『日々の映像』

2010年06月20日(日) 参院選マニフェスト―「消費税タブー」が消える


社説:参院選マニフェスト―「消費税タブー」を超えて
                      2010年6月19日  朝日


 6月4日「参院選挙後消費税が10%になる気配濃厚」
http://www.enpitu.ne.jp/usr2/bin/day?id=22831&pg=20100604
と題して記述した。

 朝日新聞の社説の通り費税10%(5%アップ)が、年内のも決まる可能性が出て来た。社説の一部を引用しよう。「民主、自民両党がきのう参院選マニフェスト(政権公約)を発表した。両党とも消費税を含む税制抜本改革を打ち出し、超党派の協議を呼びかけた。・・・・・・自民党は消費税率「当面10%」をうたった。菅直人首相はこれを「一つの参考にしたい」と応じ、今年度内に税率などをまとめたいと踏み込んだ」。

 今までなら消費増税に前向きな姿勢をみせようものなら、他党がすぐさま攻め立て議論はしぼんで来たのである。 有権者に負担を求める不人気政策からは逃げる政治の無責任が続いた結果、国と地方の長期債務は空前の残高になっている。国債だけでも800兆円を超え、借入金・地方を含めると1220兆円もの借金となっている。
http://www.team-nippon.com/

 今回は様相が全く異なるのである。第一野党(自民党)が消費税率「当面10%」を掲げたのである。現在の税収では予算を組むことが困難な状況に追い込まれているので、選挙後駆け足で消費税の5%アップが決まる可能性が濃厚になって来た。私は消費税アップの賛成論者でないが、この増税の流れは時代が産み落とす結果のように感じる。

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参院選マニフェスト―「消費税タブー」を超えて
                        2010年6月19日  朝日

 7月の参院選は、日本の政治をもう一歩前進させる可能性がある。
 民主、自民両党がきのう参院選マニフェスト(政権公約)を発表した。両党とも消費税を含む税制抜本改革を打ち出し、超党派の協議を呼びかけた。
 大変な様変わりである。かつては一方が消費増税に前向きな姿勢をみせようものなら、他方がすぐさま攻め立て議論はしぼむ。その繰り返しだった。
 有権者に負担を求める不人気政策からは逃げる。そんな政治の無責任が続いた結果、国と地方の長期債務は今年度末に860兆円に達し、国内総生産の1.8倍になる見込みだ。
 借金が税収を上回る惨状に加え、ギリシャに端を発したユーロ危機と世界の動揺。さすがの2大政党も、もう逃げられないと観念したのだろう。
 自民党は消費税率「当面10%」をうたった。菅直人首相はこれを「一つの参考にしたい」と応じ、今年度内に税率などをまとめたいと踏み込んだ。
 消費増税は単なる財政再建の手段ではない。ほころんだ社会保障を立て直して安心と成長につなげていく道であり、国の基本設計にかかわる課題だ。選挙後ただちに超党派の検討の場を設け、早急に方向を定めるべきだ。
 有権者に甘い言葉をささやき、票を得る。長く続いた利益誘導政治から、負担の分かち合いを正面から呼びかける政治へと、今回を機に大きく転換させたい。


■変更は率直にわびよ
 財源と不可分の社会保障についても、2大政党の間に接近が見られる。
 自民党は、子ども手当を廃止する一方、地域の実情に応じて保育所整備や給食無料化などサービスの内容を選ぶ「子育て交付金」創設を打ち出した。
 民主党も子ども手当の満額支給をあきらめ、現行からの上積み分は、地域の実情に応じてこうしたサービスにあてられるようにするという。
 自民党は「手当より仕事」と掲げた。民主党も子育て支援や介護サービスの需要増に目をつけ、雇用に結びつける作戦に出る。
 昨年の総選挙で民主党が子ども重視を打ち出し、自民党が今回、その方策は手当よりもサービスが良いと唱える。民主党はサービスを通じ雇用を生もうという。相互批判と競い合いが、政策の質を高める好循環といえる。
 もとより、消費税にしても子ども手当にしても民主党が総選挙で掲げた主張の大幅な変更であり、「公約違反」のそしりを免れるのは難しい。
 経済情勢などの不可避的な変化や、政権を担ってみて初めて得られた情報、経験を踏まえ、「率直なおわび」と「丁寧な説明」を重ねて、有権者の理解を得ることが大前提である。
 2大政党の政策が互いに近づいていくことは、グローバル化時代の必然でもある。対立点の多くは力点の置き方やニュアンスの違いになっていく。
 しかし、そのことは競い合いを通じ政策を進化させることにもつながる。この変化を前向きにとらえたい。


■「伝統」か「新たな」か
 近寄ったとはいえ鋭い違いはある。両党の公約には正反対の言葉も並ぶ。
 民主党は「『国のかたち』を変える」と訴え、自民党は「わが国のかたちを守ります」と唱えている。
 自民党は伝統的な価値観を尊重し、「保守」の精神を強調する。具体的には「夫婦別姓法案と外国人地方参政権付与法案に反対し、わが国の地域社会と家族の絆(きずな)を守ります」。
 民主党は伝統的な地域や家族の絆はゆるみ、それだけに頼っても孤立は防げないという考えだ。人々がNPOなど様々な活動でつながり、「官」が担ってきた公共サービスも含め社会の一員としての責任を負い、絆を結び直す。「新たな社会づくり」である。
 自民党は憲法改正を公約の冒頭に掲げるが、民主党の公約に言及はない。
 民主党は公共事業について、総選挙の時の「コンクリートから人へ」を盛らず、「あり方を見直す」としたが、それでも社会資本整備の前倒しもうたう自民党との違いはやはり色濃い。
 2大政党の時代、マニフェスト選挙が定着するにつれ、両党は何を対立軸とするか模索を続けた。政策の本筋が似通うほど、違いを際だたせるため、あえて相手の逆を言い、争点を人為的に作り出す。そんな傾向も残る。
 理念や政治哲学を練り上げ、具体策に反映させつつ、わかりやすい対立軸を形づくっていくことは容易でない。違う点、同じ点を見極め、判断する困難な仕事が有権者に委ねられている。


■競い合いつつ接点も
 2大政党が近寄っていくと離れた位置にある民意がこぼれ落ちかねない。受け止めるのは少数政党の役割だ。
 公明党は心の病や児童虐待、孤独死といった「新たなリスク」に対応する「新しい福祉」を提案する。社民党は「米軍への『思いやり』より沖縄との連帯を」と掲げる。国民新党は3年で100兆円の経済対策を訴える。
 連立政権が続く時代にあって、大政党が少数政党とどう向き合うか。現在の民主、国民新両党の連立では、消費増税を試みても国民新党が壁となるだろう。かといって民主、自民の大連立では政権交代時代の否定に等しい。
 2大政党をはじめ各党が競い合いつつ、政策課題によっては接点を探る。そうした流儀に日本政治は疎かった。今回はその学びの契機になる。







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石田ふたみ