ひとりごと
DiaryINDEXpastwill


あれから1週間 2003年12月19日(金)

お茶のお稽古の前に獣医さんへ行った。
ピピちゃんの入院費をまだ払っていなかった。
あのときは、お金もろくに持たずにあわてて飛び出したから。
明るい朝の駅に降りたとき、胸がずきんと痛んだ。
あのときは寒い夕方だった。
お店が開いたばかりの陽射しがいっぱいの商店街を歩いた。
見慣れた獣医さんのピンクのドアを見たときにも胸がずきんとした。

エレベーターのドアが開いたら、すぐに待合室だ。
今日はたったひとりのひとがケースを抱えて待っているだけだった。
明るくて静かだった。
受付のカウンターの前に立っていると、すぐにいつもの女性が出てきて
私を見て「あ…」と言う表情になった。
「お支払いを」と言うと、カウンターの中から用意されていたファイルが出された。
ファイルには伝票のほかに、水色の印刷物がはさまれていた。
それには「遺伝子検査報告書」と書かれていた。
そうだった。
原因がわからなかったので、入院するときにオウム病の検査もお願いしたのだった。

「検査の結果が届いています。感染症については陰性と言うことでした。」
と、受付の女性が話した。
研究所から届いたその紙には、まだ(仮称)のままの「ピーちゃん」と言う名前が印刷されていた。
日付は12月13日。
まだこのときにはピピちゃんは生きていた。
今さら…と言う気持ちもあったけれど、
たしかにピピちゃんが生きていた証のようで、その紙をバッグの中に大切にしまった。

「感染症が陰性と言うことは、やっぱり中毒だったのでしょうか?」と尋ねた。
「そうとも限りませんね。あの症状はただの中毒ではないようでした。」
「もし、何かを食べて病気になったのだとしたら、ほかの鳥のためにも注意しなくてはと思って…。」
「そうですね。でももとから病気だったと言う可能性のほうが大きいです。」
「とても元気だったんですよ。突然あんなに具合が悪くなって。」
「インコは元気を装いますからね。ぎりぎりまで元気にがんばったのではないでしょうか。」
そうなのか。
ピピちゃんは、知らない家にやってきて、無理して元気にはしゃいでいたのかもしれないんだ。

「肝臓がかなり腫れていましたから、肝臓がんだったと言うことも考えられるんです。」
あんなに小さいのに、がんかもしれなかっただなんて!
うちに来たときには、もう病気でつらかったのだろうか。
「そうしたら、前の飼い主さんのところでもお医者さんにかかっていたかもしれませんね。」
「そうですね。そうかもしれませんね。」
「かわいそうに。飼い主さんも心配して探していたでしょうに…。私、見つけてあげられなくて。」
そう言うと、
「それはなかなか難しいですよ〜。しかたないですよ。」
と、慰めるように、言ってくださった。

私の心を少しでも軽くするかのように、病気は前からかもしれなかったこと、
飼い主さんが見つからないのは仕方ないことだと受付の女性は言ってくれた。
それでも、ピピちゃんが死んでしまった悲しみに変わりはない。
ピピちゃんがかわいそうだったことに変わりはないのだ。
ここで最後に会ったときのピピちゃんの姿が浮かんで胸がいっぱいになった。

「それでは、お支払いを。」と私が財布を取り出すと、申し訳なさそうに女性が伝票を出した。
「この前お知らせした金額に、検査料金が加わって、こんなになってしまうんです…。」
示された額は、私のお財布の中身ほとんど全部だった。
「大丈夫ですか?あの、もしなんでしたら、入院費だけでこちらの検査料金はいいです。」
と、そう言ってくださった。
え…。どうしよう。
一瞬、迷ってしまった。
でもピピちゃんのことで、お金をケチりたくなかった。
家族なのだから。
そうでなければ後ろめたい気持ちが残りそうだった。

「お支払いします。ちょうどありますから。」とお金を出した。
「大丈夫ですか?あの、ほんとにいいですよ。」と受付の女性。
「いえ。だってそれだけのことをしていただいたのですから。」
私はそう言って、そしてそのとたん、涙がこぼれてきた。
そう、できる限り最良のことをしていただいたのだ。
それでも助からなかった、かわいそうな小さなピピちゃん。
「幸せだったと思いますよ。」と女性はぽつりと言った。
涙が止まらなかった。

「お世話になりました。」
私はハンカチで目を押さえて頭を下げた。
診察中の先生には会えなくて残念だったけれど
受付の女性がこんなにも丁寧に話してくれたことがありがたかった。
ピピちゃんは、間違いなくここで最良の治療を受け、看護してもらっていた。
「あの…お気をつけて。」
と、まだ若い受付の女性は見送ってくれた。
エレベーターのドアが閉まった。

外はまだ始まったばかりの商店街の午前中だった。
顔を直して、お茶のお稽古に行った。
いつもより少し遅れて入った小間には、まぶしい日が射していた。
畳に映った葉っぱの影が小鳥のようだと思ってぼんやり眺めていた。
時間とともに影は動いて小鳥は飛び去ってしまった。

獣医さんに行って、お茶のお稽古に行って、買い物をして、歯医者さんに行って。
まるっきり1週間前と同じコースだった。
時間もぴったり同じでおかしいくらいだった。
違ったのはピピちゃんに会えなかったこと、空が晴れていたこと、
そして私が駅前ですべってころばなかったと言うことくらい。

1週間前に獣医さんで会ったピピちゃんが、私が最後に見たピピちゃんだった。
そのときのピピちゃんは、かわいい声で鳴いてくれた。
元気そうにごはんを食べてみせてくれた。
そんな姿が最後に心に刻まれたことが幸せだと思った。



ミニシュトーレン

おととい教わったばかりのシュトーレンを焼いた。
うまくできたら、友だちへのお土産にしようと思って
小さいサイズにして5本作った。
本当は、まだクリスマスの飾りをしていないのだけれど
シュトーレンこそ今作らないとクリスマスに間に合わない。
夜も遅くなってから、かわいいシュトーレンがやっとできあがった。

できたてをひとつ試食してみた。
まだ柔らかい生地の中のドライフルーツがふんわりと香った。
スパイスの配合もちょうどよかったようだ。
初めてにしてはなかなか、と自画自賛。
これが熟成されたらもっとおいしくなるはず!
あげる友だちの顔を思い浮かべながら、ひとつずつラップでくるんだ。

クリスマスを待っておいしくなぁれ〜。
来年からは、いっぱい焼いて、
もっとたくさんの友だちにあげられるようになるかな?

あ…。結局今日もツリーを出せなかった。
楽しみに来てくれる友だちや妹たちのためにも
ほんとにほんとに明日こそ、がんばって飾りつけをしよう!
賑やかな日がやってくるのが待ち遠しい。


掃除の合間に 2003年12月18日(木)

今日こそクリスマスツリーを出そう。
髪をまとめ、腕をまくり、エプロンをきりっとしめて、
私には珍しく、朝から張り切って動いた。
あと1週間しかないけれど、それでもちょっとの間でも
飾り付けをしてクリスマスムードを楽しもう。

大きなツリーを出してしまうと、床磨きもなかなかできなくなるので
まずは部屋の掃除。
最初は天井から、はたきでほこりを落としていった。
今までうっかり見落としていた小さなクモの巣も、めがねをかけた目で見つけた。
壁の隅っこや絵の額の上のほこりもとって、窓枠も磨いた。
体が温かくなってきた。

今日は寒くない。
窓を開け放し、カーテンをはずして洗濯機に放り込んだ。
そして窓ガラスを磨き始めた。
テラスに面しているリビングのガラスは、
外側に土ぼこりがついて汚れていたので磨き甲斐があった。

お昼過ぎ、お隣さんから電話があった。
「もうお昼ごはん食べた?」
「ううん。まだまだぜんぜん〜!」
本当は、また一緒にビーズをしようと誘われていたのだけれど
掃除をしてツリーを出すつもりだったので、残念だけれど今回は断っていたのだった。

「あのね、これからお好み焼きを焼くんだけれど食べに来ない?一段落したら来てね〜。」
お昼ごはんのことなんて、すっかり忘れていた。
嬉しいお誘いだった。
早速手を洗って支度をした。
デザート用に、この前作ったラ・フランスのコンポートを持ってお隣に伺った。

いつものメンバーが集まって、ビーズを片づけているところだった。
冬らしい、シックな黒いビーズがいくつかつながれていた。
すぐにテーブルはきれいになって、ホットプレートが出してこられた。
それからはみんなで、いつものようにおしゃべりランチ。
ばたばたと掃除をしていたことも忘れて、お好み焼きとおしゃべりに夢中になった。
ひとり分ずつ小さく焼いたお好み焼きを3枚ずつと、
デザートには私のラ・フランスにアイスクリームを添えて、
紅茶までゆっくりといただいた。

掃除の合間のちょっとだけのつもりのランチタイムだったのに
子どもたちが学校から帰ってきて、気がついたら3時を過ぎていたのだった。
掃除がまだ中途半端だったので、名残惜しいけれどお先に失礼した。
「次は25日ね〜!」の声に送られた。
ご近所さんと子どもたちが集まり、料理を持ち寄ってクリスマスパーティーをするのだ。
楽しみ、楽しみ。

家に帰るとカーテンのない窓の外は、もううっすらと暗かった。
急いで残りの窓ガラスを磨き、洗いあげたカーテンをかけた。
夕方が近くなり暗くなりかけた部屋でも、明るくなったのがわかった。
日が暮れ、窓を閉めて、照明や家具やテレビを磨いた。
目に見えて部屋がきれいになっていくのでおもしろい。
照明の真下に残されていたピピちゃんのフンを拭き取るときにはほろっとした。

落ちたほこりを掃除機できれいにして、ワックスをかけて…のつもりだったけれど
遅くなったし、腰もまた痛んできたので今日はここまで。
(あー、意外にも腰がなかなか治らない…)
またツリーを出せなかった。
明日こそ!
絶対にクリスマスツリーを出そう。

ご近所さんたちの家の周りのイルミネーションが輝きだした。
うちは今年もイルミネーションまでは手が回らないかな。
またみんなのキラキラを楽しませてもらおう。
今日は楽しいランチタイムをありがとうございました。


シュトーレン 2003年12月17日(水)

パン教室のクリスマス特別講座に行ってきた。
シュトーレンを前から作ってみたかった。
本当は月曜日の教室に申し込んでいた。
あんなに楽しみにしていたのに、それをどうしたことか
うっかりして行くのを忘れて、今日に振り替えてもらったのだ。
でも月曜日、行かなくてよかったのかもしれない。
あの日、パン教室に行っていたら、
ピピちゃんの危篤の電話を受けられなかったかもしれない。
うちにいたい気分だったのは、ピピちゃんに呼び止められていたのかな…。

シュトーレンはクリスマスを待ちながら
少しずつ食べてゆくドイツの伝統のパン菓子。
たっぷりのフルーツとスパイスが利いたずっしりとしたシュトーレンを
薄く切って一切れずつ食べながらクリスマスを待つと言う。
11月から作り始めて、1ヶ月をかけておいしく熟成されていく。
作ってすぐに食べられるのもいいけれど
そんなゆっくりとしたお菓子が私は好きだ。
待っているこの間にも、少しずつおいしくなっていくシュトーレン。

作ってみてびっくりしたのは、バターなどの材料をふんだんに使うこと。
フルーツやスパイスは多いだろうとは思っていたけれど
バターが粉の半分も入るパンなんて!
それだけにしっとりとこくがあり香り高く、保存も利くのだ。
さらに焼きあがったところで、溶かしバターをたっぷりと塗りつけ
(本場では、溶かしバターにドブンと浸すらしい!)
お砂糖もこれまたたっぷりと真っ白にまぶしつける。
これも何より保存のため、そしてやっぱりおいしさの秘訣。
でもどんなにおいしくても、作り方を知ってしまうと
あまり厚く切っては食べられなくなってしまうなぁ。
これだけ濃厚なお菓子は、やっぱり薄く切って少しずつ味わうのがいいのだろうな。

とにかく先生の説明どおり、たっぷりのバターとお砂糖をまぶして
リッチで、でも素朴な形の香り高いシュトーレンはできあがった。
試食で焼きたてほやほやのシュトーレンをいただいたら
フルーツケーキとパンの間のような味わいでとてもおいしかった。
「2、3日したら味が馴染んできますが、1週間後くらいがおいしいですよ。」
とのことだった。

できあがったばかりの私のシュトーレンは、これからどんどんおいしくなっていく。
ちょうどクリスマスごろが一番おいしくなるときだけれど
日曜日、友だちが集まってのパーティーに切ってみよう。
23日にやって来る、母や妹たちにも食べてもらおう。
それでまだ残っていたら、一番おいしい時期に夫と食べよう。
まだツリーも出していない、のんびりぼんやりの私のクリスマス準備が
シュトーレン作りからやっと始まった。


ピピちゃんの眠り 2003年12月16日(火)

長くて短い夜が明けて
昨日と同じようにまぶしい朝がやって来た。
ピピちゃんは、庭に咲いていた残り少ない花の
ありったけと一緒に庭に眠った。

昨日のこの時間にはまだ元気だった。
こんなときが来るなんて知らずに
ピピちゃんは無邪気にごはんを食べていたんだ。
元気になろうとして。
生きようとして。
そして最後まで小さな体で戦った。

今は安らかに。
2本の薔薇をはさんでトトと並んで眠っている。
香り豊かなピンクのコンテ・ド・シャンボールと
雪白のブール・ド・ネージュが優しく守ってくれている。
墓標代わりに白い花の咲くアリウムの球根とワスレナグサを植えた。
花の下で、ピピちゃんはゆっくりと次の生を待っている。

お香をあげ、手を合わせて祈ったあと、
どうしていいかわからなくなって、落ち着かない時間を持て余した。
私は何をしたらいいのだろう?
もう何もピピちゃんのためにできることはないのだろうか?
ただ、空の上での幸せを祈るだけ。
失った悲しみに耐えるだけ。
もうあのかわいい姿はそこにない。
空っぽのかごの前でぼんやりとした。

べべが私に呼びかけたきた。
かごから出してやると、甘えるように肩にとまったり
袖口に顔を突っ込んだりした。
べべは心配してくれている。
ジュジュはそっと見上げている。
私には、待ってくれているこの子たちがいるのだ。
その存在と優しさに励まされる。

ピピちゃんに出会えたことに感謝しよう。
楽しかったことだけいつまでも胸の中に残そう。
そして、いつの日か虹の橋で会えることを楽しみにして。
それまでは、今いるこの子たちと私自身の生を精一杯生きよう。

ねぇ、ピピちゃん、それでいいのよね。
ごめんね。
おやすみなさい。



電話

携帯に、天国のピピちゃんから電話がかかってきた。

「泣いちゃだめだよ。泣かないで。」
「だって悲しいよ。ピピちゃん、ごめんね。怒っていない?」
「怒ってないよ。だって楽しかったもん。」
「楽しかった?」
「うん。ごはんもいっぱい食べたしね。いっぱい遊んだしね。
 外で寒い思いをしなくてそこに行ってよかったよ〜。」
「今は?寒くない?苦しくない?」
「うん、ここは暖かいよ。苦しくないよ。楽しいよ。
 それにぼくはもうフリーなのさ!」
「いつかまた会える?」
「会えるよ。暖かくなったらまた会おう。」
「うん、また会えるよね。」
「会えるよ。でもそのかわり、忘れちゃいやだよ。」
「忘れないよ。ずっと、絶対に忘れないよ。」
「ありがとう。会えてよかった。幸せだったよ。ありがとう。」

優しい友だちの優しい声だった。
心配かけてごめんね。
嬉しかったよ。
どうも、ありがとう。。


ピピちゃん 2003年12月15日(月)

ピーちゃん(仮称)は、14日でうちに来てちょうど1ヶ月。
夫と話し合って、正式に名前をつけた。
その名は、ピピちゃん。
シンプルだけれど、小鳥らしくてかわいい名前だ。
これからは、もう(仮称)はなしでピピちゃんと呼ぶ。
そんな名前がついた日、ピピちゃんは天国へと飛び立った。

昼間、買っておいたインコの大好きなイカの甲を箱から出すと
2箱なのに、3つも入っていた。
べべとジュジュと、そしてピピちゃんの分だ!
嬉しくて、ピピちゃんのかごにもイカの甲をとりつけた。
いつ帰ってきてもいいように、ピピちゃんのかごはきれいに掃除してある。
大好きなおもちゃもそのままついている。
ピピちゃんが元気になって帰ってくるのをみんなが待っていた。

絶対に元気になって帰ってくると信じて疑わなかった。
だから、夕方病院から電話がかかってきたときも
先生の暗い声を聞いても、危篤だなんて信じられなかった。
その格好のまま、上着だけ羽織って家を飛び出した。
もしかしたら、私の顔を見て持ち直してくれるかもしれない。
このままだなんてこと、あるわけはない。
昼間は元気にごはんを食べてたって先生もおっしゃっていた。

じりじりとなかなか進まない各駅停車の電車の中で
握り締めていた携帯電話が震えて知らせた。
私はピピちゃんの最期に間に合わなかったのだ。
電車を降りて、走って入った診察室で
まだ温かいピピちゃんが静かに横たわって待っていた。

ごめんね。
飼い主さんに会いたかったよね。
おうちに帰りたかったよね。
知らないところで苦しくなって心細かったよね。
でもがんばったのね。
先生がいてくれてよかったね。
ごはんを一生懸命食べて元気になろうとしていたのよね。
なのに助けてあげられなくてごめんね。
おうちに帰してあげられなくてごめんね。
ピピちゃんと呼ばせてね。
うちに連れて帰らせてね。
もう家族なんだもの。

彼との短かった楽しい暮らしがよみがえる。
無邪気な仕草やかわいい声が今も浮かぶ。
あの子はふわりと舞い降りた天使だった。
天使は空へと帰っていった。

うちに来てくれてありがとう。
大好きよ。
かわいいピピちゃん。


ひとやすみ、ひとやすみ 2003年12月13日(土)

「大丈夫?起きられる?」朝、夫の心配そうな声に起こされた。
そぉ〜っと体を起こしてみた。
大丈夫だ。
腰の痛みは和らいでいた。

本当はこの週末は、大掃除をしてクリスマスツリーを出すつもりだった。
でも、掃除も、ツリーもあきらめて、今日はゆっくり過ごすことにしよう。
まずは体を治して、心を落ち着かせて、それから動こう。

お天気がよくて、暖かかった。
本当はお庭仕事日和、お掃除日和。
でも今日はひとやすみ。
ゆっくり庭を歩いてみると、のんびり屋のコスモスが咲いていた。
小さなピンクの花びらをいっぱいに開いて、お日さまの光を受けていた。
金色の巻き毛のようなおしべも、ピンクの粒をまぶしたような花びらもきれい。
すっと小さな両手を上げたような細い葉っぱがかわいい。
うっとりと見とれてしまう。

テラスに座って日向ぼっこしながら見上げてみたら、
ピーナッツリースがからからと乾いた音を立てていた。
中身はほとんどからっぽになっていた。
新しいピーナッツは買ってあったので、作り直すことにした。
ピーナッツのくびれたところに千枚通しで穴をあけ
両端をキッチンばさみで切り落としてワイヤーを通してくるりと輪にする。
リビングでせっせと作っている間にも、
シジュウカラが訪れるのがカーテン越しに見える。
リースがないぶどうの蔓にとまって「あれ?」と首をかしげていた。
ちょっと待ってね。
もうすぐご馳走リースができあがるから。

ぶどうの蔓に2つ、エゴノキの枝に1つ、新しいリースを下げた。
そして部屋に入って、早速シジュウカラがやってくるのを見届けた。
喜んでくれてよかった。
それから、やりかけで止まっていた刺繍をした。
雪降る夜空がだんだんと浮かび上がってきて楽しかった。
目が疲れたら、夫が買ってきたCDを聴いた。
相変わらず、鳥たちは夫の選んだ音楽が好きで合唱する。
いつの間にか夕方になっていた。
夫が見ているテレビのサッカーの音を聞きながら少し眠った。
目が覚めたら、友だちからの郵便が来ていて幸せになった。

のんびり土曜日。
かわいい花を見つけるのも、小鳥のためのピーナッツリース作りも楽しい。
冬の模様の刺繍をするのも、ジャズを聴くのも、お昼寝の夢も、手紙も嬉しい。
体も心もゆったりほぐれて暖かくなった。
この調子。
元気になって落ち着いて、さあ、また明日から
忙しい毎日をのんびり気分で楽しもう。


あわてない、あわてない 2003年12月12日(金)

今日は朝から忙しかった。
10時までに、ピーちゃんの面会。
11時には、お茶のお稽古へ。
1時過ぎ、軽い昼食をとってあわただしく買い物へ。
降り出した雨の中、住む街の駅まで戻り
3時半には、そのまま歯医者さんへ行った。
1時間ほどの治療のあと、駅前のスーパーで夕食の買い物。
大きく膨らんだ買い物袋を3つぶらさげて外へ出たときには
もう真っ暗、雨も本降りになっていた。
急ぎ足で歩きながら、これからの予定を考えた。

これくらいの雨なら帽子をかぶって自転車でさーっと帰ったら大丈夫。
大して濡れないわ。
家に帰ったら、まずはちょっとお茶でも飲んで温まって
それから夕食の下ごしらえをして、掃除もして…。

そんなことを思いながら、駅の向こうの自転車置き場へと、
明るい駅前のコンコースを急いでいたときだった。
雨で濡れたタイルの床でブーツのかかとがつるっとすべった。
あっと思ったとき、私の体は宙に浮いて
スッテーン!
両手に荷物をぶらさげたまま、お尻で激しく着地!
腰から頭へと痛みが突き抜けて、息が止まりそうになった。
みごとなしりもち。

「大丈夫ですか?」
近くにいた若い女性が駆け寄って声をかけてくれた。
「だ、大丈夫です。すみません。」
と、声を出したものの、痛くて立ち上がれない。
こんなところで恥ずかしい、と思っても濡れたタイルに座り込んだまま動けない。
学生風のグループが私をちらりと見ながら行き過ぎるのが見えた。
何人かの視線を感じるけれど、恥ずかしさと痛さで顔を上げられない。

あぁ、あわてていたら、ろくなことはないわ。
これからもっと忙しくなるのに、腰を打つなんて。
今は寝込んでなんかいられない。
またひどいことになっていなければいいけれど。
そうだ、荷物にこわれ物はなかったかしら。
…今日は卵は買ってない。よかった。でもお豆腐があった。
このまま、いつもの整形外科に行ったほうがいいかしら。
でも保険証がないし。

いろんなことが頭の中を駆けめぐった。
ざわめきは頭の上を通り過ぎていた。
いつまでも、こんなところに座っていられない、と我に返ったとき
「大丈夫ですか?」と温かい腕に助け起こされた。
改札口の隣で年賀はがきを売っていた臨時郵便局の売店の若い男性だった。
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。」
立ち上がらされて、隣のフラワーボックスに腰をかけた。

「この床、すべって危ないですよねー。大丈夫ですか?どうしましょうか?」
白いウィンドブレーカーを来た男性が心配そうに言ってくれた。
「ありがとうございます。でもここまで来ちゃったら、
自転車に乗ってぱーっと帰るので大丈夫です。もう少しですから。」と言うと、
「じ、自転車ですか?大丈夫かなぁ。無理しない方がいいですよ。」
と、びっくりしたように言われた。

そうか。自転車は危ないかもしれない。
と言うより、無理かもしれない。
「そうですね、雨も降ってきたし、かわいそうだけれど自転車は置いてタクシーで帰ることにします。」
私が言うと
「そうですよ。自転車はやめたほうがいいですよ。タクシーがいいですよ。」
と、私が転ぶところの一部始終を見ていた男性は大きくうなずいた。
寒い夕方、冷たいタイルの床の上で、暖かい親切な声が嬉しかった。

荷物を持って、やっと立ち上がるとなんとか歩けそうだった。
「どうもありがとうございました。」
と、彼に心からのお礼を言って歩き出した。
「気をつけて。お大事に。」
と、優しい声に送られて、タクシー乗り場へとよろよろと向かった。

荷物も多いし、雨だし、腰も打ってるし、こんなときくらいタクシーを奮発してもいいよね。
自分に言い聞かせて、待っていたタクシーに乗った。
歩いても、座っても、腰は痛かった。
「雨、ひどくなりましたね。天気予報、はずれましたねぇ。」
と、運転手さんが話しかけてきた。
「本当に。自転車で来たのですけれど、乗って帰れなくなりました。」
「そうですねー。寒いしこの雨ですし、自転車は危ないですよ。」
と、運転手さんもうなずいていた。
それに腰も打っているしね、と心の中でこっそりつけ加えた。

家に帰って靴を脱ぎ、荷物を下ろして点検してみた。
この分だときっとお尻には赤ちゃんのようなあざができるだろう。
でも骨は大丈夫みたい。
打ち身だけだ。
湿布でもしていたらすぐによくなるだろう。
ただ足首をひねったらしくて、腫れと痛みが少しあった。
この忙しいのに…と思ったけれど、そんな考えがいけなかったのだ。

忙しい、忙しい、と思ってあわてていると、本当にろくなことはない。
こんなときこそ、心を落ち着けて、ゆっくり考えながら行動していかなければ。
気持ちだけあせっても、仕事が早くできるわけではないのだから。
腰の痛みはこれからの私に対する、ちょっと手厳しい教訓。
気をつけなさいよ、と言う忠告なのだ。

これからクリスマス、そしてお正月がやってくる。
飾りつけ、お料理、お客さま、近所でのパーティー。
忘年会、大掃除、お節作り、年賀状、年始まわり。
ますます忙しくなるけれど、あわてない、あわてない。
急いでも、もともとのんびりな私のことだ。
できることは限られている。
落ち着いて、ひとつずつ、楽しんでやっていきましょう。


Toto&Bebe |HomePage