| 2000年07月01日(土) |
【Happy day?】 |
【Happy day?】 その日、私はイライラしていた。 その原因は、我ながら子供みたいで笑っちゃうようなものだったけど。
実は昨日は、私の誕生日だったのだ。しかし、親も妹も、家族中がすっかり そのことを、忘れていたのだ。
自分からアピールするのもバカみたいな気がして、黙っていたせいも あるのかもしれない。そして18歳なんて、もう祝ってもらう年じゃないのかも しれない。いい大人? 大体私なんて、バイトでほぼ毎日家にいないような ものだし、仕方ないよね。そういうの。 ・・・なーんて思いながら、心の奥では寂しさモードで一杯、という気持ちに なっていた。子供だなあ、と思いながら、それでも。
なんだか、大袈裟なんだけど、見捨てられた動物みたいな気持ちに、一人 勝手になったりしていたのだ。
そんな中、学校にはとりあえず真面目に行って、夜。 友達でバンドを組んでる人たちがいて、その人たちのライブの日だったので、 私は街に繰り出した。
「あ、カリン! 久し振り!」 「あ、菜子。元気だった?」 会場で、声をかけてきた友人と挨拶を交わしたり、飲み物を買って飲んだり しつつ、ライブが始まるのを待つ。(参考までに、私の名前は斎木果梨という。)
お酒の匂いとか。タバコの匂い。暗いフロア。光るライト。 大音響で鳴る音楽だとか。リズムだとか。ざわめきだとか。 好きだなあ。と思う。この中でしか生きていないような気持ちになって、 バカだなあ私!なんて思う。 でもそれくらい、麻薬みたいに魅力的。なんて、同時に思っている。
「よう」 そんなことを考えていたら、ふいに背後から声がした。 低い声。 振り向くと、そこには高倉大介、通称大ちゃんが立っていた。 「あ、大ちゃん」 彼を見た瞬間、笑顔になっちゃう私は、ハタから見ると彼になついている 子犬とか、そんな感じに見えるんだろうか? もろバレだろうか。この人のことを好きなのが。 ・・・そんなこと考えながら、笑顔になるのは止められない。 そして別に、止めなくていいとも我ながら思う。
「ちゃんと来たな」 口の端で笑う、ちょっとカッコつけたその笑い方。低い声。短い髪とか。 なんか我ながら、すっかり虜だなあ。と思う。 「そりゃ来るよ。私にチケット売ったの大ちゃんじゃん」 「それもそうだな」 「あと20分で開演だよ? 出演する人がこんなとこにいていいの?」 「いや、オマエを捜してた」 そう言われて、心臓が跳ねる。 「なに?」 なんだか慎重な気持ちでそう聞く私に、大ちゃんはふと笑顔になって。 「そんな緊張するほどのことじゃないよ。打ち上げ。ライブ終わったら いつもの店行ってな。菜子ちゃんも」 ふと隣にいた菜子の方にも視線を流してそう言う。私たちは二人で頷いた。 「チャールストン?」 大抵、打ち上げで使っているレストラン&バーの名前を挙げると、 大ちゃんは、そう。と言って、じゃあな。用事それだけ。と、あっさり ライブのために去って行った。
そして、ライブがはじまる。 “C・J”という名前の、その大ちゃん達のバンドが演奏している所を見る。 ボーカルは、タカヒロくんという子で。大ちゃんはベース。ギターは槙くん、 ドラムは太郎ちゃん。4人編成のバンドだ。年はまだ割と若くて、タカヒロ くんと大ちゃんが19歳、太郎ちゃんは18歳、槙くんは17歳。 まだ若くて、上手いか下手かと言ったら、下手なのかもしれないけれど、 聴いて、踊っていて、とても気持ちよく身体に響く演奏をすると思う。
「・・・いいよね」 思わず呟いたら、横にいた菜子に聞こえたみたいだった。 長い髪で、細くて、お人形みたいにかわいい彼女は、胸に手をあてた格好で、 真摯な様子で私の言葉に頷く。 「うん。・・・あの人たちと知り合いだってことが誇らしいってくらい」 そう言うと、少し、恥ずかしそうな顔で笑った。 「なーんて。大袈裟すぎるよね私も」 そう聞いて、私は首を振る。 「いや、わかるよ。・・・結構、私もそんな感じ」 「・・・そう?」 「うん。知っててよかった。本当に。って、思うよ。 すごい、カッコいいって言うか・・・気持ちいい音楽、やるよね」 そう言った私の言葉に、菜子は甘い笑顔で頷いた。私もそう思う。と。
そして、ライブが終わった打ち上げの席で。 別の店に移動して、少し遅れてバンドの子たちも到着し、他の友人も 一緒になって飲んだり食べたりしていたとき。 「カリン!これ!」 「ハイ?」 友人である、通称トム、本名・広田知子の声に振り向くと。 わらわらと何人も友達の顔。 トム、菜子、太郎ちゃん、槙、タカヒロくん、・・・そして、大ちゃん。
ふいに、すいっと、お皿ひとつ、目の前に差し出された。 「お誕生日だったよねー? きのう!」 「あ、もう日付かわったから一昨日か?」 「昨日とか一昨日とか、別にいいのー!太郎ちゃんってば!」 「おめでとうー!」 口々に。そんなこと言って。ちっちゃいショートケーキ1個、私の目の前に 出してきて。 (なにこれ。) (なんだこの人たち。) 心の中に浮かんだ言葉なんてそれだけで、思わず私は固まってしまった。 びっくりしたのと、瞬間的に泣きそうになったのと両方で。 自分の中の気持ちすら、持て余す。
なんだろうこの気持ち? なんて思って、黙ったままゆっくり考えて、ああ、 私うれしいんだ。と思った。
なんでこんなことできるんだろう。 ふと、視線を流すと、私を囲んでいる皆よりも少し後ろの場所で、 私を見てニヤニヤ笑ってる大ちゃんと目が合う。
そういう時、私はいつも、大ちゃんはずるいと思う。 でも本当は、ずるいって言葉じゃうまく言えてないことも知ってる気がする。 ヒネクレ者の私が、素直にうれしいと言えなくて、大ちゃん大好きだって、 単純に認めたくなくて、そんな風に逆のことを考えているってこと。知ってる。
だって。 「・・・なんで。知ってんの?」 「え、なにが? お誕生日?」 そう、と頷く私に、無邪気な笑顔でトムが言った。 「あのねえ、大ちゃんが教えてくれたんだよね!」 やっぱり。なんて思うのと同時に。 心の中が真空になるって、きっとこういうことを言う。と思う。 実感する。
そう。ちょっと前、今日のライブのチケットを大ちゃんから買ったとき。 その日付を見て、私が思わず言っていたのだ。 「あ、この日、私の誕生日の翌日だ」とかなんとか。 そしたら彼は、そのときは、特別興味もない様子で、 「ふうん。そうなんだ」 くらいのものだったので、そのまま何も言えずに、その後は黙っていたのだ。
なのに、なんでこの人。って思う。 なんでこの人もこの人たちも。 (・・・こんな風に、人がしてもらってすごくうれしくなっちゃうことを、 どうして知ってるんだろう?) そこまで考えたら。 ぽろりと。 涙が一粒こぼれたと思ったら、止まらなくなった。
「え、ちょ、ちょっとなに泣いてんだよオマエ?」 友人のひとり、太郎ちゃんが慌ててそう言う。 「だって〜〜〜〜」 うえーーーん。って、泣いちゃった私に、ハイ、って菜子がハンカチを 貸してくれる。私は、ありがとうも言えなくて、それで涙を拭いていたら、 隣にいたトムが私の頭を、よしよし、って撫でた。
そして、大ちゃんは。 しばらく黙って、泣く私のことを見ていたけど。 ふと、笑いをにじませた口調でこう言った。 「ばっかだなあ。オマエ。・・・そんなにうれしかったかよ?」 突き放した口調なのに。その言い方が、ものすごく優しくて、私はふたたび、 大ちゃんずるい。って思う。 この人大好きだ。なんて思う。
私はうんうんと頷きながら、この人たちと、そして大ちゃんという人と 出会えた幸せをかみしめていた。 出会いは偶然? それとも必然? ・・・それはきっと、両方なんじゃないかと思う。 そして、自分を取り巻くいろんな人の、やさしさみたいなものに触れて、 人は救われるような気持ちになったりするのかもしれない。なんて。 私が、それほどの不幸を背負っていたわけではないけれど、そんな風に 思った。
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