昼食に誰かを待つ日は

2019年07月01日(月)

足首の裏側に貼っていた絆創膏が剥がれ、傷口が治癒しすこし硬くなった皮膚が赤くなっている。同じ場所に絆創膏を貼っている女性をときたま見るけれど彼女らはヒールを履いてつかつかと背筋正しくセクシーに歩き、その姿を遠目から実は羨ましく思っているのだった。私が足首の裏側に絆創膏を貼ったのは、オニツカタイガーの新しいスニーカーを履き、そしてそれが足の形に合わなかったからで、理由にセクシーさのかけらが微塵もない。この靴は結局まったく履いていない。去年の今頃に、とある場所へ行くため頑張ってヒールを履いたのだが、その大事な場所に入る前にやっぱり靴擦れをおこして足首の裏側を負傷し、セブンで絆創膏を買って、見知らぬマンションのロビーで滑稽な格好のまま絆創膏を貼って、その場所へ向かった。終わってすぐヒールは脱いで、そのままどこかへ行った。OLっていいなと思う。「足の絆創膏、剥がして。」

昨日私はとんでもなく馬鹿で幼稚なことをやらかした。お前は何故いつも一時停止ができないの?と自分に問いかけたい。何度も何度も問いかけたい。何か痛いことがあればそっちに気を向けることができるのだが、あいにくそんな傷口がひとつもなく、そのためあちらこちらに神経が向けられ、その神経は自己防衛につながっていて、突飛な行動をし、違う場所に不要な傷をつくりだし、そして激しく後悔し、女々しい女でいることに半ば呆れ、猛烈にそんな自分を憎たらしく思う。私は悲観的で女々しい女が嫌。でもこの日記を読んでいると毎日毎日自分が違うように見えるし、ほとんど悲観的なようにも見える。全て燃やしてしまいたい。悲しみではなく静かな怒りを内部にたぎらせて、それを違う形で表出させたいのだけれど矛先がどこにもない。

以前頭のおかしな男が真夜中にわざわざ台所で眠っていたことがあったが、どうして一人そんな冷たいところに横たわっていたのか意味がわからず、それに気をひくためとしてはあまりに子供じみていてもはや哀れに見えていたのだけれど、その行動とほとんど変わらない行動を自分がしていたことに気がついて、あの頭のおかしな男の気持ちがようやく初めて理解できたような気がしたが、その瞬間にたちまちその全てを否定したくなり、同類であることに心の底から嫌悪を感じた。過ぎていったものたちを完全に葬り切れていないようだ。丸ごと全てを墓場に持って行きたい。美化した思い出もなければ恨みも執着もない。ただただ墓場の中に埋めて、風が吹かない限り近づいてきてほしくない。全く意味のない話である。

鳴る必要のない電話が鳴って、切れずに鳴りっぱなしの電話のもとでうろうろし、掛け直すこともかけ直されることもないまま明日になって、そこで生まれたはずの会話を想像する気すら微塵も起きず、こんな電話の前に通知してほしい人の名前がいつまでたっても表示されず、しかしそもそもこの機械を信頼していないのでそんなことはどうでも良い。どうでも良いものにいつも左右されていて生身が見えない。キーボードを打つ手が早くなったところで何になるのだ、淡々と文字を打ち込んでいる裏側にどんな顔や声が言葉が潜んでいるんでしょう。見えすぎると疲れてしまうから一つ壁として、これを通して、話したほうがスムーズに行くのだろうか。

久しぶりに犬に会って、この犬のことをいつまでも抱きしめていたかった。無垢な目でこちらを見つめるので、その目を見ている時だけは正直でいられる。犬は、会って、抱きしめて、撫でて、そこで初めて満足してくれる。それ以上のことは何もできないけど。直接。直接。

直接、という話。


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左岸 [MAIL]