舌の色はピンク
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僕は6歳のころに 「アレルギー性紫斑症」という 当時の医者いわく「よくわかんない病気」を患い、 少なくとも7年はベッドの上だろうと宣告され 入院していたことがある。 なにせ「よくわかんない」ものだから 病院も対処に困っていたらしい。 母親はそんな病院に不信感を抱いて反発的だった。
入院して10日も経ったころ、 幼き僕は味気ない栄養食に飽きてしまい スイカが食べたいと母にねだった 「ダメよ、我慢なさい」 「スイカがたべたい」 「我慢できないの?」 「たべたい」 「……じゃあ、一応お医者さんに掛け合ってみるからね」
粘りに粘った交渉の末 一口だけなら問題ないでしょうと渋々承諾する医者の言質を得て、 翌日母はスイカを買い病室で一口食べさせてくれた。 「おいしい?」 「おいしい。もっとたべたい」 「一口だけって言われてるからね」 「たべたいよ」 「……」 母はどちらかというと厳格な方だったけど、 なぜかこの時は僕のワガママを聞いてくれたのだった。 調子に乗った僕はこの夜スイカを一個丸ごとたいらげた。
翌日 信じられない量の鼻血が 真っ黒い膿をともなって、出た。 狂的なまでに慌てふためく医者に対し 昨夜のスイカの件を母は堂々と白状して、 病室は怒号と血に支配されていた。
そして更に翌日、 入院から12日を経て、鼻血騒動も一段落ついたころ、 「よくわかんない病気」は 「よくわかんない」ままに治ってしまった。 その後数日間様子を見て、僕は無事に退院した。
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「よくわかんない病気」なのに 医者がどうして7年入院という数値を叩きだせたのかとか スイカと鼻血と疾患全治の相関性の根拠がないとか ヤブ医者おつとか ツッコミどころは多くあるけども、 今でもあれはスイカのおかげだったと信じているし、 あの日あの時あの場所でスイカに会えなかったら 人生は悲惨なものになってたはずだ。
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そんなわけで、スイカ様のおかげで 僕はこんにち無事に生きながらえているのです。 このお話は「スイカじゃなければ……!」って思う。 なんだかひどくマヌケだ。 鼻血もあまりいただけない。 ストーリー上のアイテムとして、 もしもスイカが苺で、鼻血が吐血だったなら そこそこ「いい話」「奇跡的な体験談」としても語れるのかもしれない。 スイカはだめだ。命の恩スイカを蔑みたくはないけれど、だめだ。 スイカ割りなんて遊戯がまさしくスイカの地位を象徴している。 半裸姿の霊長類に雑菌だらけの棒で 汚らしく叩き割られるスイカ。しかも余興。 いじめられっ子だ。
「今夜は星が綺麗だね」 「あ、意外とけっこうロマンチックなんだね〜」 「"星の影響"を意味するイタリア語って知ってるかい?」 「えー。わかんないよー」 「"インフルエンザ"さ!」 「きゃあ知的! 抱いて!」
この口説き文句を誰か盗んでくれないものだろうか。
ジャスくんが 「"パクる"って言葉はしっくりこない。 "盗む"の意味に対して語感が対応していない。 ほかに何か言い方はないものか?」 と面白げなお題を出していたので 後日タケシンくんに相談してみたところ
「そうだなぁ……"引っ越す"」 コイツ…! つねづねアホだと思ってたけど 甘かった、 そこらのアホをはるかに凌駕する勢いのアホ。アホオブザセンチュリー。
略奪により物品の所有権を移らせることで"引っ越す"て……。 絶対にアホ。 すごいなぁ、僕がいくらアホに近づく努力をしても 辿り着けない境地を感じて虚しくなった。 10歳の頃にはどんな大人よりも上手い絵が描けたピカソも 子供の絵を描くのに一生かかったというのに この男はいとも容易く幼い目線を保ってるとでもいうのか、 単に痴愚とも罵れない 天から授かってる才覚におののくばかりだった。
| 2007年03月16日(金) |
ココロのスキマを埋めないで |
恐怖を、 身に迫る恐怖と 死に連結させるグロテスクな恐怖と 想像により喚起・増長される恐怖の三つに大別したとき、 映画・小説などのホラー作品では 上二つには結構強くて、 三つ目も夜中寝るときにちょっとクるくらいであり、 リアルタイムで恐怖することはほぼないんだけど、 「笑ゥせぇるすまん」には耐え切れない。 こわすぎる。 見ながらずっと恐い。
幼少時に植えつけられた 笑ゥせぇるすまんの恐怖は 原体験として今でも尾を引いている。 喪黒福造の真っ黒いビジュアル、 けたたましい笑い声、 不自然なほど緩慢な所作、 左右に揺れる独特の歩法、 得体の知れぬばかりの素性と背後関係、 そして顧客に次々と投じられる不幸への布石……。 あいつは全てがこわい。というかこわくないところがない。 「しごとをしているなやんだおとなたち」が 毎回享楽の一瞬後には凋落していく物語が 社会のことなぞ何も知らない少年には酷に過ぎたのだった。 皮肉の利いた啓発的なメッセージがこれまた 「おとなたちのしゃかいはこんなのか みらいはあんこくだ」 てな風に少年に暗い影を落とさせる因子となり 僕はTVを消してもいつまでも怯えてた。 なんといってもあの顔で丸い指を画面に突き刺し ドーン! ってするのがギャー!
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恐がる幼い僕に対して 兄はよく 「笑わないせぇるすまん」 という即興創作話を聞かせてくれた。 要はなんてことない普通のセールスマンの話に成り下がってる トンデモクオリティのストーリーながらも、 このトラウマを緩和するには多少の効果があった。
しかしさっきYoutubeで 当該アニメイションを不意に見つけてしまい、 恐いもの見たさ、喪黒見たさで鑑賞してみたら やっぱ恐いっていうか ドーン! ギャー!
やっぱり僕の家族仲は冷めている。 陽気極まる明るい母、 計画家でインテリな長男、 遊び人でアウトドア志向の次男、 何事にも兄二人の間をいく末っ子の僕……っていう4人構成。 2年ほど前まで実家に一緒に住んでいた。
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僕ら息子3人には暗黙の了解といおうか、 いつしれずと出来上がっていた絶対的ルールがある。 「家族の前で笑顔を見せない」 それも徹底して…だ。
外向性をいかしてマシンガントークをする母に 息子は耳を傾けながらもまったく笑わないし、 夕食時にバラエティ番組を見ていて 面白い場面に見舞われても 必死で笑いを堪えている男たちがそこにはいる。 なんだこのルール。自分で書いてて不思議になってきた。 でも兄弟でそれを話し合ったこともなく(そもそも会話がほぼ無い)、 自然と発生した取り決め事なのだ。
とはいえ僕たち兄弟は家庭内ツンデレなので 優しさに似た言動をふとした瞬間に垣間見せてしまい 「冷めた家族」の装いが儚くもはがれてしまうことがある。 その気の緩みを母はすかさず察知し、曲解し、歪曲し、 「私の息子たちは普段冷たいくせに実はこんなにも(略)」 と己のブログにしたため、 大勢から好意的なコメントを賜って喜悦に浸るのだ。 いたい。
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海外ドラマのフルハウスみたいな家族愛の真逆を突っ走るも、 こんな家族はこんな家族でアリなんではないでしょうか。 なんてなことを家族仲円満な悪友に打ち明けてみたら 「俺には考えられねーよ! 全ッ然理解できねーよ! アホか!」 と一蹴された。
勤務中は職場でも携帯の携帯はOKで 職務を全うしていれば メール確認くらいなら可、 電話はダメだけど……てなルールがあるらしく 僕も倣って常備してるのだけど 今日昼過ぎに凄まじい勢いで着信があった。 叔父叔母祖母、のべ5人の親戚から 容赦のないコール、コール、コール! そのくせ一親等二親等に該する家族からの電話はない。 母親が死んだのかと思われた。 実家にいる兄ともども現代社会の闇にそうぐうし 惨殺されて 一家で生き残った末男の僕だけがマスコミに追われ 世間の視線から逃れようとするも精神は荒んでいき…… といったところまで邪推は進んだ。
定時を終えて確認してみるに、 どうやら昨日から母淑子に連絡が取れないから 心配しているだけだったとのこと。 親戚一同を巻き込んだ当事者は旅行中でしたという安らかなオチ。
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うちの母親の兄弟5人は仲良すぎで 各々家庭を築いてるのに 親友みたいな付き合いをしている。
反面、我が家3人の兄弟仲といえば お互いのプライベートなんか全然知らないし 全員それぞれ麻雀牌持ってるのに卓を交わしたことなんてついぞ無いし 3人とも寄生獣(漫画)を全巻揃えてたりする。貸し借りしろよ。 決して仲悪いわけでもなしに まったく仲良くないこの関係をしばしば親戚に注意されたりだとか。 たしかに次兄とここ10年で会話した時間なんて 全部をギュッと詰めても2分に満たないから反論できやしない。 それでいてちゃんと独自の兄弟仲が調和、成立しているから不思議。
明日に続きます。
義務教育を終える頃まで 「ゴランノスポンサー」というスポンサーが実在して 業界に幅を利かせていると信じていたことを思い出した。
電車内で母親を 「おかあさま」 と呼ぶ幼児がいてなごんだ。 ドラえもんの絵本なんか広げちゃってまあ。無垢! 10年後もそう呼んでいて欲しいなぁと思った。 今日も僕の視界が許す限りの世界はへいわ。
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たぶん日本一書籍パワーにあふれている町に毎日通っている。 いとも簡単に触発され 最近やや離れがちだった活字がまた愛しくなった。 三島由紀夫の中篇「女神」すっげ面白かった。 続いても彼が著した「葉隠入門」を購読したいと目論み。
フーテンの寅さん、とかいうけど このフーテンを辞書で引くと 「定職をもたずぶらぶらしていること」だけでなく 「精神状態が異常であること」とも載っていることに気付いた。 下町気風庶民代表、精神状態が異常の寅さん。 あまりお近づきになりたくはない。
| 2007年03月10日(土) |
能ある鷹はトランスフォームする |
尊敬すべき先輩のお言葉。 爪を隠している鷹なんてまだマシで、 実際に恐ろしくあるのは しゃばい爪を敢えて見せつけ 「プゲラ! アイツ爪見えてんじゃん能無し鷹ww」 と獲物が近づいてきたところに 密かに体内で生成していた毒汁を吐くような捕食者が もっとも恐ろしいとのこと(毒汁…?)。 「もし俺が鷹なら、爪とかそういう攻撃手段を隠す前に、 まず鷹であることを悟らせないね。 人間にトランスフォームして油断を誘うよ。 真の能ある鷹はトランスフォームする」 何者だ。
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