小説・物書きさんの作品v


あなたにあえないことがこんなにも

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2006年05月17日(水) そして・・・光の指し示す場所へ・・・1/月代 リン

        序
太陽暦457年、赤月帝国を打ち破り230年に渡った赤月帝国の支配に終止符が打たれた。
初期解放軍のリーダーであったオデッサ・シルバーバーグの死によって一度は消滅しかけた解放軍だったが、オデッサの意志を継いだマクドール家嫡男、ティル・マクドールの活躍と、解放軍に参加したマッシュ・シルバーバーグの采配によって解放軍は力を取り戻し『第二期解放軍』として赤月帝国に立ち向かい勝利を治め、赤月帝国は滅亡した。
その後、トラン共和国を設立して初代大統領にレパントが就任し、新しい希望の満ち溢れる時代の幕開けとなり、その後、この戦いを『門の紋章戦争』と名づけ、3年経った今なおも語り継がれている。
【・・・その姿は私達の希望だった・・・】
解放軍を知る者達が口を揃えて今も尚、その名をひと時も忘れた事などはない・・・その姿は光輝き人々を彼の地へと導いたその名を
【・・・ティル様・・・】
漆黒の髪を靡かせ、一点の曇りも無い漆黒の瞳を持ち、生まれながらに持つ輝きは多くの人々を引き付け続ける・・・・・・そして、その右手に宿る真の紋章『ソウルイーター』は死と生を司り、宿主の回りに在る魂を食らい続ける呪いの紋章でティル自身も多くの大切な者達を失って何度も何度も傷つき苦しんだ。
それでもティルは戦う事を止めなかった、それはオデッサから託された希望でもあり自分を信じて戦ってくれる多くの仲間達の希望でもあったから。
解放軍の勝利後、祝いの席から突然姿を従者グレミオと共に消したティル・・・今はどこの空の下に居るのだろうか・・・
その想いは、解放軍に関わった者達の共通の想いである。
【・・・ティル・・・】
それは、フリックにとっても同じ想いだった。
トラン共和国の北方の地『ジョウストン都市同盟とハイランド王国でデュナン統一戦争が勃発していて、フリックは再び戦いにその身を投じていた。
ノースウインドウの城を手に入れてこれまで以上の人々が城に集まって来る様になると、多くの仲間達の中には昔馴染みの者達が大勢いて、3年ぶりの感動の再会を果たした。
そして、その祝いとして皆で酒を酌み交わす事になったのだ・・・3年ぶりの再会は多くを語らせ、その歌と踊と人々の笑い声の響く盛り上がりは夜明けまで続いた。
「・・・そうか・・・」
シーナの隣でフリックが呟く。
「・・・ティルは・・・行ってしまったのか・・・」
手に持つビールのジョッキの中の薄茶色に輝くビールの波紋を見つめながらフリックは苦微笑した。
「・・・それが祝いの席から突然だったからな、あの後、おやじが探したけど・・・」
「・・・・・・・」
フリックの中に走るのは最後に見たティルの姿・・・炎の中で見た
自分を心配しているティルの姿・・・今も脳裏に焼きつくティルの姿・・・穢れの無い漆黒の瞳が印象的なティルが・・・
【フリックを置いては行けない!!】
そして、二人はそのまま別れた・・・あの時は死んでもいいとさえ思っていた・・・最後に・・・ティルを守れた事がただ嬉しかっただが、自分はビクトールと共にこうして此処に居て・・・又戦いに身を投じている・・・・・・・
「でも、何も突然行かなくてもいいんじゃないのか〜」
「・・・・・・・・」
シーナはジョッキのビールを一気に飲み干した。
「・・・でもまぁ・・・アイツは・・・アイツなりに・・・いろいろ・・・あるけどな・・・」
「・・・・・・・・・・」
フリックはただ黙ってシーナの話に耳を傾けている。
「・・・確かに・・・赤月帝国は滅亡した・・・でも・・・アイツは多くの者を失った・・・真の紋章を宿す素質があって、人を導くカリスマがあって・・・グレミオの事は本当にアイツにとっては唯一の救いだったろうが・・・アイツは永遠に自分の時を失った・・
たぶん・・・俺達に迷惑掛けると思って黙って行ったんだろうけど
何か時々思うんだよな・・・平和を俺達が得た代償をアイツに背負
わせてないかってさ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
シーナは再びジョッキのビールを飲み干すと席を立つ。
「まぁ・・・今となっては・・・俺達に何が出来たのか・・・何をしてやれるのか・・・ただ一つだけ言えるのはアイツの苦労を無にしない事くらいでしょ」
と告げたシーナはそのままカウンターへ向かう。
だが途中で足を止めると何を思ったのか振り返ってフリックを見つめた。
「そういえば、アイツ・・・フリックの事あの後ずっと心配してたぞ・・・自分を庇ってって・・・それは今にも号泣しそうに・・・生きてて欲しいって・・・」
フリックはその言葉に微笑む。
「・・・じゃあ今度会えたら、きっと怒るだろうな」
「しかし、3年間も心配させるか普通、アイツじゃなくたって起こるって・・・心配してたのはみんな同じだ」
「・・・すまない・・・」
「・・・生きててくれて・・・ありがとう・・・・」
シーナは言った事が恥ずかしかったのだろうか?フリックが声を掛ける前に慌ててカウンターの踊りの輪の中へ行ってしまった。
フリックはそんなシーナの姿に声を殺して笑った。
「何だ、いやに上機嫌じゃないかフリック」
「ビクトール」
声を殺して笑うフリックの隣の席に腰を下ろすのはビクトールだ。
その手にはカナカンのワインを一本持っている。
「どうだ、バレリアからの差し入れだ」
「いいね・・・・・」
コップにカナカンのワインを注ぐと芳醇な香りがした。
「・・・なぁ・・・ビクトール」
「あぁ?」
フリックはカウンターで仲間達が笑い、踊る姿を見つめた。
「一人じゃないって・・・いいものだな」
フリックの言葉にビクトールは何時もの様には笑わなかった。
何か思うところがあるのだろうか?カナカンを飲み干し再びコップに注ぎ込んでカウンターを見つめる。
「ティルは一人じゃない」
「!!!!!!!!!」
フリックの心の中を読み取るような言葉にフリックは激しく動揺する。だがそんなフリックなどお構いなしにビクトールは話を続ける。
「ティルは希望だった・・・みんなあの時、ティルがいれば何だってやれる気がした・・・あの輝きに皆が希望を見出した、そして今もそれは変わる事は無く続いている。」
「・・・・・・・・・・・」
ビクトールが、俯いたフリックの顔を悪戯っぽく覗き込む。
「だから、この戦争にも関わったんじゃないのか?リオウにティルの様な希望を見たからじゃないのか?」
「・・・・・・・・・」
フリックの脳裏に浮かぶのはティルのその右手に宿る紋章、そしてそれは苦しみの紋章でティルは何時だって紋章を押さえるのに必死だった。
みんなの前では平気そうにしていたがフリックは知っている。ティルは一人になると酷く怯えていた事を・・・・・・・・
でも、結局自分は何もしてやれずに今日まで来てしまった。
大きな運命の流れの中へ流されて行こうとしているティルに対し、何も出来ない自分の無力さをただこうして持て余す。
「・・・フリックお前、ティルの事最初は認めてなかったのにな〜」
ビクトールの言葉にフリックは昔の幼かった自分の姿を思い出してしまい顔を赤く染めると、ビクトールを睨みつけた。
「うっうるさい!!昔の話をもちだすな!!!」
「へい、へい」
「・・・3年は俺にとって、悪い意味でも、いい意味でも、ある意味で良かったと思う・・・」
「・・・へぇ・・・お前も修羅場潜って大人になったってか?」
「・・・・・・・・・」
フリックはコップのワインを一気に飲み干した。
「・・・今度会えたら・・・何時か・・・会える時が来たら・・・俺は・・・ティルの事をもっと解ってやれるだろうか・・・」
「・・・・・・・・・」
何処か遠い想いに心を馳せて嬉しそうなフリックをビクトールは
見つめて眉を潜める。
《・・・こいつは・・・きっと気付いちゃいないだろが・・・》
でもそれは癪なので知らない振りをしておく。
《・・・まぁ・・・それも・・・運命って奴か・・・》
それはそれで見ている自分としては面白くていいかもしれないと、ビクトールは秘かに思う。
「あ〜こんな所に!!」
その時、フリックの姿を見つけてニナが黄色い声を上げた。
「・・・げっ・・・ニッ・・・ニナ・・・」
フリックは慌てて立ち上がると隣で笑うビクトールを激しく睨みつけた。それでもビクトールは笑って楽しそうだ。
「わっ・・・笑い事か」
「まぁ・・・ニナちゃん可愛いし、観念しろや」
「〜人事だと思って〜」
フリックはニナから逃げる様に、酒場を後にしていった。ニナもそんなフリックの後を追っていった。
「フリックさ〜ん」
フリックは酒場を出て追いかけて来るニナを巻く為に、池近くの木の陰に隠れて息を殺す。
「フリックさ〜ん、逃がさないから!」
ニナがキョロキョロと辺りを見回し、いない事を確認して城の中へ消えるとフリックはホッとため息をついた。
「・・・全く・・・ニナにも・・・困ったものだ」
何気なく空を見上げると何時しか夜が明けようとしていた。
フリックは城の外壁の展望台へ向かうと少し小高い場所から昇る太陽をだだ見つめていた。
「・・・・・・・・・」
暖かく包む太陽の光は一瞬で人の気持ちを優しくしてくれ、それはフリックにティルの事を思い出させた。
《・・・ティル・・・》
彼は太陽の様に、多くの人間の心を優しくさせる、不思議な存在。
「・・・又・・・会いたい・・・」
会いたい・・・もし・・・運命と言う物があるのならば・・・そして・・・もし・・・自分とティルに運命があるのならば・・・
「・・・ティル・・・会いたい・・・お前に・・・」
3年間・・・一度だって忘れた事はない、いや、日に日にこの想いが募っていく・・・このティルを考える時の胸の痛みの理由が知りたい・・・きっと・・・会えれば解る・・・答えが出る・・・全身に太陽の光を浴びながら、フリックは目を閉じてティルへの強い想いに身を馳せる。
「・・・・・・・・・」
フリックの姿を見つけて後を付けて来たニナはただ黙ってフリックの姿を見守り続けるが、その心は激しい動揺だ。
誰かを想っていてそれは、自分の知っているオデッサさんでは無い事はフリックのあの表情をみれば嫌と言うほどに解る。現在進行形の想う人がいる。
《フリックさん・・・》


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藤萌 和里 [MAIL] [HOME]