◆KALEIDOSCOPE◆ |
◆Written by Sumiha◆ | |
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約束 | 2004年12月31日(金) |
アルファベット26のお題 F. flower(花) 目がそれを認識するとほぼ同時だった。足が止まった。 意思はそこに介入していなかった。反射的な行動だった。記憶が行動に付随して、勝手に止まった足の理由を親切にも説明してくれた。――喜ぶべきか悲しむべきか。悩みどころだ。 「どうした、リナ」 あたしを追い越し振り返った相棒に言葉にならぬ声を返す。 「んー」 しゃがんで壁を作る。手のひらで花の周りを囲った。今日は風が強い。髪が方々へ乱れ鬱陶しい。滅多に髪を結わないあたしでも一つに纏めたくなったほど。 花びらは赤い部分に保護され散る心配はない。かわりに茎が強風で折れそうだ。 あたりは木々が落とした色とりどりの葉で天然のじゅうたんを作り上げている。この季節は冬ほどでないが咲いている花をなかなか見つけられない。そんな中でひっそり咲く、小さな花一輪。 群生して咲く花だから近くにたくさん咲いている場所があるはず。 なんて名前だったかしら。 不意に立ち止まって視線を一箇所に固定させて。そう、そのすぐ後に微笑んだ。笑みに気を取られて(冷笑でも失笑でもなかったから)次の言葉を聞き逃したんだった。 名前を言ったはずなんだけど。聞き返したら呟きをちゃんと言い直してくれた。笑顔のまま。 喉まで出掛かっているのに。 名前は短くもなく長すぎず、語感も良くて覚えやすい。この花によく似合っていると思った。花に目を止め、更に名前まで知っていた彼女に驚いたっけ。 赤い部分は花に見えて葉の集まりだと教えてくれた。花は赤い部分の先に付いている。見逃しがちで、なかなか花に気づけないとも。 関係無い記憶ばかり甦る。肝心の花の名前を思い出せない。 がさりと枯葉を踏む音、真上に影。 「なにが――――花、か」 答と言える答を返さず動かないあたしに業を煮やしたらしい。ガウリイが近くに来ていた。 「えーっと、なんだったっけ、これ」 「言わないで」 花から目を離さないまま言った。意味は無い。あるとすれば、花を見続けて少しでも多くの記憶を掘り起こしたかった、というところか。 「自分で思い出したいから」 もう増えない記憶だ。共有した時間は長いと決して言えない。だから出来得る限り忘れたくない。 時間は残酷で、過ぎ去った瞬間をどんどん消してしまうから。努力して留めたい。 引きずるわけではなく宝物として。大切に保存したい。 姿を消した彼にとっても救いになるでしょう? 一人でも多く共通の思い出を持っていたら。語り合える日がいつか来る。信じられる。 傷は深く、まだ癒えない。血は流れ続け痛みは延延と続く。それでも。 冷たくなってきた風にも負けず咲いたこの花のように。人間は強い。苦しみを乗り越えて傷を治せる。ゆっくり時間をかけて。ほんのすこし切なさを伴いながら過去に変えられる。前を向いて歩いて行ける。 ――――あんただけじゃない。 あたしだって好きだったのよ。感情の種類に違いこそあれ。 無力さに打ちひしがれた、手を下した奴を憎んだ、気持ちは同じ。 一人で不幸を背負ってんじゃないわよ。喪って悲しかったのが自分だけだとでも思ってるわけ。 次に会ったときに胸倉掴んで言おう。彼女の微笑と花の名前も添えて。 彼女は儚い花のように命を散らした。でも知っている。花は来年もまた咲くのだ。例え枯れて土に帰っても、次の花を咲かせる肥料になる。 何も無駄にならない。無駄にしない。 「……そろそろ行くか」 ん、と応えて立ち上がる。 「ちょっと、待って」 なんとなく離れがたい。せめて群生している場所を見つけてから。 街道ではない。林と森の中間だ。獣道を通ってここまで来た。まっすぐ進めば目指す町に出られる。右手にはうっそうと茂る木々、左手も同じく。花が群生している気配は無い。――いや、もしかしたら。 進路を変え左手に進む。木々がまるで避けるように、そこだけぽっかり空いた場所がある。 がさがさと雑草を踏み分け近付く。ガウリイも後ろから付いてくる。 「お」 赤い花と緑のコントラストが目に飛び込んできた。 じわじわと湧き上がる――嬉しさだろうか。悲しみだろうか。 わからない。どうしてこんな気持ちになるのか。 この場所を切り取って見せたい。教えてくれてありがとう、旅の楽しみが増えたと笑って。いつか共に見た花を、また見られたと言って。 できるならもう一度共に見たい。 美しさや綺麗、可憐とは程遠い外見の、少し不恰好な花を。 ストロベリー・フィールド。 花言葉は不朽、変わらぬ愛。 ――終。 稿了 平成十六年十一月七日日曜日 お題サイト様いつのまにか移転されていたようです。過去のお題のリンクは直しませんが(直せよ)このF以降は移転先のURLに修正し(てい)ます。 15巻後の設定で書き始めたものの、書き進める内に14巻後の設定のほうが都合が良かったのでそうなりました。私にしては珍しい。(←14巻後、15巻前の話を書く事が)(15巻後だと妄想のし甲斐もあるんですが、14巻後で15巻前だと難しいんです)(なので15巻後の話は増えても、14巻後、15巻前の話はあまり書けない) ミリリナ(でミリーナ追悼)のつもりがミリ←リナ→ルークみたいな、かなり微妙な仕上がりに。(つかミリ←ルーク←リナ→ミリですねこれじゃ)ガーン。 あえてミスチルの曲から外したところを狙ってみました。(花っつーとイコールミスチルらしい私の頭の中では)そちらは雨リナで書きたい。いつになるやら、ですが。お題とは関係無いところで書いてみたいですね。さてこれからハロウィンネタだー。(あとでこれ読んで失笑するんだろうな……)(日記を書くつもりが勢いでこちらを書いてしまい、そのうちに止まらなくなってついには書き終えてしまいました。あああああ。なにやってんだか) 6題書き終え残り20題。どこまでいけるかな。(いや終わらせろよ) http://community.bloom-s.co.jp/contents/uranai/ 最後にこちらを紹介。完全な余談ですが私の結果は >貴方の今の幸せ度 46% です。 >あなたの今、現在の心境を花で例えると、 >ローズマリーです。「花言葉」は、「思い出」です。 でした。結果がこの話(Flower)と重なっていたというのは蛇足ですな。 ◇ご挨拶 フェードアウトしたまま年越ししたくないので(って理由も何だかな)、今年最後の日記を書きに参上しました。ということで今年ももう尾張です。……イヤですそんな年は……。仕切り直し。今年ももう終わりです。全然実感ないんですが、それはともかく終わりです。今年もお世話になりました。来年もまたよろしくお願いいたします。 来年は今年やり残した宿題を完成させたいです。ええいろいろと。いろいろと言えてしまうところが問題アリですな。年越してまで宿題を残すな私よ。 その宿題の一つであったアルファベットお題のFを今年最後にお届けしました。Gが進まないもので別のお題(動揺お題)(随分な略だな)に逃避しましたが(しかもそのお題も終わってませんが)来年6月までにはどちらも終わらせたいですねって気負うと上手くいかないので、のんびり終わらせます。焦ってもろくな結果につながらないと学習済みです。 来年がどうなるかは想像もつきませんが、のらりくらりとでも続けられたらいいなと思う次第です。来年もお付き合いいただければ幸いです。読んでくださる方がいなければ無意味なので。それでは、あと4時間をきりましたが良いお年をお過ごしください。 BGM無し。 | ||
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