てくてくミーハー道場

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2016年03月26日(土) 『ETERNAL CHIKAMATSU』(Bunkamuraシアターコクーン)

“ルヴォー演出=難解”というのが、ぼくの少ないルヴォー経験からくる先入観でございまして、実は若干腰が引けていたのですが、それは嬉しくも裏切られました。

脚本の谷賢一氏のことは全く存じ上げません(謝)

でも中身は、ぼくがよく知っている、近松の『心中天網島』でした。

正確に書くと、『心中天網島』の小春に境遇がよく似た現代人女性・ハルが、大阪市某所の次元の割れ目に足を踏み入れた時になんと小春と出会い、二人の女の世界と精神が交わる、といった幻想的なお話ですあー完全にネタばれ。←



ハルが生きている世界が、現代ニッポンに唯一残っている“正真正銘の悪所”飛田新地っぽいところが、強烈に禍々しさをかもし出していた。いや、ぼくはもちろん行ったことないですけど、ないからこそ想像ばっか膨らむわね。どんな怖いところなのかと。

登場人物はハルをはじめみんななぜか標準語だから、本当の飛田新地を知ってる人には「嘘くさっ!」と思われたかも知れない。あれ?ひょっとすると飛田新地にいるおねえさん方も、昔の吉原の遊女みたいに日本全国から来ていて、言葉は標準語がデフォルトなのかしら?

実際、ほとんどの俳優さんたちは、現代ワールドと近松ワールドで同じ立場の“二役”を演ってて、苦労して上方歌舞伎の台詞回しで芝居されていた。んで、これがなんとも不自然な方がチラホラ・・・だったので、現代ワールドでは大阪弁NGになっちゃったのかな。そんな理由ってあるのだろうか?



まあいい。そもそもこんなことを話題にしたいのではないので。

実はチラシのヴィジュアルを見たとき、てっきりふかっちゃん(深津絵里)と七之助が心中する仲の役どころなのかと(以下、完全ネタばれ!)










全然違ってました。

冒頭に書いた内容で、ふかっちゃんがハルを演じ、七之助が小春を演じるのだった。

二人は表と裏の関係。

それに、小春の恋人・治兵衛と現代ワールドのジロウ、その女房・おさんと現代ワールドのアキ、治兵衛の兄・孫右衛門と現代ワールドのイサオ(そのすべてを一人二役)などが絡んでくる。

近松ワールドでのストーリー展開は、全部ぼくたちが知っている近松作の『心中天網島』のとおり。

その一部始終を、中嶋しゅうさん演じる“ストーリーテラー”に説明されながら、ハルと一緒に観客は目撃する。

上に書いた登場人物たちは同一人物であるかのように人格がぴったり一致しているのだが、ハルと小春だけは、境遇だけは似ているけれど、性格や“思っていること”が全然違う。

だけど、まるで互いが自分自身であるかのように精神が寄り添い合い、ラストシーンでは(ここはさすがにネタばれしないでおこう)





役者に対して一言二言。

ふかっちゃん。おそろしいほど魅惑的。

“普段のハル”と、売春宿で客を相手に「お店のルール説明」(←変な言い方だが、本当にこんな感じ)をしてるときのハルの落差がすごい。これは男はだまされる。と、思う。(?)


七之助。独壇場。

もーーーーーーーしわけないが(?)、ふかっちゃんと中嶋しゅうさん以外の役者、全員蹴散らされてました。

実力の差が激しすぎて。

買い被りかも知れないが、ハルと小春が初めて出会うシーンで、傘を傾けて七之助の小春が顔を現した瞬間、玉さん(坂東玉三郎)と同じ色(大きさはさすがにちょっと及んでいなかった)のオーラが見えたよ!なんかギョッとしたよあたし!

まあ、メイクもいつもの歌舞伎メイクと違って、若干ギョッとする感じのメイクだったんだけど()

でも決してそれだけじゃない。断言する。


とにかく、ふかっちゃんはともかくとして、これ以外の出演者の皆さん(貶すときは礼儀上名前を出しません)が全く板に乗れてない。七之助ひとりがどっしりと板に乗って安定の演技力を発揮してる周りでフラフラワタワタしてるのが非常に目障りだった(←キツいなあいつものことながら)

あっ、ごめん、イサオ=孫右衛門を演った音尾琢真さんは良かったわ。上手だったわ。

というわけなので、フラフラワタワタしてたのは誰なのか、消去法で判ってしまうな。

そういうことなので、じゃ!(←)



う〜ん、これはルヴォーの狙いだったのかしら。いつもぼくたちが見せてもらっている「河庄」や「時雨の炬燵」だと、治兵衛が“いい男”だもんね。情けない男なんだけど役者の魅力で好きになってしまう。決して悪いやっちゃない、みたいな感情になってしまう。それはダメだよ、ってことだったのだろうか(例によってうがちますなー)

ま、その点は判明しないけれども、ぼくは、ルヴォーのものなのか谷氏のものなのか判らないが、この作品の、

「心中なんて1ミリも美しくなんかない」「自殺は残された人への裏切りだ」

という主張には百回も千回も肯きたかったです。





とりあえず、ルヴォーも良かったけれど、早くこのコヤで今年のコクーン歌舞伎を観たいわ。前回上演時に「北番」を観逃してる(一応WOWWOWでは視た)ので、今回は何としてもゲットしなければ。うむ。


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