再び創作小説の世界です。 もし良ければ、ここが好きとか悪いとか、批判とかしてもらえるとうれしいです。 自分ではわかんないので!笑 ************************************ 【一瞬の】 それは、とある秋の、水曜日の午後のことだった。 たまたま会社がお休みで、夕方、ちょっと街に出て買い物をして、 休憩休憩。と思いつつ、結構昔からある雰囲気のいいカフェに入った。 そこで、思わずひとりだったせいもあり、「あー、これからどうしようかな」 なんてちらっと考えながら、カプチーノなんて飲んでいた時。 その「どうしようかな」の裏には、今日のこれからの予定だけではなくて、 人生的なこともある。
そう、そんなことを、ぼんやり考えていたときに。
カランと音がして、店の入り口のドアが開いて。 照明を抑えめにしてある店内に、駆け込むように入ってきた20代後半くらい、 同世代くらいの男の子がいた。 目が合う。 一瞬で。 「・・・あ、」 「・・・鳥野さん?」 先に私の名前を呼んだのは、彼の方だった。 そして私も言った。確かめるように。もう、目を合わせた瞬間に記憶は フラッシュバックして、彼の名前なんて、はっきりと判っていたけれど。 「吉井くん。」と。彼の名を。
高校生のときに、好きだった子だった。 高3で、受験生だった。 友達みたいに、よく授業中に喋ったりしていた。 どんどん好きになって、卒業前に告白して、玉砕した。 まあ、よくある話なんだけど。 あまくて、ちょっと苦い、かわいい思い出だ。と思う。
ここ座っていい?と確認してきた彼に、どうぞ、と言った後で。 「なつかしいねー」 と、私が言った。 「何年前? 10年前?」 ちょっと笑って私の目を見て、彼が言った。 ああ、これこれ。と思う。 このまっすぐな視線が痛いくらいに好きだったのだ。そう、もう10年も前に。 「10年!早すぎてびっくりするね。でもそうだよね」 「ほんと、あっと言う間だなー。10年一昔、とかよく言うけど」 呟くように彼が言った。 「元気? 今日は仕事の途中?」 黒っぽいグレーの背広姿の彼にそう訊くと、そう、と笑った。 「仕事中なんだけど、なんかバラバラ雨降ってきたから。 ちょっと休憩するかと思って入ったところに、鳥野さんがいた」 「すごい偶然だね。仕事って営業?」 「そう。営業。・・・そっちは? 今日は仕事、休み?」 「うん。月一で平日に休み取れるのね」 「ふうん。・・・あ、オレ、コーヒーください」 さりげなく、傍を通ったウェイトレスの女の子を見上げてそう伝える。 そのタイミングの良さを見て、うわ。と思う。 なつかしすぎ。変わらなさすぎ。こういう、タイミングすごくいい感じが。
外は、秋なのに珍しい、急な嵐で。 強い風に、木が折れそうに、しなっていた。 葉がぱらぱら落ちて、風に乗って道路の向こう側にくるくる舞って飛んで行ってた。 ガラスに、雨がつよく音を立てて当たる。 「外、急にすごいことになってるね。風も雨も」 「そうだね。だから仕事になんねーと思ってさ」 二人で、10年振りで偶然に会って、外を眺めて天気の話をしてるなんて不思議だなあと。 そんなことを思っていた。 ふと思いついて、私が言った。 「でも、カッコいいよね、こういう嵐とか」 「そう?」 「うん。なんか・・・台風とかすごく好き。雷とか。ドキドキするよね。そんなことない?」 無意識に、そんなことを言った。 そのとき。 かなり気のせいかもしれないけれど、 二人、世の中から隔絶されているような感じがした。 静かな店内、ピアノ曲が低めのトーンで流れて、他に客もそんなにいない。 窓の外の雨音が、より強く響く。 そんな、とりのこされたような感じがする中で、吉井くんが低い声で言った。 今も昔も、びっくりするくらいに魅力的な声をしていると思う。 魔力を持ってるんじゃないか?って。 そんな錯覚。 「ぜんぜん・・・変わらないな」 「・・・何が?私が?」 「そう」 「かなり太ったよ。当時よりも」 「いや、そういうことじゃなくて」 即座にそう言う。 瞬間、ああ〜変わんないなこの人こそ!と思う。 昔。高校のとき。 授業さぼったり、休み時間に隠れてタバコすったりして多少突っ張ってるように 見えている子だった。 だけど。 ふとした時に口をついて出る、本質的な品のよさみたいな、もしかしてフェミニスト なのかも?しれないけれど、そんなちょっとしたやさしさみたいなもの。 それに触れる度に、好きだなあ!と思った。 そんなことを、まるで昨日のことみたいに、当時の気持ちをありありと思い出した。 その一瞬で。 「なんか、あれだよね。感覚的だよね。すごく」 彼は続けた。 「感覚的ってなにそれ?」 「鳥野さん、目に入ってきたものとか、耳で聴いたものとか、そのときに感じたことを 大事にするよね」 そしてこういうことを言う。 すごくうれしくなるようなこと言う。 「そんな風に言ってもらえると、うれしいけど。・・・ありがとう」 不意にお礼を言った私に、ちょっと驚いたような顔をした。 昔の私は、こんな風に、すぐお礼を言ったりはできてなかったように思う。 だから彼も、そんなびっくりしたような表情をしたんだろうか? わからないけれど。 「でも、・・・人間、そう簡単に変わったりしないよ」 私は言った。 「うん。そうだな」 「吉井くんは変わった?」 「オレ?」 「うん。」 「さあ・・・自分ではわかんねー」 そう言って、運ばれてきたコーヒーを、ブラックのままで一口飲んだ。 「そういうモノだよね」 考えながら、私は言った。 「私も自分ではわかんない。良い方に変わろうって思うし、 たとえば前の失敗繰り返さないようにしようとか、思っても、 同じことやっちゃって反省したりすることってやっぱり結構あるから。 でも、なんか、聖人君子じゃないんだから!なーんてことも思うし」 ははっ。と笑った。私の言葉に。 あ、この笑い方!って思う。 いまのもう一回やって。って。 昔、よく思ってた笑い方だった。 「なに、その聖人君子じゃないんだからって?」 「うーん・・・なんて言うか、」 少し考えて、私は言った。 「そんな風に、どんどんいい方に変わっていったら、私の中の本当の私みたいなのが 消えて、なくなって、面白みも何にもない、綺麗事だけの、つまんない人間になる ような気がするなあって。 そういうの開き直り?かもしんないけど。結構、そんな風に思うんだよね。」 「でもそれは・・・あれだろ? そんな綺麗事って言葉が出てくるってことは、 鳥野さんが、ものごとを・・・なんて言うか、キレイなことばかりじゃなく、 いい面も悪い面も、いろんな面から見ようとしてるからそう思うんだろ? だから、それはそれで、いいんじゃねえの?」 オレはそう思うけど。と付け足して。 私は虚を突かれて、まじまじと彼の顔を見つめてしまった。 「・・・なに?」 不思議そうに、そう訊いてくる。 「なんで、そういうのわかるの?」 「うん?」 「昔から不思議なんだけど。なんか吉井くんと喋ってると、すごくびっくりする。 うまく言えないけど」 私は私でいていいんだ。って。 そんな気持ちになってほっとする。 彼は少し首をかしげて。照れたように笑った。 「さあ。オレはオレの思ったことを言ってるだけだけど。 でも、そういうのが営業成績に貢献してるのかも? 結構売上げイイから」 「そうなんだ。それはよかったね!」 かわいく自慢してくる彼に、私は笑う。 「結婚してんの?」 「いや、まだ。・・・だけど、もうちょっとしたら、するかも。鳥野さんは?」 「私はまだ探し中ー。でもまあ、もうちょっとこのままでもいいかなあって」 「結構すぐ見つかるよ」 「そうかあ? そんな気休め言わないでよ」 「いや、気休めじゃなく。予言しましょう。オレは結構すぐ見つかると思うな」 断言しちゃう彼に、今度はこっちがははっと笑った。 「じゃあ、信じましょう。そういうことにしといてあげましょう」 「ま、ものごとは気の持ちようだから」 「・・・それって持論?」 「そうそう」 笑って。まっすぐな視線でそんな風に言われると、それが本当のことのような 気がした。 「・・・あ、」 ふと、外を見ると。 いつの間にか雨がやんで。雲の切れ間から、さあっと太陽の光、差してきていた。 「・・・キレイだね」 「・・・そうだね」 ほんの一瞬。偶然に、あまりにもうつくしい風景を共有した。そんな感じだった。 「じゃ、オレ、そろそろ行くから」かたんと立ち上がってそう言う。 「そしたら私はもうちょっとゆっくりして行くね」笑顔で、そんな風に私は言った。 「そう? ・・・じゃあ、元気で」 「吉井くんこそ。 ・・・って、ダメだよ。割り勘にしようよ」 さりげなく、伝票を手にしている彼に私が言うと、聞く耳持たずにこう言った。 「売上げのいいオレがおごってあげましょう。こういう偶然、そうそうあるもん じゃないし」 「えー。そんなあ。 でも、じゃあ、私も売上げのイイ吉井くんに、素直におごられることにしましょう。 ・・・ありがとう」 「どーいたしまして。じゃーな」 「うん。じゃあね」
風みたいにして。するっと去って行った。 窓の外、このカフェの駐車場が見えて、車に乗り込もうとする彼に、ひらひらと手を振った。 向こうも夕方ちかい太陽の光の中、遠くに澄んだ青空が見える中で、私にちょっと笑って 手を振り返した。 かわいい瞬間だった。 そしてこういう、ほんの一瞬の出来事で、たすけられたり、いい気持ちになったり するのかもしれない。 そのかわいい思い出が、その先を変える何かのきっかけになったりするのかも? そんなことを思いながら、私は残ったカプチーノを一口飲んだ。 砂糖を入れていたそれは、微妙に甘く苦くて、ほんのりシナモンの香りがして、 なつかしくてやさしい気持ちにさせた。 そしてそれは、とてもいい感じがした。
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