+--- Cinema Memo ---+


■ …といえなくもない的展開連発の問題作「チョコレート」 2003年09月18日(木)
死刑囚の夫と幼い息子を相次いで亡くした女と、愛を注ぐことを知る前に息子を目の前で失った人種差別主義者の孤独な男。それぞれの家族の死をきっかけに、交わるはずのない二人が心を通じ合わせていく…。深い喪失の淵から、愛を知ることによって人生を取り戻す男と女の新たな出発を描く物語。

監督-----マーク・フォスター 出演----ハル・ベリー ビリー・ボブ・ソーントン ヒース・レジャー
音楽☆☆☆.5 ストーリー☆☆☆.5 映像・演出☆☆☆.5 俳優☆☆☆.5 総合評 ☆☆☆.5
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ハル・ベリーがオスカーを獲った、渋い大人のラブストーリー…というには、あまりにすごい問題てんこ盛りの重い作品。しかも、音楽も説明もすべて抑え気味のため、見る側の「まあ、○○なんだろう…と言えなくもないよな」的な脳内補填がかなり必要(製作者側が、見る側に考えて貰いたいためにあえてそうしたんだと思うんだけど)。

舞台は黒人蔑視が色濃いアメリカのディープ・サウス。前半は刑務所の看守で人種差別主義のハンク(とその父親)の嫌ぁ〜な人間性が描かれる。しかしハンクと対立した息子が死んでしまい、ハンクは自分を見失い始める。同じ頃、夫と息子を失ったレティシアと知り合い、家族を失った者同士の交流が始まる。

…きれいごとのいっさいない映画で、登場人物にけして賛同はできないのだけれど、行動への理解はできる。たとえばハンクのやり方に反抗する息子も、けしてただのいい子ではなく、平気で普通に娼婦を買ってたりする(しかも父と同じ女…)。夫と子供を失ったレティシアはハンクとの激しいセックスで心の隙間を埋めようとし、ハンクはレティシアと暮らすために老齢の父親をさっさと施設に入れてしまう。
拒否的な感情が湧いてしまうのは、それが現実にいくらでも起こっている、本当にリアルな(身勝手で利己的な)人間の動きだからだろう。
と同時に、前半あれだけ嫌ぁ〜なオヤジだったハンクが、息子を失ったことで仕事も変え、レティシアと付き合っていく変化の唐突さが気になりもする。しかも一度彼女に惹かれてしまうと、今度は平気で老齢の父親を切り捨てたり、今まで差別していた近所の黒人ともフレンドリーになってしまったり…。このあたりの変化の過程は「まあ、彼もいろいろ苦悩して変化しようと努力してるんだろうな…と言えなくもない」と脳内補填してあげよう。

ラスト、レティシアはハンクがずっと隠していた事実を密かに発見してしまう。彼女の選んだ選択も、やはり「…と言えなくもない」的で、明日にはどうなるかわからない現実味をたくわえている。(セックスと嘘とビデオテープのラストを思い起こす)
ハル・ベリーがオスカーを獲ったのは、体当たり的演技のせいだとは思いたくないけれど、この役を選んだこと自体、ハリウッドでは清水の舞台ならぬチャイニーズシアターのてっぺんから飛び降りるくらいの勇気がいることなので、その選択も評価されたのでしょう。
息子役のヒース・レジャー(「ROCK YOU!」)もいい脚本を選びましたな。成長株!

製作者側が、見る側に「こう感じさせよう」みたいな演出を入れていないところが非常に良かった作品でした。





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Written by S.A. 
映画好きへの100の質問



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