(仮)耽奇館主人の日記
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ある小説にこんなのがある。 そこの店での「特別料理」を目当てに、連日通い詰めるグルメ。 でもなかなか食べさせてもらえない。 代わりに、他の、それでも十分素晴らしい料理を食べて、これよりも天上の味わいとされる「特別料理」とは一体どんなものだろう、と夢想する。 そして、何年か後。 グルメにいよいよチャンスが巡ってきた。 「特別料理」を食べる資格を得られたというのだ。 オーナーシェフはいつも以上に愛想のいい、慈愛たっぷりの笑みを浮かべて、グルメを厨房へと連れていく。 その肩に手を置いて、肉の感触を確かめるように柔らかく力を込めて。
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この一遍は、確か、スタンリイ・エリンの「特別料理」だったと記憶しているのだが、グルメの運命をわざわざ説明するまでもなかろう。 この作品を思い出しながら、私は記念すべきご馳走を食べた日は、こうして「特別料理」と銘打って書き残すことにした。 今夜は、フミ先生からの愛の贈り物、飛騨牛の牛肉セット。 国産の肉牛、しかも霜降りである。 おまけに、ロースのうすぎりの盛り合わせに、分厚いステーキが四百ポンド前後。 最近、風邪で体調を激しく崩したのを心配してくれて、おニクを送って下さったわけなのだが、大変感激しましたでございます。 早速、ステーキはそのまま、熱したステーキパンでさっと焼いて、レアに。 摩り下ろしたにんにくを乗せて、ステーキソースをたらたらと。 付け合せに、にんにくの芽とたまねぎを炒めたのを。 うすぎりは、冷凍かまして、近々焼肉で。 我ながら、極上の、ステーキを焼き上げて、長崎方面に向かって合掌した後、ニヤッと笑って、フォークとナイフで切り分けてみる。 レアだけに、血の滴るような、美しい赤色が現れ、それを凝視したまま、ぱくり。 ナイフで切った時も肉の柔らかさに感動したのだが、噛みしめた時もとろけるような歯ざわりに、ちょっと目が潤んだくらいである。 レーズン入りのクロワッサンを食いちぎって、神の河の水割りで口を洗う。
美味い・・・
私も色々なステーキを食べてきたけれども、自分の手料理ながら、こんなに美味いステーキはちょっとここんとこなかったくらいである。 素材が素晴らしいんだな、うん。 オージービーフや、アメリカものと比べて、国産の何という、品の良さ。 脂がしつこくないし、肉の味もそんなにいつまでも残らない。 水割りを飲む度に、霧散して、またまっさらな肉の味わいが楽しめるという嬉しさ。 そして、グルメはあまり表立ってやらないが、私はあえて書こう。 食べきった皿の、肉汁をきれいに腹の中におさめるために。 クロワッサンで拭き拭きしながら、食べるのである。 実は、ステーキの真のうまみは、この肉汁なのだ。 それゆえに、レストランではあまり出来ないだけに、自宅で思う存分味わえて、私は非常にゆったりとした笑みを浮かべられた。 さあ、「特別料理」も食ったことだし、明日も頑張るぞ。 今日はここまで。
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