MUSIC春秋
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 2005年07月20日(水)
返品

♪カンタ・カナリート/ザ・ピーナッツ

四日市にて
犬に吠えられながら。


5年ほど前のこと
小鳥屋さんの店内に立っていた私の指を
何者かが、きゅうっと握りました。
「わっ!びっくりした!」
私の声に気付いたお店のお姉さんに
「むーちゃん、ダメよ〜。」と
優しくたしなめられたその犯人は
アカビタイムジオウムという鳥でした。

ケージの隙間から足を必死で伸ばして
私の指を握ったむーちゃんに
私は胸がキュンとなりましたが
市内でも有数の住宅密集地にある我が家で
鳴き声の大きなオウムは飼えません。
私はオカメインコを買うために
その店にいたのでした。

その後私は
インコの餌を買うためにその店に行く度
むーちゃんに会えるのが楽しみでした。
何度目かに会った時、むーちゃんが
自分の名前を言えることがわかりました。
でも自分の名前を言っているというより
私に向かって呼びかけているように聴こえます。
お店の人がむーちゃんに呼びかけるのをマネしているので
そうなってしまうのでしょう。
その口調がまたなんともかわいくてたまりません。
私「むーちゃん。」
む「むーちゃん?」
私「いや、あんたがむーちゃんだって。」
む「むーちゃん?」
私「うん。そうそう。」
(文字じゃわかりにくいけど)
こんな風に会話したりして
ケージの中のむーちゃんと遊びました。

2年ほど前のある日
いつものようにインコの餌を買いに行くと
いつもの場所にむーちゃんがいませんでした。
私は慌ててお店の奥さんに尋ねました。
「むーちゃんは?」
「売れたんですよ。」
そっか。
寂しいけど
返ってきたのが最悪の答えじゃなくてよかった。
飼ってくれる人が見つかってよかった。
私にはまだ
モモイロインコのモモちゃんがいる。
(それも売り物。自分のものではない。)

そして月日は流れ
今日またいつものように
小鳥屋さんのドアをくぐり
端から順にケージの小鳥をニコニコと眺めていくと
かつてむーちゃんがいたのと同じ場所に
アカビタイムジオウムがいました。
一瞬、時が止まり
次の瞬間には私は
そのケージの前にしゃがみこんでいました。
むーちゃんのわけがない。
新入りのアカビタイムジオウムなんだなきっと。
羽根も生えたてみたいにキレイだし
寂しそうな目をしてるし
まさかむーちゃんじゃないよやっぱり。
などと考えながら無言でその鳥をじーっと
見つめていたら・・・
「むーちゃん?むーちゃん?」
鳥が喋りました。
はあ?むーちゃんなの?あんた。
「むーちゃん?」
鳥が返事しました。
興奮した私はお店の奥さんに言いました。
「ムムムム、むーちゃんなんですか?」
「はあ?」
「むーちゃんって、買われて行きましたよね?」
「むーちゃんをご存知なんですか?」
「はい、前に。」
「実は飼い主さんの事情で・・・」
「ああ・・・」
「鳴き声が問題で・・・」
「やっぱり。」

そうかそうかむーちゃん、かわいそうに。
私はケージの隙間から指をつっこんで
むーちゃんのふかふかの頭をかいてやりました。
新しい羽毛の芯が指に触れたので
換羽期とわかりました。
それで生えたてのキレイな羽根だったわけです。
もうおしまい。と指を引っ込めると
以前のようにケージから足を伸ばして来て
もっともっと、とせがむので
また頭をかいてやると
うっとりと気持ち良さそうに目を細める。
それを何度も繰り返したのち
バイバイしてインコの餌を買い、帰りました。

むーちゃんじゃないよな、
と心の中で思った直後に鳥が「むーちゃん。」と
自分から言ったのはまるで
映画のように感動的なシーンでしたが
映画と違うのは
やっぱりうちではオウムを
飼うわけにはいかないという所です。

飼い主だってきっとずいぶん悩んで
泣く泣く手放したのさ、そう信じよう。
また新しい飼い主が見つかるまで
むーちゃん、私に頭をかかせてください。



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