同じ空を見ていたい。
そう、思うのは間違い?
同じ時を、同じ場所で過ごしたい。
そう、思うのはただの我儘でしか無い?
……少し位、我儘になって丁度いい位だと思うけど?
欲、は必要だよ。僕等が生きていく為にはね。
夏の陽射しは日に日に眩しさを増していて。空はひたすら紺碧。
目を閉じていても判る木漏れ陽。そよそよと流れる涼風。
…それなのに僕の気持ちは鬱陶しい位、滅入っていて。
理由、なんて判ってる。しばらくフリックに会っていないからだ。
前に会ったのは半月も前。
その時にしばらくトキヤ達と遠征に行く事になった…と、聞かされた。
遠征からはもう帰って来ている筈だから…恐らくは遠征後の報告とか会議やらに追われているのだろう。
生きてはいる筈だから…その点だけは、心配していないのだけれど。
だって自分の右手は、何の変化も示していない。
彼の身に、命に、異変があったとしたら間違いなく、この紋章はそれを伝えてくる筈。
熱くて、痛くて重い感覚、はまだ訪れていないから。
『会いたい』とは思う。それこそ、心の底から。
それでも、自分からあの城を訪れる訳にはいかなくて。
元・解放軍のリーダー、という肩書は自分が思っていた以上に、重くて大きくて。
前の戦いから三年経った今でも、その肩書は消えていなかったから。
そんな自分の立場、とか、同盟軍に与える影響を考えると自ら単独であの城に行く事は出来ない。
だから、トキヤが迎えに来てくれないと僕は足を踏み入れられなくて。
………会いたい時に会えない、というのは案外辛いものだと思い知らされる。
三年前は、生死さえも確認出来なかった。
それを思えば今のこの状況は随分と贅沢な辛さ、だとは思うけれど。
「……そんな思い詰めた表情、してるんだったらとっとと来た方が
建設的だと思うんだけど?」
いきなり降って沸いた声に驚いて、声がした方向…窓辺に目を向けると、そこには爽やかな風を纏った風使いの少年が。
窓枠に腰掛けて足組みをして、腕を組んで相変わらずの不機嫌そうに見える表情で佇んでいた。
「…ルック?どうしたの?一人で、ここに?」
とん。
軽やかな音を立てて、ルックは窓枠から床に飛び降りて。
「……どの問いから答えたらいい訳?」
柳眉を顰めながら、ぴんっ、と額を指で弾かれる。
僕に対していつもよくするルックの仕草。こっそり周りを目で探ってみても他には誰もいなくて。
彼が単独でここに来たのだと知る。
いつも通りの態度、だから緊急事態ではないとは思うけれど…でも、どうしてルックがいきなりここに来たのかは判らなくて。
「…何か、あったの?」
「……何かないと僕は君の所に来てはいけない訳?
随分な言い草だね」
「そうじゃなくてっ!……そうじゃ、なくて。
来てくれたのは嬉しいけど……ルックは理由無しでは瞬間移動
しないでしょう?
だから…どうしてかな、って……」
語尾が濁ってしまう。それはもうどうしようもない事で。
思わず俯いてしまうのもどうしようもない。
そんな僕を見て、ルックは軽い溜息ひとつ、ついて。
「…どうして、って聞かれるとは思ってたけどね。
理由、は届け物のついで。
面倒なら一つでも二つでも大差ないから。
ほら、行くよ?ティアラ」
名前を呼ばれて、顔を上げると目の前のルックは苦虫を噛み潰したみたいな表情で、僕に左手を差し出していて。
「……行くよ、じゃ駄目な訳?
だったら言葉、変えればいい?………おいで?」
判る人にだけ、判る、表情とは裏腹な優しさを含ませた声。
久し振りに聞いたそれ、に思わず戸惑いながらも差し出してくれた左手に自分の左手を重ねる。
ささやかな気配り、さえも嬉しく思えてしまうのだから、もう仕方が無い。