ひとりごと
DiaryINDEX|past|will
朝、ピーちゃん(仮称)の面会に行ってきた。 ピーちゃんは、ふくらんだ後姿でぼんやりとそこにいた。
「食欲が出てきて、今のところ容態は安定しています。」 とのことで、まずはひと安心。 私はケースの中のピーちゃんを見つめた。 あのつややかで色鮮やかだったきれいな羽毛は毛羽立ち、 表情はうつろで、いかにもつらそうだった。 フンはまだ青く水のようだった。 ピーちゃんは肩越しに私のほうをチラッと見たけれど なんの反応も見せてくれなかった。
ピーちゃんが会いたい人は、待っている人は誰なのだろう。 やっぱり前の飼い主さんなのだろうか。 誰の顔を見たら一番元気になれるのだろうか。 寂しさに耐えて病気と闘っているピーちゃんがかわいそうだった。
大丈夫よ。 ひとりじゃないのよ。 お医者さまがいて、こんなに手を尽くしていてくださって そして私だってここにいて、こんなに思っている。
「名前もちゃんとつけてあげるからね。うちの子になろうね。 元気になって一緒に帰ろうね。」 と、声をかけた。 もう手放したくない。 「そうですね。(仮称)なしで名前を呼んであげてください。」 と、先生もおっしゃった。
まだ、容態がいつ変わるかわからない。 解毒のための注射も欠かせないと言う。 あの小さい体に注射なんて! ピーちゃんはがんばっている。
「また会いに来てあげてください。」 と言う先生の言葉が嬉しかった。 私などの面会でもピーちゃんの元気の素になればいい。 思いが伝わればいい。
帰り道、ふくらんだ寂しそうなピーちゃんの姿は頭から消して あさって会うはずの、少し元気になったかわいいピーちゃんの姿を思い描いた。 そしていくつかの名前で呼んでみた。 彼にぴったりのかわいい名前、早く考えよう。
ピーちゃん(仮称)のことは、信頼する先生にお任せしているのだから よけいな心配はしないことにした。 きっと大丈夫! 今、この瞬間も彼は病気と闘っている。 私はいつもどおりに生活しながら、回復を祈るだけだ。
薔薇の実を摘んだ。 ポン、ポン、と赤い水玉が弾んだようなメルヘンランドの実がなくなると 白いフェンスは寂しくなった。 もう少ししたら、枝を剪定誘引してきりりと清々しい眺めにしよう。 刈り取った収穫を新聞に広げて整理していった。 黒くなった実や枯れた枝を切り取って、枝振りを整える。 赤い実の先についたかさかさしたガクを取り去る。 きゅっと指先でひとなですると、薔薇の実はつやつやした茜色に輝いた。
懐かしい夕焼けみたいな色の薔薇の実を見ていると嬉しくなる。 このひとつひとつが薔薇の花だったのだと思うと不思議な感動に包まれる。 はちきれそうなまん丸に命を感じる。 小さいころ読んだ童話「モモちゃんとプー」の本の場面を思い出した。
おなかに赤ちゃんがいるのにママは階段から落ちてしまい 夢の中で暗い荒野をさまよっていた。 「赤ちゃんは死んだのかしら。そうよ、こんなに暗いのだもの。」 そのとき、ひと筋の光が空から降りてきて、ひとつの薔薇の実を照らしていたのだ。 丸く愛らしく茜色に輝いていた薔薇の実の中に命があるのをママは感じた。 「命があるのですね。だからこんなに燃えるように赤く輝いているのですね。」 そして生まれた赤ちゃんは、アカネちゃんと名づけられた。
それを読んだときも、それからずっとあとまで、 私は茜色の薔薇の実を見たことはなかった。 自分の庭で咲いた薔薇が実らせた実を初めて見たとき つやつや生き生きとまん丸で、はちきれそうでかわいくて 「これが茜色。これが命の実なのだ。」と愛しく思った。
春の花が、そして夏が育てた大切な実をひとつずつ手に取った。 きれいな枝のものは数本ずつ束ねてご近所さんたちにさしあげた。 リースに使うので、もらっていただく約束だったのだ。 赤い小さいブーケは喜んでもらわれていった。 ころころと箱に入れた、実だけ切り取ったものはどうしよう。 おととしは大豊作だったので、ジャムとお酒にした。 去年は長い枝ごと切り取ってリースを作った。 今年はお茶にしようかな。 ローズヒップティー、どうやら美容にもいいらしい。 自然の恵み、茜色の薔薇の命をおいしくいただいてきれいになろう。
昨日からピーちゃん(仮称)の様子が変だった。 寒そうに膨れたまま、いつもうつらうつらしている。 高く澄んだかわいい歌声も聞こえない。 ブランコで遊ぶ様子も見られない。 ヒーターで保温しても、べべやジュジュは暑そうにしているのに ピーちゃんはまだ膨れたまま。 あの華奢なピーちゃんがべべよりも大きく見えるほどだ。 昨日の午後、いつもの獣医さんに今日の午後の診察を予約した。
3時半の予約の時間ぴったりに行ったのに、 待合室は椅子もスリッパも足りないほどに混んでいた。 腕のいいお医者さまなので、人気が出てきていることは ネットのインコサイトを見てもわかっていた。 それに1羽ずつ丁寧に診てくださっているので時間がかかるのだろう。 ピーちゃんの順番が回ってきたのは1時間後の4時半だった。
診察台に置かれたピーちゃんの入った キャリーケースを見たお医者さまの表情は明るくなかった。 いつもなら、運ばれている間にしたフンを採って、それで検査をするのだが ほとんどフンと言えるようなフンをしていなかった。 青っぽい緑の水が、敷き紙に染み付いているだけだった。 私の話を聞き、フンを調べた先生はおっしゃった。 「フンの白い部分を尿酸と言うのですが、それがこのように青緑のとき、 溶血反応を起こしていることが考えられます。 感染症や中毒で、血が溶けてしまっているのです。ちょっと恐い状態です。」 いきなりショックを受けてしまった。
先生はピーちゃんを手早くつかみ、診察し、そのう液を取り、体重を量った。 32g、子どもとは言え、ちょっと少ない。 「症状があまり出ていないので、ちゃんと検査をしないとはっきりしませんが 誤って金属を食べてしまった金属中毒が考えられます。 突然、元気がなくなったと言うことなので、感染症よりも中毒の疑いのほうが大きいです。」 それをはっきりさせるために、レントゲンを撮ることになった。 私はふらふらと診察室を出て、待合室で呼ばれるまで待った。 「ピ〜ピ〜…」と久しぶりにか細いピーちゃんの声が聞こえた。 レントゲンが苦しいのだろうか。 さっき受付に提出したカルテの名前の欄に「ピーちゃん(仮称)」と書いたことを思い出し そろそろ本当に名前をつけなくてはいけないな、と考えていた。 (仮称)がつかない名前で励ましてあげたい。
しばらくして、診察室に呼ばれた。 ピーちゃんの姿はなく、レントゲン写真だけが待っていた。 「砂肝の中に白く見えるものがあります。これが金属かもしれません。」 先生が指し示したところを見ると、半透明につぶつぶと何かが詰まった中に ひとつだけ濃く白くはっきりと写っているものがあった。 「それから、肝臓がパンパンに腫れています。肝炎のようです。」 わずかに紙についたフンやそのう液を調べたところ、菌や感染症は見つからなかったと言うことだ。
治療法としては、強肝剤を与えて解毒させること、肝臓の状態を治すこと。 そしてほとんど餌を食べていないので、強制給餌をすること。 「それでは入院でしょうか。」と伺うと 「お預けいただかないと、難しいと思います。」と言われた。 こまめな投薬と給餌をしなくてはいけないし、絶対に保温も必要なのだ。 今は状態がよくないので、3日間はICUに入ることになった。 べべのときと同じ、入院承諾書が持ってこられた。 同じように、ひとつひとつ説明を受けた。 やっぱり最後の「家で見取りたい気持ちが強い方は…」のところでは頭がくらくらした。 それでも信頼する先生にお預けするしかない。 最後の欄にしっかりと署名した。
そのあと、ピーちゃんが診察室に連れて来られて、面会ができた。 ピーちゃんは、キャリーケースから入院室に移された。 「かわいそうに。知らない家に飛んできて、変なものを食べて具合が悪くなって。 それで恐い思いをして、入院するだなんて、かわいそうに。 ちゃんと見てあげていられなくてごめんね。」 私がピーちゃんに謝っていると 「いや、もっとずっと前にほかの病気にかかっていて、今発症したのかもしれませんよ。」 と先生がおっしゃった。 私が責任を感じ過ぎないようにと言う先生のお心遣いに感謝した。 「まだ血は採れませんが、血液検査をしてちゃんと調べます。」 とのことだった。
この先生なら大丈夫だ。 べべのときも、あんなに重篤な状態だったのを懸命な看護と治療で治してくださったのだもの。 今度だって、きっと大丈夫。 「ピーちゃん、がんばってね。べべちゃんも待っているからね!」 とふくらんだままのおとなしいピーちゃんに声をかけて診察室を出た。
外へ出ると、すっかり夜になっていた。 すいた各駅停車でがたごとと揺られて帰った。 駅を降りると冷たい空気が頬をさすようだった。 ピーちゃんを連れていないので、寒さを気にすることはない。 わざと風を切るように、びゅうびゅうと自転車をこいだ。 濃紺の空を見上げると笠をかぶったお月さまと、雲の合間にお星さま。 それと地上には、この週末でぐんと増えた家々のイルミネーションが輝いていた。
クリスマスが来るまでに、ピーちゃんが元気になって帰ってきますように。 早く名前も考えなくちゃ。
| ヤマガラがやって来た |
2003年12月06日(土) |
嬉しい、嬉しい! うちの庭に、ヤマガラがやって来た。
レースのカーテン越しにシルエットを見て、 シジュウカラかと思った。 でも赤いおなかがちらりと見えたので、 ジョウビタキかなと思った。 でもよく見たら、初めましてのヤマガラ夫婦。 仲よくヒマワリの種をついばんで エゴノキの枝でゆっくりと食べ始めた。
この辺にはいないのかと思ったよ。 うちには来ないのかと思ったよ。 誰から聞いたのだろう? 鳥の世界の口コミ、どうやら本当にあるらしい。
いつものシジュウカラや雀たちがやってきて ヤマガラ夫婦は飛び去った。 また来てくれるかな。 仲間にも伝えてくれるかな。 冬の間、ピーナッツとヒマワリの種を用意して 野鳥たちみなさんのおいでを心からお待ちしております。
今日のお茶のお稽古は いつもはここで支度をしたりする寄り付きの小間を 二畳台目に使ってのお点前だった。 ひとつだけろうそくが灯されていた。
障子の色は今にも氷雨になりそうな空を映して冷えた銀色。 ろうそくの火の蜜柑色に照らされて 花の影が壁でゆらゆら揺れる。 三畳もない部屋なのに五人が座って十分広い。 ろうそくの光があるだけで いつもとは違う場所のような不思議さを感じる。 お茶を点てるとき、暗い手元に昔の茶人を思った。 心地よい緊張感。 静けさと温もり。 小さな部屋にパックされた私たち。
ゆらめくろうそくの灯を見つめて、みんなの心もとろけていった。 黙って何かを思っていた。
ろうそくが似合う十二月。
| 日蝕という名のパンジー |
2003年12月04日(木) |
日の光に恵まれた今日、まず布団を干した。 洗濯機を回した。 そして庭に飛び出た。 球根たちが植えつけられるのを待っている。
テラスに出たら、誰かに呼び止められた気がした。 足元を見たら、花が一輪咲いていた。 友だちにもらったパンジーの苗。 その最初の花が咲いたのだった。
私の種蒔きしたパンジーたちはまだまだチビッコ。 そして今年は苗も買っていない。 今日咲いたこの子はこのシーズン初めてのパンジーだ!
高くなり始めたおだやかな陽射しの中でたおやかに、 でもまっすぐに顔を上げて咲いている濃紫の花。 その名はエクリプス。 日蝕、または月蝕の意味だ。 くっきりと美しい白い覆輪は この前南極からの中継を見たばかりの日蝕のクライマックス、 ダイヤモンドリングを思い出させた。 白いリングは太陽のコロナだ。 濃紫は逆光になった月の影だ。
背中を温める太陽を感じながら 小さな花の中の宇宙に見とれてしまった。 やがて来る凍える冬にも、チューリップが咲く夢のような春にも いくつもの日蝕がここで咲いてくれるのだろう。
まだ冬が来たばかりなのに、春の花に出会えて嬉しかった。 陽だまりにエクリプスの鉢をそっと置いた。 さあ、暖かい日のあるうちに 楽しく頭を悩ませながら球根を庭や鉢に埋め込んでいこう。
| ラベンダー・ピノッキオ |
2003年12月03日(水) |
待っていた薔薇の苗が届いた。 ラベンダー・ピノッキオ。
2人の友だちが育てていて、その花を見て もう2年も前から憧れていた薔薇だった。 夢のような不思議な色をしていた。 ひらりとした花びらも好きな形だった。 その花はあまりにおしゃれで素敵なので 私には似合わないかもしれない、なんて思っていた。 なかなかめぐり会えないでいた。
この秋、やっとその名前を見つけた。 通販で薔薇を買うのは初めてでドキドキした。 今まで薔薇の苗を買うときは その顔を見てから連れ帰っていたから。 でももっとドキドキしていたのは ラベンダー・ピノッキオに違いない。 生まれ育ったナーサリーから 暗い箱に入れられがたごとと揺られ。 どこへ運ばれるのか。 どんな人が待っているのか。
今朝、待ちかねていたチャイムがピンポンと鳴った。 「お花のお届けで〜す。」と宅配便のおじさんが 嬉しそうに背の高い箱を手渡してくれた。 自分で注文したのにプレゼントをいただいたようだった。 すぐに箱を開けると ほんのり縁を赤く染めた葉っぱがふわんと顔を出した。
いらっしゃい! お疲れさまでした。 やっと会えたね。 大事にするよ。 これからここがあなたの家よ。 この庭を気に入ってくれて伸び伸びと育って 春にはきれいな花を見せてくれたら嬉しいな。
|