KALEIDOSCOPE

Written by Sumiha
 
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  灰色の空、白い壁、


2004年11月01日(月)
 



閉じ込められたわたしはどこへも行けない。
生まれたときから足首に食い込んでいた足枷。
死ぬまで国にその身を捧げろと嗤う顔、顔、顔。
自由から目を逸らして、抵抗なんて知らない振りで
無力なわたしにこの場所でうずくまる以外なにができた?

とある曲が姫のイメージだったのでつい。姫は自分の立場に誇りを持っていると思うので、こういう思考回路にはならないと思いますが。

ここまでが本日書いた分、ここから下は随分前に書いた分です。お題がテーマになっていないような。まあいいか。ということでテーマは「出発」です(おい)。





アルファベット26のお題

D. dally(もてあそぶ)/後編・2(完)

 カップを持ったままテーブルに腕を投げ出す。
「――――――――」
 沈黙は肯定にも否定にも受け取れる。ずるい逃げ方だ。態度で肯定だとわかっても、自分から認めなければ無意味だ。
 何十通もの手紙の束、それら全てに必ず書かれていた自分の話題。
『心なしか動いている気がするんです。殻が割れる日はそう遠くないのかもしれません』
『仲直りすれば? 香茶いれてお菓子でも出せば機嫌直るでしょ』
『今日は人間の言葉を教えたんですよ。飲み込みが早くて教えるほうが楽しんでます』
『あたしも昔よくやったいたずらよ、懐かしい! 悪気は無いんだから』
『覚えてないことに安心している自分が嫌で。思い出さないほうが彼のためだと』
『だからって世界を壊していい理由にはならないわ。何のために』
『わたくしは彼が思うような』
『そのうち会いに行くわ。初対面になるのかしらね? 変な感じだわ、昔を』
『髪も自分で結べるようになって。子離れする親の気持ちが』
『罪だって言うならあたしがその筆頭よ。なんせ』
 知らないあまりに物騒な単語、思い出すと笑える失敗談、たくさんの言葉。
 覚えがあるような無いようなもどかしい感覚に頭の中身を直接かき回したくなった。
 自分はゴールド・ドラゴンではない。教えられなくても知っていた。本来の姿、竜に戻ったときの色や形、大きさがまるで違う。わからないはずがない。
 自分がどんな種族で本来の親がどうだとか、気にならなかったと言えば嘘だ。ただ結論は比較的早く出ていた。ここの生活は気に入っている。実の子供ではない自分を育ててくれた恩もある。
 離れてまで知りたくなかった。偽らざる本音だ。そう思っていた。少なくとも自分の知らない自分を見つけるまでは。
 オレは誰だ。何故ゴールド・ドラゴンに育てられているんだ。
 明らかに過去、自分が生まれる前にあったと思わせる出来事が手紙に記されている。冗談だと笑い飛ばせない真剣さを読み取れる。
 関係無いと思い込むには無理があった。否定もできなかった。
 何かを知っている。
 いまさら自分の出生の秘密が気になった。故意に隠された理由、竜族と魔族と神族と人間を巻き込んだらしい何か。だが最も大きかったのは養い親以上の鍵を持っている、手紙の相手だ。
 面識は一度もない。手紙にも記述があった。
 見も知らぬ相手の何が気になるのか。それさえわからないが会ってみたい。自らの秘密を訊くためと言うより、自分を知っているらしい相手を知りたい。
 何を思い養い親と手紙のやりとりをしていたのか。どんな気持ちで自分の話題を手紙に書いていたのか。
 なにもわからない。名前は辛うじてわかった。手紙にサインが記されていた。それだけだ。他は想像に頼るしかなかった。謎ばかり積み重なっていく。つぎはぎだらけの情報では何も手がかりにならない。
 実際に会って話をしてみたい。思うまでに時間は大してかからなかった。
 でもどうやって。
 養い親に訊かねば居場所も人相もわからない。一人旅ができる程度の知識で、どうにかできる問題ではない。教えてくれと頼まなければ行きたくても行けない。
 頼む覚悟も無かった。
 どうやって手紙相手の存在を知ったのか、会いたいと思った動機も言わねばならない。
 ほんとうに行けるか不安もあった。もしかしたらひた隠しに隠されていた――のかもしれない出生の秘密を知ったら。今までのように養い親と過ごせなくなるかもしれない。笑ってふざけあえる関係が壊れてしまうかもしれない。
 自分が何も知らない理由は、知らなくていい事実だからだとしたら。
 知って後悔しないか。道を踏み外してしまわないか。感情に任せとんでもない間違いを犯さないか。
 不安は苛立ちを加速させ養い親の不審を煽った。
 一人で歩いて行けるか? これまでしっかり未来を指し示してくれていた手を放して。
「……誰なんだ?」
 どうして、平穏な時間を、空間を捨てる可能性があっても尚、振り払えないのか。
 大切にしたい、守りたい者を置き去りになどしたくない。したくないのに。
 知らなければならない。最早義務感に近い思いさえ、ある。
「リナさん――名前は、リナ・インバース。人間の女性です。魔道と智謀に、とても長けていらっしゃるんですよ」
 すらすらよどみなく答えた。用意してあった答を言うように。
「会いたいと、思いますか」
 ずしりと重みのある問いだった。
 真正面から相対して答えられない。
 会いたいか、会いたくないか。答えたらどうなる。何が変わる。オレは、フィリアは、リナ・インバースは――――……。
 やめた。
 考えて答が出るなら悩まない。それなら素直に言おう。
 嘘はつきたくない。
 手の中のカップはまだ温かい。ぐっと握り締め姿勢を正した。まっすぐに目を見る。
「会いたい」
 フィリアは全く変わらない表情だった。
「今すぐにでも?」
「……会いたい」
「知りたくなかったとあとで思っても?」
「会いたい」
「あなたも周りも傷つくのだとしても?」
「会いたい」
「わたくしを憎む未来が待っていても?」
「会いたい」
 そんな未来はありえない。そう断言はできなかった。気休めにもならない。
 何が待つのかわからないのだ。先を見通せる力なんて持っていない。嘘をつきたくない、これが自分の真実だ。
 彼女はゆっくり二回またたきをした。すう、と息を吸い込んで――。
「ひどい……ひどいわヴァル! わたくしをもてあそんだのねっ」
「はぁっ!?」
 わっと顔を覆い叫ばれた言葉に思わず立ち上がる。
「わたくしはあなた一筋だったのよ!」
「何の冗談だそれはッ、ちょっと待て誰がいつそんな話をした!」
 ばんと広げた両手をテーブルに叩きつける。フィリアは顔の手を外さない。もちろん表情は窺い知れない。その肩が小刻みに震えていた。
 頭に上った血が引いて行く。
 まさか冗談じゃなかったのか……?
「――――――――――――っ」
 思った途端に噴き出した。片手で腹を抱えテーブルに突っ伏し、あまつさえもう片方の手でテーブルをバンバン叩いている。
「い、いちど言ってみたかっ……」
 待てコラ。くだらねえ茶番に付き合わせる為だけの質問だったのかよ。
 笑いすぎて呼吸困難を起こし涙まで流して、何やってんだ。
 真面目に考えたオレの立場が無い。
 脱力して椅子に座る。まったく何をやっているんだか。
 冷めかけた香茶をすする。悔しくも冷めても十二分に美味い。自分が入れると苦味が残ってしまう。茶葉の量が多いのか、蒸らし方が悪いのか、蒸らし時間が長いのか。
 コツを訊くのは癪に障る。自力で突き止めたい。美味しく淹れられたときの満足感が違う。
「……冗談は、置いといて」
 冗談を本気でやってただろ。
 突っ込みは親切にも控えておいた。上品に椅子に腰掛け背筋を伸ばしている。口の端が引きつっているが見逃せる範囲内だ。
「行ってらっしゃい」
 見慣れた、買出しに行くときに見るあの笑顔だ。同じ。
 帰る場所はここにあると無言で言っている。居場所はここに。無条件で受け入れてくれる、家はここに。
「あなたがしたいようになさい。わたくしは止めないわ。……黙っていて、ごめんなさい」
 非を認め頭を下げられる潔さ。縛り付けず手を放せる優しさ。すべてを許し微笑える懐の広さ。
 いつも守られてきた。彼女の庇護があったから生きてこられた。
 例え何を見ても何を知っても忘れまい。
 もう自分一人で立って歩ける。信頼と信用を裏切れない。
 今度こそ、間違った道を選ばないために。
「――行ってきます」
 少しだけ成長した顔でただいまと言えるといい。おかえりなさいと、彼女は同じ笑顔で出迎えてくれるから。

――終。

稿了 平成十六年十月十四日木曜日
改稿 平成十六年十月十八日月曜日



古代竜+黄金竜。×じゃないですよー。カップリング表記するなら古代竜リナ+黄金竜。むしろ黄金竜リナ(前編)。後編が古代竜リナ。名前を出さないのは検索誤爆を防ぐためっても作中で名前を出しているから、どこまで有効かは不明。それはさて置き。設定激しく捏造。ゴールド・ドラゴン(←フィリア)もゴールデン・ドラゴン(←ミルガズィアさん)も、もちろん古代竜もどんな成長過程を辿るのかなど私には知りようがありませぬ。

お題を見た瞬間に作中のギャグが浮かび、それ以外何も考えられませんでした。手の中で小物を遊ばせるという意味でもてあそぶという言葉を作中で使っても良かったんですが。なんとなく逃げのような気がして嫌だったんです。だから一番最初のイメージを大切に書いてみました。正解だったかどうかは……。楽しく書けたので良しとします。一度書いてみたいセリフだったんです許して(笑)。

長くなりそうだったので(既に長いとかそこ言わない。誰だよ短文でアルファベットお題を書くって言ったの!)余計な描写をことごとく省きました。描写不足は反省材料ですね。うまく短く纏める練習もせねば。長く書くだけなら誰にでもできますからのう。

この話の古代竜とリナは両思いになったらフィリアさんちに住み着いてしまうような気がします。書きませんが。迷惑な人たち……。三人がケンカしたら凄まじかろう。古代竜とリナの痴話げんかにうんざりした黄金竜が「ああもうお二人で勝手にやっててくださいっ」と一ヶ月もたたないうちに叩き出されるに一票。

ところで実験的に古代竜の一人称をオレにしてみたんですが。なんか違和感。でも「俺」も違和感あるんだ。かといって「おれ」はちょっと。元がアニメだから目に見える形(文字)にするとこういう弊害(?)が。

普段は書かない話をこのアルファベットお題で書いていきたいです。予定は未定也。まだDが終わったところだし。残り22題、先は長い。



蛇足

 冷たい香茶を飲む。
「って言ってもまだ行かねえけどな」
「え?」
 きょとんと見返す顔に不安に襲われた。
「……もしかして今すぐ発つと思ってたのかよ」
 無言で頷き一つ。
 大丈夫かこの天然竜……。ジラスとグラボスがいるとはいえ。こいつを残して、一人、勝手気ままな旅に出ても良いものか。
「リナ・インバースがどこにいるのかもわかんねえ、顔も知らねえってのに闇雲に探せってのか。旅の準備だって何もしてねえんだぞ」
 ぽん。
「ああ! それもそうね」
 心配だ。帰ってきたら餓死してたなんてオチ、欲しかねえぞ。
 騙されやすいわ肝心なところで抜けてるわ。本質が竜だと忘れて……逆か。あまりにこの生活に馴染んでいるから、人間の姿に化けているのを忘れていやしねえだろうな。
 オレ本当に一人で旅に出ていいのか?
 生きてるうちで最大の岐路に立たされた気がする。

――おわり。
(最後に禁句言ってもいいですか。どう読んでもフィリアとリナの間で揺れてる男にしか見えないんですが! うわーん!)



BGM
鬼束ちひろ
INSOMNIA
(鬼束嬢の曲がなければ書き終えられませんでした。感謝!)
 



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