ええ、まったくもって、私が風邪で寝込んでいた数日のうちに冬はすっかりと引越し支度を整えて、あっさりとこの場所を引き払ったようです。
ですから寝込んで起きて、数日前、外に飛び出した時にすたすたと町を歩きながら第一に思ったことは、
「……世界が違う……」
と言う事でした。 本当に、私が閉じこもっている間に何やら不思議に世間は春にすっかりシフトしてしまって、風景が光が風が空の色が違う。 取り残された気分でした。
まだ3月だと言うのに つばめは飄々と空を飛んでいるし、 桜はつぼみをぱんぱんにふくらませてほころんでいるし、 こぶしは惜しげもなくみんなで顔を見せているし、 木蓮は楚々と枝の上に鎮座しているし、 桜草は密集してたっぷりと蜜の香りを漂わせているし、 小手鞠や雪柳は鮮緑をうしろにさらさらと白い花弁を散らしているし、
――そう言えば沈丁花はそろそろしおれて来たかしら。
そんな春の気配のひとつひとつが嬉しくはあるものの。 もう1年が経ってしまったという実感が伴うのはいかんともしがたいですね。
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