愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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いつの間にやら期末テストの時期に。真田はテスト前後に郭とまた勉強できたらいいな、と思ってはいたんだけど、連絡できず。郭は、家庭教師のバイトがまあまあ大変になってきた。高校入試までそんなに間がない。郭が教えてる中三の子は、D高が狙える成績ではあるけど、余裕というわけではない。その子も親も、絶対的にD高を希望していて、かなり郭を頼りにしてる。「どうしても受かりたいんです。受からなければならないんです。お願いします」と、子にも親にも頭を下げられ、郭は、家庭教師のバイトを引き受けたことを後悔していた。そのせいで、自分の勉強に支障が出るようなことはないが、とにかく気が重い。荷が重い。 テストは終わり、真田は、古典の出来が今までになくよかった。郭のおかげだな、と思う。そのことを伝えたいんだけど、やはり連絡できない。郭は、コンビニに寄ることもあるんだけど、真田が入ってるはずの曜日に行っても、会えない。別の曜日に入ってるフリーターの人の都合で、真田は一時的にシフトが変わっちゃってるんです。真田はなんとなく、もうこのまま郭とは疎遠になってしまうような予感がしてた。必死といってもいいくらいの勢いで繋がりを作ろうとしてた(図書館とか、郭の家に行ったときとか)のが嘘みたい。いや、あのときの必死さがあったから、今は諦めがつくというのもあるかも。一方、郭は、真田にしばらく会わないと、寂しいような、物足りないような、味気ない感じなんだ。連絡すればいいって思う。バイトいつ入ってるのか聞けばいいし。でも、聞けない。聞けばいいのに。 そんな感じで顔を合わす機会のないまま、冬休みに突入しちゃう。 12/24の夜のこと。雪が降ってきた。郭は、家庭教師先の家の窓から、雪を見る。中三の子は、雪に気付いてない。気付いたとしても、雪なんてどうでもいいだろう。 真田は、未だにシフトが狂ったままで、本来出る曜日じゃないけど、クリスマス・イブの夜にバイトしてる。ゴミを捨てに外に出たとき、雪が降ってきた。 (あ、雪…! 郭は、今、どこで何してるんだろう。雪が降ってるのに気付くかな?) 真田が、バイト上がって、店を出ようとしたときに、入店してきた客が。 「…郭!」 郭は、ちょっと息を切らせてる。家庭教師が終わったらコンビニ寄ろうと思ってたんだけど、勉強の後で、教え子の母親から色々相談をされたりしてるうちに時間が経ってしまい、もし今日真田がシフト入ってたとしてもバイト終わって帰ってしまう…、ってことで、慌ててコンビニに来ました。 「おつかれさま。悪いけど、15分くらい時間ある?」 「えっ、うん、全然大丈夫」 この寒いのに、近くの公園でマチカフェしちゃうよ。真田はバイト上がった後だったので、入れ替わりで入ったバイトの人がコーヒー淹れたよ。雪はとっくに止んでます。ちなみに二人ともカフェラテ。真田は郭に、紅茶もあるよって言ったんだけど、郭は真田と一緒のにした。 ベンチに座って、二人でカフェラテを飲む。真田は、郭が何か話すのを待ってたんだけど、何も言わないので、自分から。 「期末テスト、古典、出来たよ。えい…、郭のおかげで」 英士、って呼びそうになった。 「英士でいいよ」 「…じゃあ、俺も、一馬で」 「国語以外は?」 「あー、英語が悪かったかな…。長文が全然駄目だった…」 「そう。期末どうかなって、気になってはいたんだけど、ちょっと時間が取れなくて」 「いやいや、それはもう。気にしてもらってただけで、ありがたいというか、なんか、すみません」 そしたら郭が、ふっと笑って。 「かたいよ、一馬」 あっ、ほんとに、一馬って呼んだ。真田はなんか感動する。 「う、うん、そうかな? そうかも?」 「次は英語をやろうか」 「うん…ありがと…」 あー、次が、あるんだ、って。真田は、信じられないような気持ちになる。 「あ、今日、雪、降ったな」 「そう。…一馬が、バイト先で、雪を見てる気がして」 「うん、見てた」 「行ったら、会えるかと」 「…うん」 「それで、一緒にコーヒーでも飲めたらいいかと思って。それだけなんだけど」 真田は、なんだか頭も胸もいっぱいのような、空っぽのような、言い様のない気持ちになって、何も言葉が出てこなかった。 「遅いし、そろそろ帰ろうか」 郭が腕時計を見た。ちょうど15分経っていた。 「うん、英士、ありがとう」 「いや、こちらこそ」 「ううん、いや、ほんとに。なんかほんとに、すごい、嬉しい」 嬉しい、という言葉ではとても言い表せない思いなんだけど、相手には、嬉しい、としか言い様がない。 「初めてコンビニのコーヒー飲んだけど、思ったより美味しいね」 次は俺が淹れたい、って真田は思った。淹れるといっても、ボタン押すだけだけどね。 郭は、近くのゴミ箱に、空いたカップを捨てたけど、真田はなんとなく捨てるのが惜しくて、持って帰りたい、って思った。でも、郭に続いて捨てました。
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