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新谷かおるになる方法 島本和彦
2004年09月09日(木)

島本和彦の本に『新谷かおるになる方法』というただならぬタイトルの同人誌があるのだけれど、これがかなりというか非常におもしろい本なのだ。実は島本氏は『燃えよペン』と『熱血アニメ店長』ぐらいしか読んだことがない。したがって、どういう漫画家なのかよく知らない。けれど、『アニメ店長』は、それが読みたいがために、アニメイトまで足をはこんで、きゃらびいを貰ってくるぐらいの労は惜しまない程度の読者であるので、たったその2作品だけで、島本和彦とは無駄に熱い漫画家なんだ、ということだけは、私も充分知っていた。

本日取り上げるこの『新谷かおるになる方法』だが、わたくしがまず気になったのは、なんといってもそのタイトルであった。新谷かおるになる方法…いったい何事だろうか、この桂冠をかざした題名は。ハウツーもののようなパロディのような内輪ネタのような、なんともへんてこなタイトルである。

それに続いて注視したのが、表紙を飾るイラストであった。
この本の表紙には4人の人物が登場しているのだが、それが、新谷氏のクレオ(クレオパトラD.C.)と新谷御代自身(ご本人がよく描いている自画像 しかもシン・カザマの波々模様の飛行服にヘルメットをかぶっている!)と島本氏のへットギア男という異色の組み合わせであったのである。
これを見た私の興味は加速度的に膨らんだ。その刹那、これはおそらくクレオを始めとする新谷キャラと、ヘッドギア男を始めとする島本キャラが共演する合同誌だろうと勝手に思い、購入することに決めてしまった。自分は島本漫画の熱心な読者ではないので、元ネタが解らなくて面白さも半減するのではないかと、心配がないわけでもなかったが、ともかく購入することにしたわけである。このようにして私はウラシマモト(島本和彦のサークル)に通販を申し込んだのだった。

ほどなくして本が届いた。本が入っていた茶封筒を引き破り、中から品物を取り出すと、早速表紙をめくってみた。するとそこには『新谷かおるになる方法』というタイトル文字と並んで、なんと飛行服を着た風間真の姿があるではないか!うわっ懐かしい、連載当時の絵だ。連載時の風間真だ。まさかこんなところに風間がいるとは、思っていなかったので、期待してなかった分ちょっぴり得した気分になる。

さらに次のページをめくると、今度はふたり鷹の東条鷹の姿が!同じく連載当時の絵である。

ここで横道にそれるが、私この東条鷹という人が大好きである。『ふたり鷹』とは新谷かおるのバイク漫画で、ミッキー・サイモンがゲストライダーとしてちらっと姿を見せたり、フーバー・キッペンベルグにそっくりな風羽(ふうば)なるライダーが登場したりと、エリ8ファンにとっても喜悦な漫画であるけれど、新谷漫画の中で誰が一番好きか?と尋ねられると、私はこの人を挙げるかもしれない。もちろんシン・カザマも好きだけど、シンの場合は、風間真だから好きというよりも、自分の好きなエリア88の主人公だから好きというところが大きくて、単体でどうこういうことはない。それに対して、東条鷹の場合は、美形・金持ち・有能、でもってちょっぴり変質的偏執的(←ここがポイント)なところなど、私の好みにぴったりなのである。やぱり美形は少々変質的…じゃなかった偏執的でないと。奇行癖があるとなおよろしい。塩沢さんはシンより断然東条鷹のイメージだよなぁ。やや変態が入った美形は塩沢ヴォイスの真骨頂ではないかと。真は別に変なところはないし。変な人でもないし。その辺がちょっと単体で偏愛するにはまで至らず、その分作品全体への愛に傾くのだろうと自分では思っている。横道終わり。

そして、その次のページに作者島本和彦からの前書きがくるのだが、ここまで読んで、私ははたと気が付いてひざを打った。

もしかしてこれ、合同誌じゃなくて、島本和彦個人誌だったのか!
じゃあ、このイラストはどっかからの再録じゃなくて、全部島本和彦が書いたものなのか?

あの風間真や、東条鷹が島本和彦の筆によるもの?まさか。しかし、いわれてみれば、新谷御代のてろんとした描線に比べ、微妙にガサガサガサとラフな力強さが感じられないでもない。オリジナルはもうちょっとしれっとしているというか、てろんとしているとうか、しんなりというか、ようするにデッサンが崩れがちだったよーな気が…。なんかこっちのほうが絵が整っているよな気がするんだよなぁ、うん。…ハッ!俺は何を書いているんだッ。俺のバカバカバカッ。
どうにも、自信がないので言い切ることは出来ないが、もし仮にそうだとしたら(自信なし)すげぇ…。絵だけじゃなくって漫画まである。アシスタントさんが書いたモブキャラなんかだど、描線の違いが出ちゃって気になることがあるんだけど、これはよく似ているといっていいのではないだろうか。巧いよ!

もういってしまおう、ようするに、この本は一冊丸々新谷かおるヨイショ本なのだ。

一冊フルに使って、新谷かおるの漫画のおもしろさや、いかにメカがいきいきとしているか、ストーリーが光彩を放っているか、台詞に深みがあるか、ウンチクの含蓄量が多いか、さらには人となりが魅力的なのかを、口角泡を飛ばしながら、島本和彦が延々と熱く語っているというか叫んでいる(だけの)本なのである。

その内容は、このサイトのようにただの感情論と印象論に終始するのとは違い、松本アシスタント時代の逸話を再現した漫画に始まり、夫人である漫画家の佐伯かよの氏との関係を示した相関図、新谷漫画のコマを実際に引用しながら女性キャラの台詞を検証、交流のある島本だから書ける制作秘話や裏話、さらにはテクニックに始まり新谷漫画のその真髄にいたるまで、多岐にわたる。
表現の仕方も、イラストあり、漫画あり、図あり、文章のみとバラエティーに富んでいて、実に盛りだくさんである。
そして全てに共通していることに、そのすべてが熱い、とにかく熱い、無駄に熱いのである。おかげで私のレビューアー魂に火がついた。中でも私が唸ったのが、トークのページであった。この本には、見開きで2ページ、すべて文字のみのページがあるのだが、これが読んでいて、辛いラーメンでも食べているような錯覚に襲われる熱さなのである。ようするに早く読まないと麺がのびちまうから早いとこ読んじまわねぇと、と気ぜわしさを要求する文章なのだ。いや、熱いというより、騒々しい、騒々しいというより、五月蝿い、五月蝿いというよりやかましい、そうやかましいというのがぴったりくる文章なのだ。
この人は、漫画だけでなく、文字だけでもこんなにもやかましいのかと、私は感心してしまった。
今日の私の文章がやかましいのはたぶんそのせいです。

基本スタンスが、新谷かおるをヨイショするところにあるので、ファンの人には得るところが多い本になるであろう。逆にそうでない人には益のある本にはならないかもしれない。私は島本センセの意見に共感するところが多く、はじめて知った裏話もあって、得るところが多い本であった。特に女性キャラのキャラ立ちに関しては、全く同意見である。

なお、最後になるが、題名どおり“新谷かおるになる方法”についてもきちんと詳述されている。その方法とは、70頁にもわたる本書を読んで新谷かおるについて学習し、仕上げに新谷かおるのサインをなぞって、その筆跡を習得するというものであった!

さあ、諸君も本書を読んで、新谷かおるについて学び、先生のサインをマスターしよう。

外泊証明書だ、これにサインしろ!



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