川底を流れる小石のように。  〜番外編〜  海老蔵への道!
もくじを見てみるひとつ前現在に近づいてプチ画像日記


2006年04月14日(金) めいどのみやげ。その2

 いよいよこんぴら歌舞伎の当日。

 母はいつも朝が早いので、私も付き合い5時には起床。
 ほとんど誰もいない広々の大浴場を二人で堪能。
 お肌がツルツルになる。

 朝食は8時の予定だったので、それまでにゆっくりと金刀比羅宮へ行ってみることに。
 
 外に出ると朝の空気がひんやりと清々しい。
 しきりにいろんな小鳥がさえずり、ウグイスもきれいな声。
 桜は今がちょうど見頃。
 なんて素晴らしい春の朝!
 まずはちょっと寄り道して、金丸座へ行ってみる。
 今は誰もいないけれど、数時間後にはここも人で賑わうことだろう。
 ああ、ワクワクする。

 参道へ戻るが、当然ながらどのお店も開いてはおらず、静か。
 本宮までは785段。
 石段は一段ずつが、かなり高めになってる。
 
 母は昨年の11月に骨折し、冬の間はプチひきこもりになってしまって、
 旅行やお出かけは、このところすっかり控えめになっており、
 ちょっと鬱気味なのよ〜と聞かされていたので、実は私はかなり心配していた。
 それでも母が今回の旅を決心してくれたのが嬉しかったし、
 父も協力して、毎日、時間を見つけては、マメに公園の散歩に連れ出してくれており、
 準備はおこたりなし。
 ともかくこんぴらさんに来たんだから、行けるところまで無理しないで行こう。

 目の前に広がる桜の美しさや、
 のんびり桜を見上げている道ばたの猫や、
 参道で飼われているしょぼった顔のワンコや、
 登れない人の為の石段駕籠のお店や、
 そんなもの見つけては立ち止まり、ゆっくり登る。
 写真が趣味らしい人が三脚をかついで、ポジションを探していたり、
 トレーニングらしき人がサクサク追い越したり、
 部活の少年達が大勢走っていたり、
 上から降りてきた人に励まされたり、挨拶したり、
 見知らぬご婦人の二人連れと写真を撮りあったり。
 (後にこの方達とは、登り友達というか、なんだかいつしかお互い励まし合ったりして)
 
 途中にあった犬の像は、ここまでしか登れなかった人が犬に託して、
 代わりに登ってもらうという為の像だったらしい。
 色々な救済処置があるのだね。
 神馬の厩舎に大きな馬がいたり、参道をカモが歩いていたり、
 象の像もあったよな。
 
 母がもう無理だわと言ったら、引き返そうと思っていたけれど、
 どうやら楽しく登ってる。
 旭社という、あまりにも立派なので本宮と間違えて森の石松が引き返したという立派な建物のところで、
 ここまでにしとく?と聞いたら、
 頑張りたいとのこと。
 ほほー。
 ならば行こうじゃないの。
 普段でも階段は辛いといってたけど、
 確かにここまで来たら、登りたいと思うよな。

 最後の階段は、一番急で段差も大きくて、
 高所が苦手な私も、ひーと思う。
 
 辿り着いた本宮は見晴らしがよくて、空気が澄んでいて、
 なんとも気持ちの良いところだった。
 丸金印がどどーんとあって、こんぴらさまだね〜!と嬉しくなる。
 早朝にもかかわらず、おみくじとお守りが買えたし、満足。
 おみくじは中吉で、なかなかよかったけれど、
 旅はやめた方がいいとあって、
 やっぱりロンドンは行くなってこんぴら様も・・・と思う。
 御神木の大きな楠の木に結んできた。
 
 あの場所は、心が清められるような、なんだか不思議なくらい清々しいところで、
 母もすっかり感激して、
 そんな母を見て私も嬉しくて、
 行って良かったね〜行けたね〜!とひとしきり。

 宿に戻ると、ちょうど朝ご飯。
 金丸座ではお弁当も買えるけど、
 ちょっとしたお握りやサンドイッチなんかは買えなくて困ったよと、
 初日に観劇した友達に聞いていたので、母に話すと、
 宿の米びつに沢山残ったご飯でにぎりめしをこさえてくれた。
 具は梅干し、海苔は味付け海苔を何枚も、塩は借りてあった。
 おかんのおむすび、久々で嬉しい。

 足先が冷えるよと聞いていたので、防寒ばっちり、
 にぎりめし持って芝居見物だなんて、ますます江戸っぽくなってきた。

 賑わう金丸座。
 お手伝いしてる小学生の男の子に切符をもぎってもらい、
 脱いだ靴を入れるビニール袋をもらい、木戸をくぐり抜けると、
 着物姿のお茶娘さんたちが、座席に案内してくれる。
 枡席の中には、座布団が5枚。
 5つの中なら、どこに座ってもいいんだそうな。
 後ろの席だと、寄りかかれるので多少は楽かな?とそちらにする。
 座ってホッと一息つくと、
 ジワジワと金丸座に来られた喜びがこみあげてくる〜!
 ずっといつかは来たいと思ってたところ。
 そわそわして座っていられず、劇場の中をうろうろしてみる。
 二階席はこんなになってるんだ〜、
 桟敷席は?出孫席は?ほうほう!天井高い〜!

 この日、夢中で観劇してはいたけれど、
 私はどうやら、金丸座の雰囲気に酔っていたみたいで、
 いつもよりは集中しきれていなかったらしい。
 震えるように寒いというのとは違うのだけれど、シンシンと冷えて、
 防寒してきたつもりでも、足がジンジン冷たい。
 そしてやはり、足も腰もおしりも、あー痛た。
 
 勘平の海老蔵は、とても痩せてきれいだ。
 2月の信長とは別人みたいだ。
 夜の部で、おんぼろ長屋に豪華な花魁道中が訪ねてくる場面が、この小屋にぴったり!
 鶴屋南北が金丸座で観られるなんて〜。
 吉原仲之町の場で、天井から客席に桜の花びらが沢山降ってきて、わ〜!と歓声。
 「かさね」の前の休憩で、お手洗いの列に並んでいたら、
 プログラムを売っていた地元のおじさんが、旅行のおばちゃん達に、
 「次の幕の海老蔵さんは薄着ですよ〜!
  寒そうだけど、薄着でとっても色っぽいですよ〜!お楽しみに〜!
  かさねが終わると、女性はみんなため息ついてうっとりですよ〜」
 などと宣伝してる。
 あはは、なんじゃそら。
 って、笑っていたけど、なるほど〜!薄着だったわ。
 素足に白塗りで、つるつるにむだ毛のお手入れした海老の足、
 久々に堪能。
 花横で観ていたら、花道をかさねから逃れようと、
 もの凄い勢いですっ飛んでいく海老蔵が、
 オーラの塊みたいに駆け抜けていって、心わしづかみにされる。

 ああ〜楽しかったねえ!すごかったねえ〜!
 おかんも楽しかった?私はすごく楽しかったよ〜と、
 惚けたまま宿への坂を下っていると、
 ボックスタイプの香川サンバーの車が、帰り道の人々を追い越して行く。
 見かけないくらいに横も後ろもスモークガラスの、その車が気になって、
 母に「多分、今の車に海老蔵が乗ってたと思う」と私がつぶやくと、
 まさか〜さっき終わったばっかりだよ?と笑われる。
 でもきっと乗ってたよ〜と言ってるうちに私達もホテルに到着、
 坂の上を振り返ると、
 ホテルの横の入り口へ、浴衣姿でてぬぐいをかぶって顔は隠してるけど、
 さっと素早く駆け込む、あの姿はやはり海老蔵!
 与右衛門では汗だくだったから、かつらと衣装だけはずして、
 顔も手足も白塗りも落とさずに、そのままホテルに戻ったのだろう。
 それにしても素早い。
 わ、おかん今の見た?
 やっぱり海老蔵だったね、乗ってたね、同じホテルだったね。
 よくわかったね〜、よかったねえ。


 夕食にビールと日本酒で、すっかり気持ちよくて、
 朝からこんぴらさんもお参りできて、金丸座も海老蔵も観られて、
 なんて楽しかったんだろうね!と言いあっていると、
 母が「本当にありがとうね!お陰でここまで来られて楽しかった〜。
 これは冥土のみやげになるね」と言い出す。
 あはは、冥土のみやげ?と聞くと、
 そう、死んだら、あの世には何にも持っていけないけど、
 こんなに楽しかった事は、きっと絶対に忘れないから、
 あっちでも何度も何度も楽しかった〜って思い出せるよ。
 亡くなったおばあちゃんも文楽が大好きだったから、
 平成の海老様の話なんかしたら、きっと喜ぶよ。
 あっちでみんなに、この旅のこと、いっぱい聞かせてあげられるから嬉しいの。
 だからありがとう!と大まじめに言ってる。
 私も笑って聞いていたけど、
 なんだか嬉しいんだか、さびしいんだかわからない気持ちになって、
 ホロリと泣いてしまう。
 でも、一緒に来られて、本当によかった。
 私も嬉しかった。
 それもこれも、海老さまのおかげだねえ〜と笑う。

 でも、気がついたら、私達まだ一度もうどんを食べてないぞ!
 これは大変〜!
 なので、ホテルのうどん所が遅くまで開いているので、
 そこで、深夜のうどんをすする。
 うん、これがさぬきうどんだね!?
 夜中の麺類はやけに美味しいよね。

 翌朝の早朝、高松空港でもう一度うどんが食べられて嬉しかった。
 フライトも順調で、これならちゃんと仕事に間に合いそうだ。
 羽田に母に会いに来ていた叔母たちに母を渡して、
 じゃあ私は仕事に行くよ、おかんまたね!気をつけて帰ってね。
 
 
 仕事中も、旅のこと思い出しては、
 うっとりしたり、ニヤニヤしたり、うるうるしたり。
 遠征はこれだからやめられないっ!


 月末にもう一度行った琴平では、
 千秋楽恒例の三味線餅つきとか、三谷幸喜と遭遇とか、
 金丸座ならではのすごい席で観劇とか、
 今度の旅館は新七さんと同じ宿とか、
 そして、ようやく集中して観劇できて、
 琴電にも乗ったし、うどんもあちこちで食べられて、
 濃度が増した遠征ができた。
 いいぞ〜琴平、また行きたい。

 






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