舌の色はピンク
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2021年08月13日(金) ひろゆき=パリストン説

小雨。
傘を差さずに済む程度。

電車内に母親と娘二人の三人組。
まだ園児とみられる娘二人はお行儀良かったが
20代半ばひょっとすると前半と思しき母親は
マスクをずらして鼻を露出させたまま喋りっぱなしで参った。
でもあれ自分以外の全員がきちんとマスク装着してたら
だいたい成立しちゃうんだよな。
いや厳密にはしないけど、言い分の余地は発生する。
彼女の中では彼女は正しい。


弁当は定番。ひき肉とナスの豆板醤炒め。
今回は牛豚の合い挽き肉にした。
ちょっとだけマンネリ回避。
まー豚肉のみのが美味しいかな…。
本当は豚肉赤身が望ましいのだけど
1パック量が多いんだよな。
一回で使い切れない。
挽肉は開けたら即使い切りたいし。
でも引っ越したら食材の事情がガラッと変わってくる。
これまで長年使ってきた冷蔵庫は、
ほとんど一人暮らし用といえるサイズで、
二人暮らしでも困りはしないけれど
毎日欠かさず毎食自炊してる身としては
かなり小さい…ようだ、世間的には。
だから買い出しの頻度が高い。
買う、使う、のサイクルが早い。
これはこれで利点もあった。
ほとんど常に鮮度が落ちないし、
献立をその日の気分で変えやすい。
今後は買いだめができるようになるから、
食材の確保はしやすい一方で、
買ってから時間が経ってるとか
事前に一週間分の献立組み立てておかなきゃとか、
面倒も増える。
でもきっと支出は抑えられる。
一長一短だなあ。
いやまあ三長一短くらいにはなるかな。


『セクシー田中さん』4巻読んだ。
業務中あやうく泣きそうになった。
サードプレイスってこういうことだよなあ。
田中さんには居場所がある、っていう現在が
絵でひと目で表されていてグッとくる。
というかもはや田中さんが何してても感動しがち。
なお業務中というのはそういう仕事なだけで
マンガ読んでサボってるというわけではないです。


桜井のりおの
『ロロッロ!』読んだ。2巻まで。すごい面白い。
僕ヤバだけでもギャグが面白いのわかるけど
1話ごとの構成も上手いしネタも豊富で圧巻。
シモネタギャグ漫画の完成版という感じ。
『みつどもえ』も読みたくなるな。
…みつどもえだっけ?

僕ヤバは更新されるたびに
Twitter上で話題になっていて
あれちょっと気持ち悪い。
陰キャ界の陽キャな立ち位置というか。

スクールカーストの上位って
スタイリッシュで
発言力があって
取り巻きがいて
流行を抑えててたまには流行の発信者でもあって、
そういった
「正しい強さ」
みたいな価値観の体現者に対して
「そうじゃない自分」
という認識をTwitter上ではカウンター的に価値化していて、
社会的に適応されていない自分像というのを
うまく言語化したり戯画化したりするほど
この界隈では人気が得られる構図があって、
それが行き着くとこまで行き着くと結局は
その界隈において
スタイリッシュで
発言力があって
取り巻きがいて
流行を抑えててたまには流行の発信者でもあって、
ていう
新生の
「正しい強さ」
の体現者がもてはやされる、
このお生憎。

僕ヤバ
の話題大好きなファンはそういうとこある。
わかってますよ、的な。
これの良さがわかる人間だけでつるみましょう、
言語感覚をともにしましょう、
おれたち流行最先端…
みたいな…
オエー きもちわる

いや言い過ぎか。
陰キャ界の陽キャみたいな人たちの気持ち悪さというのはある。
でも僕ヤバをこれみよがしに話題にするファンたちに対しては、
別に責め立てることもない…ただ個人的に
ちょっとオエッてなっった瞬間があった。

Twitterの使い方、それこそ誰にとっても自由なはずだけど、
正誤じゃなく好悪の問題で、
よそから話題ひっぱってきて語りがちな手合は好かない。
政治話も芸能話もアニメ話も
ニュースのたぐいへのコメント、意見も
おおよそ自分自身に主題がないから
外部から引っ張ってきている、
そういう印象が強い。
見ていて痛々しいし、恥ずかしい。
「〜なう。」
って構文はよくできていた。
あれは
 今その時を生きている自分
についての声明だったから。


まとめサイト、Twitterにおける
ひろゆきの人気について。
ここでいう人気というのは話題性の意で、
批判や嘲笑、中傷も含む。
この男はやはり特異な、面白い人物なのだと思う。
本人の言動そのものの面白さよりも
その類まれな立ち位置、キャラクターに興味がある。
もともと、彼自身がまさに
2ちゃんねるを体現したような男で、
その相似性が興味深かった。
一方で近年、メディアへの露出が増え、
SNS上で議論の真似事が取り沙汰されるようになると、
それは従来の2ちゃんねる的イメージから離れてしまった気がした。
個が際立ちすぎて、匿名性の特質が剥落していたからだ。
しかしここでパリストン。
ハンターハンターのパリストンにご登場いただく。
このキャラは作中で当初、
面倒くさい嫌なやつ。という立ち位置で現れて、
そこからドンドン複雑さを増していき
既存のキャラクター像にはない怪奇さで
読者を戸惑わせていった。
結局のところ彼は、
利益や善悪の追求といった目的なしに、
ただ場をひっかきまわしたい奴、
という位置づけで認識される(本当はもっと複雑だけど)。
そう、ひろゆきはパリストンなのだ。
自己顕示欲とか自己評価とか自己肯定感とか、
そうした流行り言葉を全く寄せ付けない。
論破というのも周囲が引っ付けたアイコンで、
実際は議論の勝ち負けを目的とせず、
ただ場を引っかき回したいだけ。
自分がどう思われるか、評価されるかはどうでもいい。
それは個の喪失でもあって、無敵だ。
こんな相手をどう扱えばいいのかといえば、
それもまたまさしく、2ちゃんねるにおける常道だ。
つまり、「荒らしはスルー」するのが一番である…のだが、
なにぶん当人がそこんとこをの霊妙を心得ていて、
なるべく火種を振りまきやすい
センセーショナルな言説を振りかざすものだから、
周りが黙っていない。
マスコミの醜悪な部分を特化させた性格を持つ
まとめサイト、アフィサイトのたぐいが
それをまた煽るものだから、
多くの人が釣られる。
釣られている面々は議論しているつもりで、
その実メタな視点からは議論される対象にしか
なりえていない。
まだまだ日本のインターネットが、
ひろゆきの掌から逃れられてない感じがする。

ただ僕は支持者でもなんでもないので、
ひろゆきの発言をしっかり追っかけたこともないし、
実態とのズレは大きいかもしれない。
でもひろゆき=パリストンには自信ありだ。
確信と言っていい。


夕飯はアジの干物。
それだけだと妻が泣くから
昨日余しておいた唐揚げを添えた。
唐揚げうっまあ…
アジも美味かった。
魚焼きグリルは通さない。
フライパンにうすく水を張って
くつくつ煮立たせるだけ。
ふっくら美味しい。


明日は予定がなんにもない。
朝ねまくってもいい。
でもなんか起きちゃうのだ、ここ一年くらい。
何時に寝ようが、7時かそこらに。
久しぶりに10時くらいまで寝てみたいもんだとも思う。


2021年08月12日(木) 天使の遅延証明(後編)

曇り。
朝の時点で、今日はあまり暑くない。
電車は空いていた。
コロナ患者急増中の事情もあり、お盆期間でもあり、
本当ならもっと少なくてもいいはずだが、そううまくはいかないか…


業務中なんかまたアホからアホアホ対応取られた。
依頼主から送られてくる書類をもとに
社内データベースに数値などを打ち込んで情報を照会し、
その結果によって
作業したりしなかったり…といった業務があるのだけども、
書類上にこれまで確認が不要とされていた項目があり、
ある二欄が空白の場合には、
他の情報が作成条件に合致しても、
作業不要となる…という特殊ルールが今日判明した。
それ自体はどうでもよくて、
しかし見逃しがちな項目だから
気をつけましょうねで済ませず、
データベースにそのチェック項目を組み込むか、
または作業するたびに記入している伝票に記載された
チェック項目一覧に今回の件を足すか、
どちらかはした方がいいですよねと無能に提言したところ、
 ウーン
というアホアホな答え。
データベースの方も伝票の方も、
ちょうど数年に一度の更新期を迎え、
各種の書き換えをしているタイミングでもある。
ただ、そうとはいえ見えない事情もありうるから、
却下なら却下でいいのだが、
 ウーン
から先何も言わない。これがアホだ。
無能さにもいろいろあるが
即座に方針を指し示せない無能さはとことん上には向かない。
即座というほどでもないしな…。
猶予を与えたところで無為に時間が過ぎていく。
同じことを言い回しだけ変えて二度三度伝えて、
あなたのターンですよ、
という調子を言葉尻に込めてやってもこれという返事がない。
もうあんまり呆れ返ってしまい、その場を離れた。
こうしてバカの介護をしているのだが、
今のカイシャとしては、残業をいとわない彼のほうがその一点で
上に立つ適正アリなのだ。
別に、アホでも無能でも上に立っててくれていいんだけど。
何だかんだのしわよせで、将来的にしなくてもいい残業に結びつく、
そういう結果がもたらされるのだけ納得いかない。


妻用の弁当は鶏団子。
醤油黒酢の味付け。
僕の方はインドカレーをナンでいただいた。
ワクチン接種二回目から9日が経つ。
病院では、
およそ1週間から10日で効果が期待できる、
という話を看護師さんから聞いた。
まだ油断はできないが、
換気しっぱなしの客の少ない店で
一人さっさと平らげる分には、そう問題ないだろう。




ナンチャッテではない
チャントした唐揚げをいっぺん作ってみたい、
つくらねばならぬ、やり遂げる、
そう思い着手した。
とはいえやはり、そう手間のかかるものでもない。
下味をつけて
衣をつけて
二度揚げする、
つけダレを用意する。
せいぜいこんなものだ。
本当は高級めなブランド鶏肉買いたかったけど
スーパーでは売り切れてた。
下味は
醤油みりん塩コショウ練り生姜チューブニンニク。
いつも通りだ。スパイスでも加えりゃあよかったかな。
さて揚げ油は
いつもフライパンにやや浮く程度の量しか注いでないが
今日ばっかりはナミナミと…
ちゃんと肉全体が浸る量を入れた。
この油は再利用しないからもったいないが…
値段でいえば、2リットル250円のキャノーラ油の、
500ml分にあたる50円分ほど。
これをケチっても20円分はかかるのだから
わずか30円で唐揚げの本気が買えるならまぁいいだろう。
汁気をよくふき取った鶏肉に片栗粉を遠慮なくまぶして
さらに薄力粉もかけて煮えたぎる油に投入。
3分揚げて
3分休ませたあと、
40秒揚げる。
つけだれは酢漬けの玉ねぎに黒酢とハチミツ加えた汁に
ごま油で炒めたニンニクみじん切りを加えたもの。
さてお味は…
うん美味い…
とても美味い…が…
ナンチャッテ唐揚げとほとんど変わらない。
こっから改良の余地あるのか?


荻窪の住居、審査通っちゃったらしい。
緊急連絡先の件があったから
落とされてもおかしくないと思われたけど…
あぁ本当にあそこに住むのか…
不安だな…


以下、昨日の続き。

[天使の遅延証明](2/2)


 兄は日に何度も少年の部屋を訪れるようなった。あるときは毒づき、あるときは口も開かず、部屋部屋を行ったり来たりしていた。ろくに足の踏み場もなかった少年の部屋には道ができた。少年はたびたび棚に積まれた本やら紙類を置き散らして道をふさいだ。何度ふさいでもすぐに道ができていた。
 やたら自分の死について語りたがる兄の本心は読めなかった。だいたいいつも少年にとっては明け透けだった兄を、これまで脅威に感じたことはない。
「なんで生まれたところに戻っちゃうんだろうな。これ、要はロスタイムだろ。8分間だけだって、もうちょっと他に、やっておきたいことありそうなもんだ」
「さんざんシーウィーンで語られてたじゃない。まず僕が立てて見たその仮説からして、信じられるかあやしいもんだって」
「いやあ、でも、俺、なんか実感してるよ。9月末のその日に俺が…んだら、たぶん、俺が産まれ落ちたところに戻るって、なんとなくわかる」
「8分間でしたいことがあるの」
「あるような、ないような」
 そこいらにある書類を手すさびに折ったりつついたり弾いたりしている兄を見て少年は違和感をもった。自分も同じ動作を試してみたが数秒も続かなかった。兄の視線に射抜かれている。
「お前さ、ほんとに天使、いると思う?」
「いないよ。あのグラフに絵みたいな図が出るから、勝手にそこに意味を見出して、それを天使って呼びならわしてるだけなんだから」
 兄は顔からはみ出るほど口を横へ広げて、
「俺が…ぬとなったら、試してみるか。天使に抵抗してみる。あいつらが俺を連れていくつもりならな」
 そう言って書類をにぎりつぶした。

 兄の死に様は、常日頃まず動じることのない少年でさえも震え上がる奇景ぶりだった。兄は体育館内の側面に設置された中二階から柵を越えて転落し、真下にあった低鉄棒に直撃した。落下の瞬間を目撃した者はいない。中二階はたいした高さではなく、衝突音も振動も館内にいた他の生徒の活気にかき消される程度のものだった。しかし脛骨を打った勢いで体が半回転し、前頭部を床に打ちつけて、頭蓋内損傷により敢無く死亡した。転落は事故であったと見られている。文化祭に向けて体育館内の飾りつけを下調べしていたところ、柵から強引に身を乗り出した拍子に血流が圧迫され急性心不全が起こり、バランスを崩した…。
 少年には信じがたい顛末だった。なにしろあれだけ10月22日を取り沙汰していたのに、まさかその当日に柵から身を乗り出すなんて真似をするだろうか。とはいえ自ら飛び降りるなら一も二もなく屋上を選ぶだろう。やはり事故は事故なのかもしれない。不可解なのは遺体の体勢だった。下半身は側面を向き、ゆるく曲げられた左足の上にぴったり右足が重なっていた。上半身は仰臥位で、両手がそれぞれ胴体の横にふっくらした楕円を描くように広げられ、腰元に指先が接していた。誰かの悪ふざけとしか思えないほど出来すぎていた。兄は一枚の羽根になっていた。
 少年は事故現場を直接見てはいない。ただ現場に居合わせた一人が事故直後に撮った写真が出回っていると聞き及び、抗議するという名目で、何人かを通して見せてもらったのだった。
 兄の死の情報をグラフには仕立てなかった。少年はなけなしの優しさをしぼりあげ、悲しみに明け暮れる父母に寄り添った。

 以来、少年は明るくなった。人という人を小ばかにしたかつての悪態はなりを潜め、悪趣味はすっかり洗い落とされたようだった。部屋中にあふれかえっていたノートやバインダーの類はことごとく処分した。父母との会話が増えた。母とは近所の花々を網羅した図鑑を一緒に作成した。父とは週に一度将棋を指すようになった。
 少年とは対照的に教師は軽薄さを失い、押し黙りながら今にも叫びだしそうな不穏さを漂わせていた。伏し目がちなその目は角度によっては凍てついて、何かを隠しているような寒色を瞳際に沈めながら、また角度によってはぎらついて、何かを暴き立てようとしているような熱気が眼球中にみなぎり、老若問わず誰をも寄せつけなかった。
 少年は教師との付き合いを再開できないか機を伺っていた。ちょっといいですか、と話しかけても一瞥くれるだけで無視される変事が二度あった。そのまま冬休みを迎え、年が明けた三学期、教師は学校にこなかった。

 それきり音信が途絶えていた教師からの連絡を受け取ったのは少年の母だった。電話口で名乗られてすぐに彼女は、あの頃は息子たちがお世話になりましたと礼を述べた。
 互いに挨拶を重ね、電話を切ろうとしたところで息子が帰宅した。
 かつて青白い少年だった彼も今は溌溂とした青年となっていた。
 あの事故から十年の月日が経っていた。

 はじめ教師は久しぶりに家を訪ねたいと提案してきたが、それはなるべく避けたいと答えると、では小学校近くの公園にしようと申し出を改めた。電話を通じて聞こえる声からは、あの頃の怖ろしいような雰囲気は感じられなかった。
「先生はいつでもいいんだが。明日でも明後日でも」
「今日これからでもいいですか?」
「おおっ、いいぞいいぞ。ちょっと遅くなるけどな」
 彼は青年になった今も、特定の日付に意味を与えられることを忌避していた。その強迫観念は年月とともに薄れてきているものの、あの事故を想起させる関係にある人と、約束の日を取り付けたくはない。

 十年ぶりの再会したというのに、教師はほとんど前置きもなく、問わず語りにあれからの身の上話を始めた。
 …当時確かに自分は正気を失っていた。しかしそれは事故の一件だけが原因ではない。当時複雑な関係にあった女性の身にも時期を同じくして不幸があった。なにか人知の及ばぬ呪われた因縁を感じ、職も住まいも捨てて失踪した。親戚を頼ることもなく、日雇いでどうにか食いつなぎながら地を這い泥水をすする思いで生きながらえてきた。紆余曲折を経て、去年ようやく会社勤務の働き口を得た。ある同僚と世間話をしていると、都市伝説の一環として”天使の遅延証明”を紹介された。思いの外平静に受け流すことができた自分に驚き、もはやあの日を過去にできていると自覚した途端、当時縁のあった面々に会いたくなって、連絡網を引っ張り出し電話をかけた…
「先週は、その、付き合いのあった女性の地元に行ったんだよ。案外歓迎されて、びっくりしたな」
「僕も歓迎しますよ。お帰りなさい。先生」
「もう先生じゃないよ」
 月明りに乏しい夜だった。雲の隙間から僅かにこぼれた月光が蛍光灯の照射と混じり合い、土に残った子どもの足跡を照らしている。雲の挙動によっては光の粒子がちらつき、土埃の身元を照会して、あたかも夜空が昼間の痕跡を見張っているようだった。二人はベンチに座り、当時にはなかった親密さで思い出を語りながら、お互いに本題を探っているらしき気配を感じ取っていた。
 思い出話は時系列に沿って進み、やがて事故の日に近づくと、元教師の目が、いつかのようにぎらついた。その瞳にただよう鈍光に堪えかね、本題は青年のほうから切り出した。
「先生は何か、知っていたんですよね。兄が、初めて自分の死を口にしたとき、僕は馬鹿にしたけれど、その後二人で数分抜け出しましたよね」
「うん。口止めされてたわけじゃないが、でもやっぱりこれは口外すべきじゃないと思ってね」
 どのように口を割らそうか奸計を巡らすまでもなく、元教師はあっさり白状した。 
「"天使の遅延証明"を本当に信じてるかどうかって、訊かれたよ。真面目な顔つきだった。私は信じていると答えた。彼は真面目な顔を奇妙に歪ませて、こう言った。
 『生きていることに意味を見出せなくても、死に意味を与えてやることはできる』」
 
 箴言じみた文句の意を読み取るより先に、兄にとってそんなに人生は無味乾燥なものだったのかという、ぼんやりした衝撃があった。兄の言動一つ一つを思い返して検証したくもなった。
「その時は、自分を対象にした言葉なのかどうか、わからんかった。今もわからんけどな」
「あれでけっこう思い悩むタイプだったんですよ。中学の頃は家出とかして」
「悩みね…たしかにあいつは、悩んでいた」
「僕が原因でしたか?」
 不穏な沈黙があった。意味の込められた沈黙だった。
「きみは賢い。私はね、いつも通知表の書き方に悩んだよ。明らかに問題はあるのに指摘できなくて」
「兄は、僕の理論が嫌いだったんじゃないですか? 僕はあれ以来、あのサイトを見てません。でも確信していることがあります。兄の死期を明かすこととなったシーウィーの発信者が誰か。はじめは特定しようともしませんでした。でもふいに閃いた。ほんの思いつきです。人に伝わるような根拠はないけれど、なんとなくわかる。兄が取り憑かれた理論の提唱者は、兄自身ですね」
 つい今しがたの沈黙とはまた異なる、閉じ込められていた意味をあたりへ拡散させたようなこの沈黙は騒がしかった。二人は目を合わせず会話していた。しかし今、二人の視線の先は交差していた。
「あの夏の終わり…秋の始まりにかけてまでか。あのひと月は楽しかった。いつ思い返しても愉快になれる記憶を量産してるって、当時は思ってたよ。そんな自慢の記憶にまもなく蓋をするなんて見越せようはずもない。でもお兄さんにとっては…違ったんだろう。きみの思いつきについてはなんとも言えない。はぐらかしてるって思うだろうが、私もこれで…」
「僕、兄ちゃんはまだ生きてるって、たまに考えるんですよ」
 この公園は新しくもなく、広くもなく、遊具も揃っていない。その割には子どもで賑わうらしく、昼間彼らがどれだけ楽しんでいたか、あちこちにその証が残っている。植木の脇に置かれたサッカーボールはきっとこの公園を利用する子ども全員の共有物で、また明日も使うからと放置しているのだろう。幼い彼らはその明日を全く疑っていない。
「兄ちゃんは天使を騙してやろうとした…。今もしてるんですよ。死んだふりをして確かめるつもりなんだ。僕たちも全員騙されてて、あいつ、本当は生きてるのに…。なんて、こんな風に考えたって、あれでしょう、死んだ者は返ってこないっていうでしょう。起きた過去は変えられませんからね。でも過去の意味を変えることはできるはずです」
「過去の意味ね。難しいことを言う」
「兄のほうがよっぽど、難しいこと言ってたそうじゃないですか」
「知ってるか。シーウィーンが閉鎖するらしい」
 むしろまだ存続していたのかと意表を突かれた彼の反応を待たず、元教師は畳み掛けた。
「あの頃、たくさんの人の死亡時刻やら場所やらから、例のグラフをこさえていったよな。ていっても情報の出所があそこじゃ信憑性がない、結局は、半信半疑だった。なあ、"天使の遅延証明"について話した同僚がいると言ったろ。そいつは否定派でね。つい最近親戚の最期を看取ったとかで、まぁ細かい経緯は知らんが、算出してみたそうなんだよ」
「合わなかった?」
「そうだ。合わなかった」
「はあ、まあ、でしょうね。やっぱりなんかの勘違いだったんですね。結局、事実関係をオカルトにこじつけただけだった。小さい頃にありがちな牽強付会だったわけだ」
「小さかったのはきみだけだろ」
「あの頃の僕からしてみても、二人は幼かったですよ」
「はは、懐かしい舌先じゃないか。しかしまあ気になっちゃってな。その後すぐ、自分でもしっかり確かめてみることにした。個人的に懇意にしている病院の事務員にねだって、十数年分のそういったデータを手配してもらったんだ」
「はあ、まあ、昔から見抜いてましたよ。先生は小悪党を手なずけるフェロモンを発してるって」
「するとどうだ。きみのお兄さんのあの日を境にして、これより以前は、ちゃんと羽根が現れるんだよ。そして、これより以後は…」
「羽根が現れない?」
「そうだ。だから、天使はもう遅れてこない。きみのお兄さんは、どういうわけなんだか、人が死んでからの猶予を奪ったんだなあ」
 月が雲に隠れようと公園の明度に変わりはないが、あやういところで鬩ぎ合っていた光の均衡が崩れると、園内の事物はことごとく生気を失くした。ゴミ箱の近くに横たわったジュース缶はアルミ製の円柱に過ぎず、砂場のある隆起ある陥没はたまたまそうなった地形でしかない。サッカーボールはただの白黒の球だった。家々に挟まれた狭い路地へ大型車両が侵入したついでに、ヘッドライトの光線が園内をゆっくり一閃していった。低木から一匹の小動物が暗闇へ走り去り、ビニール袋が中空を舞って、静かに落ちていった。
 二人の目が合った。
「いや、いや。それはおかしい。遅れてこないっていうんなら、じゃあ、死亡時刻と同時に羽根が現れるはずだ」
「ん? そうか? そうなるか。たしかにそうだな」
「呑み込めてきた。あぁなるほど、そうだ、とんでもないな! 先生、だからね、つまり……。8分じゃなくて、きっと、もっとずっと延びたんですよ」
「猶予が?」
「そうですよ! 8時間? 8日? 8年?」
「今も逃げ延びているとでも?」
「天使は遅れてこないどころじゃない。遅れっぱなしなんです」
 昼間の足跡をせいいっぱい隠すようにビニール袋は横たわり、表面に付着した水分が、蛍光灯の光をきらきら反射させていた。光の粒子が水気から立ち上がって、ほんのわずか、上か下か、右か左か、進路に惑うそぶりを見せてから、表面を滑落していった。どこから来たものか自身にも知れない水滴はこの夜長い旅を経て、昼間の名残りを濡らした。
「先生。だからその…女性も」
「もう先生じゃない」
「でも、今なら、ちゃんと僕への通知表が書けるんじゃないですか」
 その賢立てに元教師は、いかにも悔しげに笑った。
「自由研究が完成したな」

 こうしてかつて少年であった彼は、兄の死に意味を与えてやれた。
 天使は実在するかもしれないし、実在しないかもしれない。そのどちらも同じ意味に変革してやった兄と兄の死を、今ではひそかに誇りにしている。

(おわり)


2021年08月11日(水) 天使の遅延証明(前編)

晴れ。
この後数日は雨が続くようだ。
出勤時間中に十数分でも降られたらアウトだから
平日の布団洗濯は慎重に日を選ばなければならない。
予報に寄ると今日は通り雨の心配もそうなさそうだからと、
なんとか布団を洗濯して干した。
気持ちいい…。


弁当はナシゴレン。
炒めてソース絡ませるだけでできる横着版。
具もネギだけ。
あと目玉焼きのっけた。ごま油で焼いた。


ヤングガンガンコミックス、
『地獄の教頭』を読んだ。
つ、つつつつまらない…。
なろう系というのか
ざまぁ系というのか
拍手喝采コピペ系というのか
悪いやつはもっと強い悪でこらしめる!
ドヤ! スカッとしてね!
ていうモノスゴイ幼稚な構図で話がまとまってて
現実の善悪の複雑さとか全然出てないし
(その雰囲気だけはあるのに)
ちょうつまらない。
作中のブラックさというか
暴力性だとか裏社会的な凶悪さも
ウシジマくんが切り拓いて整備してくれた道に
甘んじてるって印象が強く…しらける。
Quoraで勧められてたのにな…
あそこ漫画がよく引き合いに出されるわりに
根っからの漫画読みはあんまいないからな…



オリンピックとコロナ。
「オリンピック強行するってことは、
国民ばっかりが自粛に応じる必要はないってことですよね!」
という
アホなガキの論法が本体まかりとおるはずもないのだが、
しかしアホが多いという事実は受け入れるべきだ。
この手の身勝手な論法の厄介なところは、
見かけ上は強力な言い訳が確保される点だ。
お酒と身を許す論法に似ている。
「酔っていたから仕方ない」というやつだ。
多くの例で
「酔っていたから仕方ない、とするために酒を飲む」
この意味合いが内在しており、
自分の醜さを覆い隠す役割をうまく果たしている。
因果の逆転が完成し、
自分への言い訳が確保される。
自覚のある人間はたびたび自己嫌悪に駆られもするだろう、
自覚のない人間はただただ厄介だ。
自分への言い訳をないものとして扱う。

…ていうか世の中、
自分への言い訳に無頓着すぎやしないか?
そんなに向き合いたくないのか。
ダイエット中なのに完食してしまう、
恋人がいるのに別の異性に懸想してしまう、
コロナ禍なのに外遊びしてしまう…
認知的不協和の例を持ち出すまでもなく
こんな心の動きは日常にありふれていて、
そのたびにほとんど誰もが、
「でも…だから仕方ない」
と言い訳を持ち出して、自分を納得させる。
傍から見ると滑稽であるし、
自分自身もまっとうに向き合ったなら
その醜さに吐き気がするやつ。
への言及を、とんと見ない。

割拠における地獄の正体、
はじめはどんなにしようかちょっと悩んだけど、
この
 自分への言い訳
を採用して正解だったと思う。
まごうことなき地獄だ。


夕飯は醤油ラーメン。
暑いけど食べたかった。
生めんを茹でてメンマ入れただけ。
夕飯の記録ももう数カ月続けてるけど
こうしてみるとやはり横着は多い。
残業のある月水金は帰宅が22時あたりになるから
できればそっから10分くらいで食べたいんだよな。
あー疲れたっつって帰宅したそばから
ノンストップで飯作ってるだけ偉いだろう。


「私デバッグが好きなんだ」
と出し抜けに妻が言い出すものだからびっくりした。
僕自身にはほぼ縁がないから実体験とはならないが、
デバッグは地獄といった声は世間に多く聞く。
あるバグを発見する、その原因を突き止める、
どうにか補修する、なぜかうまくいかない、
どうにか補修する、なぜかうまくいった、
それに連動してか今度は別のところにバグができた、
どうにか補修する、なぜか…
の繰り返しで終わりが見えない。
やすやすと想像のつく苦しみだ。
だから、普段まず言わないこの言葉を吐いた。
「変わってるね」
へたしたら何十年ぶりに使ったかもしれない。

よくよく話を聞けば、
たしかにゲーム界隈だとかでのそれは怖ろしいのだろうけれども
私が触れる程度のプログラムならば問題点が明確だからそう大変じゃない、
私は問題点を明らかにするのが好きなのだ、
という話だったから納得した。


天使の遅延証明、やはりここにも残しておくことにした。
いっぺんには載せられない(enpitsuは1万字まで…)から
今日明日で分割。


[天使の遅延証明](1/2)

 人が息を引き取ってから八分間はまだその人がこの世に留まっていると知れたのは、ある小学生の自由研究がきっかけだった。たいがい人さまを困らせて喜びがちな悪戯好きの同世代の少年と比べてなお、彼には素直でないところがあり…彼の母親いわく「身の毛もよだつ恥さらし」の趣味があり…その気質は夏休みの自由研究のテーマにも表れていたが、誰にも邪魔立てされぬよう、余命幾ばくもない実の祖父を対象とした死期の観察を進めていることは、彼の兄以外には知らせていなかった。
 祖父は肺を病んでいた。度重なる手術に身体はすっかり弱りきり、いくつかの合併症も患っていた。少年は病名、病状から似た事例を調べあげ、細かな数字の一切を記録して、祖父の余命の期待値を計算していた。少年の立てた予定日より一日早く、祖父は息を引き取った。
 往生際には是非とも立ち会っておきたかったが、大人たちの判断で少年は病院には連れて行かれず、祖父の自宅に置き去りにされていた。真夏の盛りのわずかに手前、蝉の声が幾重にも重なり合う昼日中のことだった。古い家なだけあり、風が通り過ぎるほどよく通る。生ぬるい風が吹き抜けるたび老いた匂いがした。戦前生まれの祖父にとっては文字通りの生家で、お産もここで迎えたとのことだった。
 留守居を任された少年は、この上ない好機を得たつもりでせっせと記録をつけていた。写真、書類、登録証…。知りたかった祖父のデータがこれでもかと揃っている。祖父の生年月日からこの家の緯度経度まで、新たに得られた情報を片っ端からノートに書いていく。少年はまっすぐ育っているとはいい難い性情の持ち主ではあったが、真面目だった。彼なりに、真面目に自由研究に取り組んでいた。蚊に刺された腕をかくたび、汗がノートにしたたった。つい指でぬぐう。鉛筆で書かれた文字が滲んだ。こうなると消しゴムをかけるにも苦労する。もともと消しゴムは好きではなかった。あらゆる過去は修正できないものと子どもながらに信じていた。
 ふいに蝉の声が止んだ。風も匂いも潜まった。聴覚が失われたような静けさに気を向けると肌感覚が鋭敏になって、背筋をぞわりと撫でられた感触がした。息を立ててはいけない。唾液は呑み込むな。鼓動を止めろ。まばたき一つでさえしてやるものか…。自分の身体の音だけは聞きとられてしまう、ただそれだけの世界に迷い込んでしまった心地だった。
 蝉が鳴きはじめた。この時間を書き留めておくことにした。午後3時27分。きっと祖父は、この時間に亡くなったのだ。
 ところが夜になって母に問い質してみたところ、医師の告げた臨終時刻は午後3時19分であったという。奇妙なそぐわなさがあった。どこか噛み合ってない感じがした。

「おまえ、バカ。本当に爺ちゃん死んじゃったのに、まだノート書いてんのか」
 部屋で頭と鉛筆をひねっていると兄がちょっかいをかけてきた。今朝までの豪放な態度とはまるで違う。身内の死とそれに向き合う親族の感情とに接して、感傷的になっていたらしかった。
「クールでしょ」
「バカ。第一おまえ、そんないっぱい数字ばっか並べても、何がなんだかわかんないだろ」
「僕には僕のやり方があるんだよ。一流のね! いいから放っといて」
 兄は一旦その場を離れてはまたやってきて、毒づいたり邪魔したりを繰り返した。慣れない感情の行き場に戸惑っていたのだった。挙句の果てには手伝わせろと迫ってきた。
「兄ちゃんがグラフにしてやるよ。お前も今のうちから、グラフ慣れしといたほうがいいぜ。この世界にはグラフにできないものなんてない。つまり、グラフは世界の全部を表現できるんだからな」
 持て余した感情を、いっそ機械的な数値の処理に落とし込むことで、どうにか心理の安定を図ったものらしい。
 しかし何より、あの時はただ習得したての技術を試してみたかったのだと後に兄は述懐した。
 その試みは兄弟の行く末を決定づけることとなった。

 兄の仕立てたグラフ上にはある図形が現れていた。
 幾何学の図形ではない。一枚の羽根だった。
 兄がどうした法則で数値を始末していったものか少年にはわからなかったから、はじめは兄がデタラメに絵を描いたものと見なしていた。ところが兄は深刻ぶってわなないている。
「これ、本当? 本当に、こうなるの?」
「えらいもん掘り当てちまったな」
 少年は歓喜に打ち震えた。
 緯度経度にせよ、時刻の数値にせよ、いずれも人間の勝手な尺度であるのだから、神の摂理には関係あるはずがない。関係あるはずがないからこそ、かえって、絶対者の悪戯めいた超越性を感じさせていたのだった。
「兄ちゃん、すごいよ。どうしてこんななるの。どうしよう」
「でもお前、よくわかんない数字が多いよ。この3時27分てなんの時間なんだ?」
「それは…」
 少年は仮説を立ててみた。 
 祖父は息を引き取ると、その…魂というのか、霊というのか、とにかく彼そのものは…死に場所を離れて、この生家までやってきた。祖父に限らず、ひょっとすると、人は死ぬと必ず、生まれ落ちた場所に一度戻ってくるのかもしれない。
 そして天使は遅れてやってくる。
 死者がどこをさ迷おうが、八分遅れでやってくる…
「この羽根の絵は、天使が遅れてやってきたことの証明なんだよ」
 なんてね、と繋げた弟の言い回しを兄は聞き取らず真に受けて、なにやらブツブツ呟いていた。
 
 “シーウィーン”は小中学生を中心としたSNSで、一つの投稿に、文字、画像、映像、図像、音楽、動画を好きなようにまとめられる。ここで語られる話や情報は真偽の如何が重視されない。開設初期はそうでもなかったが、ある時期にここを発生源としたデマが爆発的に広まり、それから皆が皆好き勝手な妄想を表す場となったという歴史がある。おかげで多くの子どもが鬱憤のはけ口として活用していた。クラスメイトの悪口を書こうが、不幸を願おうが、ここに書いてあることは本当じゃないからという言い逃れがかなう分、気軽に呪えるのだった。
 都市伝説や陰謀論とも相性がいい。児童の健全な人格形成を阻む有害サイトとして規制対象に挙げられる日が遠くないことは誰の目にも明らかだった。とはいえ、住人として長く留まるアカウントはわずかだった。高校生にもなれば、まだあんなところに出入りしているのかと嘲笑される、今では落ち目のサイトだった。
 兄はまだシーウィーンのアカウントを保持していた。
「ちょっと信憑性を高めたいときは、検証したがる連中を刺激して反応を増やすのがコツなんだよな」
「どうするの」
「バカ正直にそのまんま書く必要はないからな。今回だったら、うちらのじいちゃんってポイントはずらせないけど、名前だけ有名人から借りちまおう。同姓同名ってことにすりゃいい。それきっかけで、調べるやつは調べる。調べだしたら、それが一歩目になる。あとは成りゆき任せだ」
 ここでの投稿は“シーウィー”と呼ばれている。噂、妄想、知られざる真実、といったニュアンスを含んだネットミームとして認知されていた。兄のシーウィーは当初こそ注目されなかったが、別の人気アカウントがこの内容を剽窃し、再投稿した。シーウィーンでは日常茶飯事のことだった。これをきっかけに“天使の遅延証明”はわずかに話題になった。とはいえそれも一部の物好きが、一部の域内で一時口の端に上げていたにすぎず、やがて誰からも忘れ去られていった。

 少年の自由研究は結局未完成のまま、夏休みが終わった。仮説、推論の段階で提出する気にはどうしてもなれなかった。
 彼の教師はなんでもいいから提出するよう縋った。
「先生も困っちゃうんだよ。な。夏休みに食べたものとかでいいから」
「覚えてません」
「じゃあこれなら覚えてるっていう、なにか印象深い出来事はなかった?」
「おじいちゃんが八分遅れで死にました」
 教師は児童たちの思考様式や生活態度に接近したいという名目で、シーウィーンに出入りしていた。ときには児童になりすまして交流を図ることすらあった。“天使の遅延証明”を知ったのはつい先週で、なかなか好奇心を突かれたが、情報源が情報源なだけに、友人や同僚には話題に挙げられずにいた。
「それ、あれだろう。あの…」
「なんですか?」
「お前だったのか?」
「あ、思い出しました。夏休みに何食べていたか全部」
「な。してるんだろ。その…研究。先生も協力してやろうか」
「結構です」
 あたら遠くの方を見る落ち込み方をした教師を哀れんで、いくらかの問答ののち、結局少年は教師を一味に加えてやった。

 少年の部屋はこれまでに企ててきた悪だくみの遺産にまみれていたから、いまさら今回の資料を隠す必要はなかった。もとより父母はこの部屋を気味悪がって寄り付こうともしない。少年の方では母を部屋へ誘ってみたこともある。その日の夜、夫婦は珍しく口争いをしていた。声は潜めていたものの、要するに躾がどうのといった話題に違いないと少年は確信していた。
「審美眼ていうんだよ。審美眼が連中にはない」
 理解しがたい領分に歩み寄ろうともしない大人たちを少年は常日頃から蔑んでいた。だが、この部屋に入って目を輝かせている教師を見たときには、少年自慢の鉄面皮がひきつった。
 そこかしこに散らばった宝物に手を伸ばそうとする教師を遮って、本命の資料を渡してやった。ところがこちらには渋い反応を見せてきたものだから、少年としては面白くない。
「なんだ、こりゃ。デタラメだよこんなの」
「もう来ないでくださいね」
「冗談、冗談だよ」
「こっちは本気ですよ」
「仲よくしよう。酒でも飲むか?」
「結構です」

 だが兄の方は教師と親交を深めていた。二年分余らせた花火をいっぺんに燃え上がらせたり、バイクの貸し借りをしていたり、ことわりなく町内のそこかしこを掃き掃除したりと、友人同然の付き合いを楽しんでいた。ただしそれらは兄がシーウィーンに書き込んでいたから知れたわけで、あまりに親しい二人の仲をどこまで信じたものか少年には疑わしかった。
 兄のアカウントは次第に人気を集めていった。それに伴い天使の遅延証明”は二度目の流行を迎えた。シーウィーンの外にまで周知されるようなって、いきおい死の秘密に関するシーウィーが激増した。少年は気に留めなかったが兄のほうは全てに目を通して、これはなかなか良くできているの、これはお話にならないのと一つひとつ品評していた。
 そして、ある一つのシーウィーに取り憑かれた。
 死期を割り出す記述だった。
「俺は死んじまう!」
「いつ? どうやって?」
「10月26日火曜日。何度計算してもそうなる…」
「今年の? もうすぐってこと? バカじゃないの」
「お前は大丈夫だ。でも俺は死んじまう」
「なに本気にしてんのさ」
「お前な、兄ちゃんだって、100%信じてるわけじゃない。でも、お前、たとえ1%でも死ぬって、ああ、1%でも死ぬって思ったら!」
 兄弟の言い争いに関してはいつも微笑ましく見守っている教師が、今回ばかりは耐えかねて口を挟んだ。
「大丈夫だ。心配するな。先生がなんとかしてやるからな」
「先生ありがとう。じゃあ、ちょっと」
 二人は少年を置いてどこかへ行ってしまった。よほど重大な密談でも交わしているのかと思われきや、ものの二三分で兄だけ戻ってきたものだから拍子抜けした。

(後編へ続く)


2021年08月10日(火) オーディエンスの審判

晴れ。晴れすぎるほど晴れ。
昨晩に続いて風が強く気持ちいい。


昨日の時点で会社に弁当箱を忘れてしまい
今日は箱型のジップロックに入れてきた。
ジップロックってなんなんですかね、今でも慣れない。
箱型のも袋状のもあるし。
聞き手側にまわったときに、何を指し示してるのかわからんよと戸惑う。
だから話し手としても迷う。
タッパーね。

オリーブオイルで豚ロースと刻んだナス炒めて
醤油とバルサミコ酢、少量の砂糖で味付けて水分飛ばしたら
ブラックペッパー振ってできあがり、
切るの含めて4分くらい。
これ美味いなあ…。


オーディエンスの審判。
誰かとこう、異なる意見を応酬している際に、
オーディエンスが発生することがある。
それは場によって、他人かもしれないし、
友人やクラスメイト、同僚であったりする。
今回の例では他人じゃないことにしよう。
そうすると、意見の妥当性、理屈の正当性だけでなく、
発言者の人となりとか立場とか、
その場においての扱われ方が、オーディエンスの風向きを左右しがちだ。
Aさんは普段からちょっとおかしなこと言ってるよね、
といった印象ありきの審判になる。
だから今回もAさんがきっとおかしいんだろうね、と。
さて、そんなAさんと意見を戦わせているBさんは今、
周囲に味方されている。
Aさんがおかしい、とオーディエンスは嘲笑している。
そのおかげもあって、Bさんの意見は保護されている。
ところがBさんには、これはこれで面白くない。
自分の意見が公正に評価されていない点は勿論だが、
さらにそれに加えて、
Aさんが叩かれる有様が気に食わない。
Bさんは、かつてAさんの立場も経験的に知っている。
それは小規模で、誰にも意識されないミクロな体験だったけれど、
その感覚には覚えがある。
だからBさんには、この状況は好ましくない。
Bさんだって、特異な立場の方が馴染みあるくらいだ。
Bさんは味方であるはずのオーディエンスに反感を持った。
BさんはAさんと仲良くなる。
……。
…。


夕飯は魚か中華風あんかけか迷った。
結局あまりものを処理できる誘惑に抗えず中華風あんかけに。
鶏むねのひき肉で団子を作っておき、茹でて、
ゴマ油でニンジン、玉ねぎ、ナスを炒め、
片栗粉と少量の砂糖、中華だし、練り生姜を溶いた黒酢醤油を加えて
トロリとさせたら鶏団子も入れて
あんを絡ませてできあがり。
薄味でも美味しい。
じわじわとお酢の頻度を高めてる。
一年前まではほとんど使ってなかったけれど
今では週に何度か登場させてる、
健康にはかなりいいはず。


原神。
アンバーの誕生日に
炎弓という同じ役目で上位互換となる
宵宮さんのピックアップ。
まぁこの子は引く必要ないのだが、
同じく新キャラである早柚がタヌキ幼女忍者で
妻がえらくそのビジュアルを気に入り
引きたいと言って聞かない。
ためておきたかった石を放出し祈願。
10連で辛炎が二体きた。
この子は、そんなにまわすほうではない僕のプレイで
ダントツ重なりまくっていて
とっくに完凸してるのだけど
まさかもう来ないよね、といっていたところへ
二体重なってきたから妻は大笑いしていた。
僕はわりとへこんだ。
ただいらないだけじゃなくて、
これだけ来てくれてるのにプレイヤーつまり僕がいらない扱いしてるのが
果てしなくブルーになる。

どうしても、とねだるからもう10連だけまわすと
見事にタヌキ忍者を出した。
体力消費せずゴロゴロフィールドを移動できるのはよい。


そういえばWikipediaで
今また寄付を募るメッセージを押し出しているらしく
冒頭の文が面白かった。
「最近では初めてのお願いとなります。」
最近では初めて。
最近では初めて。
こんなん反則だろう。ルール無用デスマッチ。
文法として仕上がりまくってる。
そんなんいったらなんだって初めてにし放題だし。
いつでも処女になれるっつうか。

もちろん翻訳文だからこその奇妙さで、
ばかにしてるわけではないです。
あと寄付は大事です。
でも最近めっきりWikipediaつかわんくなったな。


久しぶりに割拠書き進めてる。
かなりインターバル空けたからか、
フレーッシュな感覚で書けるのが楽しい。


2021年08月09日(月) 一時的なとりまとめ

祝日。大雨。
起きた時点でどしゃぶり。
開けっ放しだった窓の前がよく濡れていた。

弁当は豚肉とキャベツでホイコーロウ風。
豆板醤で炒めてコショウ振っただけ。ピーマンもなし。
それで十分美味いからな…。
まー大分味は薄かった。でも成立してる。


仕事は30分だけ早く終わった。
というかただでさえ緊急事態宣言下で
さらにここしばらくの感染急拡大もあって
あげく祝日出勤は早上がりが許されてるのに
無駄に定時近くまで置かれて
上に立つ資格ない無能が上に立つとあちこちに迷惑をかける。
ただこの無能、そう悪い人でもないのだけど…。

夕飯はお魚とうどん。
焼き魚のつもりだったが軒並みやや高く、
どうせなら火曜日が刺身以外の魚安いからと、
今日はエンガワの刺身にした。
ご飯は少なめ。
うどんは一玉を二人分とした。
しっかり美味い。


夜半、にわかに風が強まり、夫婦でベランダに立った。
二人は強風が好きだ。
その後も窓を開け放して楽しんだ。


割拠についての一時的なとりまとめ。

まず、重商主義による土地の奪い合いを省みて、
領地内で生産力を高める資本主義経済が発達していった。
ところが、生産のためには領地があればあるほどよいとされる。
市場原理主義は商業によって自由で公平な競争を実現し、
最大多数の最大幸福(世のためが人のため、人のためが世のため)を
是とする理念を普及させ、
多くの人にとって便利で効率的で豊かな生活を与えたが、
そこから切り捨てられる敗北者を生み出した。
しかし建前上の平等観念から、救済も組み込まれている。
共同体の“個人”の膜がまだ薄かった共生社会においては
自発的な相互扶助があったが、
国民の“個人”の集合体となった近代国家ではこれを国が請け負って、
福祉を充実させる取り組みに変遷していった。
市場原理主義は、人々の居住地を都市化していく。
便利で効率的、合理的で、そのために画一的な街となっていく。
都市および都市圏には地方から人口が流入してくる。
外来者もまた、個性を封殺されて都市化する。
しかし元の性質も潜在的に維持している。つまり二重性を獲得する<ビナヤカ>。
都市には<まなざし>が無限にあふれかえっている。
<まなざし>は自己と他者を結ぶ線分で、
その多くは互いに表徴、虚像を見つめている。
自分に都合のいい他者像、他者に都合の良い自己像<スペクトル>が、
都市の住人である。
都市人は常に正解を求めて生活する。
不正解に怯えながら生きている。

転入者はストレンジャーで、
画一的な都市の型はそれを受け入れるのに都合がいい。
個性が剥ぎ取られるほど、ストレンジの度合いは弱まる。
関係性および社会的資本の喪失も、自然の成り行きである。
人物の個性は内在に秘められ、外へは明かされなくなっていく。
スペクトルは複雑立体化していくばかりである。
一人の人のなかに、無限の人、無限の解釈が生まれ、
<三千世界>に行き渡る。
一瞬一瞬のうちに、<三千世界>が使い捨てられていく。
自分にとってそうであるように、
<他者>にとっても同じく、<三千世界>がある。
<他者>により解釈されてしまう不幸に対して生じる、
内なる言い訳こそが、<地獄>である。

人口減少社会においては、開発圧力が低下し、行政サービスも縮小していく。
社会学の殆どは、社会の成長・拡大を前提としてきたため、
縮小されていく社会についてのビジョンが欠如している。
小さな政府のもとで国民が充実した福祉を授かるには、
地域社会、町内会やNPOの協力が不可欠となる。
しかし国民(住民)のほとんどは、
税金の支払いによる対価を求めるだけの、客の感覚が根強い。
ここに、自身が全体の一部である自覚があれば、
地域社会の活動にも意欲的になれるはずであるが、
なかなかそうはならない。
地域に流入してきた層にとっては尚更で、
そんな彼らを地域にいた層が<歓待>できるかはこれもまた難しい。

ストレンジャーが真なる意味でその土地に根付くには、
すなわち共同体の一員になるには、
個人としての在り方と
人員としての在り方を両立させる必要がある。
ここには二律背反の克服がある。
ビナーヤカは悪神であったが、
菩薩観音とのまぐわいを交渉して仏法に帰依し、
障害除去者となった。

他者を知ることは、情報について知悉することでなく、
他者と経験-世界-を分かち合うこと、
他者の世界に自分を置いてもらうことである(空海)。
相手の<三千世界>にいる自分を知覚することで、
他者は個人としての人格と、人員としての立場を
<私>のなかで獲得する。

祭りは内部の領分であるが、<内部性の爆発>である。
………


まだ整理しきれないな。
でもいい感じ。


2021年08月08日(日) オリンピコー閉会式

雨。かなり降ってる。
洗濯物が干せない。
台風が接近してるとかなんとか。

不動産屋の開く10時に妻が電話をかけた。

近所のマルエツへ。
ここへは昨晩も客の少なくなる時間帯をねらい
繰り出したのだが散々だった。
営業時間は22時まで、
ペットボトルの回収を21時半までしているのだが
21時23分に到着したところすでに締め切っていた。
仕方ない運が悪かった、と自分に言い聞かせて入店、
すると僕の大嫌いなジェーポップが。
あの髭なんとかいうセンスないダサヒョロ曲が流れてて
ウワァー死ねえ死ね死ね60年以内にひっそり死ね
と怨念まみれで飲料売り場に出向き
アイスティーどっさり買おうとしたところ
他のすべては十数本あるのに
アイスティーだけが売り切れてて
ウオオオオオアアアアアアアアアアア
そんな気が狂ってるさなかも流れるアホアホジェーポップ
アオアオアオアオアオ
狂乱のあまり
翌日昼のための餃子の皮の買い足しまで忘れてしまい
アタマおかしくなった。

だから今日もまた行くのだ。
ペットボトルを捨て、餃子の皮を買い、
アイスティーを大量入手するために。
開店直後に。
雨だろうとなんだろうと。
ウワアアアアアアアア。
で餃子の皮を買い忘れた。
うめき声も出ない。
アイスティーがまだ陳列されていなかったら
今回は店員さんに尋ねたのだ。それで、忘れた。

帰宅してからもう一度、今度は高円寺方面のスーパーに行った。
雨の中。
どうあれ本日夜と明日昼の分の食材買わなきゃだからいいんだけど。
全然いいんだけど。
全然よくない。


で昼飯は餃子にした。また包んだわけだ。せっせせっせと。
調理中に妻が不動産屋へ申し込みをした。
しかしかなり手間取った。
保証会社必須につき、連帯保証人は必要ない。
が契約書には緊急連絡先の項目があり、
これが連帯保証人の欄を兼ねている。
今回その勤務先や年収などを書かなくてはならないのかと、
不動産屋へ連絡して尋ねると、書いてほしいという。
おかしな話だ。
連帯保証人であれば必要な情報というだけで、
緊急連絡先として登録する人物であれば
年収などの個人情報はいらないだろう。
いらないというか、不必要に情報を渡したくない、納得がいかない。
と僕の方はまだ納得いかん程度だったけれど
妻はかなり憤って、不動産屋にも通話しながら怒りを隠そうとしなかった。
結局は、いったんはその欄は空白にしておき、
それで大家さんから何か言われたらまた検討する、で落ち着いた。
これでご破算になったらそれまでだ。


午後はけっこう本腰入れて、割拠の資料をまとめていた。
自分の思考もまとまってきた。
明日あたりには整理して再編できるかな。


夕飯は鶏もも肉ニラポン酢。
かるく塩コショウした鶏もも肉を少量の油で
皮がパリパリになるまで焼く。
タレはポン酢に醤油少々、砂糖少々、いりゴマ適量、
そこに刻んだニラをどっさり。
美味い。
玉ねぎ刻んで放置して辛み抜いたドレッシングも用意したし
茹で鶏も用意したしおかげでサラダも美味い。
でも鶏もも肉の方はカットが大きかったな。
一口のボリュームがありすぎてそしゃくが大変。


オリンピック閉会式。
もう開会から17日くらい経ってんのか…ヒャー。
パフォーマンスはまぁもうどうでもいいとして、
閉会式の間に退屈している選手も少なくなかろうとみて、
あそこへサッカーボール1コ投じたらどれだけ楽しいことだろう、
とふと思った。
または選手がこっそり取り出してくれてもいい。
各国トップクラスの身体能力に秀でた人たちが
単純なボールの取り合いっこをお遊びで始めてくれればいい。
それはとても楽しく健康的で美しい。
スポーツの良さってそういうことじゃないですかね?
余計なもの全部剥ぎ取ってやったときに現れる。
オリンピックは余計なものまとわりすぎ。
世界陸上はいいと思う。

とはいえオリンピックには代替となるイベントもない。
全世界の国家から代表者が集まり
それぞれが国の威信をかけて一定のルールで競うお祭り。
この
 お祭り
というのがくせものなのだ。
今回の東京では、この枷さえなければどれだけやり易かったか、
企画運営側をいたわってやりたくなるほどだが、
 お祭り
がなければオリンピックではなくなってしまう。
それこそ世界陸上的な大会になる。
個人的にはそれでいいのだが、
客観的にはよくない。
代替となるイベントがあればいいのだけど。


2021年08月07日(土) ジェントリフィケーションに騙されるな

久しぶりの物件内見。荻窪へ。
11時に現地だから10時30分に最寄りの高円寺駅に着く必要があり、
すると10時15分には家を出なければならず、
余裕を持って10時10分には支度を終えておきたい…
という、いつもながら時間のくわれるスケジュールにも慣れてきた。

晴れから曇り空、高円寺駅に着いた頃には小雨。
荻窪にはかなり早めに着いたが、
徒歩14分というわりにやたら現地が遠く、
結局20分ほど歩いた。
外観はかなりいい。瓦屋根の平屋で、古めかしい純日本家屋だ。
入ってみた印象は事前に見た写真とそう変わらない。
和室8畳と6畳の陰影は好ましく、廊下越しに見る庭の眺めは気持ちがいい。
だが全体的に汚く、傷と汚れが目立つ。
これは全入居者が子持ちで、かなりその幼児が痛めつけたものだしい。
これから入るクリーニングで一通り補修されるそうではある。
風呂場は一番の批点だった。
昔ながらのタイル式で、非衛生的な見た目をしている。
浴槽は狭く深い。
毎日この風呂に入るのかと思うと気が滅入る。
キッチンは思いのほか使い勝手はよさそうだ。
シンクが広く、またコンセントがあちこちにある。
冷蔵庫もなかなか大きいサイズが設置できるだろう。
納戸はあるが収納は足りない。
今回の物件は80平米だから今より20平米以上広くなる寸法だが
物を置いてみると狭苦しく感じそうだ。
広い庭が難しい。
まちがいなくこの物件の褒めどころでもある一方、
虫がわんさか湧くことは間違いないし、
また平屋である都合上、洗濯物はここに干すことになるが、
干すのと取り込むのとで毎日外に出なければならないのは
夏冬はかなり億劫だろう。
問題点はいろいろある。
駅からは遠いだけじゃなく、かなり道が退屈だ。
荻窪の魅力のない町ではないが、その魅力が現れない。
この物件はすでに5組が内見しており、
うち3組は検討中とのことだから、
この土日には決まってしまいそうだった。
妻は乗り気で、この家に住むビジョンは見えてきているらしい。
僕には見えないが、また夜に相談しようということになった。

高円寺に戻り、妻は皮膚科へ行った。
僕はスーパーに寄ったが長居はできない。
必要最低限の動きで昼食と夕食の材料を買った。


お昼はつけ麺。
買ってきたやつ。
万能ねぎとメンマを加えてみたらめちゃウマ。
ティービーショーは王様のブランチ、
マンガ特集してた。
少女漫画…というかレディコミか。
仕事はできるが私生活は汚部屋で腐ってる主人公を
お世話しまくってくれる家事大得意のイケメン後輩、
という設定の漫画で、
もうこの手のキャラクターは全然珍しくない。
こんなんばっかりとすらいえる。
20〜30代女性向けはお世話されたいのばっかりだ…
でも一方で、男性向け、萌えの分野でも、似たようなものだ。
料理ができる男主人公は多い。
手っ取り早く話を回せるし人間関係も構築しやすく
親交や好感度を深めていける(ということにできる)構造になってる。
しゃらくせえや。

妻はその後打ち合わせ。
仕事ではなく文芸サークルの定例会。
僕の方は本読んだり資料まとめたりネットしたり、
だらだらしていた。


夜は餃子。
キャベツ刻んで塩振っておいて水抜き、
刻んだニラとニンニク足して合い挽き肉と合わせて
醤油砂糖みりんで味付け、タネのできあがり。
餃子を包みながら妻が、今日の物件を殊更に推してきた。
そのなかで、何のために生きてるのかを引き合いに出された。
ずっと古民家には住みたかった、
こういうときに機を逃しては、
じゃあなんのために生きてるのかってなる…
そういわれると、こちらとしても肯ずることとなる。
なにしろそれは、生の実感の話だ。
すでに不動産屋がしまっている時間だったから、
明日朝イチで契約を申し込みたい旨を電話することにした。


都市論について私見。
東京を知っている、というと、
まず真っ先に浮かぶのは、
定番の観光スポットおよび
真新しい商業スポットに暁通しているかどうか、
といったあたりが挙げられる。
しかしこれは外部的な発想だ。
新宿駅で迷わないとか、
各ヒルズにどの店舗が入っているだとか、
その時々の展示を把握した上で美術館を案内できるとか、
外環道や首都高速の立ち回りが上手いとか、
東京を知るって、全然そういうことじゃない。
そういう、ガワの部分、表皮の部分、
副次的な部分を本質みたいに扱っているイナカモノは多い。
ここでいうイナカモノというのは精神的な意味で、
地方出身者を意味しない。
東京育ちでもイナカモノはいる。

それらは作られた東京、
化粧された東京で、
まさにそういったデコラティブな虚像空間こそが
東京なのではないかとする声もあるだろうが、
やはり本質ではない。
地方にもある。規模が違うだけだ。
住宅街、小さな店、小さな展示室、小さな公園、
隘路、狭い空、東京の呼吸、東京の細胞を知ること。
ジェントリフィケーションに騙されないこと。


ちょっとした思いつき。
貨幣のような共同幻想、
全員が共通の認識をしているからこそ成り立つ観念、
実体とかけはなれた付加価値やストーリーが備わる…
これは何かに転用できそうだ。
貨幣のように、という一つの論法として。
ヘンテコロジックになりうる。
今はまだこれという答えを出せないけれど。


2021年08月06日(金) 誰かを腐すことで/ヘンテコロジック

晴れ。
しかし通り雨が心配されるとのことで、
洗濯物は取り込んでから家を出た。


弁当は牛丼風焼肉。
サラダ油でニンニク生姜玉ねぎ炒めて牛肉加えて火が通ったら
醤油少量めんつゆ少量みりん少量コショウ少量、
あとは焼肉のたれで味付け。
ご飯が進む。


なにかを腐すことで…
例えば取引先とか、上司とか先輩とかを悪く言うことで…
共感を得ようとする手口、ある。
「あの人なんなんだろうね」とかいって。
これで連帯感とか、あるいは理解者みたいな関係性を
擬似的に結ぼうとするわけだ。
でもされた側からすれば、
あぁこの人は自分のこともこうして悪く言ってるんだろうな、
と見え透いてしまったりして。
いやあ、人情人情。人心人心。
とはいえ確かに、共通の敵を設定した上で
悪口を重ねていくというのは、共犯感覚もあって、
仲良くなりやすい一つの手立てでもある。
上司より教師のほうがわかりやすいかもしれない。
生徒は、批点のある教師の悪口に容赦がない。
あいつはこうだ、あぁだと誰かが批評すれば、
それに乗じて次々に批評が繰り出される。
それは笑いを伴い、ストレス解消にもなり、
楽しい時間になりえる。
悪口か。
これは一つの主題になるな。


夕飯はナンチャッテ唐揚げ。
冷凍もも肉をレンジで90秒温めて、
醤油みりんニンニク生姜塩コショウの液に
浸して揉み込み10分放置、
片栗粉まぶして揚げ焼き。
街にあふれる唐揚げ専門店とかいう
金賞受賞詐欺の店の唐揚げなんかより
こっちのほうがずっと美味しいからなマジで…。
15分でできるしめちゃ安上がりなのに…マジで比較にならない美味さ。
てきとうにサラダ菜の上にのっけて
フルーツトマト切ってのっけて
玉ねぎパプリカの酢漬けを汁ごとトパトパかけりゃあよ、絶品てもんよ。

食べながら見たひぐらし卒、
ループ時の異空間にいる謎の人が
愉悦部と知れて俄然キャラが立った。
懐かしいな、ギルガメッシュとキレイの愉悦部。
あの二人ほんと楽しそうだったもんな。


きのう天使の遅延証明を書き上げて思ったこと。
風景描写は、
あーここで風景の説明もしておかなきゃ…
という、いわば守りの姿勢で差し込むと、説明的で退屈で白々しくて、書くのも読むのも苦痛。
しかし、オイここには絶対必要なんだからなって
攻めの姿勢でしつらえると、印象が全く違う。
書くのも楽しい。
いや苦しいは苦しいけど、向き合い方が全然違う。
風景描写は攻め、あるいはのびのびと書くことだと学んだ。
あとは論法。
自分はやはり、
どこか変なことを言ってる、
でもどこか変であるか説明はしにくい、
説明してみたところで意味が通ってる部分も生き残る、
なぜ意味が通るのかはまた説明しにくい…
といったこんがらがった論法が、好きなのだ。
そこまで複雑怪奇でなくともいい。
明らかに変でもいい。
どちらかといえば、
なぜか意味の通る部分が生き残る、その欠片んとこのが大事だ。
「わたしの腕は二本しかないから、希少である。
わたし以外の腕は何百億本もあるから、希少でない」
っていうね。
天使の遅延証明はそこんとこの好みをうまく落とし込めた。

でもこの手のヘンテコロジック、新規に生み出すのは難しい。
難しいのはつまり、方法論ができあがってないからで、
方法論ができた途端つまらなくなるからいいんだけど。
いや勿論、テンプレからの改変はできる。
でも新造ってそうじゃないし。
まだまだ楽しめるな。


2021年08月05日(木) 不倫ゴシップへの糾弾

さわやかな晴れ。
熱は下がった。
気だるさはある。
関節痛はやや残っていて、頭痛は解消した。
出勤に問題はない。


電車内の座席で隣り合った男性の組んだ足が通路にせり出していた。
というか、座席で足を組んでいる男を見かけたら
何はさておき威圧するため隣や目の前に陣取ってやるわけですが。
その男がよく見たらマスクずらして
鼻はおろか口元まで露出していたものだから
マジかよコイツと思って
かなり露骨に睨みつけてやった。
10秒ほど睨んだ結果マスクも元に戻したし足組みをやめたけど
また別の何処かで同じ真似し続けるのだと思うと気が滅入る。


弁当はかなり簡単に済ませた。
先日冷凍しておいた鶏団子を茹でて
醤油黒酢みりん砂糖を煮詰めたタレで味付けしただけ。
じゅうぶん美味い。
タレを染みこませてはいないからまぁまぁ薄味だし
団子もひき肉とはいえ鶏むね肉だからまぁまぁ健康的なのかな。


帰宅途中、18時50分ごろから19時5分ごろにかけて、
夕暮れが一年に何度あるかっていうレベルの美景だった。
赤黒くて塊のところどころにスカイブルーが接触していて…
あんまり素晴らしいから帰宅してそのまま10分だけ
川べりを自転車で走った。
途中、小さい公園で女子中学生数人が花火をしていた。
まだ暗くなってないのに、でも夕飯前じゃないと集まれなかったのか、
そういう条件のせめぎ合いのなかで
実現させている花火の思い出は美しいと思った。
その直後によぎった別の小さな公園では、
男子中学生数人が花火をしていた。
夏だ。
夏はいい。


夕飯は合鴨肉のリンゴソース、
真鯛のカルパッチョ、
モッツァレラのサラダ。
鴨はスモークされた合鴨肉をスライスするだけ。
リンゴ半分を賽の目に切って少量の水と砂糖でよく煮て、
バルサミコ酢と醤油加えて煮詰めたらソースのできあがり。
のつもりが、バルサミコ酢を切らしていた。
ガー…ン。
東京、新規感染者5000人いった。
スーパーに出向く気がしない。
やむなく黒酢で代用した。
真鯛の方は、お刺身を皿に並べてオリーブオイルかけて
塩とピンクペッパー散らすだけ。
サラダはベビーリーフにトマトのせて
モッツァレラチーズ切ってのせて
オリーブオイルとバルサミコ酢、塩、ブラックぺーパーでドレッシング。
しかしバルサミコ酢がない!から、やはり黒酢で代用。
それでもいずれも美味かった。
全体的にお手軽なのにごちそう感ある。
コストは1000円くらいかかるから高めだけど
これで二人分なわけだし外食とは比べるべくもない。
ただバルサミコ酢さえあれば…
ご近所と仲良ければ…
ちょっと奥さんバルサミコ酢貸してくださる、
なんつって…いやならないか…いやでも醤油みたいにさ…

食べながら見た映像の世紀、
西欧の汚点、恥部丸出しという感じ。
植民地支配でイキッてるイギリスとか。


また有名人の不倫がどうとか騒がれてら。
めちゃくちゃどうでもいいし、
放っとけよと思うのだけど、
騒いでる連中に対しては批判精神がある。

まず月並な話、批判してる連中は、
いつなんどきでも本当に不倫しないでいられるか?
という点で、この
 いつなんどき
というのがまさに問題なんですねー

好みの異性に迫られ
後腐れない関係性で
パートナーにバレない環境が整っており
自分への言い訳がある
そういうシチュエーションでなお、
悪さしないでいられるか?

そこんとこの弱みが、糾弾の言葉尻に現れてる。
「自分の住まいに不倫相手を呼ぶとか信じられない」
これは、ある一つの条件を置くことで、
その特殊性を際立たせているわけだ。
その特殊性に該当しなければ、
自分は棚上げの論理から逃れられるという寸法だ。
なんて汚いのだろう。

「新婚で」とか「普段あんなこと言ってるくせに」とか
「奥さんがツアー中に」とかどれも似たようなものだ。
黙ってたらいいのに。気持ちの悪い。


2021年08月04日(水) ワクチン接種二回目翌日

起きてすぐ検温。とりあえず微熱。
身体の節々が痛い。
これ寝苦しさだけじゃなく副反応の関節痛なのかな、
関節以外も痛いのだけど。
お注射した左腕の痛みを弱めたような痛みが
全身のあちこちに感じられて
まるで袋叩きにあった翌日のような。
袋叩きにあったことはないが。

なんであれ今日は丸一日籠城する準備は整っている。
とりあえずまだ元気のあるうちに
妻の弁当と洗濯を済ませた。えっらぁ…。


食いもんも十分ある。
朝はトースト食べた後にブルーベリーヨーグルト。
Eテレで十種競技の一日目を見た。
オリンピックに興味ないとはいえ
陸上競技だけは好きだ。
走り幅跳びで一人だけ8m飛んでた選手がかっこよかった。
食欲のあるうちにかっこんどこうと、
昼飯は11時50分ごろにいただいた。チンジャオロース。
がっつり食った。
食後ミックスフルーツのゼリーも食べて…
そっからダウンした。
熱は38度台で安定。
ずっと締めつけられるような頭痛と、
あととにかく倦怠感がひどかった。
動けないし何も見てられない。
漫画を読むのすらつらく、ただ横になって、
しかも眠れもしないという…。
でも15時くらいにふとラーメンが食べたくなり、
食いたいと思えたなら食っちまおうと、
辛ラーメンに手を出した。
全然食べきれなかった。
うぇっぷとなりながらまたダウン。
何もせず何も見ず何も聞かず無為に時間を過ごして
妻は19時ごろ帰宅。
その頃にはややマシになってたけれど頭痛がつらい。
夕飯は出前にしてもらった。
僕は注文せず、シリアルを食べた。
録画しておいたNHKの映像の世紀を観た。
映像の世紀は、昔、
録画されたデータをDVDに焼いたもの…を、
兄の友人から頂戴したことがある。
受験生の当時、世界史の参考になるだろうとくれたのだ。
しかし観ていなかった。なにしろ長いし…。
いつか観たいなと思っていたところへ、
このたびNHKがデジタルリマスター版を連続放映してくれるとの機を得、
ようやく観れたわけだ。うん面白い。
それからまたダウン。
23時半にどうにか風呂に入り、
熱も37度台にまで低まり、明日へ臨む。
本も漫画もDVDも見れないていたらくだったけど
結局家事はやったな。
洗濯や洗い物はしっかりできた。


今日思ったこと。
とにかく漫画も読めない、という状態が割とショッキングで、
じゃあ何ならできるか…と思案巡らせて、
見たり読んだりはつらいけど、聞くことならできるから、
ラジオとかドラマCDとか朗読とか落語とかならいけそうだと思い、
結局は探しすらしなかったんだけども、
音声の同人て作品てもっとあってもいいのでは…?とふと思った。
二次創作における漫画は、原作の絵に近くても近くなくても、
絵が上手くても上手くなくても成立してる。
同じように、同人音声ドラマがもっとあってもいいじゃないか?と。
僕は声優やボイスにこだわりがなく、あまり興味もないが、
すごく単純に、絵とボイスとの置換性に関心が湧いたのだ。
もっとTwitterとかでも、
かるくイラスト描いたからアップ、みたいな感覚で、
ちょっとキャラの掛け合いしてみたからアップしてみよ、
って、なってってもいいというか、なっていくと思う。
よしあしはさておき。


れどれ |MAIL