昼食に誰かを待つ日は

2019年07月07日(日)

日曜日。
髪の毛を切りに行く。Oさんに言われて気がついたが、私の額の生え際にはどうやら青いアザのようなものがあるらしかった。「これどうしたんですか?」と聞かれても、自分で気がついていないのだから答えられない。でも思い返すと、ずっと前にも他人にそのことを指摘されたことがあった。
その後、何かひどいことを言われたような気もするが思い出せない。

六本木へ移動。国立新美術館に向かう。その前に腹ごしらえと思い、近くにある定食屋に入った。「アメット」という店。六本木っぽくない店の雰囲気は、一言でいうとバンドの「たま」の世界観。「かっこつけるほどかっこ悪くなるのさ!」、「うちは、回転しなくても良い店です」など、深くて浅いのか、はたまた浅くて深いのか判断しかねる文言が、ところどころに掲げられていた。メニューがありすぎて悩むのが面倒になり、目についたハンバーグを注文。これがものすごく美味しかった。良い肉を使っているのか、コネ具合が絶妙なのか、とにかく今まで食べたハンバーグで体験したことのない食感。ソースも美味しかった。ぱっと見は母の味というような定食なのだが、見た目とは裏腹に味は品があった。なぜかうどんが付いていたけれど。

『クリスチャン・ボルタンスキー展』ゾッとした。けれど好きだった。「怖い、怖い」と仕切りに彼氏と思わしき男にすがりついている女などを傍目に、ひとり順々に作品を眺める。(ずっと彼の心臓音が響いていた)ところどころ幻想的な空間があり、死神のような天使のようなものたちが影になってゆらゆら漂っているのを見ているのは飽きず、この作品の前でだけ童心でいられた。子どものうちに見ておきたかったなとおもう。(この後死神みたいなモニュメント買い、今は部屋にぶら下げて影を作って遊んでいる)一番怖かったのは、黒い服が山のように積み上がっている「ぼた山」という作品で、なぜだか私はアウシュビッツの収容所の人たちを連想し、肌で怯えた。頭の中でしか知らない彼ら(虐殺されたユダヤ人)の生、生だったもの、を間近で見てしまったような。
何よりこの人、照明の使い方がほんとうに上手だ。すべてが写っているのではなく「浮かび上がって」いた。
闇の中に闇が浮かんでいることを、光が示唆してくれていたように思う。
それにしても、「咳をする男」の不快だったこと…。
出た後に晴れ間ではなく雨が降っていてよかったなと思う。

その後シネマカリテで『ピアッシング』という映画を観る。村上龍原作だというので前々から観たかった映画。おそらく映画より小説の方が面白いのだろうが、色使いや音楽がポップで楽しく、刺激的だった。
都会を見下ろせるマンションに住みベッドにはシルクのシーツが敷かれ紅色に統一された部屋で暮らし自分の身を守るためなら手段を選ばない金髪ボブのミア・ワシコウスカがとても魅力的だった。自らの太ももをグサグサ刺してしまうほどに精神は壊れていたけれど、マザーコンプレックスでアイスピックを持ち歩いている男よりかはよほど正常だろう。観客がまばらで左のおっさんがエンドロールの曲に合わせて頭を振っていた。

帰り道は寒かった。梅雨はいつ明けるんだろうな。買ったモニュメントが影になってゆらゆら揺れている。
あいつはダメなやつだなと思われても良いのですべてを放り投げ闇がきちんと浮かび上がる光が存在している場所に行きいろんなことをしっかり、ひたすらに祈っていたい。自分を肯定してくれる場所や人が、時々信じられなくなる時がある。梅雨が明ければ気持ちも晴れるのだろうか。


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左岸 [MAIL]