| 2012年05月11日(金) |
お遍路さん(その13) |
少し肌寒い朝。急ぎの仕事が入り久しぶりに山里の職場へ向う。 国道から山道に入ったところで老婦人らしきお遍路さんに会った。 いつものように会釈をしいったんは通り過ぎてしまったのだけれど。 ルームミラーで様子を見るとなんだかとても辛そうな足取りであった。
はっと思い立ってクルマをバックさせる。 駆け寄って声をかけてみてほんとうに良かったと思う。 足は丈夫なのだけれど体力がなく休み休み歩いていたのだそうだ。
クルマのお接待を申し出ると快く頷いてくれて一緒に山里へ向った。 車中で年齢を聞いてびっくり。なんと80歳のお遍路さんであった。 二度目の歩き遍路で、新緑の四国をどうしても歩きたかったのだと言う。
車窓から見える山々の緑を歓声をあげながら喜んでくれた。 ほんとはゆっくりと歩きたかったのかもしれないなって思ったけれど。 私も少しは楽をしたいのですよと心から喜んでくれている様子にほっとする。
歩くと半日はかかる道のりもクルマだとすぐに着いてしまう。 なんとも名残惜しいお別れだった。もっともっと話したかったなと思う。
そうして何よりも授かったものの大きさに気づいた。 80歳になってもその気にさえなれば歩き遍路が実現するということ。 ゆっくりと少しずつでも良いのだ。私もいつかきっと夢を叶えられる。
ほんとうにありがたい出会いであった。旅の無事を心から手を合わす。
「お母さん、孫が出来ると若返るらしいよ」と娘の一言。 そう言えば綾菜が生まれてからずっと毎日体調が良かった。 忙しいのが良いのかもしれない。少しでも手伝ってあげようと気も張っている。
娘と一緒に子育てに奮闘しながら、バーバは元気をもらっているようだ。
明日は早朝から川仕事。午後は綾菜の沐浴。忙しいのが大好きな私になった。
午前中に娘と孫を迎えに行き、なんだかばたばたと忙しい一日。 今日から環境が変わったのがわかるのか、孫は起きている時間が多い。 お腹が空くと少しぐずるけれどほとんど泣くことはなかった。
午後、添い寝をしている娘と一緒に私も少し寝てしまった。 ちいさな寝息がすぐそばに聞こえる。鼓動までも聞こえてきそう。
三時間おきの授乳にも付き合う。 母乳をずいぶんと飲むようになったけれどミルクも足す。 そのミルクを飲ますのがおばあちゃんの役目だった。 飲み終わったらゲップを出さすのもおばあちゃんである。
背中をとんとんしていてもなかなか出ない時もある。 肩に伝わってくるやわらかであたたかい孫のぬくもりが愛しい。
夕方には息子も帰って来てくれて、姪っ子と初対面となった。 赤ちゃんを抱くのは初めての息子。ぎこちなく抱きながらの笑顔だった。
四人で夕食なんていつ以来だろう。ずいぶんと久しぶりのことだった。 おじいちゃんの声がいつもより大きい。きっと嬉しくてたまらないのだろう。
家族の声がこだまするような夕暮れ時だった。
あやちゃんにも聞こえているかしら。みんなみんな一緒にいるんだよ。
川辺には白い野ばらの花がたくさん咲いている。 天使のような花だなと思う。棘のあることなど忘れて。 それはきっと身を守るためのものだろう。 近寄りがたいと思う人もいるかもしれないけれど。
花はふっくら。蝶々もふれていく。みつばちも遊んでいく。
そんな野ばらのことがわたしはとても好きだなと思う。
出産祝いにいただいた産着を洗った。 干す時のなんと嬉しかったことだろう。 お人形さんの服みたい。ちっちゃくて可愛い。 道行く人がみんな見てくれたら良いなって思った。 「生まれたんですよ」って声をあげたいような気持ち。
あたらしい命は「綾菜」と名付けられた。 「あやちゃん、あやちゃん」と連呼するおばあちゃんであった。
母乳をほんの少しだけれど飲めるようになった。 哺乳瓶よりもずっとチカラが要るのだろう。 はあはあと小さない息をしながら一生懸命に吸っている。 「がんばれ、あやちゃん」娘と二人で声を掛け続けていた。
ちいさな命が必死で生きようとしているのが伝わってくる。 母親の乳房はあったかくてやわらかい。そして何よりも優しい。
授乳している娘の顔は愛をそそぐように微笑んでいた。
おばあちゃんは涙が出そうなくらい胸がいっぱいになる。
| 2012年05月07日(月) |
おばあちゃんでしゅよ |
空は少しうす雲におおわれていたけれどすっかり初夏の陽気。 あたりの緑が目に沁みる。見るものすべてがきらきらと眩しい。
午前中に川仕事を終え、お昼は夜勤明けの息子と三人でざるそば。 つるつると喉ごしの良いものが美味しい季節になった。
息子はまだ姪っ子に会えずにいる。会いたくてたまらないのだけれど。 勤めている老人ホームで悪い風邪が流行っているのだそうだ。 会いに行かないほうが良いだろうと我慢をしているようだった。
早く抱っこさせてあげたいなと思う。息子はどんな顔をするのだろう。
「ほうら、おばあちゃんが来てくれたよ」と娘の声。
孫は今日もすやすやとよく眠っている。 オムツを替える時ちょっとだけ目を開けてくれて嬉しかった。
娘が赤ちゃんだった時の顔にちょっと似ている。 でもお婿さんにも似ているような気がしてよくわからない。 どちらに似ていても健やかに元気に育ってくれたらと願うばかり。
昼間はほとんど泣かないけれど、昨夜は真夜中に泣いて困ったそうだ。 母乳を吸わせてみたら少しだけ吸ってくれたそうで泣き止んだとの事。 娘も初めての育児に奮闘している。がんばれ、がんばれとひたすら応援する。
早いもので明後日はもう退院。我が家に迎える準備も整った。 少しでも娘を助けてあげたい気持ちでいっぱいのおばあちゃんである。
五月晴れのお天気が続いている。爽やかな風はもう初夏の風。 散歩用の麦藁帽子を買った。若草色の帽子はちょっと照れくさい。
てくてくしてる。こころもどこかに歩き出してしまいそうだ。 まだ見ぬみらい。わたしはどんなおばあちゃんになっているのかしら。
今日も孫に会いに行く。少しだけ目をあけてくれて嬉しかった。 オムツを替える。抱っこしてミルクを飲ます。 「わ〜い楽ちんだ」と娘は喜んでくれた。
母乳はまだうまく飲ませられない。 ミルクの前に何度か挑戦してみるけれど吸ってくれないのだ。 練習あるのみ。とにかく毎回試してみるしかないだろうと思う。
私の時はどうだったかしら。バーバの記憶はあまりにも遠くて。 気がついた時には母乳で育てていたように思うのだけれど。
夜中の授乳はほんとうに大変。母乳だとずいぶんと助かると思う。 だいじょうぶ。きっと吸ってくれるようになるから頑張ろうね。
今日は満月のせいか、ちいさな産院にも産声が響いていた。 「よかった、無事に生まれたね」とても他人事には思えず娘と喜びあった。
あたらしい命はそうして生まれてくる。
辛い痛みに耐える母。生まれたくてたまらない命がそこにある。
つかの間の春はとうとういってしまったのだろうか。 「立夏」にふさわしく真夏日となり眩しいほどの陽射しだった。
朝のうちに川仕事を済ませ午後には産院に駆けつける日々。 休む暇もないけれど、それがむしろ嬉しくてたまらないバーバであった。
娘は初めての育児に奮闘している。まだ抱き方さえもぎこちなくて。 母乳もうまく飲ませられない。誰だって最初はそうなのよと励ます。
肝心なのは決して焦らないこと。ゆっくりのんびりで良いのだと思う。
赤ちゃんはすやすやとよく眠っている。目を覚ましてくれないかしら。 ずっと寝顔を覗き込んでいるばかり。いつまでたっても見飽きる事のない寝顔。
「今日もお大師さまにお参りしてきてね」娘の言葉にうなずき帰宅する。 お大師堂にはふたりのお遍路さんが来ていてくれた。 一人は先日の長髪青年だった。無理強いしたことを詫びると思いがけない笑顔。 良い経験が出来たと喜んでくれてほんとにほっとした。 そのことを報告したくてわざわざ打ち戻って来てくれたのだそうだ。
もう一人のお遍路さんも交えて雑談をしていると、新たなお遍路さんが到着。 その人も顔なじみのお遍路さんですっかりにぎやかになった。
今夜は三人で「旅もみちづれね」って笑いあって別れたのだけれど。 その後あんずを連れて散歩をしているとお大師堂を探しているお遍路さんに会った。
道案内がてら一緒に行く。なんと四人になる。こんなことは初めてではないか。 小さなお堂で四人は窮屈そうに思えたけれど、お遍路さん達は大丈夫と言ってくれた。
こんな日もあるのだな。帰り道はなんだか胸がいっぱいになった。
土手を吹き抜ける夕風が心地よい。ああ今日も暮れていくんだな。
いい日だったなってすごく思った。明日もきっといい日に違いない。
五月晴れ。陽射しはすっかり初夏のようだけれど。 風はとても爽やかに木々の緑を揺らしている。
昨日午前一時。寝静まっている頃、娘より電話。 突然破水をしてしまったとのことで大急ぎで駆けつける。
幸いと言って良いのかまだ陣痛は始まっていなかった。 娘はそのまま入院することになり、私達は自宅待機となる。 少し仮眠をと思ってもとても眠る気にはならなかった。 はらはらどきどきはもちろんのこと、そわそわと落ち着かないまま朝を迎える。
朝になっても娘の陣痛は始まらず、仕方なく薬で陣痛を促す事になった。 間もなく陣痛が始まったけれどまだ序の口。ながいながい一日になりそう。
お昼前になってやっと強い痛みが始まる。こんなに痛いものなのか。 汗を流しながら耐えている娘。痛みが襲って来る度に腰をさすり続ける。 その頃には夜勤明けのお婿さんも駆けつけてくれてとても心強かった。
驚いたのは娘がずっと座り続けていたこと。ベットに横たわろうとしない。 お願い早く出てきて!時々は声をあげながら必死になって耐えていた。
午後4時。やっとお産が近づき、分娩室に入った。 お婿さんは付き添い。母親は駄目だろうと諦めていたところ。 お母さんも入って良いですよとなんとも思いがけないことだった。
頭が見えてきましたよ。もう少し、頑張れ!頑張れ!の声が響く。 私は泣いていた。感動で胸がいっぱいになっていたのだと思う。 新しい命が生まれようとしている。一生懸命に頑張っている母と子を見た。
「ふぎゃあふぎゃあ」元気な産声が聞こえた時はどっと安堵した。 娘も泣いている。ほんとうにえらかったね。頑張ったねサチコ。
午後4時45分。2530グラムの女の子だった。
無事に生まれてきてくれてほんとにありがとう。
|