愛なき浜辺に新しい波が打ち寄せる
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2015年03月23日(月) コンビニネタ15

 真田は覚悟を決めて、一人で行くよ。手土産は、母親の手作りクッキーです。パンにしようかケーキにしようか何にしようかと悩んでる母に、クッキーでって、真田が言った。若菜は何でも食べるけど、郭の好みが分からない。なるべく無難なものにしたかった。そもそも、母親の手作りのものを持って行くのは気恥ずかしいんだけど、張り切ってる母親に悪いし、若菜母が、真田母の作るものが大好きなんです。真田母は、パンやお菓子作りの趣味が高じて、自宅で教室を開いたりしているよ。母が、若菜家宛の手土産も持たせたので、真田は、先に若菜家に寄る。インターホンを押すと、若菜母が出てきた。
「ごめんね。一緒に英士君のとこ行くことになってたんだって?」
「あ、一馬だ! なんか美味しいの持って来た?」
「こら!」
 まあまあ年の離れた若菜の弟(小2)も出てきた。若菜には、姉と弟がいます。
「あ、これ、皆で食べて下さい」
「うれしい! ありがとう!」
 弟にも、食べてな、と笑顔で言う。
「やったー! お母さん、今食べたい、すぐ食べたい!」
「後でね。一馬君のお母さんの作るお菓子は、ほんと美味しいもんね」
 若菜は、若菜の姉とそっくりで、二人とも母親似なんだけど、弟は父親似で、若菜にはあんまり似てない。弟は、人懐っこく、素直で、兄(結人な)のように、要領がいい感じではない。結人が小さいときと全然感じが違うな、と真田は思ってて、弟のことを可愛いと思ってる。こんな弟ほしいな、と思うこともある。真田は一人っ子だよ。
「あ、兄ちゃん、今日、彼女とデートだって」
「…へー、そうなんだ」
 そういう理由なんだ!? 彼女の話とか、全然聞いてないけど。
「もー、それって、言っちゃっていいやつ? まあいっか。ほんとごめんね、一馬君!」
「いえいえ…。ところで、郭君のお宅は、1103で合ってます?」
「ん? うーん、多分! そんな感じ!」
 えっ…。一階には、部屋番号の一覧はあったけど、名前はなかったから、不安なんだけど。真田の心配を読み取ったのか、「ちょっと待ってね! 確認してくる」と、一旦中に戻り、しばらくしてから戻って来る若菜母。
「合ってたよ! いってらっしゃーい」
「バイバイ、一馬!」
 早めに着いたので、まだ時間に余裕がある。5階から11階まで階段で上がることにした。
(い、意外としんどかった…)
 約束の時間まで、まだ間がある。10分も。しばらく待とう。はーー、緊張する。…どうしよう。どうしようって、ここまで来といて、どうしようもこうしようもない。しばらく待って、インターホンを鳴らすだけだ。でも、どうしよう…。あ、9分前。って、1分長っ! 一旦、一階まで戻ろうか。いや、それもなあ。…中の音、聞こえるかな? いやいや、まさか。なんやかんや考えつつ、ドアに耳を付けようとしたとき(もはや不審者)、
 ガチャ、と、ドアが開き、
 ゴンッ、真田の額にドアが当たってしまいましたとさ。まあまあなぶつかり具合だったよ。真田は、衝撃で、クラっとした。
「!!」
 大概のことでは動じない冷静な郭だが、予想外の出来事に動揺した。郭は、一階に降りて真田を待ってようと思ったのです。若菜家に寄ることは知らなかったよ。
「ごめん! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫…」
 二人共、うろたえながらも、とりあえず中に入り、リビングへ。真田は、痛む額を押さえながら、綺麗にしてるな…、と郭家について思います。綺麗にしてるというか、物が少ない。モデルルームみたいに、生活感がない。若菜家と同じ間取りとは思えない。
 郭がすぐに氷嚢を用意して、真田に渡す。
「ありがとう」
「ごめんね。確認せずに勢いよく開けたからこんなことに…」
「いやいやいや、俺が悪いので! こちらこそごめんなさい…」
 ドアに顔近付けてたから…。
「ほんとに大丈夫?」
「うん、全然大丈夫」
 恥ずかしいし、情けないし、申し訳ないんだけど、このアクシデントのおかげで、何を話せばいいのか分からずシーンとなる…という事態が避けられ、間が持ったぞ。とか、ポジティブに考えてみたところで、気まずいことに変わりはなく。
「あっ、これ、よかったら」
 手土産を渡すのを忘れてた。
「気を遣わなくていいのに。でも、ありがとう。…手作り? お母さんの。結人から聞いたことあるよ。お母さん、教室開いてるんだってね」
「いや、うん、最初は趣味でやってただけなんだけど、いつの間にかそんな感じになっていたというか…」
 郭に何を飲むか聞かれ、真田は、何でも、と答える。
「コーヒーか紅茶かお茶があるよ」
「郭と一緒でいいよ」
「俺は紅茶にするけど」
「じゃあ俺も紅茶をお願いします」
 それで、紅茶を飲みながら早速クッキーを食べます。郭が美味しいと言って食べるので、真田はホッとする。
(甘いもの、食べるんだ…)
 旨辛豚キムチ味のカップ麺のせいか、辛党のイメージがついてた。辛いのも甘いのもいける人もいるが、どうも郭がお菓子を食べてる様子を想像できなかった。でも、今、真田の目の前で食べてる。お互いやっと、人心地ついた。
「あっ!」
 大事なこと言うの忘れてた。
「何?」
「図書館で教えてもらった問題と似たようなの、テストで出た! ほんとに出たからびっくりした。もちろん、郭のおかげで、解けたよ。ありがとう!」
 真田が、ちょっと興奮気味に、ほんとに嬉しそうに言うから、郭はなんとなく気圧されて、でも、正直悪い気はしないし、胸が少し温まるような感じがして。
「どういたしまして」
「…あの、実は、俺…」
 何を言われるんだ? と、郭は少し身構える。
「数学より全然、国語と英語が苦手なんだ。特に国語、っていうか古典が」
「…うん」
 なんだ、勉強の話か、と郭はホッとする。
「それで、ちょっと今から教えてもらうことできる? 中間テストなんだけど。古典、ほとんど点が取れなかった。解答見ても、なんかピンとこないし、先生に聞きに行くにしても、うちの古典の先生の授業、分かりにくくて…」
 郭の返答を待たずに、真田はバッグから、テスト問題と答案やらルーズリーフやらペンケースを取り出して、机に置き始める。そして、ふと、
「あっ、ごめん、俺、なんか、勝手に。迷惑?」
「いや、勉強熱心だな、と思って」
 D高生に言われると、なんか嫌味だけど。
「えっ、いや、そういうわけでは…」
「いいよ。俺も古典は出来る方じゃないから、お役に立てるかどうかは分からないけど、一緒に考えるよ」
 真田の国語のテストの答案は、古典が見事に☓だらけ。
(答案見られるの、なんか恥ずかしいけど、学校違うし、教えてもらうんだから仕方ないな…)
 この古文どう解釈したの、と聞かれ、真田の考えた訳を話すと、斬新だね…、とか言われました。ちなみに、漢文はもっと斬新な解釈をしてました。まあまあな時間をかけ、郭に古典を教えてもらいます。真田は、古典が嫌いなんだけど、ちょっと面白いかも? という気になってくる。
「なんか、分かってきた!」
「それはよかった。俺も勉強になったよ」
 あ、優しい。これは、気を遣ってくれてるんだな。この優しさに、甘えちゃいけない、もう迷惑かけちゃいけない、いい加減にしろって思われたくない。なのに…。
「郭、ちょっと、俺、お願いがあるんだ。結人から、中三の家庭教師してるって聞いたんだけど、同学年の、つまり、俺の家庭教師をしてもらうことってできる? 週一でとか、何曜日の何時とかじゃなくて、都合が合うときだけでいいんだ。当然、時給払うよ。俺の、バイト代で。なので、お願いします。…あ…、もちろん、無理なら、断ってくれていい、です」
 郭は、顔には出さないものの、気圧されている。真田があまりに一生懸命に言うから。ほんとはこんなお願いができるような人じゃない、相当な勇気を出して言ってる、というのが伝わってきて、たじろいだ。
「…結人からどう聞いてるのか知らないけど、家庭教師というか、近所の子の受験勉強の手伝いをしてるだけだよ。その子の志望校がD高だから役に立てるかなと。それで、親の知り合いで、個人経営の塾をやってる人がいて、その人を通して契約してるから、時給が発生してる、という。か、」
 一馬、と言いかけて、一瞬止まった。若菜がいつも、一馬、って呼ぶから、うつっちゃうんだよね。
「真田からお金を貰って勉強を見るというのはできないよ」
 じゃあ、うちの親がその塾と契約すれば問題ないってこと?
 と、真田は思ったが、それなら郭はそう言うだろう。できない、と言うのなら、できないのだ。落胆よりも、やっぱり…、という気持ちが大きかった。
「…そうだよな、無理なこと言ってごめん…」
 言わなきゃよかった、と思ってる? 郭を困らせただけだし。それはもちろん思ってる。でも、言ってよかったと思う気持ちもある。無理でも、駄目でも、迷惑でも、一応言ってみてよかったと。こんな…、こんなタフさが、自分の心にあったなんて。
「契約とか抜きで、こうやって、たまに一緒に勉強するのでいいなら、問題ないよ」
「…………えっ!」
 そんな、それって…。
「たまには人と一緒に勉強するのもいいかもしれない」
「ほんとに!?!?」(まあまあ大声)
「うん。
 クッキー、美味しかったしね」
(……!)
 甘いもの、嫌いじゃないんだ。それとも、社交辞令? でも、それでもいい。
「また何か持って来るよ」
(お母さん、ありがとう。そしてまたお願いします!)


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