「……あなた、一体何をやっているの」 濡れた髪を乱暴にタオルで拭きながら姉が呆れたように言った。 私は少しだけ肩をすくめて姉をちらりと見上げるだけで何も言わない。 目の前には湯気をたてる真っ白いマグカップ。 その中には甘い匂いを放つブラックコーヒー。
そして、私の手には大まかに砕かれたプレート・チョコが。
「―――別に、」 「そお?」 姉は苦笑してタオルを首にするりと落とすと、私が淹れておいたコーヒーを火にかけ、キッチンに立つ。 姉は熱さにこだわる。私が十分熱いと思う温度では納得してくれない。 「食べるならちゃんと食べちゃいなさい」 「……いいの。こうやってなかったことにするんだから」 姉に聞こえる筈もない、小さな声で私は呟いた。 頬杖をつきながら、指でつまんだチョコをコーヒーにほんのちょっぴり浸す。 とろり、とコーヒーの表面にチョコが融けだす。 私は手にしたチョコをゆっくり溶かして仕舞うと、そのコーヒーをゆっくりと飲み下した。
姉はくすっと笑うとポットを火から下ろし、空のマグカップを持って近づいて来た。 「じゃあ、早く融けるようにね?」 笑みを含んだ優しい口調で姉は上から私のカップに熱い熱いコーヒーを注いだ。 こぽこぽ、という音が静かに響いて、私は何となく笑ってしまった。
そう、早くチョコを溶かしてしまおう。
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ちょっとしたバレンタイン・ストーリーを。 あまり幸せっぽくはありませんが(笑)
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