ピンポンと鳴ってドアを開けると 郵便屋さんが荷物を差し出した けれどそれは覚えのない 横文字が並んだものだった 咄嗟に送り主を確かめようとしながら まったくこのご時勢 海外から新手の送りつけ商法かと 一瞬怪しんだのだが ファーストネームを見て判明
それは トルコ在住の日本人女性で 現地から本物のキリムを販売している 実はわたしのキリム熱はずうっと冷めやらず いろいろ調べて解っていくにつれ 一般的なキリムよりはむしろ 織りが凝ったものや 刺繍が施されたものの方に 魅力を感じていた
届いたのは 遊牧民族バルーチの手によるもので 自然そのままのこっくりした色合いと スザンニという織りが素敵な ソフラ(食卓)と呼ばれる一枚だった 高価でとても手が出なかったのを 友人がプレゼントしてくれたのだ
いいなと思うものは これまでいくつもあったけれど どちらかといえば地味な印象のそのキリムは 広い大地と厳しい気候の中で生きる人々の 営みの確かさや力強さに満ちていた ぎゅっと詰まった密な織り目に 入り込んだ土埃が そういう日々の生活を物語っている
縦糸は恐らくラクダの毛で そのままの野趣な風合いを残した チャコールグレーの房が端に結ばれ 横糸は茶や紺や深緑や臙脂と 染め分けられた糸の他に ナチュラルなベージュで 流れる水や魔よけやお守りなど さまざまなモチーフが織り出されている
60年使われたという いい感じに褪せた表側と 出来上がった当時を彷彿とさせる 鮮やかな裏側 沢山踏まれているはずなのに 全く磨り減っていないしっかりとした厚み 冬も夏もそのまま敷いていられるというのは そういう季節を逞しく生きる 動物達からの贈り物だから
さあこれから ミシンを掛けるその下に敷いて このキリムのちからをいただこう これから何年このキリムとともに歩めるだろうか 40年経って アンティークキリムと呼ばれるようになっても きっとこの風合いは変わらない けれどそこには わたしの生きる年月が加わっていくのだ
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