなかった。 「前に聞いたわね、おとうさまのあれは失礼なんじゃないかって」 僕の隣に、母もきていた。 「そうね、失礼かもしれないわね。おとうさまじゃなければ」 僕はうなずいた。僕はしらないことばかりで、きっと今もすべてをしっているわけではない。けれども、それだけはもうちゃんと「しって」いるのだから。 「シンシア、」 父が母を呼んだ。 「やあ、久しぶり」 閣下が母に笑いかけた。 母は閣下に手にしていたアマリリスの花束を渡した。 「おい、ウィリアム。今夜は時間に遅れるなよ?せっかくお前をわざわざ我が家に招待してやるんだからな」 父が言った。 「ああ、わかっているさ」 そして閣下は白い花束を手に、向かった。見送る僕らに、閣下は振り返り手を振った。 閣下は笑顔なのに、見送る父は泣いていた。 僕は父を抱きしめた。 ------- ……気が済んだ(笑)。 予告通りのトーマス君視点。そのいちが前振りだったわけです。フェットアンペリアルをみて、最初に思いついたのがこれなんです。うわもうしょっぱなからイレギュラーすぎる……ッ。 あと余裕があれば「エージェント時代の手練手管をつかってニールの浮気をつきとめるシンシア」というのが書きたいですうそです今思いついただけです(笑)。 |
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