小説・物書きさんの作品v


あなたにあえないことがこんなにも

カット


2003年12月08日(月) 『コイシイヒト。』 3/藤萌 和里



夜になって、見舞いに来たビクトールは心配そげな僕に、にやにやと笑いながら『あるコト』を耳打ちした。
あまりの事に、顔が赤くなってしまうのを止められなくて。
からかわれてるのだとしても、それでフリックの熱が下がるのなら…とも思った。
見舞いに、とビクトールが持ってきた果実酒を景気付けに…と勧められて、一緒に一杯だけ飲んで。

 『…じゃあ、後は頼んだぜ?』

背を向けながら、手をひらひらさせてビクトールは出て行って。
ほんの少しだけ、酔いが回ってしまった体でフリックの顔を覗き込む。
瞳を閉じていても尚、端正な顔。
フリックの瞳がとても好きな分、見る事が叶わないのが辛くて。
普段なら照れくさくて、恥ずかしくて真正面から見据えるの少ないのに…ね。

 「……フリック」

この部屋に入ってから、何度口にしたか判らない名前。
その度に返って来ない声に泣きそうになってた。
瞳も声も、フリックを彩る総てを愛しているのだと改めて認識してしまっていたから。

 『後に残される奴の気持ち、俺は知ってるから。
  …だから、俺はお前を残しては逝かないよ』

この城で再会して暫くした後で言ってくれた言葉、は約束、だったんでしょう?
約束は守られる為に、守る為にあるの、忘れていないよね?



 「……ティア?」


不意に名を呼ばれて、慌てて声がした方を向くと…大好きな菫青色の瞳。


 「………フリック?」



涙が、零れ落ちてしまう。声を聞いただけで、瞳を見ただけで。
ゆっくりと差し伸べられる手。涙を拭ってくれる指。

 「ごめん。心配、かけちまって。
  本当は遠征から戻ったらすぐに迎えに行くつもりだった」

上体を起こして、そう言って優しく抱きしめてくれたから、僕もフリックの背中に手を回して、ぎゅっ。と抱きついて。

 「…訳、は聞いたから…体、苦しくない?」
言葉がいつもより途切れ途切れになってしまうのは仕方が無い。
フリックは僕の背中をぽんぽん。と叩いて。

 「……熱より何より、お前に会えないのが辛かった。
  目が醒めた時に、ティアがいたから…夢かと思ったよ」

 「莫迦…夢、なんかじゃ、ないよ?」

そっと背を伸ばして、触れるだけのキスをして微笑んでみせる。
触れた先の唇はまだ熱を持っていたから、心配だけど。

 「…確かに。夢だとしたらかなりの大盤振舞だ」

くすっ。と苦笑いを浮かべながらそう言うフリックの頬を軽く抓ってから、棚に置いてあった丸薬を口に含んで、水差しを取って。

 「………大盤振舞の、ついで」


生温くなってしまっている水を含んで、薬を口移しで飲ませて。
まだ微かに残っている酔いに任せて、そっと耳元で囁く。

 「………体に熱が篭ってるの、外に出したら治るんだって」

誘ってるみたいで恥ずかしくて、どうしても瞳を見ては言えなかったけれど…いくらフリックが鈍くても、意味…判ってくれるよね?
僕の背中に回されていたフリックの腕が止まって、僕はゆっくりと息を吐いて。


フリックが深呼吸を二回程するのが聞こえて。


 「……ティア?それって………」

途中で言い澱んでしまう事さえも、如何にもフリックらしくって。
大丈夫。と心の中で唱えて、僕も深呼吸して体を預けながら答える。

 「お互い、こういう事でもないといつまで経っても出来ないだろ?
  ってビクトールにも言われたしね。
  …それともフリックは、こんな形では…嫌?」

ビクトールに言われた言葉で、ルックが口にした言葉が結びついて。

確かにこういう切欠でもないと、僕等はまだしばらく事が進まないだろうし…と思ったのは事実。
でも、何よりもそれでフリックの熱が下がるのなら、と思ったから。
ビクトールは笑いながら『一石二鳥だと思うぜ?』とか言ってたけど。

そっと抱き締め直されて、深呼吸してる音が静かに聞こえて。
息を詰めて、フリックの返事を待っていると、優しく頬に触れてくる手。
微かに触れる吐息。

 「……ごめんな。
  もっとちゃんとお膳立て、してやりたかったんだけど」

心底、申し訳無さそうな声だったから、思わずくすくす笑ってしまう。

 「………莫迦。フリックにそんな段取り、期待してなかったよ」

見上げて逢った瞳は、優しかったから…だから、大丈夫。
ゆっくりと瞳を閉じて、愛しい恋人からのキスを待つ。
深呼吸、三つしてる間に降りて来るよね?



 「…愛してる、ティア」




……ほら、ね?





優しくて熱い夜が過ぎて。当たり前の様に朝は来て。
そっと瞳を開くと、何よりも愛しい人の優しい笑顔に逢って。
熱が下がった体にそうっと抱き締められて、ふんわりとくれるキス。

 「……おはよう。ティア」

欲しかったのは、こんな朝。
          欲しかったのは、こんなキス。

幸せすぎて、くすぐったい気持ちで微笑ってキスを返して。

 「おはよう。フリック……愛してる」




同じ空を見ていたい。
          同じ時を、同じ場所で過ごしたい。

…それは我儘ではない、と教えてくれたから。
 他の誰でもない、恋しい、あなたが。







…という訳で、実はこの話がうちのフリ坊のお初話だったりします……最中シーンは相変わらず書かないでいる辺り、うちの兄さんと同じ位、情けないですが(苦笑)

この話は川原様がご企画・発行されていた『フリ坊小説アンソロジー企画本(Kiss in the sky)』に書かせて頂いた話です。
その後、ご了承を得て私のサークルで発行した『恋桜』にも転載しました。
本当はこの話はWebにはアップしないつもりでいたのですが『フリ坊同盟』に新しく設置した『小説・物書きさんの作品』のテストでアップしました。

他の皆様の作品、楽しみにお待ち致しておりますv

 追記・うちのフリ坊話を初めて読んで下さった方へ>>

 ……す、すみません。うちのフリ坊話ではもれなくルックが出てきています。
 下手をすると兄さんの出番より多い位、出番が多いんです(大汗)

 前。  目次  次。


藤萌 和里 [MAIL] [HOME]